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(平4.2.13、裁決事例集No.43 45頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建築設計士であるが、昭和62年分及び昭和63年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書に次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分
総所得金額 1,996,814 2,015,791
内訳 配当所得の金額 704,900
給与所得の金額 2,865,000 1,839,800
雑所得の金額
個人課税期間の不動産所得の金額 175,991
総合短期譲渡所得の金額 △ 1,573,086
納付すべき税額 21,500 17,400
付表 事業所得の金額 5,289,714 △ 2,804,412
不動産所得の金額 △ 82,542 267,633
事業主報酬額 4,200,000 1,665,000
みなし法人所得額 1,007,172 △ 4,201,779

(注)「総合短期譲渡所得の金額」、「事業所得の金額」、「不動産所得の金額」及び「みなし法人所得額」欄の△印は、損失の金額を示す。以下同じ

 

 請求人は、平成元年3月7日に昭和63年分所得税のみなし法人損失額の繰戻しによる還付請求書を提出した。
 原処分庁は、これに対し平成元年7月31日付で257,792円を還付する旨の処分をした。
 更に、請求人は、昭和62年分について平成元年4月24日に次表のとおり修正申告書を提出した。

(単位:円)
項目 金額
総所得金額 1,996,814
内訳 配当所得の金額 704,900
給与所得の金額 2,865,000
雑所得の金額
個人課税期間の不動産所得の金額
総合短期譲渡所得の金額 △ 1,573,086
分離短期譲渡所得の金額 5,308,429
納付すべき税額 2,147,200
付表 事業所得の金額 5,289,714
不動産所得の金額 △ 82,542
事業主報酬額 4,200,000
みなし法人所得額 1,007,172

 

 原処分庁は、これに対し平成2年7月6日付で各年分について次表のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分
更正 総所得金額 2,696,814 13,519,955
内訳 配当所得の金額 1,404,900 11,127,290
給与所得の金額 2,865,000 2,097,400
雑所得の金額 236,600
個人課税期間の不動産所得の金額 58,665
総合短期譲渡所得の金額 △ 1,573,086
分離短期譲渡所得の金額 5,308,429
納付すべき税額 2,406,100 7,514,400
損失の繰戻し 還付金の額に相当する税額 0
減少する還付加算金 4,800
付表 事業所得の金額 6,289,714 19,347,221
不動産所得の金額 △ 82,542 384,959
事業主報酬額 4,200,000 2,035,000
みなし法人所得額 2,007,172 17,697,180
賦課決定 過少申告加算税の額 25,000 1,137,500

 

 請求人は、上記の更正及び過少申告加算税の賦課決定を不服として平成2年8月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成2年12月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の各年分の更正及び過少申告加算税の賦課決定になお不服があるとして、平成2年12月31日に審査請求をした。
 その後、請求人は、平成3年12月26日付で昭和62年分に係る審査請求の取下書を提出した。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部を取り消すべきである。
イ 事業所得の金額について
(イ) 総収入金額
 原処分庁は、次表の合計金額を総収入金額に加算しているが、次表の3及び6以外の部分については、次の理由から、請求人の収入金額とならないので、総収入金額に加算すべきではない。

(単位:円)
番号 取引先名 入金年月日 収入金額
1 A男 昭和63年6月20日 5,000,000
2 A男 昭和63年7月14日 5,000,000
3 B男 昭和63年10月29日 500,000
4 A男 昭和63年11月10日 8,300,000
5 株式会社C 昭和63年11月10日 9,000,000
6 株式会社D 昭和63年11月11日 500,000
7 Eインコーポレイテッド 昭和63年12月1日 400,000
合計金額 28,700,000

 

