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(平4.5.13、裁決事例集No.43 488頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、自動車用組電線製造業を営む非同族の同族会社であるが、昭和63年4月1日から平成元年3月31日までの事業年度(以下「当期」という。)の法人税の青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年7月3日付で次表の「更正等」の欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
事業年度
区分
当期
確定申告 所得金額 △111,547,893
納付すべき税額 △ 45,174,301
更正等 所得金額 △ 84,467,030
納付すべき税額 △ 33,895,981
過少申告加算税の額 1,665,500

(注)「所得金額」欄の△印は、損失の金額を示し、「納付すべき税額」欄の△印は、欠損繰戻し還付金額を示す。

 

 請求人は、これらの処分を不服として、平成2年9月5日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
 請求人は、昭和63年10月1日に、○○市××町1番14号A株式会社(以下「A社」という。)から建物、建物付属設備及び機械装置を購入したが、その中には新規に購入したもののほか、同社から賃借して事業の用に供していた減価償却資産(以下「本件工業用機械等」という。)が含まれており、これについても、租税特別措置法(平成元年法律第12号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第45条《低開発地域等における工業用機械等の特別償却》及び措置法第52条の3《準備金方式による特別償却》の各規定を適用して、特別償却の償却限度額27,080,863円(以下「本件償却額」という。)を特別償却準備金として積み立て、当該金額を当期の損金の額に算入した確定申告書を提出した。
 これに対し、原処分庁は、本件工業用機械等の取得が措置法第45条第1項に規定する新設又は増設に係る減価償却資産の取得に当たらないから、同項の表の第三欄に掲げる減価償却資産(以下「措置法第45条に規定する工業用機械等」という。)に該当しないとして、本件償却額を損金と認めないとする更正をした。
 しかしながら、請求人が取得した本件工業用機械等は、次のとおり措置法第45条に規定する工業用機械等に該当する。
(イ) 租税特別措置法関係通達(以下「措置法通達」という。)45ー5の2の(3)《新増設の範囲》によれば、他の者が低開発地域等で事業の用に供していた工業用機械等を取得した場合も「新設又は増設に係る減価償却資産の取得」に該当するものとして取り扱われており、賃借していた工業用機械等を除くとの規定はない。
 また、その取得に関しては、関係会社間における原始取得だけでなく承継取得も含まれると解されている。
 したがって、請求人の本件工業用機械等の取得は、措置法通達45ー11の2《指定事業の用に供したものとされる資産の貸与》により、A社が低開発地域で指定の事業の用に供していた工業用機械等の取得であるから、新設又は増設に係る減価償却資産の取得に該当する。
(ロ) また、措置法第45条が設けられた目的は、低開発地域等における雇用の増大及び地域間の経済格差の縮小を図るとともに雇用の縮小、経済格差の拡大を防止することも意図しているものであり、本件工業用機械等を他の地域の者が買い取ることを考えると、請求人が取得したことはこの目的に合うものである。
(ハ) 更に、措置法第45条における新設又は増設についての解釈については、1昭和36年の条文創設時は物理的な新設、増設に限られるとされ、2昭和51年10月14日付直法2ー39(例規)《昭和51年度法人税関係法令の改正等に伴う法人税の取扱いについて》では、長期にわたる休止設備を承継取得した場合も含むとされ、3昭和55年5月15日付直法2ー8(例規)《法人税基本通達の一部改正について》では、一般の承継取得も該当することとされたように、同条の適用関係につきその時の実態に即した法人税基本通達の改正が行われ、同条の目的に合うよう変遷している。
 したがって、請求人が賃借中の本件工業用機械等を取得したことは、措置法第45条の適用要件を充足している。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は違法で取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正について
 請求人が当期に取得した本件工業用機械等は、次の理由により措置法第45条に規定する工業用機械等に該当しない。
(イ) 措置法第45条の立法趣旨は、同条第1項の表に規定する低開発地域等に指定された地区内において新たに一定規模以上の設備投資をした場合には、税制上、租税の一部を軽減することにより設備投資の導入を促すことを目的とすることによって、低開発地域工業開発促進法等の政策目的である工業の開発、導入あるいは振興開発を行い、もって雇用の拡大、雇用構造の高度化、職業の安定等に寄与し、地域経済の発展是正に資することである。
 したがって、本件工業用機械等は、請求人が既にA社から賃借し、事業の用に供していたものを購入したものであり、その時点においては、実質的な設備の増加は一切なく、雇用の拡大又は安定及び地域経済の発展に資する工業用機械等を取得したものとは認められない。
(ロ) 措置法第45条にいう新設とは、新たに設備することであり、増設とは、既にあるものに加えて設備を増やすことである。
 ところで、請求人の場合、既に工業用機械等を賃借して低開発地域で生産設備の一部として使用していたものを取得したものであるから、生産設備、生産能力は従前と変わらず、単に所有権が移動しただけである。
(ハ) 以上のとおり、本件工業用機械等は、措置法第45条にいう新設又は増設に係る工業用機械等に含まれないので、これに係る本件償却額を損金の額に算入できないとした原処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法であり、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定した処分は適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1) 更正について

