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(平4.12.25、裁決事例集No.44 108頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、歯科医業を営む者であるが、平成2年分所得税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成4年3月3日付で次表の「更正」欄のとおり更正及び「賦課決定」欄のとおり賦課決定をした。

(単位:円)
区分 項目 金額
確定申告 事業所得の金額(総所得金額) 8,515,567
還付金の額に相当する税額 1,980,301
更正 事業所得の金額(総所得金額) 10,759,562
還付金の額に相当する税額 1,307,101
賦課決定 過少申告加算税の額 67,000

 

 請求人は、これらの処分を不服として平成4年3月23日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
(イ) 請求人は、現在の診療所のほかに診療所(以下「本件分院」という。)を開設するため、平成2年4月5日、○○市××町2911番938の畑560平方メートル(以下「本件土地」という。)を建設用地として取得し、その取得資金をP信用金庫R支店(以下「P信用R支店」という。)から借り入れた。
 請求人は、平成2年中に支払った上記借入金に係る支払利子(以下「本件支払利子」という。)2,333,995円を、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した。
 更に、請求人は、本件土地の取得の際に本件土地の仲介をした不動産業者A男(以下「A男」という。)から、駐車場収入として平成2年中に受領した金員(以下「本件金員」という。)90,000円を総収入金額に算入した。
 これに対して、原処分庁は、本件支払利子は請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できないとし、また、本件金員についても事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入できないとして更正をした。
 しかしながら、本件土地は、次のとおり、請求人の事業所得を生ずべき業務の用に供される資産(以下「事業用資産」という。)であり、本件金員及び本件支払利子は、事業所得の金額の計算上、それぞれ総収入金額及び必要経費に算入されるべきである。
A 本件土地は、本件分院の建設用地として取得したものであること。
B 本件土地は、本件分院の建設工事に着手こそしていないが、建設予定地であることには何ら変更はないこと。
(ロ) 仮に、本件金員及び本件支払利子を、事業所得の金額の計算上、それぞれ総収入金額及び必要経費に算入できないとしても、次の理由により、不動産所得の金額の計算上、本件金員は総収入金額に、本件支払利子は必要経費に算入されるべきである。
A 本件土地は、本件分院の建設工事に着手するまでの間、駐車場又は資材置場として一般の人に賃貸するつもりであったこと。
B 請求人は、本件土地を取得した際、A男に借主の募集を口頭で依頼していたこと。
C 前記Bの依頼について、請求人は、A男との間に具体的な契約を結んではいなかったものの、依頼内容は、永年の付き合いがあることから、双方とも十分理解していたものと認識していたこと。
D 請求人は、本件土地を本件分院の建設用地として取得したものであるが、本件分院の着工時期を具体的に決められなかったので、やむを得ず、本件分院の建設工事に着手するまでの間、本件土地を賃貸する予定で次のことを行ったこと。
(A) 本件土地を駐車場として賃貸するための線引き及び看板等の整備。
(B) 本件土地を資材置場としても賃貸するための借主の募集。
E 請求人は、A男から受け取った本件金員90,000円を事業所得の収入と誤認して計上していたが、不動産所得の収入であること。
(ハ) したがって、事業所得又は不動産所得の金額の計算上、本件金員は総収入金額に、本件支払利子は必要経費に算入すべきであるので、総所得金額は、確定申告額のとおり8,515,567円である。
ロ 賦課決定について
 前記イのとおり、更正は違法であるから、その全部の取消しに伴い、過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
(イ) 本件支払利子について調査したところ、本件支払利子は、請求人がP信用R支店から借り入れた借入金に係る利子であることが認められる。
(ロ) 本件土地について、調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、現在のところ、本件分院を建設するための具体的な行動を行っていないこと。
B 請求人は、本件土地を駐車場として賃貸するため、A男に賃借人を探してくれるよう依頼したこと。
C 本件土地は、賃借人が見付からなかったため、現在まで賃貸されたことがなかったこと。
D 本件土地は、駐車場としての線引き・看板等を設置した事実は認められず、更地のままであったこと。
(ハ) 請求人は、原処分庁に対して、本件土地は平成3年中に本件分院を建設する予定で取得したものである旨申述していること。
(ニ) 以上を総合して判断すると、本件分院を建設するための具体的な建設計画もなく、また、駐車場として賃貸した事実も認められないので、本件土地は、請求人の事業用資産には該当しない。
 そうすると、所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第1号の規定により、本件土地の取得のために要した本件支払利子は、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。
 また、請求人が事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入した本件金員は、総収入金額に含まれないこととなる。
(ホ) なお、請求人は、仮に本件支払利子が、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできないとしても、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきである旨主張するので調査したところ、次のとおりである。
A A男は、原処分庁に対して、次のとおり申述している。
(A) 本件土地の仲介を行った際、請求人から本件土地を駐車場等として賃借する人を探してくれるよう依頼されたが、その賃借に関する具体的な取決めはなかったので、単に、賃借する人がいたら紹介してほしいという程度の依頼と認識していたこと。
(B) 前記(A)の依頼があった後、本件土地を不動産管理台帳に管理物件として登載することもなく、また、本件土地について店頭広告等も行わないなど賃借人を探すために積極的に活動しなかったこと。
(C) 本件土地を駐車場等として賃借する人が見付からなかったこと。
B 本件土地の取得後の状況は、次のとおりである。
(A) 本件土地は、周囲をすべて鉄線の柵で囲まれ「B(請求人の姓)歯科(以下「B歯科」という。)と表示された看板が立てられていること。
(B) 本件土地は、不動産業者の管理物件である旨の表示も一切なく、賃貸物件であるか否かが明らかでないこと。
 以上のことから、請求人は、本件土地をA男に単に駐車場等として賃借する人を探してくれるように依頼したにすぎないことから、本件土地は不動産所得を生ずべき業務の用に供される資産(以下「不動産貸付用資産」という。)とは認められない。
(ヘ) そうすると、請求人の平成2年分の事業所得の金額は、請求人が申告した事業所得の金額8,515,567円から、本件土地を駐車場として賃貸した収入であるとして総収入金額に算入していた本件金員90,000円を減算し、必要経費に算入していた本件支払利子2,333,995円を加算した10,759,562円となる。
(ト) 請求人の総所得金額は、前記(ヘ)の事業所得の金額10,759,562円のみと認められる。
 したがって、総所得金額が前記(ト)の金額と同額でされた更正は適法である。
ロ 賦課決定について
 前記イのとおり、更正は適法であり、かつ、請求人が過少申告をしたことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定も適法である。