A 請求人は、昭和63年10月1日付で個人としての事業を廃止し、株式会社F(以下「F社」という。)に事業を継承し、同日から法人としての事業を開始している。
B 原処分庁が認定した上記245及び7の収入金額の合計金額22,700,000円は、F社に帰属するものであるから、請求人の収入金額となるものではない。
(A) 物の引渡しを要しない設計の請負に係る収益計上の時期は、施工業者が建築物を工事発注者に引き渡した時と解すべきである。
 前記24及び5の収入金額の合計金額22,300,000円は、Aビル新築工事(以下「本件工事」という。)に係る設計・工事監理業務に対する報酬であり、当該建物は平成2年2月20日に施工業者である株式会社C(以下「C社」という。)から工事発注者に引き渡されているから、請求人に帰属するものではなく、F社に帰属するものである。
(B) 前記7の収入金額400,000円は、昭和63年10月31日付で請求人とEインコーポレイテッド(以下「E社」という。)との間で締結したコンドミニアム建築工事に係る設計管理委託契約書第7条に基づいて受領した報酬であるが、同契約書第7条第2項、第4項及び第8条に記載されているとおり概算により計算されたものであるから、入金年月日の時点では確定した収入となるべきものではなく、仮受金とすべきものである。
C 前記1の金額5,000,000円は、Aビルの建設予定地の近隣住民からその建設についての同意を得るための交渉費用として、昭和63年6月20日にA男から預かったものである。
 その後、交渉に要した費用等について、A男との間でその費用の領収書等を添付して精算していることからも、請求人の収入金額となるものではなく、預り金とすべきものである。
(ロ) 必要経費の額
 原処分庁は、事業所得の金額の計算上6,248,367円を必要経費の額に加算できるとしているが、前記(イ)のAで述べたとおり、請求人は昭和63年10月1日以後F社に請求人の事業を継承しているから、原処分庁が必要経費の額として認定した上記金額のうち5,748,367円は、F社の損金となるものである。なお、昭和63年2月15日支払の○○に係る外注費500,000円については争わない。
 したがって、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入すべき金額は、確定申告書とともに提出した所得税青色申告決算書(以下「決算書」という。)に記載した金額に、原処分庁が認定した上記外注費の500,000円を加算した5,044,412円となる。
(ハ) 青色専従者給与額
 原処分庁は、請求人の妻G女(以下「G女」という。)に係る昭和63年10月分及び同年11月分の青色専従者給与額各月150,000円、合計300,000円を青色専従者給与額に加算しているが、請求人は、前記(イ)のAで述べたとおり、昭和63年10月1日以後F社に請求人の事業を継承しているので、青色専従者給与額は、請求人が決算書に記載した1,350,000円である。
(ニ) 以上の結果、請求人の事業所得の金額は、次表のとおりとなり、原処分庁は、事業所得の金額を過大に算定しているので、その一部を取り消すべきである。

(単位:円)
項目 金額
総収入金額 1 4,090,000
必要経費の額 2 5,044,412
内訳 決算書記載の金額 4,544,412
前記(ロ)の外注費の金額 500,000
青色専従者給与額 3 1,350,000
事業所得の金額
123
△2,304,412

 

ロ 不動産所得の金額について
 請求人の不動産所得の金額は、請求人が確定申告書に記載した金額である。
ハ 給与所得の金額について
 請求人の給与所得の金額は、請求人が確定申告書に記載した金額である。
ニ 雑所得の金額について
 原処分庁が確定した雑所得の金額については、争わない。
ホ 配当所得の金額について
 請求人の配当所得の金額は、租税特別措置法第25条の2《みなし法人課税を選択した場合の課税の特例》の規定を適用して算定した零円である。
へ 更正について
 以上の結果、みなし法人所得額及び総所得金額は次表のとおりとなり、更正に係る金額を下回るから、その下回る部分の金額を取り消すべきである。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
総所得金額 2,252,391
内訳 配当所得の金額
給与所得の金額 1,839,800
雑所得の金額 236,600
個人課税期間の不動産所得の金額 175,991
付表 事業所得の金額 △ 2,304,412
不動産所得の金額 267,633
事業主報酬額 1,665,000
みなし法人所得額 △ 3,701,779

