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(平4.1.31、裁決事例集No.43 206頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、金融業を営む同族会社であるが、昭和62年9月1日から昭和63年8月31日までの事業年度(以下「昭和63年8月期」という。)及び昭和63年9月1日から平成元年8月31日までの事業年度(以下「平成元年8月期」といい、これらの事業年度を併せて「各事業年度」という。)の青色の法人税確定申告書に、次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
区分 昭和63年8月期 平成元年8月期
所得金額 911,057 △ 6,793,733
翌期へ繰り越す欠損金額 0 6,793,733
(控除所得税額等)
納付すべき税額
(273,300)
0
(60,000)
0

 

 更に、請求人は、平成2年1月23日に、各事業年度について次表のとおり記載して、修正申告書を提出した。

(単位:円)
区分 昭和63年8月期 平成元年8月期
所得金額 1,267,815 △ 6,570,116
翌期へ繰り越す欠損金額 0 6,570,116
(控除所得税額等)
納付すべき税額
(380,100)
0
(90,000)
0

 

 原処分庁は、これに対して、平成3年1月14日付で、各事業年度について次表のとおり更正をした。

(単位:円)
区分 昭和63年8月期 平成元年8月期
所得金額 8,914,190 △ 5,198,716
翌期へ繰り越す欠損金額 0 5,198,716
(控除所得税額等)
納付すべき税額
(2,783,880)
0
(90,000)
0

 

請求人は、これらの処分のを不服として平成3年13日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 次の理由により、原処分の全部の取消しを求める。
イ 請求人は、自己が保有するA銀行(以下「A銀行」という。)の株式(以下「本件株式」という。)を昭和63年4月1日に139,025株、平成元年3月31日に10,000株、いずれも取得価格と同額の1株当たり225円で請求人の代表者B男(以下「B男」という。)に譲渡(以下「本件譲渡」という。)し、それに基づき各事業年度について確定申告をした。
 これに対し、原処分庁は、本件譲渡に係る1株当たり価格(以下「本件株価」という。)を、昭和63年4月1日は280円であり、平成元年3月31日は430円であるから、いずれも低額による譲渡に当たるとして、各事業年度について申告額との差額に相当する金額を益金の額に算入して更正をした。
ロ 原処分庁は、A銀行従業員持株会(以下「持株会」という。)が行った売買実例価格を基に株価を算定しているが、その売買は、あくまで社内的な福利厚生制度の一環として行われたものであるから、上場していない株価を決定する法的根拠がない。
ハ また、原処分庁は、株価の算定に当たり持株会が行った売買実例価格を採用した理由として、その価格は、C証券株式会社(以下「C証券」という。)が、A銀行の類似会社の平均株価に基づき算出したものであるからとしているが、それは、A銀行が将来株式を上場するための準備資料として、C証券が過去にさかのぼり計算し作成した株価であるから、それを採用するのは妥当でない。
ニ 持株会は、昭和63年1月以後、本件株式の取扱株価を1株当たり220円から300円に変更しているが、その理由は長期間変更していなかったからという単純なもので、変更後も300円を割る売買実例もあり、証券取引上禁止されている自社株の売買ということから考えると、あくまで社内制度の範囲内での取引とみるべきであって、第三者間取引の株価とするのは誤りである。
ホ 以上のとおり、原処分庁の主張は違法、不当であり、本件株価は、いずれの譲渡も請求人の申告どおり225円が適正であるから、本件株価に譲渡した株式数を乗じて算出すると、本件譲渡に伴う各事業年度の譲渡収入金額は、次表のとおりであり、申告額と同額となる。

 

項目
事業年度
本件株価1 譲渡した株式数2 譲渡収入金額(1×2
昭和63年8月期 225円 139,025株 31,280,625円
平成元年8月期 225 10,000 2,250,000

