(平成28年4月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告において雇用者給与等支給額が増加した場合の所得税額の特別控除の適用漏れがあったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該確定申告に係る申告書に当該特別控除を適用するために必要な書類の添付がないことを理由に、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が、その処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

審査請求に至る経緯は、別表のとおりである。
 なお、請求人は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》(平成26年法律第69号による改正前のもの。)第4項第1号の規定により、平成27年10月15日に審査請求をした。
 以下では、請求人がした平成26年分の所得税等の確定申告に係る申告書を「本件確定申告書」、更正の請求を「本件更正請求」、本件更正請求に係る更正の請求書を「本件更正請求書」といい、原処分庁がした更正をすべき理由がない旨の通知処分を「本件通知処分」という。

(3) 関係法令の要旨

関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人は、本件確定申告書に「平成26年分所得税青色申告決算書(一般用)」(以下「平成26年分決算書」という。)及び「平成26年分の報酬及び源泉所得税の内訳明細書」と題する書面(以下、平成26年分決算書と併せて「本件添付書類」という。)を添付した。
     なお、平成26年分決算書には、損益計算書の給料賃金欄に4,213,825円、給料賃金の内訳の支給額の合計欄に4,213,825円とそれぞれ記載されていた。
  • ロ 本件確定申告書には、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第10条の5の4《雇用者給与等支給額が増加した場合の所得税額の特別控除》(平成27年法律第9号による改正前のものをいい、以下「本条」という。)第1項に規定する特別控除(以下「本件特別控除」という。)を適用する旨の記載はなく、また、本件添付書類には、本条第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細のいずれの記載もなかった。
  • ハ 請求人は、本件更正請求書に本件特別控除を適用する旨記載の上、本条第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した「雇用者給与等支給額が増加した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」と題する書面(以下「本件明細書」という。)を添付した。

(5) 争点

本件更正請求において本件特別控除の適用を受けることができるか否か。

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2 主張

請求人 原処分庁
(1) 本条第4項に規定する「当該確定申告書に添付された書類」とは、同項の「第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類」や本件明細書の書式に限定されず、青色申告決算書など確定申告書に添付すべき書類が含まれると解すべきである。 (1) 本条第4項に規定する「当該確定申告書に添付された書類」とは、適用年の年分の確定申告書に添付された書類を意味し、適用年の年分以外の年分の確定申告書に添付された書類は含まれない。
(2) そして、本条に規定する「雇用者給与等支給増加額」は、適用年の年分の必要経費に算入される給与等の支給額から平成25年分の必要経費に算入される給与等の支給額を控除した金額であり、平成25年分の所得税等の確定申告書及び本件確定申告書にそれぞれ添付された書類を基に算出することができることから、本件特別控除の金額の計算の基礎となる雇用者給与等支給増加額は、本件添付書類に実質的に記載されていることとなる。 (2) そして、本条第4項の「当該確定申告書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限る」の文言からすると、適用年の年分の確定申告書に雇用者給与等支給増加額を記載した書類を添付する必要があるところ、本件添付書類には雇用者給与等支給増加額が記載されていない。
(3) 以上のことから、本件更正請求において本件特別控除の適用を受けることができる。 (3) 以上のことから、本件更正請求において本件特別控除の適用を受けることができない。

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3 判断

(1) 法令解釈等

  • イ 措置法の特例規定を適用する場合の手続要件について
     措置法は、種々の特例規定を設け、納税者に特例の適用を受けて申告するか否かを委ねているところ、特例の適用を受ける場合には、申告に際してその適用を受ける金額を記載することや所要の書類を添付することなど、一定の手続の履行を要求し、もって課税手続の明確化及び安定化を図っている。
     このことは、本件特別控除を適用する場合においても同様であると解される。
  • ロ 本条第4項について
     本条第4項は、「第1項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に、同項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する」と規定し(以下、この規定を「4項前段」という。)、4項前段に続き、「この場合において、同項の規定により控除される金額は、当該確定申告書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限るものとする」と規定しており(以下、この規定を「4項後段」という。)、控除を受けることができる金額は、飽くまで、確定申告書(当初申告書)に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額に限られることとなる。
     そして、当該規定の構造に鑑みれば、4項後段に規定する「当該確定申告書に添付された書類」とは、4項前段に規定する「第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類」を指すものと解するのが合理的であるから、確定申告書(当初申告書)に「本条第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類」の添付がない場合(すなわち当初申告において本件特別控除を適用する旨の意思表示があったとみることができない場合)には、修正申告又は更正の請求において、「雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額」が存在しないこととなる結果、本件特別控除の適用を受けることはできないものと解するのが相当である(以下、確定申告書(当初申告書)への当該書類の添付要件を「当初申告要件」という。)。

(2) 当てはめ

上記(1)のロのとおり、本件更正請求において、本件特別控除の適用を受けるためには、当初申告要件(具体的には、本件確定申告書に本条第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類を添付すること。)を満たしていなければならない。
 しかるに、上記1の(4)のロのとおり、本件添付書類には、本条第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細のいずれの記載もないのであるから、請求人は、本件確定申告書に本条第1項の規定による控除の対象となる雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類を添付したとはいえず、当初申告要件を満たしているとは認められない。
 したがって、本件更正請求において、本件特別控除の適用を受けることはできない。

(3) 請求人の主張について

請求人は、本条第4項に規定する「当該確定申告書に添付された書類」には、青色申告決算書など確定申告書に添付すべき書類が含まれ、本件特別控除の金額の計算の基礎となる雇用者給与等支給増加額は、平成25年分の所得税等の確定申告書及び本件確定申告書にそれぞれ添付された書類を基に算出することができることから、本件添付書類に実質的に記載されている旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロのとおり、本件特別控除の金額の計算の基礎となる雇用者給与等支給増加額とは、本件確定申告書に添付された書類に記載された雇用者給与等支給増加額そのものを指すことは明らかであり、たとえ、平成25年分の所得税等の確定申告書及び本件確定申告書にそれぞれ添付された書類を基に本件特別控除の金額の計算の基礎となる雇用者給与等支給増加額を算出することができたとしても、そのことをもって雇用者給与等支給増加額が本件添付書類に記載されているとみることはできないことから、請求人の主張は採用できない。

(4) 本件通知処分の適法性について

以上のとおり、請求人は、本件更正請求において本件特別控除の適用を受けることはできないのであるから、本件更正請求に対し、更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は、適法である。

(5) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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