 

ト 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 事業所得の金額について
(イ) 総収入金額
 総収入金額に加算すべき金額は、次のとおりである。
A 設計等の委託契約、役務提供及びその入金状況等については、次の事実が認められる。
(A) 請求人は、昭和63年7月4日に本件工事に係る設計・工事監理業務委託契約(以下「本件契約」といい、その契約書面を「本件契約書」という。)をA男と締結したこと。
(B) 請求人は、業務の進行に応じて報酬の支払時期を定めた本件契約書の5《業務報酬の支払》に基づき、A男からその報酬として昭和63年7月14日5,000,000円、同年11月10日8,300,000円及び平成2年2月20日1,900,000円を受領していること。
(C) 請求人は、本件工事の設計をC社から9,000,000円で受注し、昭和63年11月10日に同金額を受領していること。
(D) 本件工事については、その建築確認の許可を、昭和63年8月10日付で受けていること。
(E) 請求人は、昭和62年7月13日付でBビルに係る設計管理委託契約をB男と締結し、昭和63年10月29日までにその報酬の全額6,290,000円(内、昭和63年分500,000円)を受領していること。
(F) 請求人は、昭和63年11月11日に株式会社D(以下「D社」という。)から設計委託料として500,000円を受領していること。
(G) 請求人は、昭和63年10月31日付で、アメリカ合衆国○○州のコンドミニアム建設に係る設計管理委託契約(以下「本件委託契約」といい、その契約書面を「本件委託契約書」という。)をE社と締結し、本件委託契約に基づき、昭和63年12月1日に第一回目の委託料として400,000円を受領していること。
B ところで、法人の設立が個人の事業を引き継いで行われるいわゆる「法人成り」の場合には、法人が設立されるまで個人事業が継続され、その損益は個人事業者に帰属すると解されるから、F社の設立登記の日である昭和63年12月9日前に発生した損益は請求人に帰属するものと認められる。
C また、物の引渡しを要しない請負契約の場合の収益計上の時期は、その約した役務の提供が完了した日と解されるが、その提供が部分的に完了した都度その部分について報酬を受けるような事実関係にある場合には、全体の役務の提供の完了を待たずに、その都度収入金額に計上すべきであり、また、委託料等の報酬を毎月受ける場合、その支払日があらかじめ定められているものについては、その日に収入金額に計上すべきものであると解される。
D したがって、前記イの(イ)のA及びBの事実から判断すると、本件工事に係る22,300,000円、B男から受領した500,000円、D社から受領した500,000円及びE社から受領した400,000円の合計金額23,700,000円については、F社設立前の請求人の事業に帰属するものと認められる。
E また、昭和63年6月20日に請求人がA男から受領した金員5,000,000円については、本件契約書の6《特約条項》に近隣住民との交渉費を協議のうえ別途受領する旨の記載があり、かつ、請求人がその金額を5,000,000円と取り決め、その使途は請求人の判断で行っているから、請求人は、設計業務の一環として近隣対策を請け負い、その対価として上記金員を受領したものと認められる。
F 以上の結果、請求人の総収入金額に加算すべき金額は、前記D及びEの合計額の28,700,000円となる。
(ロ) 必要経費の額
 前記(イ)のBで述べたとおり、F社設立前に発生した損益は、請求人に帰属するから、請求人が昭和63年10月1日から同年12月8日までの事業に要した費用のうち、F社の開業費と認められる金額を除いた次表の金額を、事業所得の金額の計算上必要経費の額に加算した。

(単位:円)
項目 金額 項目 金額
租税公課 242,480 事務用品費 43,460
水道光熱費 18,555 車両関係費 229,194
通信費 25,090 諸会費 2,000
接待交際費 982,575 リース料 30,200
修繕費 26,500 外注費 1,276,000
減価償却費 77,160 支払手数料 3,001,400
利子割引料 123,413 雑費 81,340
地代家賃 89,000 合計 6,248,367

