(平成30年10月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、差し押さえた債権を取り立て、その換価代金等の配当処分をしたのに対し、請求人が、当該配当処分は、請求人への差押予告を欠く違法な差押処分を前提にしているから違法であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
  • ロ 徴収法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》第1項は、債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う旨規定している。
  • ハ 徴収法第129条《配当の原則》第1項は、債権の差押えにより第三債務者等から給付を受けた金銭(以下「換価代金等」という。)は、1差押えに係る国税、2交付要求を受けた国税、地方税及び公課、3差押財産に係る質権、抵当権等により担保される債権等に配当する旨規定している。
  • 二 徴収法第131条《配当計算書》は、税務署長は、同法第129条の規定により換価代金等を配当しようとするときは、国税徴収法施行令第49条《配当計算書の記載事項等》で定めるところにより、配当を受ける債権、税務署長が確認した金額その他必要な事項を記載した配当計算書を作成し、その取立ての日から3日以内に、滞納者等に対する交付のため、その謄本を発送しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 原処分庁は、請求人が納付すべき別表1記載の国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法第37条《督促》第1項の規定に基づき、同表の「督促年月日」欄記載の各日付で、請求人に対し、それぞれ督促状によりその納付を督促した。
  • ロ 原処分庁は、平成30年3月2日、本件滞納国税を徴収するため、請求人がD銀行(○○支店扱い。以下同じ。)に対して有する別表2記載の債権(以下「本件債権」という。)を差し押さえ(以下「本件差押処分」という。)、本件差押処分に係る債権差押通知書を第三債務者であるD銀行に送達した。
  • ハ 原処分庁は、平成30年5月17日、徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項の規定に基づき、D銀行から本件債権の全額である○○○○円を取り立て、その給付を受けた。
  • ニ 原処分庁は、平成30年5月17日付で、上記ハの給付を受けた金銭を配当するため、本件滞納国税への配当金額を○○○○円、請求人に交付すべき残余金を零円、換価代金等の交付期日を同月24日午前10時などとする配当計算書を作成し(以下「本件配当処分」という。)、同月17日、請求人に対し、当該配当計算書の謄本を送付した。
  • ホ 請求人は、平成30年5月18日、本件配当処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 当審判所の判断

(1) 審査請求の適法性について

原処分庁は、本件配当処分は、平成30年5月24日午前10時に配当が実施され、その効力が消滅していること、処分の効力が消滅した後において、処分の取消しによって得られる実益がないことから、本審査請求は不服申立ての利益を欠く不適法なものである旨主張するため、まず、この点について判断する。
 審査請求は、行政処分の取消しによって当該処分の法的効果を遡及的に消滅させ、自己の権利又は利益の回復を図ることをその目的とするものであるから、行政処分の取消しを求めて審査請求を行うには、不服申立ての利益、すなわち、その取消しによって除去すべき法的効果、若しくは処分を取り消すことによって回復される権利又は利益が存在していることが必要である。
 不服申立ての対象となる配当処分とは、税務署長が、換価代金等につき、徴収法、民法及びその他の法令の規定に従い、差押えに係る国税やその他配当を受けるべき債権等の配当順位及び配当額を定めて、配当計算書を作成するものであり、その配当計算書に基づき、配当の対象となる債権者に対して配当を実施するために行うものである。そして、換価代金等の交付期日が経過し、換価代金等の交付が終了すると、配当処分はその目的を完了して処分の効力が消滅したと解されるが、その場合であっても、配当処分の取消しにより、税務署長は、再度適法な配当処分をすべき地位に置かれることになると解されるから、処分の名宛人は、配当金額の交付を受け得る地位を回復することとなり、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するということができる。
 したがって、請求人は、換価代金等が交付された後においても、本件配当処分の取消しを求めるにつき不服申立ての利益を有するから、本審査請求は適法なものである。

(2) 本件配当処分の適法性について

本件配当処分は、上記1の(3)のニのとおり、徴収法第129条の規定に基づきされており、また、手続上、徴収法所定の要件を充足している。
 この点、請求人は、本件滞納国税を納付する意思を示していたにもかかわらず、原処分庁が何ら事前に連絡することなく本件差押処分をしたことは違法であるから、これを前提として行われた本件配当処分も違法な処分である旨主張する。
 しかしながら、本件差押処分は、上記1の(3)のイ及びロのとおり、徴収法所定の要件を充足しており、滞納者に納付意思の表示がないことや差押予告をすることは、差押処分の法律上の要件ではないから、本件差押処分の適法性に影響しない。したがって、請求人が本件配当処分を違法とする上記主張はその前提を欠き、理由がない。
 また、請求人は、本件配当処分後に、原処分庁の徴収職員が不服を申し立てても無駄だと言い、その対応が心情的に納得がいかないとも申し述べるが、本件配当処分後の事情が同処分の適法性に影響しないことは明らかである。
 なお、本件配当処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件配当処分は適法である。

(3) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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