ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.43 >> (平4.5.14、裁決事例集No.43 70頁)

(平4.5.14、裁決事例集No.43 70頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、弁護士業を営む者であるが、昭和62年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告額」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し平成2年7月6日付で昭和62年分について次表の「更正額及び賦課決定額」欄のとおり、更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告額 更正額及び賦課決定額
総所得金額 3,936,500 3,936,500
内訳 事業所得の金額 1,172,900 1,172,900
不動産所得の金額 2,763,600 2,763,600
分離長期譲渡所得の金額 93,940,000 819,778,000
納付すべき税額 22,563,700 240,285,900
過少申告加算税の額 31,520,500

(注)分離長期譲渡所得の金額は、租税特別措置法(昭和62年法律第96号による改正前のもの)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する長期譲渡所得の金額から長期譲渡所得の特別控除額を控除した金額をいう。以下同じ。

 

 請求人は、これらの処分を不服として平成2年9月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し同年12月4日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成2年12月12日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正について
(イ)本件契約について
A 請求人は、昭和62年7月29日付で、株式会社A(以下「A社」という。)との間で、請求人がP市R町4丁目822番1所在の宅地229.32平方メートル及び同所同番7所在の宅地284.99平方メートル(以下、併せて「本件土地」という。)を100,000,000円でA社に譲り渡す旨の契約(以下「本件契約」といい、これに係る契約書を「本件契約書」という。)を締結し、同年8月3日付でA社に本件土地の所有権移転登記(以下「本件移転登記」という。)をした。
 そして、請求人は、本件土地の譲渡に係る収入金額を100,000,000円とし、分離長期譲渡所得の金額を93,940,000円として昭和62年分の所得税の確定申告を行った。
 これに対し、原処分庁は、本件土地の譲渡が時価に比し著しく低い価額による譲渡に当たるとして、所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》及び同法施行令第169条《時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲》の規定(以下、併せて「低額譲渡の規定」という。)を適用して本件更正を行った。
B しかしながら、以下に述べるとおり、本件更正は、事実を誤認したものである。
(A)本件契約及びそれに基づいてなされた本件移転登記は、形式的には売買となっているが、その実質は請求人がA社に対して負っている債務の弁済の担保のために本件土地を提供したものであり、次に掲記するとおり譲渡担保の要件に合致したものであるから、本件土地を通常の売買により譲渡したと認定した原処分は誤りである。
a 請求人とA社の間に譲渡担保に係る被担保債権が存在していたことは、平成2年7月20日に請求人がA社に100,000,000円を弁済したこと及びその際にA社が発行した領収証(以下「本件領収証」という。)によって明らかである。
 なお、この弁済資金のうち96,000,000円はB銀行S支店の請求人の次男C男(以下「C男」という。)名義の普通預金から平成2年7月9日に払い出したものである。
b 本件契約当時、本件土地の上には請求人名義の木造瓦葺2階建の建物(以下「本件旧家屋」という。)が存在し、かつ、本件契約書において本件土地の売却後も請求人が引き続き居住することが定められており、また、現に居住していたことは住民票等から明らかである。
 したがって、本件移転登記後においても本件土地の使用者は請求人であり、このことは、譲渡担保に係る資産の移転がその移転後においても引き続き債務者がその資産を使用することを前提としていることに合致するものである。
