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(平4.5.6、裁決事例集No.43 383頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、建売・土地売買業を営む同族会社であるが、平成元年10月1日から平成2年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)分の消費税確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 これに対し、原処分庁は、平成3年6月25日付で同表の「更正・賦課決定」欄のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

(単位:円)
項目 確定申告 更正賦課決定
課税標準額 1 331,170,000 321,558,000
消費税額 2 9,935,100 9,646,740
控除対象仕入税額 3 14,055,541 7,717,392
控除不足還付税額(23 4 4,120,441
差引税額(23 5 1,929,300
納付すべき税額 6 6,049,700
過少申告加算税の額 7 881,000

 

 請求人は、これらの処分を不服として平成3年7月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月4日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分についてなお不服があるとして、平成3年11月1日に審査請求に及んだものである。

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2 主張

(1) 請求人の主張

イ 更正について
 本件更正は、次の理由によりその全部を取り消すべきである。
(イ) 更正通知書には更正の理由付記がないので、何のことか分からない。
(ロ) 異議決定の理由は、異議申立ての争点について何らの答弁もせず、単に処分の理由を述べているだけで、「異議申立人の主張には理由がない。」などというのは、異議棄却の理由となっていない。
(ハ) 消費税法は、十分な審議を経ないまま多数をたのみリクルート事件の影で強行採決された公約違反の租税法であり、日本国憲法第84条《課税》の租税法律主義・租税承諾権に違反の疑いのあるものである。また、簡易課税制度は、付加価値税制の本質をゆがめる益税制度である。
(ニ) 請求人は簡易課税を選択しているが、簡易課税を選択している場合であっても、本則課税により申告した場合には本則課税が原則であるからこれを認めるべきであり、原処分庁が簡易課税の適用を2年間継続しなければならないとして、簡易課税を適用して更正をしたことは不公正である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
(イ) 本件賦課決定は、本件更正の取消しに伴いその全部を取り消すべきである。
(ロ) 原処分庁は、本件賦課決定に当たり、過少申告加算税の計算の基礎となる税額の範囲を誤っている。
 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》に規定する過少申告加算税の計算の基礎となる「納付すべき税額」は、通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項及び同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項では、係るマイナスの本税額に、更正により新たに生じた納付すべき税額を加算することを規定していない。
 したがって、本件賦課決定をする場合における加算税の基礎となる税額は、新たに簡易課税の計算の方法により算定した本税額だけを「納付すべき税額」とすべきであるから、前記(イ)の主張が認められない場合には、それを超える部分の税額に相当する過少申告加算税の額は取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

イ 更正について
 本件更正は、次のとおり適法になされており、請求人の主張には理由がない。
(イ) 消費税の更正については、消費税法及び通則法において更正の理由を付記しなければならない旨を定めた規定はないので、更正通知書に更正の理由が付記されていなくても何ら違法ではない。
(ロ) 請求人は、平成元年9月28日付で消費税簡易課税制度選択届出書(以下「選択届出書」という。)を提出し、昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの課税期間以後の課税期間について、消費税法(平成3年法律第73号による改正前のもの)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》の規定により仕入れに係る消費税額の控除をする方法(以下「簡易課税制度」という。)による申告を選択している。
 ところで、消費税法第37条第1項及び第3項の規定では、事業を廃止した場合を除き、簡易課税制度の適用を開始した課税期間の初日から2年を経過しなければ、簡易課税制度の適用をやめることはできないとされている。
 しかるに、請求人が簡易課税制度の適用を開始した課税期間以後の各課税期間(昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの課税期間及び平成元年10月1日から平成2年9月30日までの課税期間をいう。以下同じ。)の各基準期間(昭和61年10月1日から昭和62年9月30日までの課税期間及び昭和62年10月1日から昭和63年9月30日までの課税期間をいう。)の課税売上高は、468,614,730円、192,962,710円といずれも5億円以下となっているから、各課税期間とも簡易課税制度による申告を行わねばならないところ、請求人は、本件課税期間について消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定により、仕入れに係る消費税額の控除をする方法(以下「本則課税」という。)による申告を行っている。
 本件更正は、請求人が簡易課税制度による申告を行わねばならないのに本則課税により申告しているため、消費税法第28条《課税標準》、第29条《税率》及び第37条の規定に従い納付すべき税額を適法に計算したものであり、何ら違法ではない。
 また、請求人は、消費税法が日本国憲法第84条違反の疑いがある旨主張するが、本件更正は、消費税法の規定に従って行ったものであり、請求人の主張には何ら理由がない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 調査に基づき適法に計算した納付すべき税額を基礎として行った本件賦課決定は、通則法第65条第1項及び第2項の規定に従っており、何ら違法ではない。