 

(ハ) 青色専従者給与額
 青色専従者給与額については、青色事業専従者であるG女に対して昭和63年10月及び同年11月に支給した青色専従者給与額各月150,000円、合計300,000円が計上漏れとなっているので、この金額を加算した。
(ニ) 事業所得の金額
 請求人の事業所得の金額は、請求人が確定申告書付表に記載した事業所得の金額(以下「申告書の事業所得の金額」という。)に、前記(イ)の総収入金額を加算し、前記(ロ)の必要経費の額及び前記(ハ)の青色専従者給与額を減算して算定すべきである。
 以上の結果、事業所得の金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
申告書の事業所得の金額 1 △2,804,412
加算 収入金額 2 28,700,000
減算 必要経費の額 3 6,248,367
青色専従者給与額 4 300,000
事業所得の金額
1234
19,347,221

 

ロ 不動産所得の金額について
 不動産所得の金額は、前記イの(イ)のBで述べたとおり、昭和63年10月1日から同年12月8日までの期間に対応する不動産所得の金額117,326円が、みなし法人課税の対象となるので、この金額をみなし法人課税の不動産所得の金額に加算し、同金額を個人課税期間分の不動産所得の金額から減算して算定した。
 したがって、不動産所得の金額のうち、みなし法人課税の対象となる金額は384,959円、個人課税期間の不動産所得の金額は58,665円となる。
ハ 給与所得の金額について
 給与所得の金額は、請求人の確定申告書に記載された給与収入金額2,865,000円に昭和63年10月分及び11月分の事業主報酬の額各月185,000円、合計370,000円を加算し、給与所得控除額を控除した金額2,097,400円である。
ニ 雑所得の金額について
 雑所得の金額は、請求人が受領した還付加算金の額で236,600円である。
ホ 配当所得の金額について
 配当所得の金額は、前記イの(ニ)の事業所得の金額、前記ロのみなし法人課税期間の不動産所得の金額及び前記ハの事業主報酬の金額に基づき、租税特別措置法第25条の2の規定を適用して算定した結果、11,127,290円となる。
へ 更正について
 以上の結果、請求人のみなし法人所得額及び総所得金額は、次表のとおりとなり、この金額は更正の金額と同額となるから、更正は適法である。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
総所得金額 13,519,955
内訳 配当所得の金額 11,127,290
給与所得の金額 2,097,400
雑所得の金額 236,600
個人課税期間の不動産所得の金額 58,665
付表 事業所得の金額 19,347,221
不動産所得の金額 384,959
事業主報酬額 2,035,000
みなし法人所得額 17,697,180

 

ト 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき各年分の過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、法人成りに伴い事業所得の金額が請求人あるいはF社のいずれに帰属するのか及び請求人の昭和63年中の入金額を総収入金額に計上すべきか否かにあるので、以下審理する。

(1) 事業所得の金額について

イ 総収入金額
(イ) 当審判所が調査したところによれば、次のとおりである。
A 本件工事について、関係人の答述及び原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(A) 請求人は、昭和63年6月20日に本件工事の発注者であるA男から近隣交渉費として5,000,000円を受領していること。
(B) 請求人は、昭和63年7月4日に本件工事に係る本件契約をA男と取り交わしていること。
 また、本件契約書には、次の内容が記載されていること。
a 本件契約書の3《業務報酬額合計》には、業務報酬額合計は建築請負金額の8パーセント相当額とすること。
b 本件契約書の4《業務内容、期間及び報酬額内訳》には、業務内容を、調査・企画業務、基本設計業務、実施設計業務及び工事監理業務とすること。
 なお、その期間及び上記業務別ごとの報酬内訳は規定されていないこと。
c 本件契約書の5《業務報酬額の支払》には、調査・企画業務、基本設計業務、実施設計業務及び確認申請時に合わせて5パーセント、確認申請許可時に2パーセント及び業務完了時に1パーセント相当額の報酬を支払うこと。
d 本件契約書の6《特約条項》には、近隣者との交渉費に関しては別途協議の上、費用を申し受けること。
(C) 請求人は、A男から本件工事に係る報酬として、次表の金額を受領していること。

