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(平4.9.16、裁決事例集No.44 217頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、雑貨等の輸入販売業を営む同族会社であるが、平成元年3月1日から平成2年2月28日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に、所得金額を450,062,701円、納付すべき税額を133,567,000円と記載して法定申告期限までに提出した。
 請求人は、平成2年9月25日に所得金額を457,458,196円、納付すべき税額を136,671,700円と記載した修正申告書を提出した。
 原処分庁は、上記修正申告に対し平成2年12月13日付で過少申告加算税の額を310,000円とする賦課決定をした。
 更に、原処分庁は、平成2年12月14日付で所得金額を1,716,371,062円、課税留保金額を57,034,000円、納付すべき税額を672,398,400円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を71,804,500円とする賦課決定をした。
 請求人は、平成2年12月14日付の原処分を不服として同年12月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成3年3月26日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成3年4月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正について
(イ) 本件匿名組合投資損失
A 請求人は、A株式会社(以下「A社」という。)が行う航空機1機のリース事業(以下「本件リース事業」という。)について、請求人を組合員、A社を営業者(以下「本件営業者」という。)とする商法第三編《商行為》第4章《匿名組合》に規定する匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」といい、成立した匿名組合を「本件匿名組合」、その契約書面を「本件匿名組合契約書」とそれぞれいう。)を平成元年7月27日付で締結した。
 なお、本件営業者は、本件リース事業につき、請求人だけでなく複数の組合員との間に同一内容の匿名組合契約を締結することを予定しており、本件匿名組合契約書も定型的な内容のものである。
 そして、本件匿名組合契約書第7条《会計報告》第1項に定める会計報告の計算期間は、毎年4月1日から9月30日まで及び10月1日から翌年3月31日までの期間(ただし、第1回の計算期間は平成元年7月27日から平成2年3月31日までの期間とする。以下「契約計算期間」という。)であったところ、請求人は、この計算期間を毎年4月1日から9月30日まで、10月1日から翌年2月末日まで及び3月1日から3月31日までの期間(ただし、第1回の計算期間を平成元年7月28日から同年9月30日までの期間とする。以下「覚書計算期間」という。)に変更する覚書(以下「本件覚書」という。)を平成元年7月27日付で本件営業者と締結した。
 請求人は、本件覚書に基づき、本件事業年度に属する計算期間(平成元年7月28日から同年9月30日まで及び同年10月1日から平成2年2月28日までの期間をいい、以下「本件事業年度に係る計算期間」という。)に係る本件リース事業の損失の額のうち請求人が負担すべき損失の額として、本件営業者から会計報告を受けた次表の損失の額(以下「本件匿名組合投資損失」という。)を本件事業年度の特別損失として損金の額に算入した。

(単位:円)
計算期間 損失の額
平成元年7月28日〜同年9月30日 611,331,004
平成元年10月1日〜平成2年2月28日 654,126,551
合計 1,265,547,555

 