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3 判断

(1) 更正について

 請求人は、本件更正についてその全部の取消しを求めているので、当審判所において調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人は、更正通知書には更正の理由付記がなく何のことか分からないので、本件更正は取り消すべきである旨主張する。しかしながら、消費税の更正については、更正の理由を付記すべき旨を定めた法令の規定はないから、更正通知書に更正の理由付記がなくても違法ではないので、請求人の主張は採用することができない。
ロ 請求人は、異議決定の理由には、異議申立ての争点について何らの答弁もなく、異議棄却の理由となっていないので、本件更正は取り消すべきである旨主張する。しかしながら、審査請求においては、異議申立てに係る調査・審理の手続の違法を理由として本件更正の取消しを求めることはできないので、この点についての請求人の主張は採用することができない。
ハ 請求人は、消費税法は、日本国憲法第84条違反の疑いのある租税法であり、また、簡易課税制度は、付加価値税制の本質をゆがめる益税制度である旨主張する。しかしながら、これらのことについての判断は、いずれも当審判所の権限に属さないことであり、審理の限りではない。
ニ 請求人は、簡易課税を選択しているが、簡易課税を選択している場合であっても本則課税により申告した場合には、本則課税が原則であるからこれを認めるべきであり、原処分庁が簡易課税の適用を2年間継続しなければならないとして、簡易課税を適用して更正をしたことは不公正である旨主張する。
 ところで、消費税法第37条第1項の規定によれば、簡易課税制度の適用を受けようとする事業者が、その基準期間における課税売上高が5億円以下である課税期間について、選択届出書を所轄税務署長に提出した場合には、選択届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、簡易課税制度が適用されることとされている。
 また、同条第3項の規定によれば、いったん簡易課税制度の適用を受けることとなった場合には、2年間は継続しなければならないこととされている。
 そこで、本件について原処分関係資料を調査したところ、請求人は平成元年9月28日付で選択届出書を所轄税務署長へ提出し、昭和63年10月1日から平成元年9月30日までの課税期間以後の課税期間について簡易課税制度の適用を受けることとしているが、本件課税期間は簡易課税制度の適用を受けることとなって2年目であり、しかも本件課税期間に係る基準期間の課税売上高が5億円以下であることから、請求人の本件課税期間分の消費税については、簡易課税制度を適用して確定申告をすべきであるにもかかわらず、本則課税を適用して確定申告をしていたことが認められる。
 したがって、原処分庁が請求人の本件課税期間分の消費税について、簡易課税制度を適用して本件更正を行ったのは当然というべきであって、請求人の主張は採用することができない。
 以上のとおり、本件更正は適法になされたものであり、請求人の主張には理由がない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

イ 請求人は、本件賦課決定は、本件更正の取消しに伴いその全部を取り消すべきである旨主張する。しかしながら、前記(1)のとおり本件更正は適法になされたものであるから、請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、本件賦課決定に係る加算税の基礎となる税額の範囲を誤っているので、その一部を取り消すべきである旨主張する。しかしながら、通則法第65条第1項には、「その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。」と規定しており、同法第35条第2項第2号には「更正通知書に記載された第二十八条第二項第三号イからハまで(更正により納付すべき税額)に掲げる金額」と規定している。更に、同法第28条第2項第3号には、イに「その更正前の納付すべき税額がその更正により増加するときは、その増加する部分の税額」と、ロに「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」と規定している。
 これらのことからすれば、更正前には還付金の額に相当する税額があり、更正により新たに納付すべき税額があることとなった場合には、通則法第28条第2項第3号のイ及びロに規定されている「その増加する部分の税額」及び「その減少する部分の税額」のいずれもが過少申告加算税の基礎とされることとなる。
 したがって、本件賦課決定はこれらの規定に従い適法に計算されているので、請求人の主張には理由がない。

(3) 原処分のその余の部分については請求人を争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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