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3 判断

(1) 更正について

 本件金員及び本件支払利子を、事業所得又は不動産所得の金額の計算上、それぞれ総収入金額及び必要経費に算入することができるか否かについて争いがあるので、これらについて、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 次のことについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件土地を本件分院の建設用地として、平成2年4月5日に請求人名義で取得していること。
(ロ) 請求人は、本件土地を取得するためにP信用R支店から借入れをしていること。
(ハ) 請求人は、本件支払利子2,333,995円を、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入していること。
(ニ) 請求人は、本件金員90,000円を、事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入していること。
ロ 原処分関係資料等を基に当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件土地を取得した後、本件土地を賃貸するためにA男に借主を探してくれるように依頼していたこと。
(ロ) 請求人が取得した後の本件土地の状況は、次のとおりである。
A 請求人は、本件土地にあった桃の木を切る等の整備を行ったこと。
B 本件土地は、起伏があり、雑草等が生い茂り、桃の木が2本残っていること及び周囲がすべて鉄線の柵で囲まれていること。
C 本件土地に、「B歯科」と表示された看板が立てられていること。
D 本件土地は、アスファルト舗装などは行われておらず、また砂利等を入れた形跡もないこと。
E 本件土地は、本件分院建設のための造成工事等が行われた事実は認められないこと。
ハ 請求人の父は、当審判所に対して、本件土地は取得後、駐車場等として使用したことはなく、空き地のままになっている旨答述していること。
ニ A男は、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ) 請求人から本件土地を借りる人がいれば探してほしいと依頼されたが、請求人との間にその土地の賃貸に関する具体的な契約はなかったこと。
(ロ) 本件土地は駐車場として賃貸できる状況ではなかったので、一括して材料置場として賃貸する人があればいいと考えていたこと。
(ハ) 本件金員は、請求人と本件土地の賃貸の話を継続したいために支払ったものであること。
ホ A男は、原処分庁に対して、次のとおり申述している。
(イ) 本件土地の賃借人が見付かった場合、その賃借について請求人と具体的な相談をしなければならないと考えていたこと。
(ロ) 本件土地の賃借人が見付かった場合、請求人から仲介料を受け取る約束だったこと。
(ハ) 請求人から本件土地の管理を依頼されていなかったこと。
ヘ 本件土地の造成工事を請け負った○○は、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ) 造成前の本件土地には、桃の木が20本ぐらい植えてあり、雑草が茂っていたこと。
(ロ) 元請のA男から雑木の整理、草刈り、木を切ってある程度整地を行うことを請け負ったこと。
(ハ) 本件土地は、粘土質であるので砂利を入れるかアスファルト舗装等をしなければ駐車場としては使えないこと。
ト 所得税法第37条《必要経費》第1項によれば、不動産所得の金額、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき金額は、「別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」と規定されている。
チ ところで、事業所得又は不動産所得の金額の計算上、資産の取得等について生じた費用が必要経費に算入されるためには、その資産が事業用資産又は不動産貸付用資産であることを要し、新規に土地を業務の用に供する場合、一般に土地の利用目的が、業務用、家事用など多岐にわたることから、土地が事業用資産あるいは不動産貸付用資産であるかどうかは、その取得目的や取得者の主観的意思において業務の用に供される資産であるというだけでは足りず、その土地の具体的な使用状況から、その土地が事業所得あるいは不動産所得を生ずべき業務に供される場合であるか、他に明らかに事業所得あるいは不動産所得を生ずべき業務の用に供されるものと推認し得る特段の事情がある場合かどうかを、総合勘案して判定することとされている。
