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(平4.12.9、裁決事例集No.44 36頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年1月24日に死亡した○○の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書(以下「本件当初申告書」という。)に、課税価格を292,138,000円、納付すべき税額を28,692,400円と記載して平成2年7月19日に申告した。
 その後、原処分庁の請求人に対する調査(以下「本件調査」という。)に基づき誤りを指摘され、平成4年1月10日に課税価格を386,450,000円、納付すべき税額を57,862,900円と記載した修正申告書を提出(以下「本件修正申告」という。)した。
 原処分庁は、これに対して平成4年1月28日付で過少申告加算税の額を2,940,500円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
 請求人は、これを不服として、平成4年3月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年6月22日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成4年7月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 本件賦課決定には、次のとおりの違法があるから、原処分の一部の取消しを求める。
イ 請求人は、専門家の税理士に依頼して本件当初申告書を提出したが、原処分庁の調査の結果、原処分庁より申告額の誤りを指摘され、平成4年1月10日に本件修正申告をした。
ロ 当初の申告が過少となった原因のうち、1P市R町1677番及び同町1706番所在の土地のうち142.62平方メートル(以下「本件土地」という。)について貸宅地として評価したことによる価額の増加に係る部分、2P市R町1672番地及び同町1700番地所在の家屋番号1672番の家屋並びにP市R町1700番地、同町1705番地、同町1699番地及び同町1698番地所在の家屋番号1700番2の家屋(以下これら2棟の家屋を併せて「本件家屋」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)について借家権割合を控除して評価したことによる価額の増加に係る部分は、請求人が故意に過少に申告するよう税理士であるA男(以下「A税理士」という。)に依頼したものではなく、請求人が依頼したA税理士がこれらの価額の評価に当たり計算誤り(以下本件不動産についての価額の増加に対する部分を一括して「本件評価誤り額」という。)をしたものである。
ハ したがって、本件評価誤り額については請求人には責任がなく、本件賦課決定のうち本件評価誤り額に対応する部分の過少申告加算税の賦課決定は取り消されるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 請求人は、本件相続に係る相続税の申告等をA税理士に依頼し、同税理士が作成した本件当初申告書を平成2年7月19日に原処分庁に提出したが、本件調査において本件不動産の価額に評価誤り額がある等の指摘を受け、平成4年1月10日に本件修正申告をした。
ロ 請求人は、本件修正申告に係る本件不動産の評価誤り額は、請求人が依頼したA税理士が計算を誤ったことによるから請求人には責任がないので、本件評価誤り額に係る部分の過少申告加算税の賦課決定は取り消されるべきである旨主張する。
ハ しかしながら、代理人がその権限内において本人のためにした意思表示は、直接本人に対して効力を生ずるものとされているから、本件不動産の価額について評価誤りによって本件当初申告が過少申告となったことについては、請求人に責任があることになる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件賦課決定の適否にあるので、以下審理する。
(1) 請求人が、本件相続の開始に係る相続税の申告書の作成をA税理士に依頼し、本件当初申告書をその法定申告期限内である平成2年7月19日に原処分庁に提出したこと及び本件調査において本件不動産の価額に評価誤り額がある等の指摘を受け、平成4年1月10日に本件修正申告をしたことについては、請求人及び原処分庁間に争いはなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
(2) 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、本件評価誤り額に係る部分は、次のとおりである。
イ 本件土地の価額は、本件当初申告書において地上権又は借家権の目的となっている宅地いわゆる貸宅地として評価されていたところ、本件土地は土地の使用収益に関する権利の目的となっていない、いわゆる自用地であったこと。
ロ 本件家屋の価額は、本件当初申告書では借家権の目的となっている家屋として、当該建物の価額から借家権の価額を控除して評価されていたところ(以下「貸家の評価」という。)、本件家屋はその建築が平成元年12月であるから、租税特別措置法第69条の4《相続開始前三年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例》の規定により貸家の評価はできないこと。
(3) 請求人は、当審判所に対し次のとおり答述している。
イ 請求人は、本件当初申告に関する申告については、すべて請求人の父であるB男(以下「B男」という。)に任せていたこと。
ロ A税理士への本件当初申告書に係る作成依頼には、B男が請求人の代理人としていったこと。
(4) B男は、当審判所に対し次のとおり答述している。
イ 本件当初申告書の作成には、請求人自身は直接関与しておらず、B男が請求人の代わりに本件当初申告書の作成をA税理士に委任したこと。
ロ B男は、本件当初申告書の作成をA税理士に委任するに当たり、A税理士に本件土地を見せたこと及び本件土地が自用地として評価されている昭和61年4月の相続に係る申告書をA税理士に見せたこと。
ハ B男は、本件当初申告書の作成をA税理士に委任するに当たり、A税理士に本件家屋の取得年月ないし建築年月等について話したこと。
(5) ところで、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に対して過少申告加算税を課するものと規定しているところ、同条第4項では、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められる場合には、その正当な理由があると認められるものがある場合の過少申告加算税の基礎となる「納付すべき税額」は、その正当な理由があると認められる事実に基づく税額として同法施行令第27条《過少申告加算税を課さない部分の税額の計算》で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項を適用することとされている。
 そこで、ここでいう「正当な理由」に当たる事由としては、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知り得ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等が考えられるところ、具体的には、(イ)税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解が、その後改変されたため修正申告をなし、又は更正を受けるに至った場合、(ロ)災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け、又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をなし、又は更正を受けるに至った場合、(ハ)その他、真にやむを得ない事由が認められる場合等が該当するものと解されている。
(6) 本件修正申告書は、前期(1)のとおり、本件当初申告書が提出された後に、本件調査により本件不動産の価額の評価誤りを指摘され提出したものであることが認められる。
 してみると、本件修正申告書は、従来の誤った本件当初申告書を是正したものであって、当初適正であった申告がその後の事情の変更により税額等が過少になった場合ではないことは明らかである。
 また、請求人は、自らの意思と責任において本件相続に係る相続税の申告をB男に任せ、B男は、請求人の代理人としてA税理士に本件当初申告書の作成を依頼して本件当初申告書を作成させ、これを提出したものである以上、たとえA税理士の過誤によって本件当初申告が過少申告となったとしても、本件当初申告書は請求人の責任において提出されたものであり、かつ、過少申告となったことについて上記(5)に述べたような正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定は適法である。
(7) その他
 原処分庁のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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