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(平4.10.15、裁決事例集No.44 152頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、精神・神経科病院を営む者であるが、昭和60年分、昭和61年分、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書に別表1のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
 その後、請求人は、昭和63年11月4日に昭和60年分、昭和61年分及び昭和62年分について、それぞれ別表2のとおり記載した修正申告書を提出したところ、原処分庁は、同月18日付で同表の「過少申告加算税の額」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定をした。
 更に、請求人は、平成2年7月10日に各年分について、それぞれ別表3の「再修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出したところ、原処分庁は、同年8月28日付で同表の「再修正申告に係る過少申告加算税の額」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定をするとともに、同日付で各年分について、それぞれ同表の「更正等」欄のとおり更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定をした。
 請求人は、平成2年8月28日付でされた各年分の更正並びに更正に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を不服として、平成2年10月23日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成3年2月4日付で棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、平成3年3月1日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
(イ) A男に対する報酬
 請求人は、各年分において同人の経営する精神・神経科病院B(以下「B病院」という。)の非常勤医師であるA男(以下「A男」という。)に対し、次表の「支給額」欄の報酬(以下「本件報酬」という。)を支給し、これを必要経費の額に算入した。
 原処分庁は、これに対して、本件報酬のうち役務の相当な対価の額として必要経費の額に算入できる額は、A男がB病院に勤務した日数に、請求人がA男以外の非常勤医師(以下「他の非常勤医師」という。)に支給していた一日当たりの報酬の額46,000円(以下「日給相当額」という。)を乗じて算定した次表の「原処分庁認定額」欄記載の額であるとして、本件報酬の支給額との差額(次表の「否認額」欄記載の額)を必要経費の額に算入できないとして更正した。

(単位:円)
項目
年分
1支給額 2原処分庁認定額 3否認額(12)
昭和60年分 7,960,000 552,000 7,408,000
昭和61年分 8,140,000 552,000 7,588,000
昭和62年分 8,200,000 414,000 7,786,000
昭和63年分 8,100,000 552,000 7,548,000
平成元年分 8,200,000 506,000 7,694,000

 

 しかしながら、A男は、B病院が保管する病院日誌(以下「病院日誌」という。)記載のとおり、日曜日にはB病院において入院患者の健康診断をしていたほか、緊急時における指導、助言及び当直医を依頼した大学病院の医師への連絡等の援助をしていたから、本件報酬が他の非常勤医師に比し日給相当額を超えるのは当然のことであり、また、請求人は、事業を継続していく必要から、A男を将来B病院の常勤医師として迎えるため、相応の報酬を支給しなければならず、本件報酬は役務の対価として相当な額であり、その全額を必要経費の額に算入すべきである。
(ロ) C女及びD女に対する給料賃金
 請求人は、各年分においてB病院の事務長であるE男(以下「E男」という。)の妻C女(以下「C女」という。)及びD女(以下、C女及びD女の両名を「C女ら」という。)に対して給料賃金を支給して、必要経費の額に算入した。
 原処分庁は、これに対して、C女らがB病院の業務に就労していた事実はないとして、それぞれ次表の金額を必要経費の額に算入できないとして更正した。

(単位:円)
支給先
年分
C女 D女
昭和60年分 2,109,000 1,758,000
昭和61年分 2,236,500 1,851,600
昭和62年分 2,327,400 1,935,800
昭和63年分 2,430,600 2,016,600
平成元年分 2,518,800 2,097,800

 

 しかしながら、C女は事務員として、また、D女は掃除婦として、それぞれB病院の業務を就労していたから、C女に対する給料賃金は、その全額を必要経費の額に算入すべきである。
ロ 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は各年分とも違法で取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税及び重加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正について
(イ) A男に対する報酬
 本件報酬には、次のとおり役務の相当な対価ではない部分があるから、当該部分を必要経費の額に算入できないとした更正は適法である。
A 請求人は、他の非常勤医師に支給した報酬の額については、各年分とも、病院日誌に記載された他の非常勤医師のB病院に勤務した日数に日給相当額を乗じて算定している。
B 一方、A男と他の非常勤医師の役務の内容は、各年分ともそれぞれ異なるものではないところ、A男のB病院に勤務した1日当たりの報酬に額は、次表のとおり、各年分とも、他の非常勤医師の報酬の額と比較して極めて高額となっている。

