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(平4.5.29、裁決事例集No.43 399頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)の夫である○○(以下「滞納者」という。)に係る次表の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人に対し国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定に基づいて、平成3年5月10日付の納付通知書により、10,753,150円を限度とする第二次納税義務の告知(以下「本件告知」という。)をした。

 

(単位:円)
税目 年度 納期限 本税 加算税 延滞税
申告所得税 昭和61年 昭和62年3月16日 128,300 法律による相談
昭和63年 昭和63年6月2日 5,646,800 法律による相談
昭和63年 昭和63年8月6日 825,000
合計 5,775,100 825,000 法律による相談

 

請求人は、この処分を不服として、平成3年6月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成3年8月28日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして、平成3年9月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 原処分庁は、昭和62年10月20日に有限会社△△(以下「前所有者」という。)から請求人に所有権移転登記がされたP市R町710番175所在の宅地272.56平方メートル及び同所同番地所在の木造平家建居宅100.32平方メートル(以下「本件物件」という。)を滞納者が前所有者から購入し、請求人に無償譲渡したものであるとして、本件物件の購入代金11,200,000円から、その取得のために直接要した不動産取得税160,350円、登録免許税267,200円及び登記手数料19,300円を控除した10,753,150円を請求人の受けた利益の額と算定し、本件告知をした。
 しかしながら、次のとおり、原処分には事実誤認がある。
イ 滞納者及び同人が代表者となっている有限会社A(以下「A社」又は「会社」という。)は、S市T町370番の1の土地等(以下「T町物件」という。)及びS市U町1丁目722番20ほか一筆の土地等(以下「U町物件」という。)を、別表1のとおり譲渡(以下「T町物件等の譲渡」という。)した。
 なお、当該譲渡物件の所有者は、土地は滞納者、建物は会社であった。
ロ 上記イの譲渡代金は、次のとおりP銀行U支店(以下「P銀行」という。)、S信用金庫本店(以下「S信金」という。)等への借入金の返済等に充てているため、滞納者には、本件物件を購入する資金はない。
(イ) T町物件の譲渡代金とその使途について
A 昭和61年12月19日 手付金入金 3,500,000円
  昭和61年12月22日 会社の当座預金へ 1,500,000円
  昭和61年12月26日 会社の当座預金へ 1,400,000円
  昭和61年12月末 店員給料等の支払 400,000円
  昭和61年12月末 会社の仕入 200,000円
B 昭和62年2月28日 残金入金 29,500,000円
  昭和62年3月3日 B男へ返済 25,000,000円
  昭和62年3月7日 S郵便局へ返済 1,000,000円
  昭和62年3月18日 S信金へ返済 3,820,000円
(ロ) U町物件の譲渡代金とその使途について
  昭和62年2月28日 全額入金 30,000,000円
  昭和62年3月3日 P銀行へ返済 26,801,506円
  昭和62年3月4日 請求人へ返済 2,500,000円
  残りの698,494円は、会社の固定資産税等諸経費に充てた。
ハ 請求人は、本件物件を次の資金により購入した。
(イ) 簡易保険の解約金
(ロ) 簡易保険からの借入金
(ハ) 子供名義預金の解約金
(ニ) 長女の結納金等
ニ 本件物件の売買交渉等は、男でないと足元を見られるので一家の主である滞納者にしてもらったため、売買契約書等は滞納者の名前を使用したが、前記ハのことから、所有権移転登記は実質取得者である請求人の名義とした。
ホ 以上のとおり、本件物件はもともと請求人が取得したものであるから、滞納者から請求人に対する無償譲渡はあり得ない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件物件の購入代金は、前所有者に対して次のとおり支払われているが、この金員の大半がP銀行の請求人名義普通預金(以下「本件普通預金」という。)から引き出されたものであることは、預金の引出日及び代金の支払日から推定でき、この口座には、T町物件の譲渡代金のうち29,500,000円が昭和62年2月28日に預け入れされていること等からみて、同預金の実質的な所有者は滞納者であると認められる。
  昭和62年9月13日 300,000円
  昭和62年9月27日 2,100,000円
  昭和62年10月20日 8,800,000円
  合計        11,200,000円
ロ 請求人は、本件物件の購入代金の一部は家族の簡易保険の解約金等を充てたと主張するが、請求人と滞納者及びその家族は、簡易保険の契約当時から生計を一にしており、その契約者の名義をもって実質契約者とはいい難く、むしろ、当時世帯主であった滞納者を実質契約者とみるべきである。
ハ 請求人は、昭和63年3月14日、S税務署長に対して、昭和62年10月20日に滞納者から現金10,600,000円の贈与を受けたとして「昭和62年分贈与税の申告書」を提出しているが、このことは、請求人が滞納者から財産の贈与を受けたことを自ら認めていることにほかならない。
ニ 以上のことから、滞納者は、本件物件を取得した後、請求人に無償譲渡したと認められるので、請求人に対して国税徴収法第39条の規定に基づいて本件告知をしたものである。

