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(平4.4.2、裁決事例集No.43 4頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和62年10月22日に死亡した○○(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続開始に係る相続税について、課税価格を385,271,000円、納付すべき税額を218,472,800円と記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
 P税務署長は、これに対し、平成2年9月6日付で課税価格を1,433,992,000円、納付すべき税額を998,743,700円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を106,116,500円とする賦課決定(以下「原処分」という。)を行った(なお、請求人は、平成2年10月23日にP税務署長に対して、課税価格を2,197,169,000円、納付すべき税額を1,530,280,100円とする相続税の修正申告書を提出した。)。
 請求人は、本件更正及び原処分を不服として、平成2年11月1日に異議申立てを行ったが、平成3年1月29日に本件更正についての異議申立てを取り下げた。
 その後、異議審理庁は、平成3年3月4日付で原処分に係る異議申立てについて棄却の異議決定を行った。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして平成3年3月26日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 被相続人の死亡後、相続人である請求人、A男及びB女は、遺産分割協議を行った。
 しかし、A男が、同人名義の○○銀行の株式1,354,350株、△△株式会社の株式875株及び××株式会社の株式34,769株(以下、これらの株式を併せて「本件各株式」という。)については、自己の固有財産であり、相続財産ではない旨強く主張したため、法定申告期限までに遺産分割協議は成立しなかった。
 そこで、請求人は、本件申告書の提出に当たり、同書に添付した第11表「相続税がかかる財産の明細書」(以下「本件明細書」という。)に、「本件各株式は被相続人の所有に属する財産であるが、現在その名義人A男と所有権に関し係争中のため、勝訴判決確定時に修正申告をします。」と付記した。
 その後、請求人は、A男を被告としてR地方裁判所に、本件各株式につき遺産範囲の確認請求の訴えを提起した。
ロ ところで、三権分立制を採用する我が国において、法律上の争訟事項に関しては、裁判所に専属的な判断権限が付与されており、裁判所の判断である判決が確定するまでは、争訟事項に係る権利義務は確定しない。そうすると、法律上の争訟事項である本件各株式の帰属について、現在に至るも判決がなされていないのであるから、本件申告書提出当時、本件各株式が相続財産であるか否かは法律上未確定の状態にあったものである。
ハ このように、請求人が、本件各株式を相続財産として申告しなかったのは、相続人間で本件各株式が相続財産であるか否かについて争いがあり、法律上の帰属が未確定であったからである。
 ところで、法律上相続財産であるか否か未確定の財産について、相続財産として申告義務を課するのは、納税者に不可能を強いるものであるから、判決によってその帰属が確定するまでは申告しなくてもよいと考えるのが通常である。そうすると、請求人が本件各株式につき同様に考え、これを相続財産に含めず申告したこともやむを得ないことであり、このことは、納税者の責めに任じられない災害等の外的事情等と同視し得るもので、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」(以下、単に「正当な理由」という。)に該当する。
ニ また、過少申告加算税制度の趣旨が、申告納税制度を確保するための行政上の制裁であることを考えれば、本件明細書に前記のような付記をしている請求人に対して、制裁として過少申告加算税を賦課することは、過少申告加算税の趣旨及び目的を逸脱したものといわざるを得ない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 「正当な理由」とは、例えば税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変された場合等、申告当時に適法とみられた申告が、その後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずに過少申告となった場合のように、過少申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当若しくは酷になる場合をいうものと解される。
ロ また、ある財産が相続財産であるか否かについては、当該財産の取得、管理、運用、使用収益等の客観的事実によって判断すべきであって、相続人間の争いの有無によって左右されるものではない。
ハ 本件においては、本件各株式の取得、管理、運用、配当金の受領状況等から、本件各株式が相続財産に属することは明らかであり、請求人自身も相続財産である旨主張しているのであるから、請求人が、本件申告書において本件各株式を課税価格の計算の基礎としていなかったことについては、「正当な理由」があるとは認められない。
