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(平4.6.8、裁決事例集No.43 191頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、牧畜業を営む同族会社であるが、昭和63年11月1日から平成元年10月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に所得金額を84,939,831円、課税留保金額を12,524,000円及び納付すべき税額を34,426,800円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 更に、請求人は、本件事業年度について、平成2年3月26日に所得金額を105,606,497円、課税留保金額を15,480,000円及び納付すべき税額を43,402,600円と記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
 原処分庁は、これに対し平成2年4月25日付で、所得金額を125,713,122円、課税留保金額を18,356,000円及び納付すべき税額を52,135,100円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を873,000円とする賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成2年6月6日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正について
(イ) 本件馬匹の引渡しの時期
 請求人は、平成元年12月15日に、本件更正の対象となった馬匹2頭(以下「本件馬匹」という。)をAホースクラブに引き渡し、同日付で売上げに計上した。
 これに対し、原処分庁は、本件馬匹の引渡しが平成元年10月末日までに行われたと認定して本件更正をしたが、次に述べるとおり、原処分庁のこの認定は誤りである。
A 本件馬匹の売買契約(以下「本件売買契約」という。)は、単なるたな卸資産の売買契約ではなく、幼馬を1年数か月間にわたり育成し、また、訓練等を行い、適格な競走馬として完成して引き渡すことを約した請負契約であるから、収益計上の時期の判定は法人税基本通達2ー1ー5《請負による収益の帰属の時期》の取扱いに基づいて行うべきであり、その役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入した請求人の計算は正当である。
B 競走馬の売買契約は、競走馬として使用できる状態に完成して引き渡せば契約が履行されたものとし、完成して引渡しができなければ代わりの馬を渡すか前受金を返金しなければならないとするのが業界一般の慣習であり、請求人も継続してこの慣習に従っているところ、競走馬の売買契約書に記載される引渡期日は、いわゆる目標期日にすぎない。
C 請求人は、馬匹の売買に係る収益計上基準に関して、昭和57年5月7日付で原処分に対し、売買契約書に基づく最終代金を受領した時に馬匹の引渡しを完了したものとし、この時をもって収益計上時期とする旨を記載した念書を提出しており、以後継続してこれに基づく会計処理を行っている。
D 請求人は、昭和63年7月19日に10枚の約束手形(最終期日は昭和64年12月15日)を受け取っているが、これは幼い本件馬匹を育成訓練して競走馬として完成し引き渡すことの請負代金の前受金である。
 また、請求人の経営方針としては、馬匹の代金は現金で受け取ることを原則としているが、本件の場合は例外的に約束手形で受け取ったものである。
E 預託料は、競走馬として完成し、引き渡した後に受領することができるものであるところ、本件馬匹の預託料の請求開始日が平成元年12月15日であることからも、目的物である本件馬匹を引き渡したのは平成元年12月15日であることは明らかである。
(ロ) 所得金額等
 上記(イ)のとおり、本件馬匹の引渡しが本件事業年度に行われた事実はないから、請求人の所得金額、課税留保金額及び納付すべき税額は、本件修正申告書に記載したとおりであり、本件更正は違法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正について
(イ) 本件馬匹の引渡しの時期
A 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
(A) 売主を請求人、買主をAホースクラブとして昭和63年7月15日に締結された本件売買契約に係る馬匹売買契約書2枚(以下「本件売買契約書」という。)の記載内容は、おおむね次のとおりであること。
a 売買価格は、それぞれ12,500,000円及び12,000,000円であり、売買代金の支払期日は、いずれも昭和63年7月17日とされていること。
b 引渡しの時期は、平成元年10月末日とされ、引渡しの場所は、「B牧場」とされていること。
c 馬匹の育成期間及び飼育料は両者協議の上これを定め、飼育料の支払の必要がある場合は、買主が請求人に支払うものとされていること。
d 売主は、B牧場において本件馬匹を責任者の検査を受けた後に引き渡すものとされていること。
(B) 請求人は、Aホースクラブから本件売買代金の合計額24,500,000円を昭和63年7月19日に約束手形により全額受領していること。
(C) 本件馬匹は、平成元年10月14日に請求人が所有する○○市△△町321所在の牧場(以下「C支場」という。)から請求人の本店所在地にある牧場(以下「本場」という。)に輸送され、当該輸送に係る費用を請求人は平成元年12月20日にAホースクラブに対し請求していること。
 なお、請求人の本件馬匹以外の売買契約書によれば、引渡し以後の輸送費は買主の負担である旨定められていること。
(D) 請求人は、C支場において馬匹の生産及び育成を主な業務とし、本場においては競走馬としての調教及びトレーニングを主な業務としていること。
(E) 請求人が売買した馬匹のうちC支場から請求人以外の牧場に輸送されたものにあっては、調教及びトレーニングのため他の牧場に輸送された時に引渡しが行われていること。
(F) 請求人は、買主から預託された馬匹の預託料金の計算及び請求に当たり、引渡日から相当期間経過した日を計算の始期として預託料の請求をするのを通例としていること。
(G) 買主であるAホースクラブでは本件馬匹に係る取得価格を仕入れに計上し、平成元年9月末におけるたな卸資産に計上していること。
B 以上の事実に照らし、本件馬匹の引渡しの時期についてみると、1本件売買契約書において引渡日は平成元年10月末日と定められ、その後、引渡日を変更した事実は認められないこと、2本件売買代金の全額を昭和63年7月19日に約束手形で受領していること、3請求人は、調教及びトレーニングのためC支場から他の牧場に輸送する時を引渡しとしているのが通例であり、本件馬匹についてのみ輸送から2か月を経過した日(平成元年12月15日)を引渡日とすべき特段の事情は認められないこと、4請求人は、平成元年10月14日に行った本件馬匹に係る輸送費を買主に請求していること及び5買主は、本件馬匹をその平成元年9月末のたな卸資産に計上しており、自己の所有と認識していたことがうかがえることなどを考え併せると、本件馬匹は少なくとも本件事業年度末までに、請求人からAホースクラブに引き渡されていたものといわざるを得ない。
 したがって、本件馬匹に係る収益及び原価等の額については本件事業年度の所得金額の計算上、益金及び損金の額に算入されることとなる。
(ロ) 所得金額等
 以上の結果、請求人の本件事業年度の所得金額は、次表のとおり125,713,122円となり、これに伴い課税留保金額は18,356,000円と、また、納付すべき税額は52,135,100円となるところ、これらの金額はいずれも本件更正に係る金額と同額であるから、本件更正は適法である。