(単位:円)
受領年月日 金額
昭和63年7月14日 5,000,000
昭和63年11月10日 8,300,000
平成2年2月20日 1,900,000
合計 15,200,000

 

(D) A男は、上記(C)の報酬の金額について、原処分庁の調査担当職員に次のとおり答述していること。
a 昭和63年中に支払った13,300,000円は、設計業務に対する報酬と認識していること。
b 平成2年に支払った1,900,000円は、工事監理業務に対する報酬と認識していること。
(E) 請求人は、本件工事に係る建築確認申請書を本件契約前の昭和63年6月16日にP市役所に提出し、同年8月10日付でその確認を受けていること。
(F) 請求人は、昭和63年10月21日付でC社と本件工事の設計工事請負契約書を交わし、その設計料として同社から9,000,000円を昭和63年11月10日に受領していること。
(G) 請求人は、平成2年2月16日にA男宅で同人に、「近隣交渉費内訳表」に当該交渉費用に係る領収証15枚を添付し、前記(A)の5,000,000円を精算していること。
 なお、近隣交渉費内訳表に記載されている株式会社H(以下「H社」という。)に対する支払金額426,000円は、請求人がA男から依頼を受けた本件工事の敷地の地盤調査を同社に依頼し、その費用を近隣交渉費の資金から立替払したものであること。
(H) A男は、平成元年11月22日付でP市役所から本件工事に係る検査済証の交付を受けており、同検査済証の工事完了検査年月日欄には、平成元年11月20日と記載されていること。
(I) A男は、前記(A)の支払について、次のとおり答述していること。
a 当該金員は本件契約の特約条項には関係ないこと。
b A男は、請求人及びC社の従業員から、早急に近隣住民の同意を得る必要がある旨の説明を受けたことから、請求人に近隣住民との交渉を依頼することとし、その費用に充てるために当該金員を請求人に預けたこと。
 なお、当該金員は、請求人からの申出に基づく金額であり、近隣対策交渉が終了後精算するものであることから、請求人を信頼しその使途等は、すべて請求人に委任したこと。
(J) 本件工事に係る建物は、平成元年8月24日にC社からA男に引き渡されていること。
B E社との取引について、原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(A) 請求人は、昭和63年10月31日付でE社とコンドミニアム建設に係る本件委託契約を取り交わしていること。
 また、本件委託契約書第7条《委託料の支払》には、次のとおり規定されていること。
a 業務委託料の額は、原則としてコンドミニアム建設費に1パーセントを乗じた金額とすること。
b 当面の委託料は、8,000,000円として、その支払方法は、工事期間を20か月と見込み、昭和63年11月より毎月末に400,000円を請求人の指定する銀行に振り込むこと。
(B) 請求人は、本件委託契約書に基づき、昭和63年12月1日に第一回目の報酬として、400,000円を受領していること。
C 請求人及びF社の関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(A) F社の発起人会議事録によれば、発起人会は昭和63年9月30日に開催されたこと。
(B) 商業登記簿謄本によれば、F社の設立登記の日は、昭和63年12月9日であること。
(C) 請求人の昭和63年分の現金出納帳には、同年10月分及び11月分の請求人に対する事業主報酬各月185,000円及び青色専従者給与額各月150,000円の支払の事実が記載されていること。
(ロ) 請求人は、昭和63年10月1日付でF社に事業を継承し、F社は同日から法人としての事業を開始しているから、同日以後に生じた収入金額は、すべてF社に帰属する旨主張する。
 ところで、法人の成立は、その本店の所在地において設立登記をすることを要し、その設立登記を行うことによって初めて法人としての権利能力を取得し法人として存在することとなるものと解するのが相当である。
 しかして、前記(イ)のCの(A)の発起人会の開催は法人設立に関する決議を行ったもので、法人設立までの一過程に過ぎず、前記(イ)のCの(B)の登記をもってF社が法人として権利能力を取得したものであり、また、前記(イ)のCの(C)のとおり、請求人は、昭和63年の10月分及び11月分として請求人自身に対する事業主報酬及びG女に対する青色専従者給与を支払っている事実が認められることから、請求人がF社に事業を継承したのは、F社の設立登記の日である昭和63年12月9日と認められるので、同日以前に発生した損益は請求人に帰属するとするのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、物の引渡しを要しない設計の請負に係る収益計上の時期は、施工業者がその目的物を工事発注者に引き渡した時であるから、本件工事に係る設計料等の収入及びC社から発注を受けた設計料の合計収入(以下「本件業務収入」という。)24,200,000円のうち22,300,000円は、本件工事の引渡日である平成2年2月20日に計上すべきであり、F社に帰属する旨主張する。なお、本件業務収入のうち1,900,000円がF社に帰属することについては、当事者間に争いがない。