 なお、原処分庁は、本件契約後、本件旧家屋が取り壊され、その後、A社が本件土地の上に軽量鉄骨造スレート葺2階建の建物(以下「本件新家屋」という。)を建築して、所有権保存登記をしたことをもって、本件土地の使用者がA社であり、したがって、本件移転登記が譲渡担保に基づいてなされたものではない旨主張する。
 しかしながら、本件新家屋の登記がA社名義でなされたのは、当時請求人に建築資金がなく、実際の資金の拠出者である同社の名義に一時的にしたということにすぎないのであるから、登記上の名義のみによってA社を本件土地の使用者であると判断することはできない。
c 請求人は、昭和62年8月からA社に対して本件土地の地代として月額50,000円を支払っていたが、これは実質的には譲渡担保の被担保債権に係る借入金利息である。
 なお、原処分庁は利率が年0.6パーセントで低額である旨主張するが、これは請求人がA社の株主であり顧問であるという事情、更にA社の代表取締役が請求人のいとこである等の特殊事情があるためである。
d 所得税基本通達33ー2《譲渡担保に係る資産の移転》によれば、資産の移転が債権担保のみを目的として形式的になされたものである旨の債権者及び債務者の申立書(以下「譲渡担保の申立書」という。)を提出することが、資産の移転を譲渡担保として取り扱うための一つの要件となっているところ、請求人及びA社は、連署にて当該申立書を原処分庁及びT税務署長に提出している。
e 原処分庁は、本件契約書並びに請求人が原処分庁に提出した平成2年8月3日付の更正処分撤回嘆願書(以下「嘆願書」という。)及び同月30日付の嘆願書補足申立書(以下「補足申立書」という。)に、本件土地を売却した旨記載されており、譲渡担保の記載がない旨主張するが、譲渡担保の制度が売買の形を採っている以上、これらの書面に譲渡担保の文字がなくとも何ら不思議ではない。
f 原処分庁は、請求人が原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の際、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し本件土地を売却した旨申述したと主張するが、請求人がこのような申述をした事実はない。
(B)本件移転登記は、平成2年7月18日に錯誤を原因として抹消され、A社から請求人に本件土地の所有権が戻っている。
 したがって、仮に、本件移転登記が譲渡担保に基づいてなされた旨の上記の主張が認められなかったとしても、本件土地の譲渡はなかったこととなるから、譲渡所得は発生しない。
 また、請求人に所有権が戻った結果、請求人が本件土地を今後他に譲渡するとすれば、再度譲渡所得税を支払わねばならないこと、請求人が死亡した場合、本件土地に係る相続税が生じること及び不動産取得税、固定資産税等が請求人に対し賦課されることは、いずれも同一事象に対する二重課税であり、不合理であるから、この点からも本件更正は取り消されるべきである。
(ロ)分離長期譲渡所得の金額について
 仮に、本件契約が売買であるとしても、次に述べるとおり、原処分庁の本件土地の時価の評価額は過大であり、したがって、本件更正における分離長期譲渡所得の金額も過大に算定されている。
A 原処分庁は、本件土地の時価を、P市R町の地価公示価格(地価公示法に基づき、国土庁の土地鑑定委員会が、公示地の毎年1月1日現在の価格を4月1日の官報に公示したものをいう。以下同じ。)及び基準地価格(公示価格を補うものとして、国土利用計画法施行令に基づき、各都道府県が毎年7月1日現在の価格を10月1日に発表するものをいう。以下同じ。)を基に、915,471,800円と算定しているが、次のとおり減額すべき要素を考慮していない。
(A)本件契約当時の状況で判断する限り、前記(イ)のBの(A)のbで述べたとおり、本件土地の上には売却後も請求人名義の本件旧家屋があり、請求人が借地権を有しているところ、このような借地権の負担のある本件土地は、更地としての評価額の4分の1に減縮して評価すべきである。
(B)本件契約当時、本件土地には、国(大蔵省)及びU県が抵当権を設定しており、その債権額は、それぞれ61,471,700円及び27,459,900円である。
(C)本件土地の一部は、U県の都市計画の一環として道路(U県都市計画道路補助線街路××号線)使用が決定されており、将来本件土地が収用される際には約30坪が失われることになっている。
B 上記Aの(A)及び(B)の事情を考慮して本件土地の本件契約時点の評価を行うと、  915,471,800円×1/4ー88,931,600円=139,936,350円
であり、これに上記Aの(C)の事情を加味すれば本件土地に係る譲渡価額は、100,000,000円とするのが相当である。
C 以上の結果、昭和62年分の分離長期譲渡所得の金額は、請求人が確定申告書に記載したとおり93,940,000円である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2) 原処分庁の主張

