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(平4.1.6、裁決事例集No.43 325頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し平成2年6月27日付で平成元年分贈与税の課税価格を31,467,101円、納付すべき税額を15,628,500円とする決定及び無申告加算税の額を2,343,000円とする賦課決定をした。
 請求人は、これに対し、平成2年8月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成2年11月19日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして平成2年12月17日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 決定について
 原処分庁は、別表の番号1ないし番号5の土地(以下「本件土地」という。)は、昭和18年1月1日に死亡した請求人の祖父A男(以下「A男」という。)の長男で家督相続人であるB男(以下「B男」という。)の相続人C男(以下「C男」という。)、○○及び△△(以下C男と併せて「C男ら」という。)から、平成元年12月25日に贈与により取得したものであるとしている。
 しかしながら、本件土地は、A男の死亡後の昭和18年1月10日にB男からA男の三男で請求人の亡父であるD男(以下「D男」という。)に贈与されており、請求人は、昭和60年4月6日に死亡したD男から相続により本件土地を取得したものである。
 請求人が本件土地を相続により取得するまでの事情及びその経緯は、次のとおりである。
(イ) B男は、明治44年ごろ14才の時にP市に転出し(明治45年5月10日にP市民となっている。)、大正13年の結婚以来独立して酒屋を営み、昭和55年2月8日に死亡するまで、いわゆる実家については全く関与せず、A男の死亡後の昭和18年1月10日ごろに、実家に戻ってA家の家督を相続することができないとして、D男にA家の跡を継がせ、A家のすべての財産を贈与していること。
(ロ) D男は、請求人の現在所において、出生以来A男及びその家族と同居し、A男の死亡後はA家の世帯主としてその祭祀を行い、A家のすべての財産についてB男から贈与を受け、家業である農業を営んでいたこと及び本件土地を含むA家のすべての財産について、支配・管理、収益及び処分してきたこと。
 なお、A家の所有する財産に係る固定資産税等の租税等も一貫して負担していたこと。
(ハ) 請求人は、昭和60年4月6日のD男の死亡後、居宅の建て替えに当たってその建物及び敷地の名義を調べたところ、本件土地の名義がA男名義のままであったので、B男の相続人C男らに、前記(イ)及び(ロ)などの事情を説明しその了承を得て、本件土地のB男からD男への贈与登記をし、更に、D男の相続人と遺産分割協議を経て、D男から請求人への相続登記をしたものであること。
 本件土地がB男からD男に贈与されていることについては、次のことからも明らかである。
A D男は、農業経営の安定を図る目的のため、別表の番号2及び番号3の分筆前の土地(分筆前はR市S町大字T字U838番1の畑276平方メートル及び同838番3の畑198平方メートルの土地であり、当該土地は昭和53年に別表の番号2、番号3及び番号7ないし番号11に分筆されたものである。)の所有権をB男から無償で譲り受けることについて同人の同意を得た上、昭和44年12月23日に、当該土地につき農地法第3条《農地又は採草牧地の権利移動の制限》の規定に基づく所有権移転に係る許可を受けていること。
B D男の姉E女、姉F女及び妹G女(以下順に「E女」、「F女」及び「G女」といい、これらを併せて「E女ら」という。)は、平成3年4月9日に実施された○○地方裁判所の民事事件に係る証拠保全手続(以下「証拠保全手続」という。)における証人として出廷し、同裁判所において、「昭和25年又は昭和26年に開催したA家の親族会議において、昭和18年1月ごろにA家の家督の一切をD男が引き継ぎ、A家のすべての財産はB男からD男に贈与されていることを確認している。」旨証言していること。
 なお、別表の番号6の土地は、昭和44年11月1日にA男からB男への家督相続登記を経てR市S町(以下「S町」という。)へ所有権移転登記がされているが、当該登記手続はS町が代位して行ったものである。
