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(平4.1.20、裁決事例集No.43 468頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社員で不動産貸付業を営む者であるが、平成元年分所得税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成3年2月4日付で次表の「更正等」欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分 確定申告 更正等
総所得金額 15,504,031 15,504,031
内訳 不動産所得の金額 5,142,580 5,142,580
給与所得の金額 10,361,451 10,361,451
長期譲渡所得の金額 0 0
分離課税の長期譲渡所得の金額 32,799,117 61,799,117
納付すべき税額 7,421,400 14,311,300
過少申告加算税の額 688,000

 

 請求人は、これらの処分を不服として平成3年3月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年6月25日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分についてなお不服があるとして、平成3年7月11日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
 請求人は、平成元年9月21日に自己が所有するP市○○町4546番地48所在の建物102.95平方メートル(以下「本件家屋」という。)及びその敷地である宅地684.42平方メートル(以下これらを「本件譲渡物件」という。)をA男に譲渡(以下「本件譲渡」という。)したが、これは次に述べるとおり租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項に規定する居住用財産の譲渡である。
(イ) 本件譲渡に至る事実関係は次のとおりである。
A 請求人は、家族7人で本件家屋に居住していたが、昭和45年8月に転勤となり、本件家屋に請求人の養母、同妻の母及び同長男(以下、順に「養母」、「義母」及び「長男」という。)の3人を残し、請求人の妻、同長女及び同次男(以下、順に「妻」、「長女」及び「次男」という。)と共に同月以後県外に居住した。
B 昭和63年7月19日、請求人は再度県内勤務となってR市△△町512番地1に所在する勤務先の社宅(以下「R市の社宅」という。)に居住することになり、当時県外の転勤先で病気入院中であった妻はP病院(所在地、P市)に転院し、養母、義母及び長男の3人は引き続き本件家屋に居住していた。
C 請求人は、勤務事情の解消後は本件家屋に戻り家族と同居する予定であったが、昭和63年11月8日養母が死亡したので、病弱な妻及び義母の面倒をみるのに都合の良い場所に居住するため本件譲渡を行ったものである。
(ロ) 措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱通達(国税庁長官が発した昭和46年8月26日付直資4ー5ほか2課共同通達を指し、昭和63年直資3ー5ほか1課共同通達による改正後のもの。以下「措置法通達」という。)35ー5で準用される同通達31の4ー2の(1)《居住用家屋の範囲》は、転勤等の事情のため配偶者等と離れ単身で他に起居している場合であっても、その事情が解消したときは配偶者等と起居を共にすると認められるときは、当該配偶者等が居住の用に供している家屋は、その者の居住用家屋に該当する旨を定め、その中では所有者自身が居住していることを要件としていない。
(ハ) 本件の場合、請求人自身は転勤という事情によりそこに居住できなかったが、本人の生活の拠点が常に配偶者等家族の居住する場所にあることを考えると、配偶者等家族を含めて居住の用に供していたか否かを判断すべきであり、そうすると、本件家屋は同一世帯に属する長男及び義母等家族が生活の本拠として居住していたから、措置法通達31の4ー2の(1)に定める居住用家屋に該当する。
 したがって、本件譲渡は措置法第35条第1項に規定する居住用財産の譲渡である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記のとおり更正は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定は取り消されるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
 本件譲渡は、次に述べるとおり措置法第35条第1項に規定する居住用財産の譲渡に該当しない。
(イ) 措置法第35条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋をいい、これに該当するか否かは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定することになる。
 また、生計を一にする親族が居住の用に供している家屋については、所有者が取得して以降、その所有者として居住の用に供していた家屋で、かつ、その所有者が当該家屋を居住の用に供さなくなった日以後引き続き生計を一にする親族の居住の用に供している家屋であること等により判定することになる。
 そこで、本件についてみると、請求人は、昭和63年11月8日に養母から相続により本件譲渡物件を取得し、平成元年9月21日に譲渡しているのであるから、本件家屋が措置法第35条第1項に規定する居住用の家屋に該当するか否かは、昭和63年11月8日から平成元年9月21日までの間における請求人及び生計を一にする親族の居住の状況により判定することとなる。
(ロ) 請求人及び請求人と生計を一にする親族の居住状況を調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、S市から転勤となった昭和63年7月19日以降R市の社宅に居住していること。
B 妻は、病気療養のために昭和63年7月20日からP病院に入院しており、退院後の平成元年6月28日からはP市××町2026番地に所在する請求人所有のマンション(以下「マンション」という。)に居住していること。
C 長男は、平成元年3月18日までは本件家屋に居住し、その後はT県に居住していること。
D 義母は、平成元年5月24日までは本件家屋に居住し、その後はマンションに居住していること。
(ハ) ところで、請求人は、措置法通達31の4ー2の(1)の定めは所有者自身が居住していることを要件としていないと解されるから、本件譲渡物件は居住用財産に該当すると主張するが、同通達は、措置法第35条の規定の趣旨から、個人が所有者として居住していたことがあり、その後の転勤、転地療養等の事情によりやむを得ず他に起居している場合を想定したものであり、本件のようにそもそも所有者が居住の用に供していないものについては、たとえ転勤等の事情が解消すれば配偶者等と起居を共にするとしても、その家屋は所有者にとって居住の用に供している家屋とはいえない。
 また、請求人は、請求人自身が本件家屋に居住していなくても家族の生活の拠点としていた旨主張するが、生計を一にする親族の居住の用に供している家屋の場合の取扱いについては、措置法通達35ー5で準用される同通達31の4ー6《生計を一にする親族の居住の用に供している家屋》は、個人が所有者として居住の用に供していた家屋であることを適用要件の一つとして定めている。
(ニ) 以上によれば、昭和63年11月8日に請求人の所有となってから平成元年9月21日に譲渡するまでの間において、本件家屋の長男及び義母が居住していた事実はあるものの、その間の請求人の生活の本拠はR市の社宅であり、請求人が本件家屋を取得後所有者として居住の用に供したとは認められないから、本件家屋は措置法第35条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」に該当せず、したがって、本件譲渡は同条に規定する居住用財産の譲渡ではない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 更正は適法であり、かつ、請求人に国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定は適法である。

