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(平4.3.31、裁決事例集No.43 96頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、喫茶業を営んでいた者であるが、平成元年分所得税の青色の確定申告書(分離課税用)に、事業所得の金額の計算上生じた損失の金額を1,708,375円、分離課税の短期譲渡所得の金額(上記損失の金額を控除し、居住用財産の特別控除額を控除した後の金額。以下「本件譲渡所得」という。)を12,443,742円及び納付すべき税額を4,825,600円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、平成2年4月20日に事業所得の金額の計算上生じた損失の金額を1,708,375円、本件譲渡所得を零円及び納付すべき税額を零円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は平成2年10月3日付で更正をすべき理由がない旨の通知をした。
 請求人は、この処分を不服として平成2年12月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成3年2月16日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして平成3年3月15日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
 請求人は、平成元年6月16日にA女との間で、同人に対し、自己所有に係る別紙物件目録記載の土地、建物(以下それぞれ「本件土地」、「本件建物」といい、併せて「本件土地建物」という。)及びじゅう器・備品(以下、本件土地建物と併せて「本件物件」という。)を42,000,000円(以下「本件譲渡代金」という。)で売り渡す旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同日その旨の売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を作成した。
 そして、請求人は、平成2年3月15日に本件譲渡所得を平成元年分の所得として確定申告をした。
 ところで、A女は、請求人が口頭により再三催告をしたにもかかわらず、本件譲渡代金のうち9,700,000円を支払わなかった。そこで、請求人は、A女に対し、平成2年3月27日付の通知書(以下「本件通知書」という。)により、同月30日までに上記金員を支払うよう催告し、これを支払わなければ、本件売買契約を解除する旨の通知をした。
 しかし、A女は、上記期限までに上記金員を支払わなかったので、本件売買契約は同日の経過により解除されたものである。
 そこで、請求人は、法定申告期限の翌日から起算して1年以内の平成2年4月20日に、上記の解除を理由として、本件譲渡所得の金額を零円とする本件更正の請求を行ったところ、原処分庁は、同年10月3日付で更正をすべき理由がないとして原処分をした。
 しかしながら、次のイないしハの理由により、請求人の平成元年分の所得税の確定申告は、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号の規定に該当するから、本件更正の請求は認められるべきである。
イ 本件売買契約の解除について
 請求人は、本件売買契約の解除を行ったのであるから、本件売買契約はそ及的に消滅し、本件譲渡所得は発生しないことになる。
ロ 本件譲渡所得の帰属年分について
 仮に、上記イの主張が認められないとしても、次のとおり、本件譲渡所得は平成2年分に帰属することになり、平成元年分の所得にはならない。
(イ)譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、その資産の引渡しがあった日である。
(ロ)請求人は、A女が本件譲渡代金の一部を履行期日である平成元年8月31日までに支払わなかったので、本件物件の引渡しをしなかった。
(ハ)請求人は、平成2年3月末日にA女によって一方的に本件土地建物から追い出されたことにより、結果的に本件物件を同人に引き渡したのであるから、本件物件の引渡しの日は平成2年3月末日である。
ハ 本件物件の取得費について
 上記イ及びロの主張が認められないとしても、請求人は、本件譲渡所得の金額の計算に当たって、次の支払金額を取得費に算入していないので、当該金額を本件物件の取得費として総収入金額から控除するべきである。
(イ)昭和59年に本件物件の取得に際し、A女に支払った立退料2,500,000円及び同人を経由してB男に支払った店舗改装工事承諾料1,000,000円。
(ロ)昭和59年8月3日に本件物件の取得時の契約に際し、売主のB男を経由し、弁護士C男(以下「C弁護士」という。)に支払った売買契約の立会料100,000円及びその売買契約書にちょう付した収入印紙代20,000円。
(ハ)本件物件の取得後、昭和59年12月31日にD有限会社(以下「D社」という。)に支払った店舗改装工事手直し費170,000円。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件売買契約の解除について
 請求人は、本件通知書によって本件売買契約を解除した旨主張する。
