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(平4.3.9、裁決事例集No.43 445頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、医療保健業(歯科医)を営む者であるが、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書に次表のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
総所得金額 21,020,964 23,792,369 21,108,536
内訳 事業所得の金額 21,020,964 23,792,369 15,453,536
給与所得の金額 5,655,000
納付すべき税額 3,205,900 3,667,000 2,603,700

 

 これに対し、原処分庁は、平成2年11月27日付で、次表に記載のとおり各年分の更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
年分
項目
昭和62年分 昭和63年分 平成元年分
更正 総所得金額 21,781,308 24,668,903 21,637,213
内訳 事業所得の金額 21,781,308 24,668,903 15,982,213
給与所得の金額 5,655,000
納付すべき税額 3,585,900 4,105,000 2,815,300
賦課決定 過少申告加算税の額 38,000 43,000 21,000

 

 請求人は、これらの処分を不服として、平成3年1月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
 請求人は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第26条《社会保険診療報酬の所得計算の特例》第1項の社会保険診療(以下「社会保険診療」という。)についての収入金額(以下「社会保険診療収入」という。)を、請求人が患者に対して実際に請求した金額(以下「窓口保険収入」という。)と、同条第2項に規定する健康保険法等の各法令(以下「健康保険法等」という。)が定める支払に関する事務の取扱機関(以下「支払基金等」という。)から受領した金額との合計額とし、これに係る必要経費の額は同条第1項の規定を適用して計算した。
 これに対し、原処分庁は、社会保険診療収入は健康保険法等が規定しているところの療養の給付に要した費用の額として、厚生大臣が定めた金額(以下「厚生省告示額」という。)によるべきであるとして、厚生省告示額によって計算した社会保険診療収入と請求人が記帳している社会保険診療収入との差額(以下「本件差額」という。)を収入金額に加算したところに基づき、措置法第26条第1項の規定を適用して事業所得の金額を計算し、更正をした。
 しかしながら、本件差額は、次のとおり所得税法第36条《収入金額》第1項に規定する収入すべき金額には該当しない。
(イ) 窓口保険収入は、健康保険法等に規定されている社会保険診療を受けた患者が支払うこととされている一部負担金(以下「一部負担金」という。)と一致するとは限らず、請求人が患者に請求し、患者が債務として認識した金額が窓口保険収入であること。
(ロ) 患者の中には補綴物を作成した後に来院せず、これを装着できない者もおり、社会保険診療収入のうち、支払基金等に対して請求はできるが、患者に対しては請求できないものもあること。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり、更正は違法であるから、これに伴う各年分の過少申告加算税の賦課決定も違法である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正について
 本件差額は、次の理由により、所得税法第36条第1項に規定する収入すべき金額に該当する。
(イ) 健康保険法等の規定によると、患者は、社会保険診療を行う医療機関(以下「保険医療機関」という。)に対して一部負担金を支払わなければならないと定められており、保険医療機関は、当然患者に対してこの一部負担金を請求できること、また、保険医療機関は、社会保険診療収入から一部負担金を控除した額(以下「基金等負担金」という。)を支払基金等に請求する場合には、患者から一部負担金を実際に受領しているか否かにかかわらず、基金等負担金を請求していること。
(ロ) 所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第2項の規定によれば、貸倒れによる資産損失及び販売した商品の値引きによる各金額は必要経費に算入することとされており、措置法第26条第1項の規定によって算出した金額は、所得税法の各規定による必要経費に代わるものであるから、本件差額は、措置法第26条第1項の計算の基本となる社会保険診療収入に含めなければならないこと。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり、更正は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、過少申告加算税の各賦課決定も適法である。