 また、Y市土地改良区域内に存する別表の番号7ないし番号11の土地(以下「Y市土地改良区域内の土地」という。)は、A男からB男への家督相続登記(当該登記手続はY市土地改良区が代位して行ったもの。)がされ、B男名義のままとなっているが、Y市土地改良区に係る組合費及び事業費等はD男が負担していること、また、前記Aのとおり、当該土地の分筆前の土地につきB男からD男が無償で譲り受けるべく農地法第3条の許可を得ており、当該土地はD男がB男から贈与された財産に含まれていたものである。
(ニ) 原処分庁は、証拠保全手続におけるE女らの証言では、B男はD男にA家の農業を引き続いてやってほしいと言った程度にすぎず、A家の財産の贈与を意味しないと主張するが、14才の時に実家を出て以後独立した生計を営んでいるB男が、A家の跡をD男に頼むと言っていること及びA家の事情から、農家の跡を任せることは農地の管理処分権を含めて全財産を譲ることを意味し、農作業のみを任せたと解するのは不当であること。
 以上のことから、本件土地は、A男の死亡後にD男がB男より贈与され、その後、D男の死亡により請求人が相続したものであって、請求人がC男らから贈与されたものではない。
ロ 賦課決定について
 前記イのとおり、決定は違法であるから、その全部の取消しに伴い、無申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 決定について
 本件土地は、請求人が、次のとおり平成元年12月25日にB男の相続人C男らから贈与により取得したものと認められる。
(イ) 本件土地に係る所有権移転登記は、登記簿謄本によると平成元年12月25日付で、1登記権利者を昭和60年4月6日に死亡したD男、当該申請者を請求人として、また、2登記義務者を昭和55年2月8日に死亡したB男、当該申請者を同人の相続人であるC男らとしてなされていること。
 なお、請求人は、当該所有権移転登記に関して、紛争を未然に避けるため、C男らに1,500,000円を支払っていること。
(ロ) 登記簿謄本によると、昭和44年2月26日にS町に譲渡された別表の番号6の土地は、昭和44年11月1日にA男からB男への家督相続登記を経てS町に所有権移転登記がなされていること。
(ハ) 請求人は、異議審理庁の調査において、Y市土地改良区域内の土地は、消極的にB男の相続人C男らの所有であることを認める旨申述していることから、B男が家督相続した全財産を昭和18年1月10日にD男に贈与したとする請求人の主張とは相反すること。
(ニ) 昭和25年又は昭和26年に開催されたとする親族会議及びその会議の場において、A家の跡取りはD男とし、A家の財産がD男に贈与されていることが確認された旨の請求人の主張は、次の理由から容認できない。
A 昭和25年又は昭和26年ごろに親族会議が開催された旨の証拠保全手続におけるE女らの証言は、同人らが請求人と親族関係にあり、本件決定により窮地に追い込まれている請求人を救うべく請求人に迎合してなされた疑いがあること。
B 異議申立書に添付されたE女らの申立書による親族会議の開催日(昭和18年1月10日)と、証拠保全手続の証言においてE女らが証言した親族会議の開催時期(昭和25年又は昭和26年ごろ)との相違について、E女らは、当該申立書は請求人に依頼されて作成したが、その親族会議の開催時期を勘違いして書いた旨申述していること。
C 証拠保全手続におけるE女らの証言では、B男はD男に「A家の農業を引き続いてやってほしい。」と言った程度であり、A家の財産の全部の贈与の意思表示があったとは、到底認められないこと。
D 昭和25年又は昭和26年に、D男の呼び掛けた親族会議が、同人宅ではなくF女の嫁ぎ先において開催されたとするのは不自然であり、証拠保全手続におけるF女の「実家から程近い私の家に兄弟姉妹が偶然集まった。」との証言のみではその説明にならないこと。
E B男は、昭和25年2月16日付のD男に対する書簡で明らかなとおり、昭和25年又は昭和26年当時においては、G女の夫の葬儀に出席できないほどに多忙を極めていたにもかかわらず、親族会議にはるばるP市からやってきたとするのは、当時の交通事情に照らしても不自然であること。
 以上のことから、本件土地は、A男の家督相続人B男の死亡によってその相続人C男らが相続し、その後本件土地の所有権が請求人へ移転登記された平成元年12月25日に、C男らから請求人に贈与されたものと認められる。