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3 判断

 請求人が、滞納者から本件物件を無償譲渡されたかどうかについて争いがあるので、以下審理する。

(1) 次に掲げる事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。

イ 滞納者及びA社は、同社の業績悪化のため事業を廃止し、負債を整理するためT町物件及びU町物件を別表1のとおり譲渡したこと。
 なお、これら譲渡物件の所有者は、いずれも、土地においては滞納者であり、その土地の上に存する建物においては会社であったこと。
ロ 本件滞納国税の大部分は、滞納者の上記譲渡に伴い発生した所得税であること。
ハ 本件物件が請求人名義となるまでの経緯は、次のとおりであること。
(イ) 売買交渉、売買契約、購入代金の支払及び所有権移転登記の手続は、主として滞納者が行っている。
(ロ) 売買契約は、昭和62年9月27日に滞納者と前所有者の間で締結されている。
(ハ) 購入代金11,200,000円は次のとおり支払われており、領収証のあて先はいずれも滞納者となっている。
  昭和62年9月13日 現金 300,000円
  昭和62年9月27日 現金 2,100,000円
  昭和62年10月20日 現金 8,800,000円
(ニ) 購入資金の大部分は、別表2のとおり、本件普通預金から引き出して支払われている。
(ホ) 所有権移転登記は、売買を原因として、昭和62年10月20日に前所有者から直接請求人になされている。
ニ 請求人は、滞納者から昭和62年10月20日に現金10,600,000円の贈与を受けたとして、昭和62年分贈与税の申告書を昭和63年3月14日に提出していること。
 なお、相続税法(昭和63年法律第109号による改正前のもの。)第21条の6《贈与税の配偶者控除》の規定を適用したため納付税額はなかったこと。