イ 本件更正について
(イ)本件契約について
A 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人は、昭和62年7月29日付で、A社との間で本件土地を100,000,000円で売買する旨の本件契約を締結していること。
(B)本件契約書第4条には、本件土地が譲渡された後も請求人が本件土地を従前どおり使用することとし、請求人とA社との間で、地代は固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の合計額と同額で、かつ、使用期間を20年とする賃貸借契約を締結する旨記載されていること。
(C)A社は、その昭和62年5月1日から昭和63年4月30日までの事業年度(以下「昭和63年4月期」という。)の賃借対照表の土地勘定に、本件土地を100,000,000円と記載していること。
 なお、当該貸借対照表には、請求人に対する貸付金に係る記載はないこと。
(D)本件土地については、昭和62年8月3日付で、請求人からA社へ本件移転登記がなされていること。
(E)請求人は、昭和62年分の所得税の確定申告書に本件土地の譲渡収入金額100,000,000円、取得費5,000,000円、譲渡費用60,000円、特別控除1,000,000円及び課税分離長期譲渡所得の金額93,940,000円と記載して、これを昭和63年3月11日に原処分庁に提出していること。
(F)A社は、昭和63年9月26日にD株式会社(以下「D社」という。)との間において、本件新家屋を建築する請負工事契約を締結したこと。また、本件新家屋完成後、平成2年1月24日付で所有者をA社とする保存登記をしていること。
(G)本件移転登記は、平成2年7月18日付で錯誤を原因として抹消されたこと。
(H)上記(G)の本件土地の所有権抹消登記がなされた後も、本件新家屋はA社の名義のままであり、また、本件新家屋については、請求人とA社との間で本件契約前の状態に復するための取決めが何らなされていないこと。
(I)請求人は、本件調査において調査担当職員に対し、本件土地はA社に譲渡したものであって、融資を受ける目的で担保に供したものではない旨申述していること。
(J)請求人は、異議申立てに係る調査の際、異議審理庁の担当職員に対して、譲渡担保に係る借入金の弁済資金としてB銀行S支店から100,000,000円を借り入れた旨申述しているが、請求人が同行から当該金額の借入れを行った事実はないこと。
 なお、請求人はB銀行S支店の普通預金口座から96,000,000円を払い出し、これを弁済資金に充てた旨主張するが、その証拠とする普通預金口座は、請求人名義のものでないこと。
(K)請求人が原処分庁に提出した嘆願書及び補足申立書には、本件土地を売却した旨記載されており、譲渡担保の記載はないこと。
B ところで、譲渡担保は、形式的には資産の譲渡すなわち所有権移転の形を採りながら、当事者間においては債権の担保として利用されている制度であるが、債務者と債権者とがその目的物について賃貸借契約を締結し、その契約に基づいて債務者が目的物を引き続き占有して使用する形式を採るような場合には、その実質は金融の担保的な機能を果たしているにすぎないと認められることから、形式的要件を具備するものについては、譲渡所得の課税上は、譲渡はなかったものとして取り扱われている。
 すなわち、所得税基本通達33ー2により、債務者が、債務の弁済の担保としてその有する資産の譲渡をした場合において、その契約書に、1当該担保に係る資産を債務者が従来どおり使用収益すること及び2通常支払うと認められる当該債務に係る利子又はこれに相当する使用料の支払に関する定めがあることを明らかにしており、かつ、当該譲渡が債権担保のみを目的として形式的になされたものである旨の譲渡担保の申立書を提出したときは、当該譲渡はなかったものとすることとされている。
C これを本件についてみると、前記Aの(F)に記載したとおり、本件土地の譲渡後の使用者は、譲受人であるA社であると認められること及び当事者間に通常支払うと認められる利息の授受が認められないことから、本件契約は譲渡担保を目的としたものとは認められない。
 また、請求人は、譲渡担保に係る被担保債権の弁済証書として、本件領収証の写しを原処分庁に提出したが、前記Aの(J)及び(K)に記載したとおり、譲渡担保に係る借入金を弁済したと主張する平成2年7月20日以降も本件土地を売買により譲渡した旨主張していること及びその弁済資金についての主張も信ぴょう性が認められないことからしても、本件領収証を根拠として本件契約が譲渡担保としてなされたものとは認めることはできない。
 したがって、前記Aの(A)、(C)、(D)及び(E)の各事実のとおり、本件土地は、売買契約である本件契約に基づいてA社に譲渡されたものと認められる。
D 請求人は、本件移転登記が平成2年7月18日に錯誤により抹消され、本件土地の所有権がA社から請求人に戻っているから、譲渡所得は発生していない旨主張するが、前記Aの(H)の事実によれば、本件移転登記を抹消した際、本件新家屋については、本件契約締結前の状態に復するために何らの処置もされていない。
 したがって、本件移転登記が抹消されたとしても、そのことのみをもって本件契約が取り消されたものとは認められない。
(ロ)分離長期譲渡所得の金額について
A 個人が法人に対して、譲渡所得の起因となる資産を譲渡の時の価額、いわゆる時価の2分の1未満の価額で売却した場合には、低額譲渡の規定により、その個人が法人に対して時価で譲渡したものとみなされる。
 本件土地の売却時の時価を、P市R町の地価公示価格及び基準地価格を基として計算すれば、別表のとおり915,471,800円となるところ、請求人がA社に売却した価額は100,000,000円であり、本件土地の時価の2分の1未満であるから、上記法令の規定により、請求人は本件土地を915,471,800円で売却したものとみなされることになる。
 したがって、昭和62年分の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなり、この金額は、原処分に係る分離長期譲渡所得の金額を上回るから、この範囲内でした本件更正は適法である。