 そうすると、贈与税の課税価格を31,467,101円及び贈与税額を15,628,500円とした決定は適法である。
ロ 賦課決定について
 前記イのとおり、決定は適法であり、かつ、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとは認められず、また、決定により納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第66条《無申告加算税》第2項に規定する無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、無申告加算税の賦課決定も適法である。

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3 判断

 本件土地の取得原因及び取得時期に争いがあるので、当審判所において調査・審理したところ、次のとおりである。

(1) 決定について

 イ 請求人提示資料、原処分関係資料等及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件土地に係る登記簿謄本によれば、本件土地は、平成元年12月25日付で昭和18年1月10日贈与を原因としてB男からD男に、また、同日付で昭和60年4月6日相続を原因としてD男から請求人にそれぞれ所有権移転登記がなされていること。
(ロ) B男は、明治45年5月10日に生家であるA家からP市○○町9丁目175番地へ転居し、大正13年に結婚して以来同所において酒類小売業を営み、昭和30年4月13日には本籍を同所に転籍させるなど、A家とは独立して昭和55年2月8日に死亡する日まで同所に居住していたこと。
(ハ) D男は、請求人の現在所において、A男の生前においては同人及びその家族と共に生活し、A男の死亡後はその後継者としてA家の祭祀を行い、家業である農業を営み、昭和60年4月6日に死亡する日まで同所に居住していたこと。
(ニ) D男は、昭和25年に自作農創設特別措置法第16条の規定により、別表の番号13ないし番号23の農地の所有権を取得していること。
(ホ) D男は、A男の残した不動産について所有権移転登記をしていないが、A男の死亡後は、当該不動産に係る固定資産税等の租税等をすべて負担していたほか、A男の残した財産のすべてを次のとおり支配・管理し、使用収益及び処分していたこと。
A S町農業委員会が昭和25年ごろに発行した耕作面積確認書付表によれば、D男は、別表の番号2ないし番号27の土地を田畑として耕作していたこと。
B D男は、別表の番号2、番号3及び番号7ないし番号11の土地(Y市土地改良区域内の土地)の所有権をB男から無償で譲り受けるべく、昭和44年12月23日に農地法第3条の規定に基づき所有権移転の許可を得ていること。
C 不動産登記簿謄本によれば、D男は、A男から引き継いだ土地及び前記(ニ)のとおり取得した土地の大部分を、別表の「譲渡した土地の状況」欄のとおりそれぞれ譲渡していること。
D 請求人が別表の番号6の土地をS町へ譲渡した際の昭和43年12月26日付の売買契約書によれば、売主はD男であり、売買契約時に譲渡代金3,360,000円の内金1,000,000円が支払われ、残金2,360,000円は昭和44年5月28日にS町農業協同組合のD男名義の普通貯金口座へ入金されていること。
E Y市土地改良区域内の土地はB男名義となっているが、これはY市土地改良区がA男からB男へ家督相続による所有権移転の代位登記をしたものであり、D男が当該土地改良に係る同意等の手続を行い、その費用も負担していること。
 なお、上記土地については、昭和53年8月24日にR市S町大字T9ブロック2の畑245平方メートルが一時利用地として指定されている。
ロ 証拠保全手続に証人として出廷したE女らは、同裁判所において昭和25年又は昭和26年ごろに開催された親族会議において、B男はA男の死亡当時にはA家から独立して生計を営んでおり、本家に戻ってその家督を相続することができないので、D男にA家の跡を任せると言っていたこと及びE女らもそれでよいと思っていたことから、A家の家督の一切はD男が引き継いでいることを確認した旨証言していること。