リ そこで、本件について、前記イないしチの事実等を基に検討すると、次のとおりである。
(イ) 請求人は、本件土地は本件分院を建設する予定地であるから事業用資産に当たるので、本件支払利子は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるべきである旨主張するが、本件土地は、前記ロ及びハのとおり、本件分院の建設着工もなく、周囲をすべて鉄線の柵で囲まれ、「B歯科」と表示された看板が立てられているのみ等であることから、請求人の事業用資産であるとは到底認められない。
(ロ) また、請求人は、本件支払利子は事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができないとしても、本件土地は本件分院の建設工事に着手するまでの間、駐車場として賃貸するための整備等を行い、借主を探すための努力をしているので、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるべきである旨主張する。
 しかしながら、次のことから、本件土地は、平成2年中に貸付業務の用に供されたとする事実はなく、明らかに貸付業務の用に供されると推認し得る特段の事情も認められないことから、不動産貸付用資産とは認められない。
A 請求人は、本件土地の取得後、本件土地を賃貸するために、A男に賃借人を探してくれるように依頼したことは認められるが、前記ニの(イ)のとおり、賃貸に関する具体的な契約はなかったこと。
B 請求人は、本件土地の取得後、整地等を実施したとしているが、本件土地は、前記ロの(ロ)、ニの(ロ)及びヘのとおり、駐車場として賃貸できる状況ではなく、「B歯科」の看板が立てられているにすぎないこと。
C 前記ハ及びホのとおり、本件土地は、平成2年中に賃貸された事実はないと認められ、具体的には空き地のまま何ら使用されていないと認められること。
 したがって、本件土地は、事業用資産又は不動産貸付用資産のいずれにも該当せず、本件土地の取得のための借入金に係る本件支払利子は、事業所得又は不動産所得を生ずべき業務について生じた費用とは認められないので、請求人の事業所得及び不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。
(ハ) なお、請求人は、本件金員が不動産所得の収入金額である旨主張するが、前記ニの(ハ)のとおり、A男は、本件金員90,000円について、請求人と本件土地の賃貸の話を続けたいために支払ったものである旨答述していることから、本件金員は、請求人の事業に基因して生じた収入とは認められず、また、不動産の貸付けによる収入とも認められないので、事業所得及び不動産所得の金額の計算上、総収入金額に算入されず、所得税法に規定する上記以外の利子所得、配当所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得にも該当しないことから請求人の雑所得に当たるとみるのが相当である。
ヌ そうすると、請求人の事業所得の金額は、請求人が申告した事業所得の金額8,515,567円から、事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入していた90,000円を減算し、必要経費の額に算入していた2,333,995円を加算した10,759,562円となる。
ル 請求人の総所得金額は、前記リの(ハ)の雑所得の金額90,000円と前記ヌの事業所得の金額10,759,562円の合計額10,849,562円となる。
 したがって、前記総所得金額の範囲内でされた更正は適法である。

(2) 賦課決定について

 前記(1)のとおり、更正は適法であり、かつ、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定も適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによってもこれを不相当とする理由は認められない。

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