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 請求人は、本件株式の時価を算定するのに際し原処分庁が採用した持株会の売買実例価格は、非上場株式の株価を決定する根拠とはならないと主張するが、次のとおり請求人の主張には理由がない。
(イ) 本件株式の売買実例価格は、持株会が第三者から実際に買い取った価格等を採用したものであり、持株会が独自に決めた設定価格そのものを採用したものではない。
(ロ) 本件株価は、次のとおり算定した。
A 昭和63年4月1日にされた本件譲渡については、持株会が第三者から実際に買い取った価格のうち、譲渡日前後の最低価格280円を採用した。
B 平成元年3月31日にされた本件譲渡については、1持株会が第三者から実際に買い取った価格以外に2A銀行における本件株式の単位未満株式の売買実例価格及び3A銀行と第三者との間の本件株式に係る売買実例価格を総合勘案して本件株式を430円と決定した。
(ハ) A銀行は、単位未満株式の売買価格を決定し、これを本件株式の第三者間相対取引の仲介をするときの株価算定にも採用している。
 なお、持株会が第三者から実際に買い取った価格は、上記単位未満株式の売買価格を基に決められており、両者の株価はほぼ同値である。
(ニ) したがって、原処分庁が、各事業年度における本件譲渡に係る収入金額の算定に当たり採用した株価は、売買実例として本件株式の客観的交換価値を適正に反映するものであり、本件株式の時価として妥当な価格である。
ロ つぎに、請求人は、原処分庁が持株会の売買実例価格を採用した理由として、その価格はC証券が類似会社の平均株価に基づき算出したものであるからとしているが、原処分庁は、C証券が算出した株価を本件株価として採用したものではないから、請求人の主張には理由がない。
ハ 更に、請求人は、持株会が本件株式の取扱株価を、昭和63年1月から1株当たり220円から330円に変更したが、変更後も300円を割る事例もあり、第三者間の株取引の価格とするのは誤りであると主張する。
 しかしながら、原処分庁は、持株会の設定価格そのものを採用したのではなく、前記イのとおり、持株会が第三者から実際に買い取った価格のうち最低価格を基に本件株価を決定したものであるから、請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
 したがって、本件株価は、昭和63年4月1日は280円となり、平成元年3月31日は430円となるから、その価格に譲渡した株式数を乗じて算出すると、本件譲渡に伴う各事業年度の譲渡収入金額は、次表のとおり原処分額と同額となる。

 

項目
事業年度
本件株価1 譲渡した株式数2 譲渡収入金額(1×2
昭和63年8月期 280円 139,025株 38,927,000円
平成元年8月期 430 10,000 4,300,000

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人がB男に譲渡した本件株式の譲渡時における時価の当否であり、また、これに関連して、原処分庁が本件株価の算定に当たり持株会の買取価格を採用したことの適法性、妥当性にあるので、その点について以下審理する。
(1) 次に掲げる事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
イ 同族会社である請求人は、その所有していた本件株式を、昭和63年4月1日に139,025株、また、平成元年3月31日に10,000株、いずれも1株当たり225円でB男に譲渡したこと。
ロ 本件株式は、証券取引所に上場されていない株式であり、また、日本証券業協会において店頭売買登録銘柄として登録されてなく、かつ、店頭売買登録扱銘柄としての指定もない株式(以下これらを総称して「取引相場のない株式」という。)であったこと。
(2) 請求人が答述及び原処分関係書類並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ A銀行は、A市に本店を置く普通銀行で、1本件譲渡時におけるその発行株式数は額面50円の3,600株であり、その株主数は2,000を超えていたこと、2本件株式は、本件譲渡前の昭和62年及び昭和63年の各1年間において、次表のとおりそれぞれ90万株を超える名義変更がなされていたこと及び3本件株式は、本件譲渡後の平成2年12月14日にP証券取引所に上場されたこと。

 

項目 株数
昭和62年中に名義変更のあった株数
(うち持株会の取引株数)
935,326株
(94,000)
昭和63年中に名義変更のあった株数
(うち持株会の取引株数)
954,915
(81,140)

 