ハ C男は、当審判所に対して、1本家はD男が継承しており、R市S町にB男名義の財産があるとは思ってもいなかったこと、2本件土地を請求人に贈与したという認識は全くないこと及び3請求人から私ら3人が受け取った1,500,000円は常識的な判付料との認識である旨答述していること。
ニ 請求人は、異議申立てに係る調査担当職員に対して、D男の死亡後、居宅の建て替えのためその建物及びその敷地の名義を調査したところ、本件土地の名義がA男のままで、D男の名義になっていなかった、そこで、本件土地はA男の死亡後にA家の後の面倒をみることを条件にB男からD男に贈与されている旨をE女らに聞いていたので、その旨をC男らに話しその了解を得て、前記イの(イ)のとおり所有権移転登記手続を行った旨申述していること。
ホ Y市土地改良区のT工区長(以下「T工区長」という。)は、当審判所に対して、次のとおり答述していること。
(イ) B男は戦争中にS町へ一時疎開していたので、その時に知っていたが、A家はD男が跡を継いで農業を行っていたことから、A家の屋敷は当然D男の所有であると思っていた。
(ロ) D男は、戦後は自作農創設特別措置法の規定により、所有権を取得した土地を含め5反歩ないし6反歩の農地を耕作していたが、昭和30年代から昭和46年ごろまでS町の町会議員をやっていた時にその農地を全部売ってしまったと思う。
(ハ) 土地改良区の負担金は、土地改良が耕作者の負担で行うものであることから、D男に負担金を払ってもらった。
 以上のことから、1A男の家督相続人B男は、前記イの(ロ)のとおり、A家を継承せず独立して生計を営みその生涯を終えていること、2D男は、前記イの(ハ)のとおり、A男の後継者としてA家の祭祀を執り行い、家業である農業を営みその生涯を終えていること、また、同人は、前記イの(ホ)のとおり、自ら自作農創設特別措置法により所有権を取得した農地及びA男の残した財産を支配・管理するとともに使用収益し、その大部分を処分しており、実質的にA家の後継者であったことが認められること、3別表の番号2、番号3及びY市土地改良区域内の土地は、前記イの(ホ)のBのとおり、昭和44年12月23日にB男からD男への所有権移転に係る農地法第3条に規定する許可を受けていること、4証拠保全手続におけるE女らの証言内容については、当時の農家の継承としてはごく自然なことであり、特にその証言の内容が事実に反しているとする資料もないこと、5C男は、前記ハのとおり、A家はD男が継いでおり、本件土地を請求人に贈与したとの認識はない旨答述していること及び6T工区長は、前記ホのとおり、A家の後継者はD男であるとの認識である旨答述していることから、A家はD男が引き継いだものと認められ、本件土地を含むA男の遺産は同人の家督相続人であるB男からD男に贈与されていたものと認めるのが相当である。
 そして、その贈与の時期は、遅くとも上記3のとおり、別表の番号2、番号3及びY市土地改良区域内の土地の所有権について、B男からD男へ無償で譲り受けるべく、農地法第3条の規定に基づき所有権移転の許可を得た昭和44年12月23日以前とするのが相当である。
 よって、原処分庁は、昭和44年2月26日にS町に譲渡された別表の番号6の土地が、昭和44年11月1日にA男からB男に家督相続登記を経てS町に所有権移転登記がなされていること及びY市土地改良区域内の土地がB男名義となっていることから、B男が家督相続した全財産を昭和18年1月10日にD男に贈与したとする請求人の主張が認められない旨主張するが、前記イの(ホ)のCないしEのことから当該原処分庁の主張は採用することができない。
 また、原処分庁は、証拠保全手続におけるE女らの証言は信用し難い旨主張するが、同人の証言はA家の事情から推察すると一般に常識的なことと認められるので、当該原処分庁の主張も採用することができない。
 そうすると、本件土地は、D男がB男から贈与により取得していたものを、請求人がD男の死亡に伴い相続により取得したものであるから、請求人がC男らから本件土地を贈与により取得したとしてなされた原処分は相当でない。
 したがって、決定はその全部を取り消すべきである。

(2) 賦課決定について

  前記(1)のとおり、決定の全部の取消しに伴い、無申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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