 ところで、民法第541条《履行遅滞による解除権》の規定によれば、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間に履行がないときは契約の解除を行うことができる旨規定している。
 本件においては、本件通知書がA女に送達された日と、指定した履行期限が共に平成2年3月30日であり、相当の期間を定めて債務の履行を催告したことにはならないので、本件売買契約の解除が有効にされたとは、認められない。
 仮に、本件売買契約の解除が有効であるとしても、次の理由により本件譲渡所得が消滅したことにはならないので、請求人の主張は認められない。
(イ)売買契約が解除された場合、民法第545条《解除の効果》第1項の規定により、各当事者は互いに原状回復義務を負うことになるが、同項ただし書によると、これによって第三者の権利を害することはできないとされている。
 本件においては、本件土地建物がA女から有限会社E(以下「E社」という。)に転売され、平成2年3月30日に本件土地建物につき所有権移転登記が行われているため、本件売買契約の解除による原状回復義務はE社には及ばない。
(ロ)譲渡所得は、売買契約の解除によって直ちに消滅するのではなく、解除によって原状回復が行われることにより消滅することになる。しかし、売買目的物の返還が現物に代えて金銭で行われた場合には消滅しない。
 請求人は、P地方裁判所にA女を被告として履行不能によるてん補賠償金の支払を求める訴訟を提起しており、本件物件の返還は求めていない。
 したがって、請求人の本件物件に係る譲渡所得は、現在もなお消滅していないことになるので、請求人の主張は認められない。
ロ 本件譲渡所得の帰属年分について
 請求人は、本件物件をA女に引き渡したのは、平成2年3月であるので、本件譲渡所得は平成2年分に帰属する旨主張する。
 しかしながら、所得税基本通達36ー12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》によれば、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期については、当該資産の譲渡に関する契約効力発生の日の属する年分で総収入金額に算入して申告があったときは、これを認めることとしている。
 本件においては、請求人は、平成元年6月16日に本件売買契約を締結し、本件譲渡代金の大部分を受領した同月29日に、所有権移転登記の手続を完了させ、また、本件譲渡所得を平成元年分の所得として申告している。
 したがって、その申告は適正であり、この点に関する請求人の主張は認められない。
ハ 本件物件の取得費について
 請求人は、本件譲渡所得の金額の計算に当たって控除した取得費以外に、本件物件の取得費に該当するものがある旨主張するが、その支払を立証する証拠資料の提出がないので、主張の事実を確認することができない。
 したがって、請求人の主張は認められない。
 そうすると、請求人の主張はいずれも理由がなく、通則法第23条第1項第1号の規定に該当しないので、更正をすべき理由はない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、1本件売買契約が解除され、これにより本件譲渡所得が発生しなかったか否か、2本件譲渡所得の帰属年分及び3総収入金額から控除すべき取得費の有無及びその額にあるので、以下検討する。

(1) 本件売買契約の控除について

 イ 次の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
(イ)請求人は、平成元年6月16日にA女との間で、本件物件を42,000,000円で売り渡す旨の本件売買契約を締結し、本件売買契約書を取り交わしたこと。
(ロ)本件売買契約書には、本件譲渡代金の決済方法につき、平成元年6月16日に手付金3,000,000円、同月30日に中間金27,000,000円、同年8月31日に残代金12,000,000円を支払う旨、また、所有権移転登記の手続は中間金の決済時に、物件の明渡しは残代金の決済時に行う旨の定めがあること。
(ハ)請求人は、A女から本件譲渡代金の一部として、平成元年6月16日に手付金3,000,000円、同月29日に25,200,000円、同年8月31日に4,100,000円、以上合計32,300,000円を受領したこと。
(ニ)請求人は、本件通知書により、A女に対し本件譲渡代金の残代金9,700,000円を平成2年3月30日までに支払うよう催告し、その支払がない場合には、同日の経過をもって本件売買契約を解除する旨の停止条件付解除の意思表示をしたこと。
 本件通知書は、同日にA女に到達していること。
(ホ)本件土地建物には、平成元年6月29日に請求人からA女に対し、また、平成2年3月30日に同人からE社に対し、いずれも売買を原因として所有権移転登記がなされていること。
(ヘ)請求人は、平成2年4月17日にP地方裁判所に、A女を被告として、売買代金の一部不払による債務不履行に基づき本件売買契約を解除したことを理由に、それによる原状回復が不能であるためのてん補賠償金18,562,800円の支払を求める訴訟を提起したこと。
 上記訴えに対し、A女は、債務不履行はなかったとして、解除の有効性について争っていること。