 ところで、本件工事に係る請求人の請負業務内容は、前記(イ)のAの(B)のbのとおり、設計業務及び工事監理業務であることから、以下各業務ごとに収益の計上時期等について審理する。
A 設計業務(本件工事に関してA男及びC社から受注した設計業務、以下「本件設計業務」という。)について
 設計請負契約における役務は、設計図書の完成を目的としているものであり、その完成した設計図書を使用して実際に建築を行うか否かは、その請負契約の目的完了に格別の影響を及ぼすものではないから、その収入の計上時期は、その役務の提供が完了する設計図書を引き渡した時と解するのが相当である。
 ところで、本件設計業務は、前記(イ)のAの(E)のとおり、建築確認申請が昭和63年6月16日になされ、同年8月10日付で同申請に対する確認を受けていることから、本件設計業務は建築確認申請書を提出した昭和63年6月16日以前に完了したものと認められる。
 したがって、本件設計業務に係る収入金額は、昭和63年6月16日までに収益に計上すべきであり、請求人に帰属すると解するのが相当である。
B 工事監理業務について
 工事監理業務は、通常の場合当該工事の着工前から建築物の引渡しまでの全期間にわたって業務が継続するものと認められるところ、本件契約によれば、工事監理業務に係る報酬については、各月一定額を支払うこととする旨を定めた規定は認められない。
 また、完了した部分に応じて収益に計上することを相当とする事実関係も認められないから、工事監理業務に係る報酬については、当該業務に係る役務の提供が終了した時に計上すべきであると解するのが相当である。
 ところで、前記(イ)のAの(H)のとおり、本件工事の工事検査完了年月日は平成元年11月20日となっていること及び前記(イ)のAの(J)のとおり、C社は、平成元年8月24日にA男に本件工事に係る建物を引き渡していることが認められる。
 したがって、本件工事はF社設立の昭和63年12月9日より後に完了したものと認められるから、本件契約に係る工事監理業務の収入金額は、F社に帰属するとするのが相当である。
C 請求人は、本件契約に係る各業務の報酬として、前記(イ)のAの(C)のとおり、A男から15,200,000円、本件工事に係る設計料として、前記(イ)のAの(F)のとおりC社から9,000,000円を、それぞれ受領していることが認められる。
 ところで、前記(イ)のAの(B)ないし(D)の事実からすると、本件契約の各業務に対する報酬額については、設計業務に係る役務の対価が建築請負金額190,000,000円の7パーセント相当額及び工事監理業務に係る役務の対価が同請負金額の1パーセント相当額とされているので、設計業務に係る収入は上記の9,000,000円を含め22,300,000円、工事監理料収入は1,900,000円となる。
D 以上の結果、本件業務収入は、請求人に22,300,000円、F社に1,900,000円が帰属することになり、請求人の主張は採用できない。
(ニ) 請求人は、E社から昭和63年12月1日に受領した400,000円は、概算により計算されたものであり確定したものではないから、仮受金とすべきである旨主張する。
 ところで、所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、収入すべき権利の確定した金額と解するのが相当であり、また、人的役務の提供(請負を除く。以下同じ。)による収入金額に係る事業所得計算上の収入すべき時期については、原則として人的役務の提供を完了した時によるが、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合には、その特約又は慣習によりその収入すべき事由が生じた時が収入すべき時と解するのが相当である。
 ところで、当審判所の調査によれば、前記(イ)のBのとおり、本件委託契約書に基づき請求人が提供する役務は、コンドミニアム建設工事に伴う施工管理及び監修業務であり、委託料の総額8,000,000円を委託期間20か月に応じて毎月均等額で支払われる旨約定されていることが認められるから、その支払期日到来日に収入金額に計上すべきものとするのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ) 請求人は、昭和63年6月20日に近隣交渉費としてA男から受領した5,000,000円は、請求人の収入ではなく預り金である旨主張する。
 ところで、当審判所の調査によれば、前記(イ)のAの(I)のとおり、近隣交渉費の5,000,000円は、A男が本件工事に当たり近隣住民の同意を得るために近隣住民との交渉を請求人に依頼し、その費用に充てる目的で請求人に預けたものであり、将来における実費清算を予定した仮払金であることが認められ、これに反する証拠は認められないから、請求人の預り金とするのが相当である。
(ヘ) 原処分庁が収入金額と認定したB男及びD社からの各500,000円については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ト) 以上の結果、総収入金額に加算すべき収入金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
取引先
昭和63年分
A男 13,300,000
B男 500,000
C社 9,000,000
D社 500,000
E社 400,000
合計 23,700,000