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3 判断

(1) 更正について

 請求人は、厚生省告示額に基づいて計算された社会保険診療収入のその金額の適否については争わず、本件差額が所得税法第36条第1項に規定する収入すべき金額に該当するか否かにつき争いがあるので、以下審理する。
イ 原処分関係資料、請求人が当審判所に提出した証拠書類及び当審判所の調査したところによれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件差額は、一部負担金と窓口保険収入との差額であること。
(ロ) 請求人は、基金等負担金を支払基金等に対して請求する際、厚生省告示額の歯科診療報酬点数表の各点数に基づいて、社会保険診療収入を計算していること。
(ハ) 上記(ロ)の歯科診療報酬点数表の各点数は、一診療行為に要する費用の総額を計算する点数であること。
(ニ) 請求人は、厚生省告示額に基づいて計算したところの基金等負担金を支払基金等から受領していること。
(ホ) 請求人は、同人が記帳している社会保険診療収入を、措置法第26条第1項に規定する社会保険診療につき支払を受けるべき金額として、必要経費に算入する金額を計算していること。
(ヘ) 原処分庁は、本件差額と請求人が記帳している社会保険診療収入との合計金額を、措置法第26条第1項に規定する社会保険診療につき支払を受けるべき金額として、必要経費に算入する金額を計算していること。
ロ 所得税法第36条第1項の規定によれば、総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額とされており、請求人のような歯科医における人的役務の提供に係る収入すべき金額とは、患者に対する一診療行為が完了したときのその役務提供の対価であり、患者が来院した都度、患者に対して行った診療行為の対価の額であると解される。
 また、健康保険法等の規定によれば、社会保険診療収入は、その一部負担金を患者に対して、基金等負担金を支払基金等に対して請求することとされているが、これらの金額を患者に対して請求すると支払基金等に対して請求するとを問わず、その対価たる額の総額が異なるものではない。
ハ ところで、所得税法第51条第2項の規定によって、貸倒れによる資産損失又は販売した商品の値引きによる各金額は必要経費に算入するとされていることからも明らかなように、これらの金額に相当する金額が収入金額に含まれているからこそ、他方必要経費に算入することとされているのである。
 なお、事業所得の金額の計算上必要経費に算入する金額の計算につき措置法第26条第1項の規定を適用しない場合には、値引き又は貸倒れに相当する金額を収入金額に含めないこととした場合においても、同時に必要経費に含めないこととすれば、結果的には収入金額及び必要経費の双方に含めた場合と同様の所得金額になるが、同項の規定を適用する場合には、同項の規定によって算出した金額が、所得税法の各規定による必要経費に代わるものであるから、値引き又は貸倒れに相当する金額を収入金額に含めないと、同項の規定によって算出した金額の他に更にこれらの金額を必要経費に算入することになり、明らかに措置法第26条の規定に反することになる。
ニ 以上を踏まえて判断すると、次のとおりである。
(イ) 請求人は、窓口保険収入と一部負担金が一致するとは限らないから、本件差額が収入すべき金額に該当しない旨主張するが、前記イの(イ)ないし(ニ)の各認定事実によれば、請求人は、支払基金等に対して基金等負担金を請求するに当たり、一診療行為の総点数である厚生省告示額による歯科診療報酬点数表に基づいて、患者が来院した都度の社会保険診療収入を計算しており、自ら行った社会保険診療行為の対価の総額が、厚生省告示額によって計算した金額で確定していることを認識しているものと認められること及び請求人はこの計算による基金等負担金を受領していることから、請求人が患者に対して請求すべき金額は一部負担金と同額となり、窓口保険収入との差額は実際的には値引きに相当する金額であり、収入すべき金額となる。
(ロ) また、請求人は、補綴物作成後来院せず、これを装着できなかった患者に対する社会保険診療収入を、支払基金等に対しては請求できるが、患者に対しては請求できないものもある旨主張するが、前記イの(ニ)で認定したとおり、請求人は、支払基金等から基金等負担金を受領していることが認められる本件にあっては、患者に対してその一部負担金を請求すべきものであり、請求人は、単にこれを請求していないものと認められ、また、請求不能であれば貸倒れにほかならないが、いずれにしてもこれらに相当する金額は収入すべき金額となる。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)で判断したとおり、本件差額は、所得税法第36条第1項に規定する収入すべき金額であるところ、たとえ本件差額が値引き又は貸倒れに相当する金額であるとしても、これらの金額を更に必要経費に算入することができないのは前記ハのとおりであるから、本件差額を収入金額に加算し、また、必要経費に算入する金額を前記イの(ヘ)のとおり計算してなされた更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 上記(1)のとおり、更正は適法であり、また、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の各賦課決定も適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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