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(平4.11.10、裁決事例集No.44 12頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、同族会社の役員であるが、昭和61年分の所得税の青色の確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに申告した。
 更に、請求人は、昭和61年分の修正申告書に次表の「修正申告」欄のとおり記載し、昭和63年4月28日に修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 修正申告
総所得金額 672,544 672,544
内訳 不動産所得の金額 △4,280,456 △4,280,456
給与所得の金額 4,953,000 4,953,000
分離短期譲渡所得の金額 0 32,791,853
納付すべき税額 14,251,100
還付金の額に相当する税額 494,100

(注)「不動産所得」欄の△印は、損失金額を示す。以下同じ。

 

 その後、請求人は、平成元年7月3日に次表のとおりとする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

(単位:円)
項目 金額
総所得金額 672,544
内訳 不動産所得の金額 △4,280,456
給与所得の金額 4,953,000
分離短期譲渡所得の金額 14,946,883
納付すべき税額 5,118,700

 

 原処分庁は、これに対し平成元年11月17日付で更正をすべき理由がない旨の通知(以下「本件通知」という。)をした。
 請求人は、本件通知を不服として、平成2年1月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成2年6月15日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分について、なお不服があるとして、平成2年6月26日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 本件更正の請求には次のとおり理由があるので、本件通知は違法であり、その取消しを求める。
イ 更正の請求について
(イ) 請求人は、A男及びB男(以下請求人と併せて「請求人ら」という。)と共に、昭和61年9月19日にC株式会社(以下「C社」という。)と売買契約を締結し、P市○○町57番所在の宅地852.89平方メートル(以下「本件宅地」という。)及び同宅地上の建物1,402.6平方メートル(以下「本件建物」といい、本件宅地と併せて「本件資産」という。)を502,647,000円で譲渡した。
(ロ) 請求人らは、昭和57年初めより本件建物の賃貸に係る共同事業を、いわゆる民法上の組合契約を締結し営んできたものであり、その事業内容等は次のとおりである。
A 請求人らは、本件宅地を購入し、その敷地の上にマンションを建築し、当初は賃貸の用に供し、最終的には本件資産を売却することによる利潤を上げようと計画したこと。
B 本件宅地は、△△から請求人らが共同で購入したこと。
 なお、購入資金は、請求人らが連帯してD信用金庫○○支店(以下「D信用金庫」という。)から140,000,000円借り入れたこと。
C 本件宅地の登記簿上の名義については、これを明示せざるを得ないことから、請求人らの間の権利の配分とは別に、便宜上、とりあえず3分の1ずつの共有登記を行ったこと。
D 請求人らは、本件建物について、昭和58年9月28日E株式会社(以下「E社」という。)との間で建築請負契約を締結し、本件建物は昭和59年3月に完成したが、その請負契約に関する各人の負担部分が明示されておらず、請負代金も3名が連帯して借り入れたものであること。
 なお、本件建物の登記についても、本件宅地の場合と同様に、便宜的に請求人らが3分の1ずつとしたこと。
E 請求人らは共同で事業を開始したものの、その出資については、兄弟であったことから必ずしも厳格な取決めをせず、本件資産の登記にかかわらず事業にいかに貢献したかを一応の基準として協議していくという抽象的な合意をしたこと。
F 本件建物に係る不動産所得について、請求人らがそれぞれ3分の1により行ったのは、登記名義に従って申告したにすぎず、実際はその帰属が最終的な確定をみたわけではなく、また、これにより得た金員は、共同事業の運営に関する経費に充てるためすべてA男が管理していたこと。
G 共同事業の経理は、A男及びその妻がこれを行い、記帳もしていたこと。
(ハ) 本件資産の譲渡により共同事業は完了し、その清算の結果、共同事業に係る残余財産(以下「本件残余財産」という。)の総額は、次表のとおり228,322,322円となった。

(単位:円)
項目 金額
譲渡価額 1 502,647,000
譲渡費用の額 2 39,167,121
借入金返済等の額 3 235,157,557
残余財産の額(123 228,322,322

 

