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(平4.2.12、裁決事例集No.43 528頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)は、プラスチック加工業を営む法人であるが、昭和63年10月1日から平成元年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の青色の法人税の確定申告書に所得金額を2,639,202,352円、納付すべき税額を974,141,400円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 これに対し、P税務署長はR国税局の職員の調査に基づき、平成3年1月31日付で所得金額を2,654,179,694円、納付すべき税額を986,103,700円とする更正及び過少申告加算税の額を1,196,000円とする賦課決定をした。
(2) 次いで、上記更正及び賦課決定の対象となった事業年度の表示に記載誤りがあったため、P税務署長は、平成3年5月28日付で上記の各処分を取り消し、同日付で所得金額を2,654,179,694円、納付すべき税額を986,103,700円とする更正及び過少申告加算税の額を1,196,000円とする賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成3年5月31日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正について
 請求人は、本件事業年度の納付すべき法人税額の計算に当たり、請求人の外国子会社である外国法人Aリミテッド(以下「A社」という。)からの受取配当及び租税特別措置法(昭和63年法律第109号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第66条の6《内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入》の規定に基づく課税対象留保金額の益金算入に関し、A社が納付した外国税額について、それぞれ法人税法第69条《外国税額の控除》第4項及び措置法第66条の7第1項の規定による外国税額の控除を行うに当たり、A社R支店が納付した我が国の事業税8,734,700円(以下「本件事業税」という。)を税額控除の対象となる外国法人税の額に含めて本件事業年度の法人税額を計算したところ、原処分庁は本件事業税は外国法人税に該当しないとしてこれを税額控除の対象となる外国法人税に含めないで更正を行ったが、次の理由から本件事業税は外国法人税に該当するから、本件更正は違法である。
(イ) 法人税法第69条の規定は、外国において生じた法人の所得について、当該外国において我が国の法人税と同様に所得を課税標準とする税が課された場合に生ずる国際間の二重課税を排除するためのものであるから、その立法趣旨からかんがみて、所得を課税標準として課された本件事業税を外国法人税に該当しないものとすれば二重課税を免れない。
(ロ) 法人税法施行令第141条《外国法人税の範囲》第1項の規定によると、外国法人税は、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税であり、我が国の事業税は地方税法第72条の12《法人の事業税の課税標準》の規定により現に所得を課税標準として課されていることから、本件事業税は外国法人税に該当する。
(ハ) 措置法第66条の7第1項の規定によれば、措置法第66条の6第1項の規定により課税対象留保金額の益金算入の適用を受ける場合には、その特定外国子会社等の所得に対して課される外国法人税の額のうち一定の金額は控除対象外国法人税の額とみなすとあるが、これは第一義的に外国での法人所得税のみしか適用できない疑義がある。しかしながら、租税特別措置法関係通達(法人税編)(以下「措置法通達」という。)66の6ー13(外国法人税の範囲)によれば、我が国の地方税である都道府県民税及び市長村民税(以下「都道府県民税等」という。)の額を外国法人税の範囲に含めることができるとされていることから、本件事業税も当然に外国法人税に含められるものである。
 なお、我が国の事業税が外国法人税に該当するということは、通説である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件事業年度の更正は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件事業年度の過少申告加算税の賦課決定もその一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
 本件事業税は、次の理由により、外国法人税に該当しない。
(イ) 我が国の事業税は、事業を行う者と都道府県との間の応益負担の原則に立脚して課される税であり、都道府県が事業に対して与える各種のサービスについて事業自らがこれに要する経費を負担すべきであるとする考え方に基づいている。したがって、事業税は事業上の経費となる税であり、利益のうちから支払われる我が国の法人税、都道府県民税等(以下「法人税等」という。)とは税の性格を異にし、法人税の課税所得の計算上法人税等は損金不算入としているのに対し、損金算入としている。
(ロ) 我が国の事業税が、特定の業種を除き、課税標準として所得金額を採用しているのは、事業規模又は活動量を測定する基準として、また、他の税と共通の課税標準を採用することによる行政の簡素化等の見地から資本金額や売上金額等に代えて採用しているものであり、法人税等が、所得金額を課税標準としているのとは意味合いが異なるものである。地方税法第72条の12の規定によれば、現に電気供給業・ガス供給業・生命保険事業及び損害保険事業については、各事業年度の収入金額を課税標準としており、その他の事業については、同法第72条の19《事業税の課税標準の特例》の規定により、所得及び清算所得によらないで、資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数等を課税標準とし、又は所得又は清算所得とこれらの課税標準とを併せ用いることができるとしている。
(ハ) ところで、内国法人が外国子会社から受ける利益の配当又は剰余金の分配の額がある場合、あるいは内国法人が措置法第66条の6第1項の規定により課税対象留保金額の益金算入の適用を受ける場合における外国税額控除の適用に際しては、それぞれ法人税基本通達(以下「基本通達」という。)16ー3ー36(本店所在地国以外の国又は地域で課された外国法人税)の注書及び措置法通達66の6ー13において、外国法人税の額には法人税等の額が含まれる旨定められているが、我が国の事業税は列挙されていない。