B これに対し、原処分庁は、本件匿名組合投資損失が本件事業年度末において確定した損失の額ではないことから、損金の額に算入することは認められないとして本件更正を行った。
 しかしながら、本件匿名組合投資損失は、次のとおり本件事業年度末において確定した損失であるから、本件事業年度の損金の額に算入すべきである。
(A) 商法上の匿名組合は、一つの出資者と営業者の二当事者に限られ、その事業は、営業者の事業損益と別個に収支損益が区分できる相対的独立性のある事業の全部ないし一部であればよいと解されている。
 また、営業者は、匿名組合契約における事業について、複数の出資者と複数の匿名組合契約を締結することができることとされ、それぞれの匿名組合契約の事業における収支損益は、それぞれ別個に区分して計算できればよいと解され、かつ、この場合には出資者相互間には何ら法律関係は存在しないと解されている。
 そして、匿名組合の計算期間については、商法上別段の定めがないことから、契約自由の原則に照らして各匿名組合ごとに他の出資者と別個あるいは同一にその計算期間を定めることが自由であり、そうすることは何ら匿名組合の本質と矛盾するものではない。
 更に、別個に収支損益が計算できない場合には複数の匿名組合契約は成立しないはずであり、別個に収支損益が計算できるということは、それぞれの出資者について別個の計算期間が可能と考えられる。
 したがって、本件匿名組合契約に定める計算期間が覚書計算期間であるので、当該期間の末日は、本件事業年度に含まれることから、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)14―1―3《匿名組合契約に係る損益》の定めるところに従い、請求人が本件事業年度に係る計算期間の負担すべき損失の額として本件営業者から報告を受けた本件匿名組合損失は、本件事業年度末において確定した損失であるから、本件事業年度の損金とすべきである。
(B) 匿名組合の事業の利益又は損失の額は、その匿名組合契約の定めにより計算されるものであり、その契約の定めに基づき計算された利益又は損失の額から出資者の出資持分により分配される金額が出資者の法人税法上の益金又は損金の額となると考えられる。
 そして、本件営業者は、出資者に分配すべき本件匿名組合の事業に係る利益又は損失の額を計算するに当たり、本件匿名組合契約の事業用資産である航空機(以下「本件資産」という。)の減価償却費及び覚書計算期間末の債権債務等について、次の方法によりその金額を算定し、また、匿名組合の事業に係る利益又は損失の額は、覚書計算期間ごとに計算されているので、その計算期間における利益又は損失の額は合理的に算定されており、その計算期間の真実の損益を反映しているものである。
a 本件資産の減価償却費は、法人税法に規定する定率法に基づき、本件営業者の事業年度の年間減価償却費を算定し、その金額を覚書計算期間の月数に応じ月数あん分した金額をその計算期間に対する減価償却費とする。
b 覚書計算期間末の債権債務は、発生基準に基づき適正に計上する。
 また、外貨建債権債務の評価は、本件営業者が税法上取得時換算法を採用していることからこれに基づき算定する。
(C) なお、匿名組合契約の定めにより計算される利益又は損失の額に、税法の規定により損金として算入されない減価償却資産の減価償却超過額等の差額(以下「税法上の差額」という。)が仮に含まれていたとしても、当該税法上の差額は、営業者が確定申告に際し自らが申告調整を行い自己の所得として申告を行えば足りるものであるから、出資者に対する利益の分配額又は損失の負担額には何ら影響を及ぼすものではない。
(ロ) 寄付金の損金不算入額
 本件匿名組合投資損失が益金の額に算入されたことに伴って更正された寄付金の損金不算入額については、仮にその算入が適法とされた場合には争わない。
(ハ) 課税留保金額
 法人税法第67条《同族会社の特別税率》に規定する特別税率の対象となる金額(以下「課税留保金額」という。)については、仮に本件匿名組合投資損失の益金の額への算入が適法とされた場合には争わない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正について
(イ) 本件匿名組合投資損失
A 商法上の匿名組合は、当事者の一方が相手方の事業のために出資し、相手方がその事業から生じる利益を分配することを約束する契約であり、請求人が主張するとおり、出資者が複数の場合には、複数の匿名組合が存在し、出資者相互間には何ら法律関係が存在しないとしても、匿名組合においては、出資者が営業者に出資するだけであり、その出資及び事業に関する権利義務はすべて営業者に帰属することになるから、匿名組合は出資者と営業者との信頼関係から成り立っていると考えられる。
 また、商法上は一つの営業者が複数の出資者との間にそれぞれ別個に匿名組合契約を締結する場合には、その匿名組合ごとにその計算期間を定めることができると解されているが、これはその匿名組合の事業が他の匿名組合の事業から独立している場合に認められるものであって、本件リース事業のように、それぞれの匿名組合契約が同一の事業に対する出資を目的としている場合には、おのずと事情が異なるというべきである。
 更に、この考え方に加えて、本件匿名組合のように1機の航空機をリースするという営業者の一つの事業について複数の出資者と複数の匿名組合契約を締結している場合には、それぞれの匿名組合契約は、出資金額が異なる以外、すなわち、出資割合が異なる以外は同一内容となるべきものであり、営業者は、各出資者をそれぞれ平等かつ公平に扱わなければならならないものと認められるところ、本件匿名組合契約書においても、営業者は本件リース事業に関し他の出資者と匿名組合契約を締結することができるが、当該匿名組合契約の内容は、出資金額が異なる以外本件匿名組合契約と実質的に同一とし、営業者は出資割合によって生じる差異を例外として、出資者と他の出資者とを平等かつ公平に扱わなければならない旨を特に定めているのである。
 したがって、本件匿名組合契約書の内容等から、請求人は、出資割合によって生じる差異を除き、営業者から他の出資者と異なる不公平、不平等な取扱いを受けないこと、言い換えれば、営業者自身が各出資者に影響を及ぼすような計算を含む恣意的な行為をすることができないことを、十分に理解し、かつ、承知しているはずである。
B 本件リース事業は、1機の航空機を営業者の借入金及び数社からの匿名組合契約に基づく出資によって取得し、それを営業者が自らの名をもってリースするというものであり、各出資者の出資額に相当する部分をそれぞれ切り離して本件匿名組合の事業を考えることは到底できないと認められることから、それぞれの匿名組合において各出資者の権利義務を平等かつ公平に扱うためには、それぞれの計算期間を同一にすることが必要不可欠である。
 この点につき、請求人は、別個に収支損益が計算できない場合には匿名組合契約は成立しないはずであり、別個に収支損益が計算できるということは、それぞれの出資者について別個の計算期間が可能である旨主張するが、本件リース事業につきそれぞれの匿名組合が別個に収支損益の計算ができるのは、それぞれの出資割合に応じてのみであり、請求人と本件営業者との間で本件覚書により他の匿名組合と異なる計算期間を定めたとしても、これにより請求人に帰属させる利益又は損失の額は、他の匿名組合との関係において確定的なものとなるはずはなく、最終的な調整が必要となる仮決算的なものとならざるを得ない。
C また、減価償却資産の減価償却費の計算方法は、法人税法、同法施行令及び耐用年数省令(以下「減価償却に関する法人税等関係法令」という。)で定められているところであり、定額法を用いた場合と異なり、定率法を用いた償却額の計算の場合、2回目以降の償却計算の基礎となる額は、「取得価額から既にした償却費の額で各事業年度の所得の計算上損金の額に算入されたものを控除した金額」であること及び事業年度が1年に満たない場合には償却率が異なってくることから、請求人が主張しているように営業者の定率法による年間償却額を基に出資者の決算期に合わせて償却額を単に月数あん分しても、正しい償却費の額の計算ができないことは明らかである。
 したがって、請求人の主張する減価償却費に係る計算方法は、毎月の減価償却費の額を見積計上するものにすぎず、確定したものとはいえない。
D 更に、営業者が匿名組合契約に基づき匿名組合の事業に係る利益又は損失の額を分配する場合には、その確定した利益又は損失の額を出資者の出資割合等に応じて分配するのであるから、その分配額に不公平、不平等が生じてはならず、万一、誤った計算に基づき不公平、不平等な分配がなされた場合には、速やかに分配額の修正がなされるべきものである。
 この点につき、請求人は、誤った計算に基づき不公平な分配がなされた場合には、営業者が自己の所得として確定申告をすれば足りる旨主張するが、事実に誤りがある以上、恣意的要素を含んだ処理方法を当事者の処理であるからとして認める余地はないものというべきである。
E 以上のとおり、本件覚書による損益の計算は、本件匿名組合契約に基づく請求人の損益の仮決算による未確定の分配金計算にすぎないものであって、計算期間の確定した損益とは認められない。
 したがって、本件匿名組合の事業の第1回目の計算期間は、本件匿名組合契約書第7条第1項に規定された契約計算期間とするのが相当と認められるから、当該事業の第1回の利益又は損失の額は、平成2年3月31日に確定することになるので、本件営業者から請求人に報告された本件匿名組合投資損失1,265,547,555円は、本件事業年度末において確定した損失とは認められず、本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(ロ) 寄付金の損金不算入額
 本件匿名組合投資損失を損金の額に算入しないことに伴い、寄付金の損金不算入額を計算したところ零円となるので、平成2年9月25日に提出した修正申告書で寄付金の損金不算入額とされた6,634,689円は、本件事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されることになる。
(ハ) 課税留保金額
 本件匿名組合投資損失を損金の額に算入しないことに伴い、課税留保金額を算定したところ、本件事業年度の課税留保金額は57,034,000円となる。
(ニ) 以上の結果、前記(イ)及び(ロ)に基づいて、本件事業年度の所得金額を算定すると1,716,371,062円となり、また、課税留保金額は上記(ハ)のとおり57,034,000円となるところ、これらの金額は、本件更正に係る金額と同額となるので、本件更正は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件更正は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件事業年度の損金の額に算入された本件匿名組合投資損失が本件事業年度末の確定した損失であるか否かにあるので、以下審理する。