ロ 関係人の答述及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)A女は、本件通知書に対し、平成2年4月6日付の書面で、請求人に次の内容を回答したこと。
A 本件譲渡代金として、平成元年6月16日に3,000,000円、同月27日に3,800,000円、同月29日に25,200,000円、合計32,000,000円を支払い、残代金10,000,000円を同年8月末日の明渡し時に支払う予定としていた。
B 請求人から、平成元年6月29日の本件物件の明渡し期限の猶予を懇請されたので、その期限を同年8月末日に変更した。そこで、上記Aの残代金10,000,000円から同年7月分、8月分の家賃相当額300,000円を控除した9,700,000円の小切手を請求人に交付した。
C その後、請求人から、再度明渡し期限の猶予を懇請されたので、その期限を平成元年12月末日に変更し、上記Bの9,700,000円の小切手の返却を受けた上、5,000,000円は明渡し時に支払うこととし、同年9月分から12月分までの家賃相当額600,000円を差し引いた4,100,000円を同年8月31日に支払った。
D 本件物件の明渡しが、平成2年3月末日に行われたので、平成元年1月分から3月分までの家賃相当額450,000円、平成元年7月分から平成2年3月分までの水道料金70,000円及び電話加入権の名義変更に必要な書類の交付と引換えに支払う予定の200,000円を上記Cの5,000,000円から差し引いた4,280,000円を、同年4月6日付で請求人に振込送金した。
(ロ)A女は、平成2年3月に株式会社○○との間で、本件土地建物の売買契約を締結し、売買契約書を取り交わしていること。
ハ 以上の事実に基づき検討すると、次のとおりである。
 請求人は、A女に対し、売買代金の一部不払による債務不履行を理由に、本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたものの、同人は、債務不履行の事実を否定し、解除の有効性を争っており、両者間に訴訟が係属中であることは、上記イ、ロで認定したとおりである。
 そうすると、請求人の解除の意思表示により、本件売買契約が適法かつ有効に解除されたか否かについては、いまだ不確定であるから、現段階においては、本件売買契約が解除されたから本件譲渡所得も消滅したとする請求人の主張は、理由がない。

(2) 本件譲渡所得の帰属年分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)P県中小企業信用保証協会は、平成元年6月29日にA女を債務者として、本件土地建物につき、原因同日設定、極度額60,000,000円、債権の範囲保証委託取引とする根抵当権を設定し、その旨の登記をしていること。
(ロ)請求人は、平成元年分の事業所得に関する青色申告決算書の地代家賃の内訳欄に、A女から本件物件を平成元年7月から12月までの間900,000円で賃借した旨記載し、地代家賃の科目で同額を必要経費に算入していること。
(ハ)請求人は、本件譲渡所得を平成元年分の所得として確定申告していること。
ロ 請求人は、本件物件を引き渡したのは平成2年3月末日であるから、本件譲渡所得は、平成2年分に帰属する旨主張する。
 ところで、譲渡所得の収入すべき時期については、当該資産の所有権が相手方に移転した時期が、重要な要素となることはいうまでもないが、課税の公平や担税力に応じた課税の実現という見地からすると、所有権の移転という法的評価だけでなく、資産の増加益の利得という経済的利益の確定的に発生する時期が、いつであるかについても考慮を払う必要があり、これらを総合して収入すべき時期を判定するのが相当である。
 所得税基本通達36ー12によれば、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとされているが、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認めるとされている。
 一般論としては、資産の引渡しがあれば、それまでに所有権が移転しているのが通常であり、また、引渡しによって売買代金を相手方に請求できることが確定的になることから、引渡しの日をもって譲渡所得の総収入金額を収入すべき時期であるとすることは、合理性があると認められる。
 また、通常、譲渡に関する契約の効力発生の日は、資産の引渡しの日に先行することから、納税者がこの収入すべき時期を譲渡に関する契約の効力発生の日として申告した場合は、これを認めることも相当である。
ハ 本件においては、1本件売買契約は、前記(1)のイの(イ)及び(ホ)のとおり、平成元年6月16日に締結され、本件土地建物の所有権移転登記の手続は、同年6月29日に完了していること、2請求人は、前記(1)のイの(ハ)のとおり、平成元年中に本件譲渡代金のうち約77パーセントに相当する32,300,000円を受領していること、3A女は、前記イの(イ)のとおり、本件土地建物を平成元年6月29日に保証委託取引による債権の担保として提供していること及び4請求人は、前記イの(ロ)のとおり、本件物件に係る平成元年7月から12月までの間の家賃相当額を事業所得の必要経費に算入していることを併せ考えると、本件物件の所有権は平成元年中にA女に移転し、また、本件売買契約に基づく経済的利益も、同年中に発生しているというべきである。