 

項目
年分
1勤務した日数 2本件報酬の額 31日当たりの金額(1÷2)
昭和60年分
12

7,960,000

663,333
昭和61年分 12 8,140,000 678,333
昭和62年分 9 8,200,000 911,111
昭和63年分 12 8,100,000 675,000
平成元年分 11 8,200,000 745,455

 

C ところで、所得税法第37条《必要経費》第1項の規定によれば、事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入すべき金額は、総収入金額を得るために直接要した費用でその年において債務の確定したものに限られるから、報酬、給料賃金などは、業務遂行上必要と認められる役務の対価として相当な額であることが必要である。
D これを本件についてみると、請求人がA男に対して他の非常勤医師の報酬よりも高額な報酬を支払わなければならない理由はなく、請求人がA男に対して業務遂行上必要と認められる額を超える報酬を支払っていたのは、A男が請求人の従兄弟であり、また、B病院の事務長E男の実弟であることからと認められる。
E 本件報酬のうち上記B記載の勤務した日数に他の非常勤医師に支給される日給相当額を乗じて算定される金額は、次表のとおりであり、この額を超える部分は、役務の対価として相当な額ではないから、これを必要経費の額に算入しなかったものであり、更正に何ら違法な点はない。

 

項目
年分
1勤務した日数 2日給相当額 3必要経費に算入される額(1×2)
昭和60年分
12

46,000

552,000
昭和61年分 12 46,000 552,000
昭和62年分 9 46,000 414,000
昭和63年分 12 46,000 552,000
平成元年分 11 46,000 506,000

 

(ロ) C女及びD女に対する給料賃金
 C女らは、次のとおりいずれもB病院の業務に就労しておらず、請求人は、業務に従事していない親族関係者の生活費の一部を負担するため、これらの者に対して給料賃金を支給していたと認められるから、原処分庁は、これを業務遂行上必要な給料賃金として必要経費の額に算入できないとして更正したものである。
A C女がB病院の事務員として業務上作成した帳簿書類はないこと。
B 請求人の職員給与規定第4条によれば、一般職員として取り扱われているC女に係る本件賃金は、時間単位で計算すべきところ、毎月一定額が支給されていること。
C C女らに係る出勤簿(以下「本件出勤簿」という。)は、B病院に作成保管されているが、E男は、原処分の調査相当者に対して、C女がB病院に出勤していなくとも、その出勤簿にE男が「出勤」の判を押していたことがある旨答述し、本件出勤簿が、真実の出勤状況を表す書類ではないことを認めていること。
D E男及びB病院の元従業員は、原処分の調査担当者に対して、D女はE男の母F女のために雇われた家政婦である旨答述していること。
ロ 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定について
(イ) 過少申告加算税の賦課決定
 以上のとおり、更正は、各年分とも適法であり、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(昭和60年分及び昭和61年分については昭和62年法律第96号による改正前のもの。以下同じ。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。
(ロ) 重加算税の賦課決定
 更正に係る事業所得の金額のうち、C女らの給料賃金については、上記イの(ロ)のとおり、請求人が業務に従事していない者の出勤簿を作成して、あたかも業務に従事していたかのように仮装していたものであり、このような行為は、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を仮装した行為に該当するので、C女らの給料賃金に対応する納付すべき税額に対して、上記(イ)の過少申告加算税に代えて、国税通則法第68条《重加算税》第1項の規定に基づいて重加算税を賦課決定したことは適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1) 更正について