(単位:円)
項目 金額
収入金額 1 915,471,800
取得費 2 45,773,590
譲渡費用 3 60,000
特別控除の額 4 1,000,000
分離長期譲渡所得の金額
1234
868,638,210

(注)取得費は、租税特別措置法第31条の5《長期譲渡所得の概算取得費控除》の規定により、譲渡価額の100分の5とした。

 

B 請求人は、本件土地について請求人が借地権を有していた旨主張する。
 しかしながら、本件土地が譲渡された後、前記(イ)のAの(B)で述べた本件契約書第4条の規定に基づき、A社が請求人に対して本件土地の貸付けを行っている事実が認められるが、その地代は、固定資産税等の額と同額であり、A社はその不動産を所有することによる利益を全く享受することがないなど極めて不自然な取引である。
 また、前記(イ)のAの(F)で述べたとおり、昭和63年9月26日には、A社が本件土地の上に建物を建築するための請負契約を結び、建物完成後は、その建物を同社名義で保存登記している。
 したがって、これらの事実を総合すれば、本件土地に請求人の借地権が設定されているとは認められない。
C 請求人は、本件土地に国及びU県の抵当権が設定されていることは本件土地の評価を減額すべき要素となる旨主張するが、当該抵当権に係る債務者はE株式会社(以下「E社」という。)であり、仮に保証債務が履行されたとしても同社に対する求償権が生ずるから、当該抵当権の存在によって本件土地の客観的価値が減少するものではない。
 なお、このことは、民法第567条《担保的権利による制限がある場合の売主の担保責任》、同法第577条《同前ー担保権のある場合》等の規定からも明らかである。
D 請求人は、本件土地の一部が都市計画道路の予定地となっていることを本件土地の評価の減額要素とすべきである旨主張するが、その都市計画がいつ実行されるのか、また、本件土地がいつ収用されるのかは不明であり、仮に、その都市計画が実行されたとしても、土地所有者は収用に際して公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱による補償金を受領することができるから、都市計画により本件土地の価格が低下することはない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

トップに戻る

3 判断

(1)本件更正について

イ 本件契約について
(イ)請求人は、本件契約が譲渡担保としてなされたものである旨主張するので審理したところ、以下のとおりである。
A 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(A)請求人とA社は、昭和62年7月29日付で請求人がA社に本件土地を譲渡する旨の本件契約を締結したこと。
 その際取り交わされた本件契約書には、本件土地の売買代金を100,000,000円とする旨記載されていること。
(B)本件土地について、登記原因を昭和62年7月29日売買として、昭和62年8月3日付で請求人からA社への本件移転登記が行われたこと。
(C)本件契約書第4条には、請求人とA社との間で本件土地につき賃貸借契約を締結し、その地代は本件土地に係る固定資産税等の額と同額とする旨記載されていること。
 なお、その際、借地権の対価に相当するような金銭の授受はなかったこと。
(D)本件移転登記の後、本件旧家屋は取り壊され、本件新家屋が建築されたが、本件新家屋について、平成2年1月24日付で所有者をA社とし、登記原因を平成元年6月15日新築とする所有権保存登記が行われたこと。
(E)請求人とA社は、平成元年7月1日付で、A社が請求人に本件新家屋を賃料月額150,000円で賃貸する旨の賃貸借契約を締結したこと。
(F)本件移転登記は、平成2年7月18日付で錯誤を原因として抹消されたこと。
B 原処分関係資料及び請求人から提出された証拠資料等によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人は、昭和62年分の確定申告書に添付した「譲渡内容についてのお尋ね」に本件土地の売却に伴う譲渡利益の計算の明細を記載し、かつ、前記2の(2)のイの(イ)のAの(E)に記載したとおり、本件土地に係る譲渡所得の確定申告をしたこと。
(B)本件契約書には、本件土地が譲渡担保の目的で譲渡された旨の記載並びに請求人がA社に弁済すべき債務があることをうかがわせる記載及びこれに係る弁済期や利息の取決めに関する記載はないこと。
(C)本件旧家屋に係る閉鎖登記簿謄本によれば、本件旧家屋は、平成元年1月20日の取壊しを原因として登記閉鎖されていることが認められるが、取壊しに際して、A社が請求人に対して借地権の対価に相当する金員を支払った事実はないこと。
(D)本件移転登記が抹消された後も、本件新家屋の登記上の所有者はA社のままであること。
(E)請求人は、昭和62年8月から平成元年9月まで、本件土地の地代として月額50,000円を、平成元年10月以降、本件新家屋の家賃として月額150,000円をそれぞれA社に支払っていること。
(F)請求人は、原処分の取消しを求めるため、平成2年8月6日に嘆願書を、同月30日に補足申立書をそれぞれ原処分庁に提出しているところ、嘆願書には「…A社に売却、これにより所有権移転登記を行い…」との記載が、また、補足申立書には「…ついつい安値で売買してしまいましたが、最近売買値段が安きに失する旨、周辺からも指摘され、買主の方もこれを認めましたが…」との記載があること。
(G)請求人は、昭和63年7月26日に調査担当職員に対し本件移転登記は売買に基づくものである旨申述していること。
(H)請求人及びA社は、連署にて所得税基本通達33ー2に定める譲渡担保の申立書を平成3年6月20日に原処分庁に、同月24日にT税務署長にそれぞれ提出していること。
C 当審判所が、A社について調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A)A社は、Y市○○町4番7ー101号に本店を置く資本金200万円の同族会社であること。
(B)A社が昭和56年5月6日に設立されて以来、同社の実質的な経営者は請求人であること。
(C)A社の確定申告書、振替伝票等によれば、昭和63年4月期、昭和63年5月1日から平成元年4月30日までの事業年度(以下「平成元年4月期」という。)及び平成元年5月1日から平成2年4月30日までの事業年度(以下「平成2年4月期」という。)の経理処理に関して次の事実が認められること。
a 昭和62年7月29日付の振替伝票により次の仕訳が行われていること。