 このような場合に、請求人自身が譲渡に関する契約の効力発生の日を譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期と認識し、前記イの(ハ)のとおり、本件譲渡所得を平成元年分の所得として申告している以上、これを認めるのが相当である。
 そうすると、請求人は本件譲渡所得の帰属年分については国税に関する法律に従って適正に申告していることになり、通則法第23条第1項第1号に該当しないから、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期を資産の引渡しの日であるという理由に基づく更正の請求は認められない。したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(3)本件物件の取得費について

 この項における争点は、請求人が主張する、1A女に支払った立退料2,500,000円及びB男に支払った店舗改装工事承諾料1,000,000円、2C弁護士に支払った売買契約の立会料100,000円及びその際作成の売買契約書にちょう付した収入印紙代20,000円及び3D社に支払った店舗改装工事手直し費170,000円が、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》に規定する取得費に該当するか否かにあるので、以下検討する。
イ 立退料2,500,000円及び店舗改装工事承諾料1,000,000円
(イ)請求人提出資料、関係人の答述及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和59年8月3日にB男との間で、本件土地建物を17,000,000円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同日付で売買契約書を取り交わし、同年11月9日に本件土地建物につき所有権移転登記をしていること。
B 請求人が立退料2,500,000円を支払った証拠として提出した2枚の領収書(以下「本件a領収書」という。)の内容は、別表1に掲げるとおりであること。
C 本件a領収書は、A女が平成2年3月15日ごろ作成して、請求人に交付したものであるが、実際に受領した金員に基づいて発行したものではないこと。
D 請求人は、昭和59年10月に本件建物を喫茶店に改装する際、調理室を設けるため、本件土地の共有者であるB男(持分3分の2)の承諾を得て、本件建物を約3.3平方メートル増築したこと。また、これに伴い、本件建物の上階への出入口用通路を変更する必要が生じ、現にその工事がされていること。
E 請求人は、昭和59年10月29日にD社との間で、店舗改装工事の請負契約を締結し、同年11月に本件建物を喫茶店に改装したが、その工事代金として、同年10月29日2,000,000円、同年11月7日1,665,000円、同月24日2,000,000円、同月30日400,000円、以上合計6,065,000円を支払ったこと。
(ロ) 以上の事実に基づき検討すると、次のとおりである。
A 本件a領収書は、1その合計金額が3,400,000円であり、請求人の主張金額2,500,000円と異なること、2各領収書のただし書には、それぞれ「S町4丁目のお礼金として」、「工事代として」と記載されていること及び3昭和59年11月の本件土地建物の所有権移転登記の日から5年も経過した平成2年3月15日ごろに作成されたものであり、しかも、実際に受領した金員に基づいて発行されたものでないことを併せ考えると、立退料の支払の事実を証するものとはいえず、他に立退料の支払の事実を認めるに足りる証拠もないので、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B 請求人は、本件建物の店舗改装工事に当たって、A女を経由してB男に対し、その承諾料として1,000,000円を支払った旨主張し、その証拠書類として信用組合F・R支店の請求人名義の普通預金通帳を提出した。
 上記預金通帳及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、昭和59年11月14日に上記預金口座から1,000,000円を引き出したこと、請求人の妻であった○○は、その当時、当該支払金額の脇に「A女」とメモ書をしたことが認められ、また、全資料を総合しても、同金額が、じゅう器・備品の購入や前記(イ)のEの工事代金の支払など、他の費用の支払に充てられたことを認めるに足りない。
 また、A女は当審判所に対し、請求人が昭和59年10月ごろ店舗改装工事をする際、夫であるB男の意を受け、その承諾料及びそれに伴う2階への出入口通路の変更費用として、請求人に1,000,000円くらいの支払を要求し、同人から同金員を受領した旨答述している。
 以上を併せ考えると、請求人は店舗を改装するに当たって、その承諾料等として、昭和59年11月14日に1,000,000円をB男に支払ったものと認めるのが相当である。
 ところで、本件のように、共有土地上の建物の所有者がその建物を増築する場合には、他の共有者の承諾が必要となるが、その承諾を得るために相応の承諾料の支払を要する場合もあり、また、建物の1階部分を増築した結果、他人所有の2階部分への出入口用通路の変更が必要になる場合には、増築した者がその工事費用を負担するのは当然のことである。