ロ 持株会は、A銀行の従業員の財産形成の一助とすることを目的として、民法第667条《組合契約》の規定に基づいて昭和47年に設立された組合であり、本件株式を会員はもとより会員以外の第三者株主(以下「一般株主」という。)からも買い取ることにより、昭和57年当時からA銀行の筆頭株主となっており、しかもその取引株数は、前記イのとおり年間80,000株ないし90,000株を数え、本件株式の全取引数のうちのかなりの比重を占めていること。
 また、本件株式について、持株会と一般株主の間で取引された本件譲渡日以前6か月間の売買実例は、別表1のとおりであること。
 なお、請求人は、持株会の存在を知っていたこと。
ハ 株主から単位未満株式の買取請求があったものについては、昭和63年6月30日までは持株会が買い取っていたが、それ以後はA銀行が買い取っていること。
 なお、平成元年3月31日以前6か月間にA銀行が買い取った単位未満株式の売買実例は、別表2のとおりであること。
ニ D新聞に記載された、P市に所在のE証券株式会社(以下「E証券」という。)提供の「E証券調べ」によれば、A銀行ほか7社の店頭気配値(掲載日前日の価格)をほぼ1週間ごとに公表しており、その価格は、E証券が顧客から売り又は買いの注文を受けた場合にその仲介の参考とする価格であること。
 なお、本件譲渡日以前6か月間に掲載された本件株式の店頭気配値は、別表3のとおりであること。
(3) ところで、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》においては、法人が自己の所有している資産を時価より低い価格で譲渡した場合には、時価で譲渡されたものとし、時価と譲渡価額との差額は各事業年度の益金の額に算入することとされているところ、本件株式のような取引相場のない株式の時価の算定に当たっては、譲渡の日の直前になされた売買実例があれば、それが客観性のある取引である限り、その売買実例に基づき評価することが、その株式の評価方法として最も適正妥当であると解するのが相当である。
(4) そうすると、本件株式は、本件譲渡時には、公開市場において、いまだ取引相場のない株式であったとはいえ、前記(2)のとおり公開市場外では、ある程度の市場価格が形成されていたと認められ、更に、平成2年12月14日にP証券取引所に上場されたことを併せ考えると、上場し得るに足りる実体を持つ、いわば、上場株式に準ずる程度の株式であったと認められるから、前述の売買実例の価格、店頭気配値は、客観的な適正価格と大きく相違することはないと考えられる。
(5) そこで、前記の認定事実等に基づき判断する。
イ 昭和63年4月1日の本件株価について
(イ) 持株会は、前記(2)のロのとおり、A銀行の筆頭株主であり、しかも、その取引株数は、本件株式の全取引のうちのかなりの比重を占めていることから、持株会の取引価格は、本件株価の形成に大きく影響を及ぼしていると認められる。
 したがって、当該取引価格は、本件株式の時価算定のための資料として特に不合理な点はない。
 そこで、持株会が買い取った株式についてみると、一般株主からの買取りは経常的にかなりの取引実例があり、しかも、一般株主は、株式を自由に処分し得るのであるから、持株会が一般株主から買い取った本件株式の価格は、当事者間で対等な立場において自由な取引として成立したものであり、客観的交換価値を反映していると認められる。
 なお、本件譲渡日以前6か月間に持株会が一般株主から買い取った取引実例15件の売買価格は、別表1のとおり、昭和62年10月2日から昭和63年3月17日までは280円であり、同月18日以後は282円である。
(ロ) また、D新聞に掲載されている店頭気配値は、前記(2)のニのとおり、E証券が顧客から売り又は買いの注文を受けた場合にその仲介の基準とする価格であり、しかも、公表することにより一般投資家の売買価格決定の指標となっていることから、本件株式の客観的交換価値を反映しているものと認められる。
 なお、本件譲渡日以前6か月間のD新聞に掲載された本件株式の店頭気配値は、別表3のとおり、昭和62年10月4日から昭和63年3月6日までは290円であり、同月12日以後は350円である。
(ハ) 以上のことから判断すると、本件株式1株当たりの適正価格は、少なくとも280円を上回ると認められるから、原処分庁が主張する株価280円はその範囲内であり相当である。
ロ 平成元年3月31日の本件株価について
(イ) 持株会が一般株主から買い取った本件株式の価格は、前記イの(イ)のとおり客観的交換値を反映していると認められる。
 なお、本件譲渡日以前6か月間に持株会が一般株主から買い取った取引実例32件の売買価格は、別表1のとおり、昭和63年12月27日の435円以外はすべて430円である。
(ロ) A銀行が、一般株主から単位未満株式の買取請求があったものについて買い取った株式の価格は、当事者間において自由な取引として成立したものであり、本件株式の客観的交換価値を反映していると認められる。
 なお、本件譲渡の日以前6か月間にA銀行が単位未満株式を買い取った取引実例49件の売買価格は、別表2のとおりすべて430円である。
(ハ) D新聞に掲載されている店頭気配値は、前記イの(ロ)のとおり客観的交換価値を反映しているものと認められる。
 なお、本件譲渡の日以前6か月間の店頭気配値は、別表3のとおり、昭和63年10月2日は350円であり、同月8日以後はすべて430円である。
(ニ) 以上のことから判断すると、本件株式1株当たりの適正価格は430円であると認められるから、原処分庁の主張する株価430円は相当である。
ハ 更に、請求人は、本件株価の算定に当たり原処分庁が持株会の売買実例価格を採用したことは、違法、不当であると主張している。
 しかしながら、原処分庁が採用した価格は、持株会の売買実例のうち同会の会員との売買を除いた一般株主との売買実例価格を基に算定しており、その価格は、前記イの(イ)で判断したとおり、本件株式の客観的交換価値を反映していることから適法かつ妥当なものである。
 また、持株会は、A銀行の従業員の財産形成の一助とするため民法の規定に基づいて設立された組合で同銀行とは別の組織であり、従業員持株制度は一般に広く普及している制度でもあることから、持株会が本件株式を一般株主から買い取っても何ら違法ではなく、持株会が行った売買実例の価格を本件株式の時価算定の資料としても何ら差し支えない。
 したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。
ニ そうすると、本件株価は、前記イの(ハ)及びロの(ニ)のとおり、昭和63年4月1日は280円、平成元年3月31日は430円が相当であるから、その価格に譲渡した株式数を乗じて算出すると、本件譲渡に伴う各事業年度の譲渡収入金額は、次表のとおりとなる。

 

項目
事業年度
本件株価1 譲渡した株式数2 譲渡収入金額(1×2
昭和63年8月期 280円 139,025株 38,927,000円
平成元年8月期 430 10,000 4,300,000

 

 したがって、本件株式の譲渡収入金額が上記金額と同額でされた更正は、いずれも適法である。
(6) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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