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(平4.1.20、裁決事例集No.43 479頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、理容業を営む者であるが、平成元年分の所得税の青色の確定申告書に、租税特別措置法第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第1項(以下「本件特例」という。)の規定を適用した上で、別表1の「確定申告額」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年12月6日付で別表1の「更正及び賦課決定の額」欄に記載のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成3年2月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月24日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして、平成3年5月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
 原処分庁は、分離課税の長期譲渡所得の金額(以下「譲渡所得金額」という。)を次のとおり過大に認定した。
(イ) 買換資産の取得価額について
A 請求人は、平成元年1月9日にP市R町8番の宅地201.50平方メートル、同所8番4の公衆用道路47平方メートル及び同所5番35の公衆用道路36平方メートル(以下併せて「本件土地」という。)を株式会社A(以下「A社」という。)に48,000,000円で譲渡した。
B 請求人は、平成元年8月9日に上記Aの譲渡に係る買換資産として、S市T町31番地、24番地2所在の鉄骨造陸屋根3階建の店舗兼居宅、家屋番号31番、床面積1階64.92平方メートル(実測72.87平方メートル)、2階46.17平方メートル(実測51.98平方メートル)、3階46.17平方メートル(実測51.98平方メートル)(以下「本件建物」という。ただし、請求人の持分は3分の2)を総額39,954,195円で、更に理髪用のいすを2,200,000円、店舗用クーラーを431,000円で取得した。
C 請求人は、譲渡所得金額の計算において本件特例の規定を適用した。
D 本件買換建物のうち請求人が事業の用に供している部分(以下「事業用部分」という。)は、1理容室33.633平方メートル、2ポーチ2.24平方メートル、31階にある洗濯・洗面所(以下「洗濯・洗面所」という。)4.823平方メートル及び43階にある従業員室(以下「従業員室」という。)12.99平方メートルの合計53.686平方メートルであり、この面積が本件建物の延べ面積176.83平方メートルに占める割合は30.36パーセントとなる。
E 請求人は、本件建物の事業用部分はすべて同人が取得したものと認識しているが、本件建物は、「建物の区分所有等に関する法律」の適用がない建物であるため、事業用部分と居住の用に供している部分(以下「居住用部分」という。)とを区分して登記をすることができず、やむを得ず、請求人の持分を3分の2、請求人の長男B男(以下「B男」という。)の持分を3分の1として、本件建物につき所有権保存登記を行った。
F また、請求人とB男との間では、請求人が本件建物の事業用部分の全部を取得したことについて争いがなく、また、本件特例は、事業者の事業用設備の更新促進という趣旨のもとに制定されていることから、本件建物の事業用部分はすべて請求人が取得したと認めるべきである。
G したがって、1本件建物の取得価額39,954,195円に、前記Dの本件建物の延べ面積に対する事業用部分の割合30.36パーセントの小数点以下を切り捨てた30パーセントを乗じた11,986,258円、2理髪用のいすの取得価額2,200,000円及び3店舗用クーラーの取得価額431,000円の合計額14,617,258円が、本件特例に係る買換資産の取得価額となる。
(ロ) 譲渡所得金額について
 上記(イ)の取得価額に基づいて計算した請求人の譲渡所得金額は、別表2の「請求人主張額」欄のとおり、30,734,630円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり更正は違法であるから、その全部の取消しに伴い、過少申告加算税の賦課決定もその全部が取り消されるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であり、請求人の主張には理由がない。
イ 更正について
(イ) 買換資産の取得価額について
A 本件建物のうち事業用部分は、理容室33.633平方メートルから居住用の玄関の踏込部分1.4平方メートルを除いた32.233平方メートルであり、この面積が本件建物の延べ面積176.83平方メートルに占める割合は18.23パーセントとなる。
B 本件建物が「建物の区分所有等に関する法律」の適用がない建物であり、事業用部分と居住用部分とを区分して登記をすることができないことは認める。
C 請求人の本件建物に係る所有権の持分は3分の2であり、民法第249条《共有物の使用》では、各共有者は共有物の全部についてその持分に応じた使用をなすことができる旨規定されていることから、請求人は、本件建物の事業用部分、居住用部分を問わず、本件建物全体につきその持分3分の2に応じた使用をすることができることになる。
D したがって、1本件建物の取得価額39,954,195円に前記Aの本件建物の延べ面積に対する事業用部分の割合18.23パーセントを乗じた7,283,649円のうち、請求人の持分3分の2に相当する金額4,855,766円、2理髪用のいすの取得価額2,200,000円及び3店舗用クーラーの取得価額431,000円の合計額7,486,766円が、本件特例に係る買換資産の取得価額となる。
(ロ) 譲渡所得金額について
 上記(イ)の取得価額に基づいて計算した請求人の譲渡所得金額は、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおり35,563,625円となり、更正の額を上回ることとなる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり更正は適法であり、かつ、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。