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3 判断

(1) 更正について

 本件譲渡物件が措置法第35条第1項に規定する居住用財産に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 請求人の答述、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件譲渡物件を昭和63年11月8日養母から相続により取得したこと。
(ロ) 請求人は、本件譲渡物件を平成元年9月21日P市のA男に譲渡したこと。
(ハ) 請求人は、昭和45年8月の転勤までは本件家屋に居住していたが、それ以降転勤のため順にS市○○町、R市、T県、S市△△町、U県○○市△△町及びS市△△町に居住し、その後昭和63年7月19日R市に転勤してからはR市の社宅に居住し、勤務先に対しても同社宅の所在地を住所地として届け出ており、本件譲渡時まで本件家屋には居住していないこと。
(ニ) 妻及び次男は、昭和53年4月から昭和54年7月までの間本件家屋に居住していたが、その期間を除き、昭和45年8月以降請求人がR市に転勤になる昭和63年7月19日まで請求人と行動を共にしており、本件家屋には居住していないこと。
(ホ) 妻は、昭和63年5月19日S市内の病院に入院し、同年7月19日の請求人のR市への転勤に伴い同病院からP病院に転院したが、平成元年6月28日にP病院を退院した後はマンションに入居し、その後も本件家屋には居住していないこと。
(ヘ) 次男は、昭和63年7月19日の請求人のR市への転勤に際し、勉学上の都合で単身S市に残り、それ以後も本件家屋には居住していないこと。
(ト) 長女は、昭和54年7月以降本件家屋には居住していないこと。また、長女については、昭和61年分以降請求人の所得税の計算上扶養親族とされていないこと。
(チ) 長男は、昭和54年7月から昭和60年3月までの間は請求人の転勤先に同行しているが、当該期間を除き平成元年3月にT県に転出するまで本件家屋に居住していたこと。
(リ) 義母は、平成元年5月まで本件家屋に居住し、その後はマンションに居住したこと。
(ヌ) 本件家屋の水道は、平成元年5月24日に止められていること。
(ル) 養母は、死亡時まで本件家屋に居住し、そして請求人と共同で不動産貸付業を営み相当額の収入を得ており、同人の昭和61年分及び昭和62年分の所得税の確定申告においては、義母を扶養親族としていること。
(ヲ) 請求人及び妻子の住民登録に係る住所の異動状況については、次のとおりであること。
A 請求人は、転勤のたびに転居先に住所を定め、昭和63年7月19日以降は妻と共にR市の社宅の所在地を住所としている。
B 妻、長女、長男及び次男は、いずれも昭和54年8月9日以降本件家屋の所在地を住所としたことはない。
C 長男は、昭和63年7月19日から平成元年3月18日T県に転出するまで、R市の社宅の所在地を住所としている。
(ワ) 請求人は、本件譲渡代金等を基に、P市内に貸家及び居宅を取得していること。
ロ ところで、措置法第35条は、個人が所有者として自身の住居の用に供している家屋等の譲渡をした場合について規定したものであるところ、同条第1項に規定する「個人がその居住の用に供している家屋」とは、個人が生活の本拠として利用している家屋であり、「生活の本拠として利用している家屋」とは、個人が永続的な利用を目的として、その者及びその者と社会通念上同居することが通常であると認められる配偶者等の日常生活に利用している家屋と解される。
 そして、このことは、その家屋の所有権の取得原因には関係がなく、仮にそれがかつて居住したことのある家屋を相続で取得したものであったとしても、自己の所有となった後に生活の本拠として利用しているか否かにより「居住の用に供している家屋」に該当するか否かを判断することになる。
ハ そこで、上記イの事実に基づき判断すると次のとおりである。
(イ) 請求人は、上記イの(ハ)のとおり本件家屋の所有者となる前の昭和45年8月から、所有者となって平成元年9月21日に譲渡するまでの19年間にわたり本件家屋には居住していない。つまり、請求人は本件譲渡物件を取得してから本件家屋に所有者として一度も居住しないまま、本件譲渡を行ったものである。
(ロ) 同様に妻及び次男についても、上記イの(ニ)ないし(ヘ)のとおり、昭和54年7月以降本件譲渡までの10年間余り本件家屋には居住していない。
 なお、妻は、請求人が本件譲渡物件を取得した日の前後11か月にわたりP市内の病院に入院していたが、それは請求人のR市への転勤に伴ってS市の病院から本件家屋に入居することなく直接転院したものであって、また退院後も本件家屋には居住していないから、妻がP病院入院中の間本件家屋を居住の用に供していたとは認められない。