 

借方 金額 貸方 金額
土地 100,000,000円 現金 100,000,000円

 

b 昭和63年4月期の確定申告書に添付された固定資産の内訳書には、本件土地につき次のように記載されていること。

 

期末現在高 異動年月日 相手先
100,000,000円 62.7.29 請求人

 

c 昭和63年4月期、平成元年4月期及び平成2年4月期の確定申告書に添付された雑益、雑損失等の内訳書には、次のように記載されていること。

 

事業年度 科目 取引内容 相手先 金額
昭和63年4月期 雑収入 受取地代 請求人 450,000円
平成元年4月期 600,000
平成2年4月期 250,000
受取家賃 1,050,000

 

d 平成2年4月の確定申告書に添付された固定資産の内訳書には、本件新家屋につき次のように記載されていること。

 

種類・構造 建物
用途 貸居宅
面積 184.65平方メートル
期末現在高 49,654,930円
異動年月日 1.6.15
異動事由 新築
取得価額 51,447,000円
購入先の名称 D社

 

e 平成2年10月8日付の振替伝票により次の仕訳が行われていること。
 なお、上記伝票の適用欄には、この仕訳が同年7月18日付の抹消登記に伴うものであり、また、この借入金の相手先がC男である旨の記載があること。

 

借方 金額 貸方 金額
短期借入金 100,000,000円 土地 100,000,000円

 