(単位:円)
項目 金額
本件修正申告に係る所得金額 1 105,606,497
本件馬匹に係る収益の額 2 24,500,000
本件馬匹に係る原価の額 3 3,393,375
本件馬匹に係る支払手数料の額 4 1,000,000
所得金額(1234) 125,713,122

 

ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は適法であり、また、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

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3 判断

(1) 本件更正について

 本件馬匹の引渡しの時期につき争いがあるので、以下審理する。
イ 本件馬匹の引渡しの時期
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 請求人は、平成元年12月15日に本件馬匹に係る売上げを計上し、平成2年10月31日の決算期に法定申告期限内に申告していること。
B 本件売買契約は、売主請求人と買主Aホースクラブとの間で昭和63年7月15日付で締結されたものであり、本件売買契約書には、主要な事項について次表のとおり記載されていること。

 

条項 項目 1 2
第1条 売買物件 品種・性・毛色 サラ・雄・鹿 サラ・雄・鹿
生年月日 昭和○○年○月○日 昭和××年×月×日
血統 ○○ ××
△△ □□
第2条 売買代金 12,500,000円 12,000,000円
第3条 代金支払日 昭和63年7月17日 昭和63年7月17日
第4条 引渡し 時期 昭和64年10月末日 昭和64年10月末日
場所 B牧場 B牧場

 

C 本件馬匹の売買代金の支払は、株式会社A(以下「A社」という。)が昭和63年7月15日付で振り出した約束手形10枚により行われ、これらの約束手形は、次表のとおり各支払期日において決済されていること。
 なお、請求人は、これらの約束手形の交付を受けたことについての経理処理を行わず、手形の各支払期日において、各額面金額を順次前受金勘定に計上し、最終支払期日である平成元年12月15日に、これらを売上げに振替計上していること。

 