(ニ) ところで、本件残余財産の分配について請求人とA男との間で争いが生じ、請求人は、R地方裁判所P支部に提訴した。
 この訴訟においては、直接に本件資産の持分権の帰属が争点となり、最終的に本件残余財産の分配は、共同事業に関する貢献の度合いに応じて請求人らの間で配分するという訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
 請求人は、不本意ながらもA男らの貢献度が高いことを認め、合意に達したものである。
(ホ) 以上のことから、請求人は、本件和解前に受け取った分配金額25,000,000円及び本件和解後に受け取った追加金26,500,000円との合計金額51,500,000円を本件残余財産の分配総金額として受け取ったものであり、結局、本件和解により請求人の本件資産に係る権利関係は、前記(ハ)の本件残余財産の総額228,322,322円に対する請求人が受け取った上記分配総金額51,500,000円の割合約22.56パーセント(以下「本件持分割合」という。)により確定したものである。
(ヘ) したがって、本件和解は、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号に基づき更正の請求ができる場合の判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)に該当する。
ロ 分離短期譲渡所得の金額について
 請求人の本件資産に係る昭和61年分の分離短期譲渡所得(以下「分離短期譲渡所得」という。)の金額は、請求人の本件持分割合を前提に算出すると、次のとおりである。
(イ) 譲渡価額
 本件資産の譲渡総価額は、上記イの(イ)のとおり502,647,000円であり、請求人に係る本件資産の譲渡価額は、請求人の本件持分割合に相当する価額113,376,214円である。
(ロ) 取得費の額
A 本件宅地に係る取得費
 本件宅地に係る取得費の総額は130,998,720円であり、請求人に係る取得費の額は、請求人の本件持分割合に相当する額29,547,851円である。
B 本件建物に係る取得費
 本件建物に係る取得費の総額は183,374,469円であり、請求人に係る取得費の額は、請求人の本件持分割合に相当する額41,361,637円である。
C したがって、本件資産に係る請求人の取得費の額は、前記Aの29,547,851円に前記Bの41,361,637円を加算した70,909,488円である。
(ハ) 譲渡費用の額
A 本件資産の譲渡に係る費用の総額は39,167,121円であり、請求人に係る当該費用の額は、請求人の本件持分割合に相当する額8,834,470円である。
B 本件資産の譲渡に係る訴訟費用として請求人が負担した弁護士報酬の額は3,570,000円である。
C したがって、本件資産に係る請求人の譲渡費用の額は、前記Aの8,834,470円に前記Bの3,570,000円を加算した12,404,470円である。
(ニ) 買換資産の取得価額
 請求人が本件譲渡に関し取得した買換資産の取得価額は57,005,830円であり、原処分庁の認定額と同額であるから争わない。
(ホ) 以上の結果、請求人の分離短期譲渡所得の金額は、次表のとおり14,946,883円であり、請求人が更正の請求書に記載した金額と同額である。

(単位:円)
項目 金額
譲渡価額 1 113,376,214
取得費の額 2 70,909,488
譲渡費用の額 3 12,404,470
買換資産の取得価額 4 57,005,830
収入金額(14) 5 56,370,384
必要経費の額((23)×(5÷1)) 6 41,423,501
譲渡所得金額(56) 149,946,883

 

ハ 仮に、原処分庁が認定したとおり、請求人に本件資産の譲渡に係る金額の3分の1相当額が帰属したとすると、請求人に本来帰属すべき金額と請求人が受けた分配総金額との差額に相当する金額は請求人からA男に対し贈与したことになるのにもかかわらず、原処分庁は、A男に対し何らの課税処分も行っておらず、このことからも原処分庁の認定は誤りである。