イ A男に対する報酬
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A A男は、各年分においてP市立病院の内科担当の常勤医師であり、また、請求人の従兄弟で、E男の実弟であること。
B A男は、各年分において病院日誌に記載されているとおり非常勤医師として、日曜日にB病院に勤務していること。
C 請求人は、日曜日にB病院に勤務する他の非常勤医師に対する報酬として、勤務した日数に日給相当額を乗じて算定した額を当該他の非常勤医師に支給していること。
(ロ) 当審判所が、A男の請求人に提供した役務について、B病院、P市立病院、A男及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
A A男がP病院に出勤した日数は、病院日誌によれば、昭和60年、昭和61年及び昭和63年はいずれも12日であり、昭和62年及び平成元年はそれぞれ9日及び11日であること。
B 病院日誌に記載されたA男と他の非常勤医師のそれぞれの勤務の内容は、特に異なったものではないこと。
C 請求人及びA男は、A男の勤務実績について病院日誌以外の資料を提出しないこと。
(ハ) ところで、事業所得の金額を算定するに当たり、必要経費にされる額は、所得税法第37条第1項の規定により、総収入金額を得るために直接要した費用でその年において債務の確定したものに限るとされ、かつ、その支出が必要経費の額として控除され得るためには、客観的にみて、それが業務遂行上必要と認められる範囲内の額であることが必要であると解すべきところ、報酬又は給料賃金については、役務又は労務の対価として相当な額を必要経費の額としなければならない。
 これを本件についてみると、請求人は、A男に日曜日の入院患者の健康診断以外に緊急時における指導、助言及び当直医を依頼した大学病院の医師への連絡等の援助を受けていたと主張するものの、具体的にいつ、どのような用件で特別な援助を受けたのかを明らかにする資料等は提出しないうえ、当審判所が調査したところ、A男は、P市立病院の職員であることから、地方公務員としての職務専念義務が課せられており、P市立病院に勤務していた時間内にB病院に勤務していた事実は認められず、A男が上記のような指導、助言及び援助をしていた事実があったとしても、請求人が経常的な対価を支払わなければならない程度の業務であったとは認められない。
 また、請求人は、A男を将来常勤医師として迎えるため、相応の報酬として本件報酬を支給しなければならない旨主張するが、本件報酬は、A男が請求人以外の者から収受する報酬の額と比較しても、その勤務内容からみて不相応に高額と認められ、結局のところ、請求人が、このような高額な報酬を支給していたのは、A男が請求人の親族であったことによるものと認められる。
(ニ) つぎに、当審判所が、B病院の近隣に所在する公的な医療機関を調査したところ、これら医療機関の常勤医師でいずれも年令及び医師としての経験がA男と類似していると認められる者が支給を受けている給与の1日当たりの平均額は、各年分とも、B病院の非常勤医師が支給を受けている日給相当額を上回るものではないから、請求人がA男に支給すべき1日当たりの報酬の額は、46,000円とするのが相当である。
(ホ) そうすると、原処分庁が、本件報酬の額のうちA男がB病院に勤務した日数に46,000円を乗じて算定された額を超える額を必要経費の額に算入しなかったことは相当であり、請求人の主張には理由がない。
ロ C女及びD女に対する給料賃金
(イ) 当審判所が、請求人、請求人の取引金融機関及び原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人が保管する本件出勤簿の出勤日の押印欄には、各年分とも「出勤」の判の押印があること。
B 請求人は、C女らに各年分とも毎月定額で給料賃金を支給していること。
C C女らに対する給料賃金の内訳は、次のとおりであること。

(A) C女に係るもの

(単位:円)
区分
年分
給料賃金 現物給与 合計
昭和60年分 2,050,600 58,400 2,109,000
昭和61年分 2,177,700 58,800 2,236,500
昭和62年分 2,269,000 58,400 2,327,400
昭和63年分 2,376,000 54,600 2,430,600
平成元年分 2,466,000 52,800 2,518,000

(注)現物給与は、請求人が給与所得の金額の計算のために加算している金額である。以下同じ。

 