振出日 支払期日 約束手形番号 金額 支払場所 受取人
昭和63年7月15日 昭和64年3月15日 AA11111
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年4月15日 AA22222
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年5月15日 AA33333
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年6月15日 AA44444
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年7月15日 AA55555
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年8月15日 AA66666
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年9月15日 AA77777
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年10月15日 AA88888
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年11月15日 AA99999
2,450,000
D銀行P支店 請求人
昭和63年7月15日 昭和64年12月15日 AA00000
2,450,000
D銀行P支店 請求人

 

D 本件馬匹は、平成元年10月14日にC支場から本場に輸送され、請求人は、その輸送代金2頭分計160,000円を平成元年11月20日にAホースクラブあて請求していること。
E 請求人は、平成元年12月20日に、平成元年12月15日から12月20日までの本件馬匹に係る預託料66,700円をAホースクラブあて請求していること。
F 請求人は、馬匹の売買に係る収益計上基準に関して、昭和57年5月7日付で原処分庁に対し、売買契約書に基づく最終代金を受領した時に馬匹の引渡しを完了したものとし、この時をもって収益計上時期とする旨記載した念書を提出していること。
(ロ) 当審判所が、請求人における馬匹輸送状況及び馬匹の預託料請求状況と売上げとの関係を調査したところ次のとおりである。
A 請求人の本件馬匹以外の売買契約においては、馬匹代金の決済完了を条件に馬匹を引き渡すこととされていること。
B 平成元年10月14日には、本件馬匹以外に5頭の馬匹がC支場から本場に輸送されており、これらの5頭のうち2頭が売買されているが、請求人は、この2頭の売上げを最終代金を受領した平成元年11月30日及び12月22日にそれぞれ計上していること。
C 本件売買契約書には預託料の請求開始日に関する記載はないが、請求人の他の馬匹売上げに係る売買契約書には、無償飼育期限の記載があり、当該期限の後の飼育費は買主の負担とする旨の条項があるところ、当該無償飼育期限は引渡期限と同一日とされていること。
D 請求人は、継続した取引関係のある一部の馬匹売上先について、最終代金を受領した月の受領日からその月末までの預託料を請求していないことが認められるが、その余の売上先については、おおむね最終代金の受領日以後の預託料を毎月20日締めで請求していること。
(ハ) 当審判所が、本件売買契約に関連してA社等について調査したところ次のとおりである。
A AホースクラブはA社が主宰し、出資持分に応じた競走馬の分割所有を目的とする会員組織の名称であり、その規約の第8条には「クラブは所有馬を匿名組合契約によりA社に出資し、競走馬の所有権はA社に移行する」との記載があることから、本件売買契約による本件馬匹の実質的な取得者はA社と認められること。
B A社の総務経理部長は、当審判所に対し次のとおり答述していること。
(A) A社が本件馬匹を仕入れに計上したのは、本件売買契約を締結した昭和63年7月15日である。
(B) 競走馬の売買契約の引渡し期日は、業界の慣習として10月末とするのが一般であるが、これは、いわゆる日標期日であって、実際の引渡しは馬の成育状況及び馬房の都合等により10月から12月までの適宜の日になることが多い。
(C) 本件馬匹の預託料は、平成元年12月15日から請求されているが、一般的には預託料の請求開始日から、A社の所有になったと認識している。
(D) 本件売買契約の締結は、契約当時、A社の取締役副社長であったE男(以下「E男」という。)が担当したが、同人はその後退社したので、本件売買契約の締結の経緯に係る詳細についてはわからない。
C E男は、当審判所に対し次のとおり答述していること。
(A) 競走馬の売買においては、その代金の完済まで引渡しをしないのが業界の慣習であり、本件馬匹の代金は約束手形で支払い、その最終の手形期日は平成元年12月15日であるから、本件馬匹の引渡しもその日に受けたものとすべきである。