 そうすると、上記承諾料等1,000,000円は、店舗改装工事に際し、本件土地の共有者であるB男の要求に応じて支払われたものということができ、その金額も増築規模等に照らし相当と認められるから、同金額は店舗改装工事費として本件建物の取得費に該当する。
ロ 弁護士の立会料100,000円及び収入印紙代20,000円
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料、関係人の答述及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和59年8月3日にB男との間で、本件建物の内装一式及び電話加入権を4,500,000円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同日付で覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わしていること。
B 請求人が弁護士の立会料100,000円を支払った証拠として提出した領収書(以下「本件b領収書」という。)の内容は、別表1に掲げるとおりであること。
C C弁護士は、昭和59年8月3日に前記イの(イ)のAの売買契約書及び本件覚書の作成に関与していること。
D A女は、請求人から、前記イの(イ)のAの売買契約書及び本件覚書の作成に関与したことに対するC弁護士への謝礼金を預かり、同弁護士に支払ったこと。
E 請求人が収入印紙代20,000円を支払った証拠として提出した領収書(以下「本件c領収書」という。)の内容は、別表1に掲げるとおりであること。
F 前記イの(イ)のAの売買契約書には、20,000円の収入印紙がちょう付され、その上に、B男及び請求人の消印が押なつされていること。
G 請求人が原処分庁へ提出した、昭和59年分の事業所得に関する青色申告決算書の必要経費の租税公課欄には、3,200円の記載があること。
(ロ)以上の事実に基づき検討すると、次のとおりである。
A 前記(イ)のBないしDの事実並びに本件b領収書のただし書に「取引の立会人のお礼として」と記載されていることを併せ考えると、本件b領収書の金額100,000円は、請求人が、B男から本件土地建物並びに本件建物の内装一式及び電話加入権を取得する際に、前記イの(イ)のAの売買契約書及び本件覚書の作成に関与したC弁護士に対し、支払った謝礼金であると認められる。
B 昭和59年8月3日付で作成された売買契約書には、前記(イ)のFのとおり、20,000円の収入印紙がちょう付され、また、前記(イ)のGのとおり、請求人は、収入印紙代20,000円を事業所得の必要経費に算入していないことからみても、本件c領収書の22,000円のうち20,000円は、上記売買契約書にちょう付した収入印紙代と認められる。
 そうすると、弁護士の立会料100,000円は、本件土地建物及び本件建物の内装一式(減価償却資産)の取得費、また、収入印紙代20,000円は、本件土地建物の取得費に該当する。
ハ 店舗改装工事手直し費170,000円
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人が店舗改装工事手直し費170,000円を支払った証拠として提出した領収書(以下「本件d領収書」という。)の内容は、別表1に掲げるとおりであること。
B D社が作成した「昭和59年12月5日施工予定工事見積書」と題する書面は、上記Aの店舗改装工事手直しの内容を示すものであること。
C 請求人が原処分庁に提出した昭和59年分の事業所得に関する青色申告決算書の減価償却費の計算欄には、昭和59年11月に取得した店舗改装工事費6,065,000円が計上されていること。
(ロ)上記(イ)の認定事実と前記イの(イ)のEの認定事実を総合すれば、請求人は、本件建物の取得後、これを喫茶店として使用するため、昭和59年11月30日までにD社に6,065,000円を支払って店舗改装工事を行ったが、その後、店舗改装工事の手直しを行い、その工事代金として昭和59年12月31日に170,000円をD社に支払ったことが認められる。
 したがって、同金額は、本件建物の店舗改装工事費(減価償却資産)として本件建物の取得費に該当する。
 そうすると、上記イないしハで認定したとおり、総収入金額から控除すべき取得費の計算の基になる資産の取得に要した金額は、店舗改装工事承諾料等1,000,000円、弁護士の立会料100,000円、収入印紙代20,000円、店舗改装工事手直し費170,000円となる。

(4)本件譲渡所得について

 以上により本件譲渡所得の金額を計算すると、別表2のとおり10,977,764円となる。
 なお、本件建物の取得費の加算に伴い、その加算した金額に対応する事業用部分に係る減価償却費を控除すると、別表3のとおり、事業所得の金額の計算上生じた損失の金額は1,809,124円となる。
 したがって、本件更正の請求は、その一部を認めるべきである。
(5)原処分のその余の部分については、当審判所に提出された資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。
 そうすると、現処分は、その一部を取り消すべきである。

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