(B) D女に係るもの

(単位:円)
区分
年分
給料賃金 現物給与 合計
昭和60年分 1,700,000 58,000 1,758,000
昭和61年分 1,794,000 57,600 1,851,600
昭和62年分 1,878,000 57,800 1,935,800
昭和63年分 1,959,000 57,600 2,016,600
平成元年分 2,042,400 55,400 2,097,800

 

D C女らに係る各年分の現物給与は、請求人の帳簿上では賄費として計上されていること。
E 請求人の元従業員は、D女が同人及びE男の家族の昼食をB病院の食堂に受け取りに来ていた旨を答述していること。
(ロ) E男は、当審判所に対して、C女が継続的にB病院に出勤してはいなかった旨答述しており、C女に係る出勤簿については、C女が出勤していない日においても自ら押印をした事実があることも認めている。
 また、E男は、当審判所に対して、C女が事務の補助をしていた旨答述するが、C女が事務の補助者として勤務していたのであれば、そのことを裏付ける同人作成の帳簿書類等何らかの書類が存在すべきところ、請求人は、C女は帳簿書類等を作成していないとしてこれを提示しない。
 更に、当審判所が、原処分関係資料を調査したところ、C女は、異議審理の担当者に対して、帳簿書類等は作成したことはない旨答述している。
(ハ) E男は、当審判所に対して、D女は病室又は病室の窓の掃除婦として勤務し、同人に係る出勤簿は、D女本人が「出勤」の判を押印していた旨答述するが、当審判所が、原処分関係資料を調査したところ、B病院の清掃業務等に従事していた元従業員は、原処分の調査担当者に対して、D女が清掃業務に従事した事実は全くなかった旨答述している。
 仮に、D女が、B病院の清掃業務に継続的に従事していたのであれば、その職掌柄、同人と同様な業務に従事している他の従業員との常日ごろからの面識があることが当然と解されるところ、当審判所が調査したところによっても、D女が掃除婦として勤務していた事実を見いだすことはできない。
(ニ) 原処分の調査担当者に対するB病院の元従業員の答述並びに当審判所がB病院、E男の自宅及び同人の母F女の自宅に出入りしている者を調査した結果によると、C女は、E男の自宅の家事に、また、D女は、F女の自宅の家政婦としての仕事に専念していることが認められ、請求人の業務に従事していた事実は認められない。
 また、請求人の元従業員は、D女が同人及びE男の家族の食事をB病院の食堂に受け取りに来ていた旨を答述していることから、請求人は、C女らに対して食事を支給していた事実が認められる。
(ホ) 以上のことに加え、請求人は、C女らが請求人の業務に従事したと主張するのみで、それを裏付ける具体的な証拠資料を提出しないことから、C女らに対する給料賃金及び現物給与は、請求人の親族関係者の生活費又は家事上の経費を負担していたものにすぎず、業務遂行上必要な費用とは認められない。
 したがって、C女らに対する給料賃金及び現物給与の全額が必要経費の額に算入できないとした更正は相当である。

(2) 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定について

イ 過少申告加算税の賦課決定
 以上のとおり、更正は各年分とも適法であり、更正により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定したことは相当である。
ロ 重加算税の賦課決定
 国税通則法第68条第1項の規定によると、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出したときは、過少申告加算税に代えて重加算税を課することとされている。
 これを本件についてみると、請求人は、C女らが業務に従事していないにもかかわらず、C女らの出勤簿を作成してあたかも業務に従事していたかのように仮装して、C女らに給料賃金を支給していたものであり、また、現物給与の支給を受けたC女らが業務に従事していないことが明らかであるにもかかわらず、C女らが従業員であると事実を仮装していることから、原処分庁が、これらの事実を課税標準等の計算の基礎となるべき事実を仮装した行為に該当するとして、C女らの給料賃金及び現物給与に対応する納付すべき税額に対して国税通則法第68条第1項の規定に基づいて重加算税の賦課決定をしたことは相当である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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