 

ロ 必要経費の額
 請求人は、昭和63年10月1日付でF社に事業を継承し、F社は同日から法人としての事業を開始しているから、同日以後に生じた必要経費は、すべてF社に帰属する旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ロ)で述べたとおり、F社に事業を引き継いだのは、F社の設立登記の日である昭和63年12月9日と認められるので、請求人の主張には理由がない。
 ところで、当審判所が原処分庁が認定した必要経費の額について調査したところ、外注費の額1,276,000円のうち、昭和63年11月24日支払の426,000円は、前記イの(イ)のAの(G)の事実及び(ホ)からすると、請求人がA男から依頼された地質調査をH社に依頼し、その代金をA男から預かっていた近隣交渉費から立替払したものであり、本件工事に係る原価の一部とするのが相当と認められるから、請求人の必要経費となるものではない。
 したがって、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費の額に加算される金額は、原処分庁が認定した6,248,367円から上記426,000円を控除した5,822,367円とするのが相当である。
ハ 青色専従者給与額
 請求人は、昭和63年10月1日付でF社に事業を継承し、F社は同日から法人としての事業を開始しているから、青色専従者給与額は、決算書に記載した金額1,350,000円である旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ロ)で述べたとおり、F社に事業を引き継いだのは、F社の設立登記の日である昭和63年12月9日と認められるから、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、前記イの(イ)のCの(C)のとおり、昭和63年10月分及び11月分の青色専従者給与額の合計300,000円を支払っている事実が認められるから、原処分庁の認定は相当である。
ニ 事業所得の金額
 請求人の事業所得の金額は、請求人が確定申告書付表に記載した事業所得の金額(以下「申告書の事業所得の金額」という。)に、前記イの(ト)の総収入金額を加算し、前記ロの必要経費の額及び前記ハの青色専従者給与額を減算して算定すべきである。
 以上の結果、事業所得の金額は次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
申告書の事業所得の金額 1 △2,804,412
加算 収入金額 2 23,700,000
減算 必要経費の額 3 5,822,367
青色専従者給与額 4 300,000
事業所得の金額
1234
14,773,221