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(2) 原処分庁の主張

 本件通知は、次に述べるとおり適法である。
イ 通則法第23条第2項第1号の規定によれば、その申告に係る課税標準等の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができることとされている。
ロ ところで、本件更正の請求について、異議審理庁の担当職員が調査審理したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の本件資産の登記簿上の持分は3分の1であったこと。
(ロ) 本件資産の購入資金は、請求人らが全額金融機関から借り入れた金員により充当されていること。
 また、請求人らの間に当該借入金の負担割合について特段の定めがなかったこと。
(ハ) 請求人らは、本件建物の賃貸が開始されてから本件資産を譲渡するまでの間の本件建物の賃貸に係る不動産所得の金額について、各々登記簿上の3分の1を基礎として算定し確定申告をしていたこと。
(ニ) 請求人は、請求人がA男の財産に対し仮差押申請を行ったことからA男が資金難を来し、訴訟においてたとえ請求人が勝訴したとしても、請求人は、その請求額の全額を取得できる見込みがないこと等の理由から、R地方裁判所P支部の和解勧告に応じたものと認められること。
(ホ) A男は、本件和解において、請求人に対し本件資産の譲渡による利益金の分配債務額として26,500,000円の支払義務があることを認めるとしたこと。
(ヘ) 請求人は、本件資産の真実の権利関係は、事業の目的を達した時点で協議の上定めるものであった旨主張するが、当該事実を証するものはなく、また、本件和解において本件資産の真実の持分を定める旨の和解条項もないこと。
ハ 以上の事実から、請求人の本件資産の持分は実質的にも形式的にも3分の1であったことが認められ、また、本件和解においては、請求人の本件資産の持分割合を確定する旨の和解条項もなく、単にA男が本件資産の譲渡に係る利益金額について和解条項に定められた金額の分配債務があることを確認したにすぎないものと認められる。
ニ 以上の結果、本件和解は、請求人らの本件資産の持分割合が確定したものではなく、本件資産の譲渡利益の金額の処分に係る新たな合意が確定されたものにすぎないから、通則法第23条第2項第1号の規定に定める「その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」には該当しないことになる。
 したがって、本件通知は適法である。
 なお、請求人は、A男に対し贈与税の課税がなされていない旨主張するが、本件通知の当否に何ら影響を及ぼすものではないから、請求人の主張は失当である。

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3 判断

 本件和解が通則法第23条第2項第1号に定める「判決」に該当するかどうかについて争いがあるので、以下審理する。

(1) 次の各事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。

イ 請求人らは、本件宅地の所有権移転登記を連名で昭和57年5月10日受付によりそれぞれ3分の1の持分で行ったこと。
ロ 請求人らは、本件建物について、昭和58年9月28日E社との間で建築請負契約を締結し、本件建物完成後にそれぞれ3分の1の持分として、昭和59年3月29日受付により、所有権保存登記をしたこと。
 なお、当該請負契約書は、注文者が請求人らの連名となっており、請負代金は162,900,000円となっていたこと。
ハ 本件資産は、前記イ及びロのとおり請求人らが共有で取得し、本件建物についてマンション賃貸業を営んでいたものであり、本件資産の取得資金は、全額金融機関からの借入金により充当したこと。
ニ 請求人らは、本件建物の賃貸に係る不動産所得の金額について、本件建物の賃貸が開始されてから本件資産を譲渡するまでの間、それぞれ3分の1の持分に相当する金額を計算の基礎として確定申告していること。
ホ 請求人らは、本件資産について、C社との間で昭和61年9月19日に代金を505,000,000円とする売買契約を締結したが、実測面積が公薄面積より少なかったため、その売買代金が502,647,000円となったこと。
 なお、当該売買契約書によると、売主は請求人らの連名となっていること。
ヘ 請求人らの本件資産の譲渡所得に関しては、1譲渡価額は、502,647,000円、2取得価額は、本件宅地が130,998,720円、本件建物が183,374,469円、3譲渡費用は、39,167,121円であること。
 なお、請求人は、上記それぞれの金額の3分の1に基づき確定申告及び本件修正申告をしたこと。
ト 本件資産の譲渡をした後、請求人は、A男に対して「組合契約に基づく利益金」に係る金員の支払を求め、昭和62年4月6日にR地方裁判所P支部に訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起したこと。
 なお、本件訴訟は、組合契約に関する持分の割合に相当する利益金69,497,777円から請求人が既に受領した額25,000,000円を差し引いた額44,497,777円(その後請求金額を51,107,440円に変更)の支払を求めたものであること。
 そして、請求人は、本件訴訟において本件資産の同人の持分は3分の1である旨主張したこと。
チ 請求人及びA男は、平成元年5月11日R地方裁判所P支部の和解勧告に応じ、「A男が本件資産の譲渡に係る利益金の分配債務として、請求人に対し26,500,000円の支払義務のあることを認め、この金員を支払う、請求人は本件訴訟を取り下げる」旨の和解が成立したこと。