(2) 請求人の答述及び原処分関係書類を基に当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。

イ T町物件等の譲渡に伴う代金の入金状況とその使途は、次のとおりであること。
(イ) 昭和61年12月19日のT町物件の手付金3,500,000円の入金について
A 1,500,000円は、同月22日にP銀行の会社名義当座預金に入金した後、次のとおり、会社の借入金の返済等に充てている。
(A) 同日P銀行へ900,000円
(B) 同日B男へ350,000円
(C) 会社の諸経費の支払へ250,000円
B 残額の2,000,000円の使途は不明である。
(ロ) 昭和62年2月28日のT町物件の残金29,500,000円の入金について
A 全額を同日、本件普通預金へ入金した後、次のとおり会社の借入金の返済に充てている。
(A) 同年3月3日B男へ25,000,000円
(B) 同年3月7日S郵便局へ1,000,000円
(C) 同年3月18日S信金へ3,820,000円
B 入金額を上回る出金額320,000円は、他の入金分を流用している。
(ハ) 昭和62年2月28日のU町物件の全額30,000,000円の入金について
 全額を同年3月3日P銀行の会社名義当座預金に入金した後、次のとおり、借入金の返済等に充てている。
A 同日P銀行の滞納者分借入金返済へ6,989,242円
B 同日P銀行の会社分借入金返済へ19,835,509円
C 同月4日請求人に対する未払金支払へ2,500,000円
D 会社の諸経費の支払へ675,249円
ロ 滞納者は、会社の借入金について、P銀行を根抵当権者とし、T町物件の土地には極度額18,000,000円、U町物件の土地には極度額5,000,000円の根抵当権をそれぞれ設定し、また、S信金分については、連帯保証人になっていたこと。
ハ 滞納者の資産として確認できたものは、次の預金のみであること。
(イ) P銀行の滞納者名義普通預金
 この預金は、滞納者が遠隔地に出張した際に仕入資金を引き出すために利用していたもので、本件物件購入直前(昭和62年9月11日)の残高50,813円である。
(ロ) ○○銀行××支店の滞納者名義普通預金
 この預金は、滞納者がB男に対する借入金を返済するため利用していたもので、昭和62年9月11日の残高は26,889円である。
ニ A社の昭和56年5月1日から昭和62年4月30日までの各4月末決算の事業年度(以下順に「57年4月期」、「58年4月期」、「59年4月期」、「60年4月期」、「61年4月期」及び「62年4月期」といい、それらを併せて「各事業年度」という。)の法人税確定申告書によると、請求人に対する役員報酬並びに請求人及び滞納者に対する各事業年度末の負債は別表4のとおりであること。
ホ 請求人が、本件物件の購入資金とするためにS郵便局で解約又は借入金の担保とした簡易保険は、次のとおりであること。
(イ) 昭和62年9月29日に解約したもの
  被保険者 受領金額
  義姉 900,151円
  長女 2,097,383円
  夫 248,749円
  合計 3,246,283円
(ロ) 昭和62年10月16日に請求人名義借入金の担保としたもの
  被保険者 借入金額
  義姉 1,100,000円
  長女 900,000円
  本人(請求人) 1,100,000円
  合計 3,100,000円
(ハ) 昭和62年10月19日に請求人名義借入金の担保としたもの
  被保険者 借入金額
  長男 300,000円
ヘ 請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(イ) 請求人が贈与税の申告をしたのは、当時、会社の経理の指導を受け、更に多額の経営資金の融資を受けていた株式会社××の代表者であるB男(以下「B男」という。)に、「結婚して20年以上だと、住宅取得資金として夫から現金贈与を受けても10,600,000円までは税金がかからないので申告しておけばいい。」と言われたのでそのようにしたが、実際は何も贈与を受けていない。
(ロ) 請求人は、A社の役員として長年従事してきたが、同社の業績がかなり以前から悪化し、役員報酬を定期的に支払える状態ではなかったので、年間2,000,000円程度の役員報酬のうち半分程度は生活費、小遣い、保険料の支払等に必要な都度受け取り、残りは受け取っていないため、同社に対する未収金は57年4月期末現在3,100,000円あるので、その後発生したものを通算すると昭和62年2月末には約8,000,000円になる。
 この未収金は、58年4月期以後の会社帳簿上では、代表者勘定等として処理していたので明細は不明であるが、その一部分について、次のとおり返済を受けた。
  昭和62年3月4日 2,500,000円
 (うち、2,389,600円を本件普通預金に入金)
  昭和62年4月17日 2,500,000円
 (同日、P銀行の請求人名義定期預金に入金)
  昭和62年6月15日 290,000円
 (同日、本件普通預金に入金)
  昭和62年7月13日 200,000円
 (同日、本件普通預金に入金)
  合計 5,490,000円
(ハ) 請求人は、滞納者にないしょで約20年前から家族の名義で保険に加入し、1か月当たり60,000円ないし70,000円の保険料を支払っていた。
 なお、保険料を実際に負担した者は、義姉名義分については同人自身であるが、その他の家族名義分はすべて請求人である。