 なお、請求人の本件明細書への付記は、原処分に何ら影響を与えるものではない。
 したがって、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定によりされた原処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件各株式が相続財産であるか否かについて係争中であるため、それを取得財産の価額に含めて申告しなかったことが、「正当な理由」に該当するか否かにあるので、以下検討する。

(1)請求人及び原処分庁各提出資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人は、本件申告書において、本件各株式を課税価格の計算の基礎となる取得財産の価額に含めないで申告したこと。
ロ 本件申告書に添付された本件明細書には、次のような内容の記載があること。
(イ)本件各株式は被相続人の財産であるが、相続人の一人であるA男と所有権に関し係争中であるため、勝訴の判決が確定した際に修正申告をする。
(ロ)本件各株式の保管、管理及び配当金の管理は、すべて被相続人の印鑑を使用して、被相続人が保管、管理していたものである。
ハ 相続人の一人であるB女は、自己の相続税の申告書において、本件各株式を相続財産として取得財産の価額に含めて申告していること。
ニ 請求人は、昭和63年9月28日にA男ほか1名を被告としてR地方裁判所に、本件各株式が被相続人の遺産に属することの確認を求める遺産範囲の確認請求訴訟を提起したこと。
ホ R地方裁判所は、平成3年10月28日に、本件各株式はすべて被相続人の遺産、すなわち相続財産に含まれるとして、請求人勝訴の判決を下したが、A男は、これを不服としてR高等裁判所に控訴していること。
(2)ある財産が相続財産であるか否かは、当該財産の所有名義のみならず、その取得資金がだれのものか、その管理、運用及び使用収益等がだれによってなされているのか等の客観的事実に基づいて判断されるものであって、たとえ相続人間で争いがあったとしても、客観的に確定し得るものである。
 請求人及び原処分庁各提出資料並びに当審判所の調査の結果によれば、本件各株式は、A男名義ではあるものの、被相続人が取得資金を出捐し、その管理、運用及び収益をしていたことが認められるのであるから、これが被相続人の遺産、すなわち相続財産であることは明らかであり、このことは請求人自身も認めている。したがって、請求人は本件申告書の提出に当たり、本件各株式を相続財産に含めて申告すべきであったし、かつそれが可能であったというべきである。
(3)ところで、過少申告加算税の趣旨が、当初から正当に申告納税した者と、これをしなかった者との間に生じる不公平を是正するとともに、過少申告による納税義務違反を防止し、もって、申告納税制度の秩序を維持し、その基礎を擁護するものであることからすると、「正当な理由」がある場合とは、過少申告が真にやむを得ない理由によるものであって、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当若しくは酷になる場合をいうものと解され、それが納税者の税法の不知や誤解に基づく場合は、これに当たらないというべきである。
 本件における請求人の主張は、本件各株式が相続人間で法律上の帰属が係争中であるので、その帰属が判決で確定するまで申告しなくてもよいと考えるのが通常であり、請求人もそのように考え、申告しなかったのであるから、請求人には「正当な理由」があるというものである。
 しかしながら、前記(1)及び上記(2)で認定したとおり、1本件各株式が相続財産に含まれることが明らかであること、2請求人がこれを認識していること、3相続人の一人であるB女が本件各株式を相続財産に含めて相続税の申告をしていること等の事実に照らせば、請求人が本件各株式を相続財産に含めないで申告したことが、真にやむを得ない理由によるものであって、同人に過少申告加算税を賦課することが不当若しくは酷になるとは到底いえず、請求人の主張は独自の見解であって、結局、請求人は、税法の不知若しくは誤解によって申告すべき相続財産を申告しなかったにすぎないというべきである。
(4)また、請求人は、過少申告加算税制度の趣旨は行政上の制裁であるから、本件明細書に前記(1)のロの(イ)及び(ロ)のような記載をしている請求人に対して過少申告加算税を賦課することは、制度の趣旨及び目的を逸脱している旨主張する。
 しかし、上記(3)の過少申告加算税の趣旨に照らせば、このような記載をしていることが「正当な理由」に該当するはずはなく、原処分は、何ら過少申告加算税制度の趣旨及び目的を逸脱するものではない。
(5)請求人は、原処分の全部の取消しを求めるが、原処分のうち、本件各株式に対応する部分以外の部分については取消しを求めるのみで、その理由を主張しないし、全資料を総合しても、これを不相当とする理由は認められない。
(6)そうすると、請求人が過少な申告をしたことについて「正当な理由」はないものというべきであって、国税通則法第65条第4項を適用することはできないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた原処分は適法であり、その計算にも誤りはない。

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