f 本件領収証の日付であり、請求人がA社に譲渡担保の被担保債権の元本の額100,000,000円を返済したと主張する平成2年7月20日には、A社において100,000,000円を入金した旨の経理処理はなされていないこと。
g A社が負担した固定資産税等の額は、昭和63年度分293,700円、平成元年度分305,700円及び平成2年度分308,300円であること。
D 本件領収証について当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
(A)本件領収証には、平成2年7月20日付で作成された旨の記載があるものの、それに先行して同月18日付で本件土地に係る本件移転登記の抹消登記がなされていること。
(B)本件領収証には、20,000円の収入印紙が貼付されているが、A社が当該印紙代を負担した事実はないこと。
(C)本件領収証の筆跡は、E社の従業員○○のものと認められるところ、請求人も当審判所に対する答述においてその事実を認めていること。
 なお、同社の本店所在地は、△△市S町1丁目16番地であること。
(D)A社に保存されている本件領収証の控えは、平成3年2月8日にE社からファクシミリで送付されたものであること。
E 請求人は、当審判所に対して次のように答述している。
(A)昭和62年分の確定申告を行ったのは、所有者の名義が異動した以上申告が必要だと思ったからで、譲渡担保の場合は申告が不要であると知ったのは後日であること。
(B)譲渡担保に係る借入金については、金銭消費貸借契約書を作成しておらず、その弁済期等についての当事者間の取決めもしなかったこと。
(C)本件契約書上では、本件土地の所有権移転後、請求人がA社に支払うべき地代について固定資産税等と同額と定められているが、月額20,000円とか30,000円の地代では余りに安すぎるから、50,000円に決めたこと。ただし、この取決めに関する覚書等の書類はないこと。
(D)本件契約締結時において、本件旧家屋はかなり老朽化していたため、取り壊そうと思っていたこと。
(E)請求人は、A社の代理人としてD社との本件新家屋建設に関する打合せを行い、その建設資金はA社が負担したこと。
(F)平成2年7月20日に現金で100,000,000円をY市のA社の事務所で返済したこと。
 このうちの96,000,000円は、平成2年7月9日にB銀行S支店のC男名義の普通預金から引き出したものであるが、弁済までの間、E社の本社内の金庫に保管していたこと。
(G)本件領収証の日付が本件移転登記の抹消登記の日より後なのは、本件更正に関連してA社に対する更正が行われることが予想されたため、急いで登記申請を行ったためであること。
(H)A社及びE社の実質的な経営者は、請求人であること。
F ところで、資産の移転に係る私法上の形式が譲渡となっていても、被担保債権が存在し、その移転の実質が既存債権の担保物として提供されたにすぎないと認められる場合には、すなわちその譲渡契約書で当該譲渡資産を譲渡人において従来どおり使用収益すること及び当該債務に係る利息の支払に関する定めがあることを明らかにした場合には、課税上の判断においては、その譲渡がなかったものとして取り扱うのが相当である。
G これを本件の場合について、請求人の譲渡担保に係る主張に即して審理したところ、本件契約については、次のとおり、いずれの観点からしても譲渡担保としての要件に該当せず、本件土地は、請求人からA社に売却されたものと認められるから、この点に関する請求人の各主張にはいずれも理由がない。
(A)請求人は、請求人とA社の間に、100,000,000円の被担保債権が存在した旨、また、当該債権の弁済資金のうち96,000,000円はC男名義のB銀行S支店の普通口座から払い出したものを充当した旨主張し、証拠資料として本件領収証及び預金通帳の写しを提出した。
 しかしながら、前記Cの(C)のf及びDの各事実のとおり、本件領収証は、A社の作成に係るものではなく、U県に本社を有するE社において作成され、貼付印紙代もA社が負担していないものと認められる上、本件領収証の作成日である平成2年7月20日に先行する同月18日付で本件移転登記が抹消されている一方、当該作成日には、A社においてその領収金額100,000,000円の入金がなされた旨の経理処理は行われていないこと等を併せ考えると、本件領収証自体に信ぴょう性があると認めることはできず、被担保債権が存在していたことを認めるに足るその他の証拠はない。
 なお、上記の請求人提出の預金通帳によれば、平成2年7月9日にC男名義の預金口座から96,000,000円が払い戻された事実が認められるが、当該払戻金額が本件領収証の作成日にA社において入金された事実が認められないことは上記のとおりであるから、当該払戻しの事実によって上記認定が左右されるものではない。
 したがって、被担保債権が存在していたという請求人の主張は採用できない。
(B)請求人は、本件移転登記後においても本件土地の使用者は請求人であり、譲渡担保に係る資産の移転後においても引き続き債務者がその資産を使用するのを前提としていることに合致している旨、また、本件新家屋をA社名義で登記したのは資金の拠出者がA社であったことから一時的にA社の名義にしているにすぎず、登記上の名義のみをもって使用者を判断すべきではない旨主張する。
 しかしながら、前記Eの(D)の請求人の答述内容に照らすと、請求人及びA社は、本件旧家屋を取り壊す予定で本件土地を売買して本件移転登記をしたものと認められる上、前記Aの(D)及び(E)、Bの(D)、Cの(C)のdの各事実並びにEの(E)の請求人の答述のとおり、実際に本件旧家屋は取り壊されており、その後新築された本件新家屋については、A社による所有権保存登記が行われているばかりでなく、平成元年7月1日付でA社が請求人に賃貸する旨の賃貸借契約を締結しており、A社が実際に資金を拠出して、その確定した決算においてA社固有の資産として計上されていることを併せ考えると、本件新家屋の所有者は、名実ともにA社であることが明らかであるから、その敷地である本件土地の使用者も当然にA社であるというべきところ、請求人は、上記賃貸借契約に基づいて本件新家屋に居住しているにすぎないから、これをもって本件土地の使用者を請求人と判断することはできない。