(B) したがって、代金完済までの売主が所有権を保留している期間においては、本来、仮勘定と経理すべきであると思うが、A社において本件馬匹を平成元年9月の決算でたな卸資産に計上したのは、自分がAホースクラブの会計処理担当者として銀行等の対外関係から決算上多額の仮勘定を計上することは好ましくないと考えたためである。
(ニ) 当審判所が、社団法人○○協会において馬匹売買の現状について調査したところ、請求人が所属するC町○○農業協同組合は、馬匹の売買に係る所有権の移転を契約締結時等早期に行うと、買主が馬匹のわずかなかしを理由に残代金の支払を拒絶する例があることから、その譲渡代金の全額入金時以後に馬匹の引渡しを行うように組合員に指導していることが認められる。
(ホ) 以上の事実に照らし、本件馬匹の引渡しの時期について審理すると次のとおりであり、請求人の本件馬匹の売買に係る会計処理を不相当とする理由は認められない。
A 法人税法第22条《各事業年度の所得の計算》第4項は当該事業年度の収益の額等は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
 ところで、競走馬の売買に係る収益の計上時期については、その引渡しがあった時とするのが相当であり、このことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがないが、現実の引渡しによりそれ自体の物理的な移動を伴う一般的なたな卸資産の売買とは異なり、本件のように馬匹の売買後も引き続き売主の管理の下に飼育・調教等が行われるような場合にあっては、引渡しは占有の改定の方法により行われるものと解されるところ、このような場合の課税計算上の収益計上基準については、馬匹の引渡しに係る業界の取引慣行や馬匹の成育状況等に照らして妥当性があり、かつ、継続してこれに基づく会計処理が行われるものである限り、その収益計上基準は公正妥当なものと認めるのが相当である。
B 請求人は、前記(イ)のF並びに(ロ)のA及びBのとおり馬匹の売買に係る会計処理について、昭和57年以後継続して馬匹代金の全額を受領した時に当該馬匹の引渡しを完了したものとし、この時をもって売上げに計上していることが認められるところ、前記(ハ)のB及びCの関係者の答述内容並びに前記(ニ)の調査結果等によれば、競走馬売買の業界にあっては、売主は買主の引渡し後の代金支払拒否を担保するために馬匹代金の全額の受領以後に当該馬匹の引渡しを行うことが慣例となっているものと認められるから、請求人の上記の会計処理基準は業界の取引慣行に照らして妥当なものということができ、かつ、請求人は継続して当該会計処理基準に基づいて会計処理を行っているから、他に引渡しの時期を決定すべき特段の事情がない限り、上記の会計処理基準によることは相当と認められる。
C しかして、本件馬匹の売買代金は前記(イ)のCのとおり約束手形10枚により決済されており、請求人は、これらの手形の各支払期日において各額面金額を前受金と経理し、最終支払期日においてこれらを売上げに振替計上していることが認められるところ、馬匹代金の全額の受領以後に当該馬匹の引渡しを行うとの上記Bの業界の取引慣行における「全額の受領」とは、買主の代金支払拒否を担保するためというその趣旨からして現実の入金をいうものと解されるから、請求人が、上記約束手形の受領ではなく、最終支払期日の入金をもって決済完了と認識したことを不合理ということはできない。
D また、前記(イ)のEのとおり、請求人は本件馬匹の預託料を平成元年12月15日以降に請求していることが認められるところ、1前記(ロ)のCのとおり、本件馬匹以外の売買契約書の記載によれば、無償飼育期限は引渡期限と同一日とされていること及び2一般に預託料は馬主から預託された競走馬の飼育費用等を内容とするものと解されることを併せ考えると、上記Aで述べたように馬匹の引渡しが占有改定の方法により行われるような場合においては、何らかの事情により預託料を無償とする期間が存在しない限り、売主から買主への馬匹の占有改定がなされた日以降について当該馬匹の預託料の請求が開始されるものと推認される。
 しかるに、当審判所の調査によっても、本件馬匹について一部の期間の預託料が無償とされたとする事実は認められず、このことからも、請求人が本件馬匹の占有改定を平成元年12月15日に行ったものと認めるのが相当である。
E そうすると、請求人がその会計処理基準に基づいて本件馬匹の代金の決済が完了した平成元年12月15日に本件馬匹の引渡しを占有改定により行い、本件事業年度においては引渡しが未了であるとして売上げに計上しなかったことについて、これを不相当とする理由は認められない。
(ヘ) 原処分庁は、本件馬匹が本件事業年度末までに引き渡されている旨主張するが、その主張の根拠は、次に述べるとおりいずれも採用できず、他に、本件馬匹の引渡しが本件事業年度末までに行われたものと認めるに足る特段の事情は認められないから、原処分庁の主張には理由がない。