(ハ) 一方、養母は自らの生計を営むに足る所得を得ながら本件家屋に長年居住し、その間上記のとおり請求人及びその家族である妻、次男が長期間居住していなかったということは、養母の死亡時まで本件家屋は請求人の生活の本拠というよりも、むしろ養母の生活の本拠であったとみるべきである。また、養母の死亡の前後において、前述のとおり基本的に請求人及びその家族の居住状況(生活環境)に特に変化が認められない以上、養母の死亡を契機として直ちに請求人の生活の本拠が本件家屋に移ったとは考えられない。
(ニ) 更に、一般的にはその者の生活の本拠を示す住民登録上の住所については、上記イの(ヲ)のとおり昭和63年11月8日に本件譲渡物件を取得してから平成元年9月21日に譲渡するまでの間、請求人及び妻はR市の社宅の所在地となっており、長男もT県に転出するまで同所となっている。
(ホ) 以上を併せ考えると、まず、請求人の本件譲渡時における生活の本拠は、請求人が日常実際そこに起居し住民登録もしていたR市の社宅であり、請求人が所有者として本件家屋を居住の用に供していたとは認められない。加えて、請求人のみならず、請求人と社会通念上同居を通常とする妻及び次男も長期間居住していない本件家屋については、永続的な利用を目的として請求人及び妻等の日常生活に利用されていたとは到底いえず、請求人らの生活の本拠が、本件譲渡物件取得後はもちろん、取得前においても本件家屋にあったとは認められない。
 したがって、本件譲渡物件は、措置法第35条第1項に規定する居住用財産には該当せず、家族の一員である長男及び義母が居住していたことを理由に本件家屋は居住用家屋に該当するとの請求人の主張は認められない。
ニ さて、請求人は、本件家屋は措置法通達31の4ー2の(1)に定める居住用家屋に該当する旨主張する。
 しかしながら、同通達は、措置法第35条第1項に規定する居住用家屋の範囲について、国税庁長官が執行当局としてその考え方を明らかにするとともに、その者が所有者として居住の用に供していた家屋であることを前提に、実務上特に問題が多いと認められる事項に関する取扱いを併せて示したものと解されるところ、本件家屋の場合は、上記認定のとおり請求人が所有者として自身の居住の用に供したことがなく、配偶者等の居住の用にも供されていないから、同通達には該当しないと認められる。
 なお、措置法通達31の4ー6は、同通達31の4ー2に定める居住用家屋に該当しないものでも、その者と生計を一にする親族の居住の用に供している家屋について、その者の過去の居住事実等を要件として、措置法第35条第1項に規定する居住用家屋に該当するとして取り扱うことができるとしているが、前述のとおり、本件家屋は請求人が所有者として居住の用に供したことはないから、同通達に該当しないことは明らかである。
ホ また、請求人は、本件家屋を取り壊し、居宅兼貸家を建てるつもりであったところ、同家屋所在地は建物の高さの規制地域であり採算が合わないので断念した旨当審判所に対し答述するが、1仮に請求人がいうような規制があるとすれば、請求人は不動産貸付業をしているところから、それらのことは貸家等の計画を立てる以前に容易に知り得ることであること、2請求人は、本件譲渡代金等で他所に貸家及び居宅をそれぞれ取得していること、3養母死亡後間もない平成元年5月には義母は本件家屋を退去し、妻もP病院を退院した際本件家屋に入居していないこと等から、にわかに信じ難い。
 更に、請求人は、R市の社宅は仮住居であり用事のないときはできるだけ本件家屋に帰宅していたこと、また、事あるごとに本件家屋に家族が集まり生活の本拠としていたこと等を居住用家屋とする根拠に上げるが、1請求人は入院中の妻の着替えはR市の社宅で洗濯して届けていた旨答述していること、2昭和63年7月にR市に転勤した際、家財の大半は社宅に搬入している旨答述していること及び3上記イの事実等から、本件家屋は居住用家屋ではないとの上記判断を覆すに足りない。
ヘ 以上のとおり、本件家屋は措置法第35条第1項に規定する居住用財産に該当するとは認められない。
 したがって、本件譲渡物件の譲渡所得金額の計算に当たり、措置法第35条第1項に規定する特別控除の額を控除しないで、同法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項の規定による長期譲渡所得の特別控除額を控除した更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 上記のとおり更正は適法であり、また、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定した処分は適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても相当と認められる。

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