(2) 当審判所が、請求人の提出した本件訴訟に関する資料及び原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。

イ 請求人らは、本件建物の賃貸について、民法上の組合契約を締結して共同事業を営んできたこと。
ロ 昭和58年5月31日付の金銭消費貸借契約証書に係る変更契約証書によれば、請求人らが本件宅地を取得する際の資金として、D信用金庫から借り入れた140,000,000円の債務については、請求人らが連名で債務者として署名押印したこと。
ハ 請求人らが本件建物の建築資金及び上記ロのD信用金庫からの借入金の借換えとして××証券株式会社から借り入れた220,000,000円は、請求人らの負担割合の定めのない連帯債務であること。
ニ A男及びB男は、本件資産に係る譲渡所得について、それぞれの持分3分の1に基づき所得税の申告をしたこと。
ホ 本件和解において、A男が請求人に対し本件資産の譲渡による利益金の分配債務として26,500,000円を支払う旨の合意はなされたものの、本件資産の持分の割合の変更はなされず、また、当該利益金に係る持分の割合についての合意もなされていないこと。
(3) ところで、通則法第23条第2項第1号の規定は、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときには、その確定した日の翌日から2月以内に更正の請求ができる旨定めている。
 この規定は、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係について私人間に紛争が生じ、判決や和解によってこれと異なる事実が明らかにされたため、申告等に係る課税標準等又は税額等が過大となった場合に、更正の請求を認めようとするものである。
(4) 本件においては、前記(1)及び(2)で述べたとおり、1本件資産を取得するに当たり借り入れた金員に係るD信用金庫との金銭消費貸借契約証書の変更契約証書には、請求人らの連名で借入者の欄に署名押印されていること、2本件資産については、いずれも請求人らはそれぞれ持分を3分の1として所有権移転ないし所有権保存の登記をしたこと、3本件建物の賃貸に係る不動産所得を、請求人らがそれぞれ3分の1の額に基づいて申告していること、4本件資産の売買契約書には、売主が請求人ら3名の連名となっていること、5請求人らは、本件資産に係る譲渡所得について、それぞれの持分を3分の1として所得税の申告をしていること等の事実を認めることができ、これらの事実を総合勘案すると、請求人らは、本件資産をそれぞれ持分を3分の1として共有していたと認められる。
 そして、本件和解の和解条項によると、A男が本件資産の譲渡による利益金の分配債務として、請求人に対し26,500,000円の支払債務があることを認め、これを支払う旨合意が成立したことは認められるが、本件資産に係る持分割合について言及した和解条項は見当たらないところ、請求人は、本件資産の権利関係については共同事業の目的を達成した時点で定めることとする旨合意していたとの主張を証する資料を提出しないから、本件和解によって確定申告において計算の基礎とした請求人の本件資産の持分3分の1が変更されたものとは認められない。
 なお、請求人は、原処分庁が認定した額によった場合には、A男に対し贈与税の課税がなされなければならない旨主張するが、請求人の納税義務の確定とは無関係の事柄であり、その当否に何ら影響を及ぼさないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5) 以上の認定事実によれば、本件和解は、A男が本件資産の譲渡による利益金の分配債務として請求人に対して26,500,000円の支払義務があることを認めてこれを支払う旨を合意したにすぎず、本件資産の持分等についての合意をしたものとは認められないから、本件和解により申告等に係る課税標準等又は税額等の基礎となる事実に異動が生じたとはいえず、本件和解は通則法第23条第2項第1号に掲げる「和解」には該当しないものである。したがって、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知は適法である。
(6) その他
 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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