 なお、本件新家屋の所有者は、その保存登記の時から審査請求時に至るまで請求人に変更された事実はないから、A社の名義が一時的なものであるという請求人の主張も採用できない。
(C)請求人は、昭和62年8月以降A社に支払っていた本件土地の月額地代50,000円の実質は譲渡担保の被担保債権に係る借入金利息である旨主張する。
 しかしながら、1前記Bの(B)及びEの(B)のとおり、当事者間において利息の授受に係る取決めが行われた事実が認められないこと、2前記Aの(C)及びEの(C)のとおり、上記月額地代の額は、固定資産税の額を基に決定されたものであって、借入金利息としての合理的な算定根拠に基づくものではないこと、また、3仮に請求人が主張するように月額地代50,000円が借入金利息であるとすると、その主張する借入金の元本の額100,000,000円に対する利率は年0.6パーセントにしか相当せず、請求人とA社の特殊関係を考慮しても極めて低率で、通常支払うべき利息とは認められないことを総合すると、当該地代を借入金利息と認めることはできない。
(D)請求人は、請求人がA社と連署で譲渡担保の申立書を原処分庁及びT税務署長に提出しているから、本件土地の譲渡は所得税基本通達33ー2にいう譲渡担保に係る資産の移転として取り扱うべきである旨主張する。
 ところで、請求人が援用する上記通達は、前記Fで述べた資産の譲渡の実質が被担保債権の担保物として提供されたにすぎない場合の課税上の取扱いについて明らかにしたものであるところ、本件土地の譲渡は、上記(A)ないし(C)のとおり、被担保債権が不存在であって、利息が支払われておらず、本件土地をA社が本件新家屋の敷地として利用している状況等からみて、その実質が譲渡担保に該当しないものと認められるから、請求人及びA社が譲渡担保の申立書を原処分庁及びT税務署長に提出したからといって、その提出により本件土地の譲渡が譲渡担保に係る資産の移転となるものでないことは明らかである。
 なお、前記Bの(H)のとおり、本件土地に係る譲渡担保の申立書は、原処分より以前に提出されたものでないことはもとより、本件審査請求がなされた後の平成3年6月に提出されたものであるところ、譲渡担保の申立書は、その申立ての目的からして、原則として申告に当たり提出することが予定されているものというべきであるから、この点からみても、当該提出をもって本件土地の譲渡が譲渡担保に係るものとする請求人の主張は採用できない。
(E)請求人は、譲渡担保なる制度が売買の形式を採っている以上、本件契約書等に、譲渡担保の文字がなくとも何ら不思議ではない旨主張する。
 しかしながら、当事者の真の目的が売買でなく譲渡担保にあるならば、これを売買契約書、登記等に特約としてその旨表示するか、あるいは別途覚書等を作成するなど、何らかの私法上の法形式を整えていることが一般的であると解されるところ、請求人の場合にはいずれもその事実は認められない。
(F)請求人は、調査担当職員に対し本件土地を売却した旨申述した事実はない旨主張するが、請求人が売買の意思を有していたことは、前記Bの(A)、同(F)及び同(G)のとおり、確定申告書の添付書類、嘆願書及び補足申立書等に記載した各事実並びに請求人自身の申述からも明らかである。
H しかして、前記AないしEに記載した事実を総合すると、請求人所有の本件土地について、売主を請求人、買主をA社、売買価格を100,000,000円とする本件契約書が作成され、それに基づいて本件土地の引き渡し、本件移転登記が行われているから、本件契約は、売買契約として有効に成立し、かつ、履行されたものと認めるのが相当であり、本件契約を通常の売買と認定した原処分は相当である。
(ロ)請求人は、仮に本件契約が譲渡担保に係るものでないとしても、本件移転登記が、錯誤を原因として後日抹消され、本件土地の所有権が請求人に戻っているから、本件契約はなかったことになり、譲渡所得は発生しない旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
A 前記(イ)のAの(F)のとおり、本件移転登記が平成2年7月18日付で抹消登記され、その原因が「錯誤」とされている事実が認められる。
B 一方、請求人は当審判所に対し、上記抹消登記の経過について、前記(イ)のEの(G)のとおり、本件更正に関連してA社についても更正が予想されたため、移転登記の抹消を急いだものである旨答述しているところ、当審判所の調査によれば、本件更正は、上記抹消登記の日付の12日前の平成2年7月6日付で行われていること、また、前記(イ)のEの(H)のとおりA社の実質的な経営者が請求人であることを考慮すると、上記の請求人の答述内容は事実を述べたものと認められる。
C そうすると、本件移転登記の抹消登記は、形式上、錯誤を登記原因としているものの、その実質は、本件更正に関連してA社についても更正が行われることを予想した請求人が、本件土地に係る登記を本件契約締結以前の状況に戻すことを目的として、A社に対し実質的に支配権を持つことを利用して行ったものと認めるのが相当であって、契約締結時において当事者に錯誤があったものとは認められないから、本件移転登記の抹消登記によって、いったん有効に成立し、かつ、履行された本件契約が無効となるものではない。
D 請求人は、上記主張に関連して、請求人に所有権が戻った結果、請求人が本件土地を今後他に譲渡するとすれば、再度譲渡所得税を支払はねばならないこと、請求人が死亡した場合、本件土地に係る相続税が生じること及び不動産取得税、固定資産税等が請求人に対して賦課されることは、いずれも同一事象に対する二重課税であり不合理であるから、本件更正は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件更正は、本件契約が売買契約として有効に成立して履行され、その結果A社に本件土地の所有権が移転したことを前提として行われたものであり、その後本件土地が請求人に再び譲渡され、それ以降の本件土地の保有及び移転に伴い課税が行われたとしても、そのことと本件更正による課税が二重課税となるものでないことはいうまでもなく、また、それらの課税関係の有無が本件更正を取り消す理由とならないことは明らかである。
E したがって、この点に関する請求人の主張には、いずれも理由がない。
ロ 分離長期譲渡所得の金額について