 

(2) 不動産所得の金額について

 不動産所得の金額については、当審判所の調査によれば原処分庁の認定が相当と認められるから、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
みなし法人課税期間の不動産所得の金額 384,959
個人課税期間の不動産所得の金額 58,665

 

(3) 給与所得の金額について

 給与所得の金額について、請求人は、前記(1)のイの(イ)のCの(C)で述べたとおり、昭和63年10月分及び11月分の事業主報酬各月185,000円、合計金額370,000円を支払っており、また、前記(1)のイの(ロ)のとおり、昭和63年12月9日前の損益は請求人に帰属することから、原処分庁が、当該金額370,000円を請求人が確定申告書に記載した給与収入金額に加算し、給与所得の金額を2,097,400円と認定したことは相当である。
 なお、この結果、事業主報酬の額は、2,035,000円となる。

(4) 雑所得の金額について

 雑所得の金額が236,600円であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。

(5) 配当所得の金額について

 配当所得の金額については、請求人が租税特別措置法第25条の2の規定を適用していることから、前記(1)のニの事業所得の金額、前記(2)の不動産所得の金額及び前記(3)の事業主報酬の額に基づき、配当所得の金額を算定すると、別表のみなし法人の配当所得額欄のとおりとなる。

(6) 総所得金額について

 以上の結果、総所得金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
総所得金額 10,912,775
内訳 配当所得の金額 8,520,110
給与所得の金額 2,097,400
雑所得の金額 236,600
個人課税期間の不動産所得の金額 58,665

 

(7) 課税総所得金額について

 上記(6)の総所得金額から控除される所得控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、課税総所得金額は次表のとおりとなる。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
総所得金額 1 10,912,775
所得控除の額 2 1,369,867
課税総所得金額
12
9,542,000

 

(8) 納付すべき税額について

イ 配当控除の額
 配当控除の額は、前記(5)の配当所得の金額に係るもので、その金額は852,011円となる。
ロ みなし法人所得税額
 課税されるみなし法人所得額に対するみなし法人所得税額は、別表のみなし法人所得税額欄のとおりとなる。
ハ 源泉徴収税額
 源泉徴収税額は、前記(3)の給与所得の金額に係るもので、その金額は47,100円となる。
ニ 納付すべき税額
 以上の結果、納付すべき税額は、次表のとおりとなるところ、この税額は、更正に係る納付すべき税額7,514,400円に満たないから、更正はその一部を取り消すべきである。

(単位:円)
年分
項目
昭和63年分
課税総所得金額等に対する算出税額 1 1,962,600
配当控除の額 2 852,011
みなし法人所得税額 3 3,928,141
源泉徴収税額 4 47,100
納付すべき税額
1234
4,991,600

(注)「納付すべき税額」欄の金額は、100円未満を切り捨てた金額である。

 

(9) 過少申告加算税の賦課決定について

 請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち一部取消しにより減額される部分以外の税額について、その計算の基礎とすべき事実があるのに、これを計算の基礎としていないことが明らかであり、かつ、このことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額のうち当該減額される部分以外の税額を基礎とする部分に係る過少申告加算税の賦課決定は適法である。
 ところで、過少申告加算税の基礎となる税額及び過少申告加算税の額は次表のとおりとなるところ、この金額は、賦課決定に係る金額1,137,500円に満たないから、賦課決定はその一部を取り消すべきである。

(単位:円)
項目 金額
過少申告加算税の基礎となる税額 5,230,000
4,730,000
過少申告加算税の額 759,500

(注)「過少申告加算税の基礎となる税額」欄の下段の金額は、加重分の過少申告加算税の基礎となる税額である。

 

(10) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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