(3) 以上に基づき、本件物件の取得者について以下判断する。

イ 本件普通預金の帰属について
 本件普通預金は、請求人、並びに滞納者及び会社の資金が混在しており、T町物件等の譲渡代金が入金された昭和62年2月28日から本件物件の購入代金最終決済日である昭和62年10月20日までの入出金の状況(以下「資金動向」という。)を、請求人に係るもの並びに滞納者及び会社に係るものに区分すると、別表2及び別表3のとおりとなる。
 そこで、本件普通預金の資金動向についてみると、当該預金の利用頻度は請求人の方が高いところから実質所有者が滞納者であるとは断定できず、むしろ、その名義人である請求人が所有者であり、請求人が同預金を滞納者及び会社に使用させていたとみるのが相当である。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ロ 本件物件の購入資金の出所について
 本件物件の購入代金11,200,000円は3回に分けて支払われており、その資金の大部分は本件普通預金から引き出して支払われている。
 そこで、本件物件の購入資金の出所について、別表2及び別表3の資金動向等を基に判断すると、次のとおりとなる。
(イ) 昭和62年9月13日支払の手付金300,000円は、別表2の同月11日の出金30万円で支払われており、当該出金額はその出金日までの入金超過額2,209,447円の一部を充てている。
(ロ) 昭和62年9月27日支払の中間金2,100,000円は、別表2の同月26日の出金2,100,000円で支払われており、当該出金額はその出金日までの入金超過額2,149,447円を充てている。
(ハ) 昭和62年10月20日支払の残金8,800,000円は、別表2の同日の出金8,500,000円と前記(2)のホの(ハ)のS郵便局からの借入金300,000円を合わせて支払っている。
 なお、当該出金額8,500,000円は、同月20日の出金日までの入金超過額9,558,761円の一部を充てている。
(ニ)したがって、本件物件の購入代金の支払には請求人の資金が充てられたものと認められ、少なくとも滞納者から資金等の贈与があったと認めるに足りる証拠はない。
ハ つぎに、滞納者が本件物件を購入する資金を有していたか否かについて判断する。
(イ) T町物件等の譲渡に伴い受領した代金は、前記(2)のイのとおり、そのほとんどが滞納者自身及び会社の借入金の返済等に充てられており、本件物件の購入に充てたとは到底認められない。
 なお、滞納者の譲渡代金の大部分が会社の債務返済に充てられているが、これは、滞納者が会社の債務についての物上保証人あるいは連帯保証人としての立場及び債権者に対する道義的責任に基づいてなされたものと認められる。
(ロ) しかも、滞納者は、前記(2)のハのとおり、さしたる財産があるとは認められない。
(ハ) したがって、滞納者が、本件物件を購入する資金を有していたとは認められず、滞納者の資産が本件物件の購入資金に充てられたとする証拠もない。
ニ 原処分庁は、購入資金の一部に充てられている簡易保険の解約金等について、その実質契約者は世帯主であると滞納者とみるべきであるから、その解約金は滞納者のものであると主張する。
 しかしながら、別表4のとおり、請求人には、役員報酬が昭和59年5月からは1か月150,000円、それ以前は180,000円以上あり、1か月当たり60,000円ないし70,000円の保険料の支払能力はあると認められ、前記(2)のヘの(ハ)の請求人の答述を否定できないこと及び滞納者が保険料を負担したとする証拠もないことから、請求人を実質契約者とみるのが相当である。
ホ 更に、原処分庁は、請求人が「贈与税の申告書」を提出したことは、請求人が滞納者から贈与を受けたことを自ら認めていることにほかならないと主張するが、1請求人は税に対する知識が乏しいため、会社の経理の指導を受けていたB男の助言により贈与を受けていないのに申告書を提出したと答述していること、210,600,000円の現金贈与があったとする証拠はなく、その事実も認められないことから、原処分庁の主張は採用できない。
ヘ 以上のとおり、本件物件は、もともと請求人が自己の資金で取得したとみるのが相当である。

(4) そうすると、本件物件を滞納者が取得した後、請求人に無償譲渡したとして、請求人に対し、国税徴収法第39条の規定による第二次納税義務を負わせた原処分は、事実認定を誤った違法があるというべきであるから、その全部の取消しを免れない。

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