 イ 請求人の本件工業用機械等の取得が、措置法第45条に規定する「新設又は増設に係る減価償却資産の取得」であるか否かに争いがあるので、これについて審理したところ、次のとおりである。
(イ) 措置法第45条の立法趣旨は、同条第1項の表第1号ないし第9号の第1欄記載の低開発地域工業開発促進法ほか6法に規定する地域内において新たに一定規模以上の調備投資をした場合には、税制上、租税の一部を軽減することにより設備投資の導入あるいは振興開発を行い、低開発地域工業開発促進法等の政策目的である工業の開発、導入あるいは振興開発を行い、もって、雇用の増大、雇用構造の高度化、住民福祉の向上等に寄与し、地域経済の発展に資することにある。
 したがって、低開発地域工業開発指定地区における工業用機械等の取得が措置法第45条の規定に該当する取得であるか否かは、低開発地域工業開発促進法第1条《目的》に規定する同法の目的である「雇用の増大に寄与し、地域間の経済的格差の縮小を図る」に合致する新設又は増設に係る減価償却資産の取得であるか否かによると解すべきである。
 そうすると、雇用の拡大、地域経済の格差の縮小を図るためには、生産設備を新設又は増設し、その結果として生産量等の具体的な増加に結びつくことが必要と認められるから、措置法第45条にいう「新設又は増設に係る減価償却資産の取得」とは、その法人の生産量等が具体的な増加に結びつく工業用機械等の取得であると解するのが相当である。
(ロ) 上記(イ)の措置法第45条の立法趣旨に照らし、請求人が取得した本件工業用機械等は、低開発地域工業開発指定地区において事業の用に供する工業用機械等であることは争いのない事実であるが、既に賃貸借により請求人の事業の用に供していたものを、昭和63年10月1日にA社から取得したもので、その後工場の増築等に伴うレイアウトの変更及び機械等の据付位置の移動が認められるにしても、本件工業用機械等の取得により生産量等に実質的な増加があったとは認められないから、措置法第45条に規定する新設又は増設に係る減価償却資産の取得には該当しない。
(ハ) なお、請求人は、措置法通達45ー5の2の(3)によれば、低開発地域等において他の者が事業の用に供していた工業用機械等を取得した場合も、措置法第45条に規定する「新設又は増設に係る減価償却資産の取得」に該当するものとして取り扱われているので、本件工業用機械等の取得も同様に取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、この通達の趣旨は、他の者が低開発地域において現に事業の用に供していた工業用機械等をそのまま承継的に取得した法人が、当該低開発地域においてこれを事業の用に供した場合には、当該地域内全体としては絶対的な設備の増加はないのであるが、当該法人については生産の増加があるということで、措置法第45条の適用を認めているものであって、措置法第45条の適用は、あくまで法人単位で新設又は増設があったか否かを判定する考え方を示したものである。
 本件工業用機械等の取得は、上記ロのとおり請求人の生産量の増加に結びつくものではないので新設又は増設による取得に該当せず、請求人の主張は認められない。
ロ 以上により、請求人が取得した本件工業用機械等は、措置法第45条に規定する工業用機械等に該当しないとした原処分庁の更正は相当であり、請求人の主張には理由がない。

(2)過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、更正は適法であり、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定した処分は相当である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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