A 原処分庁は、本件売買契約において本件馬匹の引渡日が平成元年10月末日と定められ、その後、引渡日を変更した事実がないから、本件馬匹の引渡しは本件事業年度末までに行われたものというべきである旨主張する。
 しかしながら、売買契約書に記載された引渡日は、当該契約の当事者間で引渡しの日を約したものであり、いわば引渡しの予定日にすぎず、これを変更した事実がないからとして、実際の引渡しが当該予定日に行われたものということにはならないことは明らかであるから、原処分庁のこの点に関する主張は採用できない。
B 原処分庁は、本件馬匹の売買代金の決済が約束手形の受領により本件事業年度末までに完了していることからも、本件馬匹の引渡しが本件事業年度末までに行われたものというべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(イ)のCのとおり、当該約束手形は、本件売買契約が締結された昭和63年7月15日付で振り出されたものであるところ、当該振出しの事実をもって引渡しの有無を判断できるものではないことはいうまでもなく、他方、請求人が上記約束手形の受領ではなく最終支払期日の入金をもって決済完了と認識したことを不合理といえないことについては、前記(ホ)のCで述べたとおりであるから、原処分庁のこの点に関する主張は採用できない。
C 原処分庁は、請求人は調教及びトレーニングのため馬匹をC支場から他の牧場に輸送する時を引渡しの時期としており、本件馬匹はC支場から本場に平成元年10月14日に輸送されていること及び請求人の本件契約以外の馬匹売買に係る契約書によれば引渡し以後の輸送費は買主の負担とすることとしていることから、本件馬匹は本件事業年度内に引き渡されたものというべきである旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、前記(ロ)のBのとおり、請求人が馬匹をC支場から本場に輸送した時に当該馬匹の引渡しとしていることを通例としているとは認められず、馬匹輸送費は引渡しの時期に関係なく買主が負担していることが認められるから、原処分庁のこの点に関する主張は採用できない。
D 原処分庁は、買主から預託された馬匹の預託料の計算及び請求に当たり、引渡日以後相当期間経過した日から預託料の請求をするのを通例としているから、預託料の請求以前に当該馬匹は引渡しが完了したというべきである旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、前記(イ)のDのとおり、請求人は、継続した取引関係のある一部の馬匹売上先について、最終代金を受領した月の受領日からその月末までの預託料を請求していないことが認められるが、これを通例としているものとは認められず、他方、本件馬匹の預託料の一部が無償とされたとする事実が認められないことについては、前記(ホ)のDで述べたとおりであるから、原処分庁のこの点に関する主張は採用できない。
E 原処分庁は、本件馬匹の買主であるA社が、本件馬匹をその平成元年9月末のたな卸資産に計上しており、自己の所有と認識していたことがうかがえるから、本件馬匹の引渡しが本件事業年度末までに行われたものというべきである旨主張する。
 しかしながら、売主における引渡しの時期の判断のための一要素として買主側の引渡しに係る経理処理状況を考慮することは、買主側の経理処理が公正妥当なものと認められる場合においては合理性を有するものと考えられるが、本件の場合、前記(ハ)のB及びCのA社関係者の当審判所に対する答述によれば、A社においては、本件売買契約が締結された昭和63年7月15日付で本件馬匹を仕入れに計上しているところ、当該関係者は、この経理処理が妥当性を欠くものと自認しているばかりか、本来は請求人が経理処理したごとく約束手形の最終支払期日に引渡しを受けたものと経理すべきであった旨答述しており、当審判所の調査によっても、この請求人の経理処理を不相当とする理由が認められないことについては、前記(ホ)のC及びEで述べたとおりであるから、原処分庁のこの点に関する主張は採用できない。
ロ 所得金額等
 以上のとおり、本件馬匹の引渡しが本件事業年度末において完了していたものと認めることはできないから、請求人の本件事業年度の所得金額、課税留保金額及び納付すべき税額は、本件修正申告書に記載のとおりと認めるのが相当であり、本件更正に、その全部を取り消すべきである。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件更正はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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