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3 判断

(1)更正について

イ 買換資産の取得価額について
 譲渡所得金額の計算上、本件特例に係る買換資産の取得価額について争いがあるので、以下検討する。
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 請求人は、平成元年1月9日に本件土地をA社に48,000,000円で譲渡したこと。
B 請求人及びB男は、平成元年8月9日に本件建物を総額39,954,195円で新築し、取得したこと。
 また、請求人は、事業の用に供する目的で、理髪用のいすを2,200,000円、店舗用クーラーを431,000円で取得したこと。
C 本件建物は、「建物の区別所有等に関する法律」の適用がない建物であり、事業用部分と居住用部分とを区分して登記することができないこと。
D 請求人は、平成元年分の申告所得税の確定申告に際し、本件特例の規定を適用して譲渡所得金額を計算したこと。
E 本件土地の取得費及びその譲渡に要した費用の合計額は、7,366,100円であること。
F 本件建物の延べ面積は176.83平方メートルであり、理容室の面積は33.633平方メートルであること。
(ロ) 請求人が提出した資料、原処分庁の関係資料及び請求人の答述並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件建物は、請求人とB男間の明示又は黙示の合意によって、請求人が3分の2、B男が3分の1の各持分割合で両人が共有することとされ、その旨の保存登記がなされていること。
B 請求人は、本件建物の3階にある3部屋のうち1部屋を従業員室として使用する予定であったが、本件建物を取得して以来、平成3年9月9日現在まで全く使用していないこと。
C 洗濯・洗面所の面積は2.225平方メートルであり、請求人の事業の用に4分の3程度、請求人及びその家族の家事用に4分の1程度の割合で使用していること。
D ポーチは屋外から理容室への客専用の出入口部分にあり、その面積は2.24平方メートルであること。
E 理容室のうち、居住用の玄関への踏込部分は1.584平方メートルであること。
F 本件建物の1階にあるトイレ(以下「トイレ」という。)の面積は1.862平方メートルであり、客が10分の3程度、請求人及びその家族が10分の7程度の割合で使用していること。
(ハ) 以上の認定事実から判断すると、本件建物の事業用部分は、以下のとおりとなる。
A 本件特例は、買換資産の取得の日から1年以内に事業の用に供したとき又は供する見込みであるときに適用があることとされている。
 そうすると、本件建物の3階にある従業員室として使用する予定であった部屋は、請求人が本件建物を取得して以来、平成3年9月9日現在まで全く使用されていないことから、事業の用に供しておらず、本件特例に係る買換資産には該当しないこととなる。
B 洗濯・洗面所は、請求人の事業の用に4分の3程度、請求人及びその家族の家事用に4分の1程度の割合で使用していることから、洗濯・洗面所の面積2.225平方メートルの4分の3に相当する1.669平方メートルが事業用部分に該当することとなる。
C ポーチは客専用の出入口部分にあることから、その面積2.24平方メートルは、すべて事業用部分であると認められる。
D 理容室の面積33.633平方メートルから居住用の玄関への踏込部分の面積1.584平方メートルを差し引くと、理容室のうち事業用部分の面積は32.049平方メートルとなる。
E トイレは客が10分の3程度、請求人及びその家族が10分の7程度の割合で使用していることから、トイレの面積1.862平方メートルの10分の3に相当する0.559平方メートルが事業用部分に該当することとなる。
F 上記BないしEの面積を合計すると、本件建物のうち事業用部分の面積は36.517平方メートルとなり、本件建物の延べ面積176.83平方メートルに対する割合は20.65パーセントとなる。
(ニ) ところで、請求人は、本件建物の事業用部分については同人の単独所有である旨主張するが、本件建物が区分所有できない建物である以上、請求人がその一部である事業用部分のみを単独で所有権の目的とすることはできず、前記イの(ロ)のAの認定のとおり、本件建物は、請求人とB男の共有(請求人の持分3分の2、B男の持分3分の1)であると認められる。
 そうすると、請求人は、事業用部分の全部を取得したものではなく、本件建物(事業用部分及び居住用部分)の持分3分の2を取得したにすぎないものである。
 なお、本件特例は、請求人主張のように事業者が事業用設備の更新を促進させるという趣旨のもとに制定されていることは否めないものの、所得税法に規定する、資産の譲渡による所得の本来の課税方式の例外的特別措置であることを併せ考えると、本件特例の解釈適用は、狭義かつ厳格にすべきものと解すべきである。
(ホ) 以上によれば、1本件建物の取得価額39,954,195円に前記3の(1)のイの(ハ)のFの割合20.65パーセントを乗じた8,250,541円のうち、請求人の持分3分の2に相当する金額5,500,360円、2理髪用のいすの取得価額2,200,000円及び3店舗用クーラーの取得価額431,000円の合計額8,131,360円が、本件特例に係る買換資産の取得価額となる。
ロ 譲渡所得金額について
 前記イの取得価額に基づいて計算した請求人の譲渡所得金額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおり35,127,086円となり、更正の額を上回ることとなる。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、更正は適法であるから、過少申告加算税の賦課決定も適法であり、全資料を総合しても、これを不相当とする理由は認められない。

(3) 原処分のその余の部分については、当事者間に争いはなく、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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