 請求人は、仮に本件契約が売買であるとしても、原処分庁の本件土地の時価の評価額は過大であり、したがって、本件更正における分離長期譲渡所得の金額も過大に算定されている旨主張するので、以下審理する。
(イ)請求人は本件契約締結時において、本件土地上に本件旧家屋があり、請求人が借地権を有していたから、本件土地は更地価額の4分の1に減縮して評価すべきである旨主張するところ、本件契約の以前に請求人が本件土地について借地権を有していたわけでないことは当事者間に争いがないから、上記主張は、本件契約書第4条により本件土地について請求人はA社との間で締結された賃貸借契約によって、本件土地の評価額を減縮すべき旨のものと解するのが相当である。
 しかしながら、1前記イの(イ)のEの(D)のとおり、請求人は、本件旧家屋について、本件契約締結時において老朽化していたため取り壊そうと思っていた旨当審判所に対し答述していること、2前記イの(イ)のAの(D)、同Bの(C)及び同Gの(B)のとおり、本件旧家屋は平成元年1月に取り壊され、その後新築された本件新家屋の所有者はA社であること、3前記イの(イ)のAの(C)のとおり、本件契約書第4条には、A社と請求人が本件土地について賃貸借契約を締結するとされているものの、地代は固定資産税等と同額とされており、その際、借地権の対価に相当する金銭の授受はないこと、4前記イの(イ)のAの(E)及び同Cの(C)のcの各事実並びに同Eの(C)の請求人の答述内容のとおり、本件契約の成立以後本件新家屋が完成するまでの間、請求人からA社に月額地代50,000円が支払われていたが、本件新家屋の完成後は、建物の賃料として月額150,000円が支払われていたこと及び5前記イの(イ)のBの(C)のとおり、本件旧家屋を取り壊した際、A社が請求人に対して借地権の対価に相当する金銭を支払った事実はないこと等の事実を総合すると、請求人とA社は、当初から本件旧家屋を遅滞なく取り壊してA社所有の本件新家屋を建築することを目的として本件土地を売買したものと認められ、本件旧家屋を取り壊すまでの間、本件契約書第4条により本件土地について賃貸借契約が設定されているものの、賃貸借期間が極めて短く、地代も低額であり、また、その設定及び終了時点で借地権の対価に相当するような金銭の授受が行われていないことからみて、請求人が借地権を有していたものとは認められず、上記契約により本件土地の更地としての評価額を減縮すべき理由はないものと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件土地には、抵当権が設定されているから、本件土地の時価の算定に当たり、当該抵当権の債権額を控除すべきである旨主張する。
 当審判所が登記簿謄本を調査したところ、本件土地には本件契約時において、E社を債務者とし国及びU県を債権者とする債権総額88,931,600円の抵当権が設定されていることが認められる。
 しかしながら、およそ、抵当権の設定は、抵当物件の価値を債権の担保の用に供するものであり、将来における債務の優先弁済を保証するものにすぎないから、当該抵当権の実行が確実に予想されるような特段の事情のない限り、当該抵当物件の価値そのものが当該抵当権の設定によって減少する理由はないところ、当審判所の調査によれば、そのような特段の事情は認められないから、本件土地に上記抵当権の設定のあることをもって、本件土地の時価に影響を及ぼすことにはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、本件土地のうち、約30坪が収用の対象となる予定であるから、当該部分に相当する金額は、本件土地の時価を算定するに当たって控除するべきである旨主張する。
 当審判所が調査したところ、本件土地の一部は、U県の都市計画の一環として道路(U県都市計画道路補助線街路××号線)使用が決定されていることは認められるが、収用等の時期、収用される面積については具体的に決定されておらず、仮に収用があったとしても補償金が支払われるのが通常であるから、その一部が将来収用の予定であることをもって、本件土地の評価を減じる要素となるものということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)原処分庁は、本件土地の時価を本件土地の周辺地域の公示価格及び基準地価格に基づき、915,471,800円と算定しているが、当審判所の調査によれば、その標準地及び基準地の選定に恣意性はなく、P市R町地域にある4か所全部を平均したもので、地理的類似性についても本件土地と同様住宅地内であり、かつ、その計算も適正に行われていることが認められる。
 また、上記(イ)ないし(ハ)のとおり本件土地の時価の計算上、減額すべき要素は認められないから、原処分庁の認定額は相当と認められる。
(ホ)前記イで述べたとおり、請求人は本件土地を売却したものと認められ、かつ、その譲渡代金は100,000,000円であるが、本件土地の譲渡時の時価は上記(ニ)のとおり915,471,800円であるから、低額譲渡の規定により本件土地に係る譲渡収入金額は915,471,800円となる。
(ヘ)分離長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費を、租税特別措置法第31条の5の規定により譲渡価額の100分の5とすること及び譲渡費用の額については、請求人と原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ト)以上の結果、昭和62年分の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおりとなり、原処分に係る分離長期譲渡所得の金額を上回るから、本件更正は適法である。

(単位:円)
項目 金額
収入金額 1 915,471,800
取得費 2 45,773,590
譲渡費用 3 60,000
特別控除の額 4 1,000,000
分離長期譲渡所得の金額
1234
868,638,210

 

(2)過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件更正は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る