 外国法人税は外国の法令により課される法人税に相当する税であり、外国子会社及び特定外国子会社に係る外国法人税を内国法人が納付する外国法人税として取り扱う法人税法第69条第4項及び措置法第66条の7の規定からすれば、法人税に相当する税は法人税等にとどまり、法人税等とその性格を異にする本件事業税を外国法人税に含めないとする取扱いは合理的なものである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件事業年度の更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき本件事業年度の過少申告加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

(1) 更正について

 本件審査請求の争点は、本件事業税が税額控除の対象となる外国法人税に該当するか否かにあるので審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人が法人税の確定申告においてA社から受け取った配当金額及び措置法第66条の6の規定による課税対象留保金額の益金算入に関し、法人税法第69条及び措置法第66条の7の規定による外国税額の控除を行う際、本件事業税の額を税額控除の対象となる外国法人税の額に含めて本件事業年度の法人税額を計算していることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
ロ ところで、法人税法第69条及び措置法第66条の7の規定に基づく外国税額の控除は、内国法人が外国法人税を納付することとなる場合にはその外国法人税の額のうち政令で定めるところにより計算した金額、又は、内国法人が外国子会社から受ける配当等の額あるいは特定外国子会社等の課税対象保留金額を益金の額に算入する場合にその外国子会社あるいは特定外国子会社等(以下「外国子会社等」という。)の所得に対して課される外国法人税の額のうち政令で定めるところにより計算した金額を、それぞれ当該内国法人の所得に対する法人税の額から控除することによって国際的な二重課税を排除しようとするものである。そして、この場合の外国法人税とは、法人税法施行令第141条第1項の規定により、「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税」とされている。
ハ そこで、我が国の事業税が税額控除の対象となる外国法人税に該当するか否かについて、以下検討する。
(イ) 税額控除の対象となる外国法人税とは、上記ロの後段で述べたとおり、外国の法令に基づいて課される税であるから、そもそも我が国の事業税は、法文の文言からいっても、外国法人税に該当しない。
(ロ) 請求人は、法人税法第69条の規定は所得に対する国際間の二重課税を排除するという目的で設けられたものであり、その立法趣旨からいって、所得を課税標準として課された我が国の事業税を外国法人税に該当しないものとすれば二重課税が免れないこと及び法人税法施行令第141条第1項の規定からみても、我が国の事業税は地方税法第72条の12の規定により現に所得を課税標準として課されていることから、我が国の事業税は外国法人税に該当する旨主張する。
 しかしながら、我が国の事業税の性格、課税標準等については次のような特徴が認められる。
A 我が国の事業税は、事業そのものの収益収得力に着目して課される税であり、同一人に帰属するすべての所得を総合して課される所得税及び所得税の前取り的な考え方によって課される法人税とはその性格を異にしていること。
B 我が国の事業税は、事業を遂行するために必要な一種の経費と考えられていることから、所得計算上必要経費又は損金として認められることとなっており、利益のうちから支払われ、所得計算上必要経費又は損金とは認められない我が国の法人税、所得税又は地方税とは異なり、二重課税のおそれがないこと。
C 我が国の事業税は、その性格上、事業の規模又は活動量を最もよく測定できる基準となる数値をその課税標準とすべきであり、そのため、売上金額、資本金額、固定資産の価額及び従業員数等のいわゆる外形標準を課税標準とすることが適当と認められるところ、実務においては、電気供給業等特定の業種については収入金額を課税標準とし、特定の業種以外の業種については所得及び清算所得を課税標準としているが、この特定の業種以外の業種について所得を課税標準としているのは、所得税、法人税と共通する数値を採用することによる行政の簡素化、課税技術上の問題等の見地から売上金額や資本金額等に代えて採用しているものと認められるから、所得税、法人税が所得を課税標準としているものとは意味合いが異なること。更に、地方税法は特定の業種以外の業種については都道府県が条例によって売上金額、資本金額等を課税標準として採用することを認めていることは事業税の性格に由来するものであり、このことは、我が国の事業税が本来所得課税であるとは考えていないものと認められること。
以上から、我が国の事業税は、立法趣旨等からいっても外国法人税に該当しないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ) 更に、請求人は、措置法通達66の6ー13によれば、我が国の地方税である都道府県民税等を外国法人税の範囲に含めることができるとしているから、我が国の事業税も当然に外国法人税に含まれる旨主張する。
 しかしながら、都道府県民税等は外国の政令に基づいて課される税ではないから、我が国の事業税と同じように、法文の文言からいっても外国法人税に該当しないことは明らかであるが、もし、都道府県民税等について税額控除を全く認めないこととするとこれらの税が所得計算上必要経費又は損金とは認められないことなどからも法人税との関連において完全な二重課税となるためこれを調整する必要があり、そのため措置法通達において都道府県民税等の額を外国法人税の額に含めることとしたものと認められる。
 一方、我が国の事業税は、上記(ロ)のBに記載したとおり、所得計算上必要経費又は損金として認められていることなどからも二重課税のおそれはないため、その調整を必要としない。
 したがって、措置法通達により、我が国の事業税は都道府県民税等と同様に外国法人税に含まれるとする請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人は、我が国の事業税が外国法人税に該当するということは通説になっている旨主張するが、当審判所が調査したところによってもそのような事実は確認できないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
以上から、我が国の事業税は税額控除の対象となる外国法人税に該当しないと解するのが相当である。
ニ したがって、本件事業税が税額控除の対象となる外国法人税に該当するとの請求人の主張は認められず、原処分庁が本件事業税は外国法人税に該当しないとして税額控除の対象となる外国法人税の額に含めないで外国税額の控除の計算を行った本件更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件事業年度の更正は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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