(1) 本件更正について

イ 本件匿名組合投資損失
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 請求人は、本件営業者と本件リース事業に関して、平成元年7月27日付で本件匿名組合契約を締結し、本件匿名組合契約書には次の内容が記載されていること。
(A) 請求人は、本件営業者が営む本件リース事業のために出資し、本件営業者は、その事業から生じた利益を請求人に分配すること。
(B) 本件リース事業に対する請求人の出資金は、2,000,000,000円とすること。
(C) 本件営業者は、本件リース事業に関し、他の出資者と匿名組合契約を締結することができること。
 ただし、当該匿名組合契約の内容は、出資金額が異なる以外、本件匿名組合契約と実質的に同一とし、本件営業者は、出資割合によって生じる差異を例外として、請求人と他の出資者とを平等かつ公平に扱わなければならないこと。
(D) 本件リース事業に関する請求人及び他の出資者からの出資総額は、3,886,382,635円とすること。
(E) 本件リース事業から生じた利益及び損失は、請求人にその出資割合に比例して配分されること。
(F) 事業期間は、毎年4月1日から翌年3月31日までとし、会計報告のための計算期間は、毎年4月1日から9月30日まで及び10月1日から翌年3月31日までの期間の年2回とすること。
(G) 本件営業者は、計算期間ごとに本件リース事業の損益を確定し、これを請求人に帰属せしめ、請求人に対してその会計報告を文書により行うものとすること。
B 本件匿名組合契約に基づく請求人と本件営業者の関係は、商法第三編第4章(第535条以下)に規定する匿名組合における出資者と営業者との関係であり、請求人は、本件リース事業の資産に関する所有権その他の権利を有せず、また、その営業及び意志決定に関する権限を有しないこと。
C 請求人は、本件匿名組合契約書に基づき2,000,000,000円を平成元年7月27日に本件営業者に出資したこと。
D 本件営業者は、本件リース事業に関して、前記Aの(C)に基づき、請求人以外の他の出資者と本件匿名組合契約書と同一内容(出資者の出資する金額に関連する事項を除く)の匿名組合契約を締結していること。
E 請求人は、平成元年7月27日付で、前記Aの(F)の計算期間を4月1日から9月30日まで、10月1日から翌年2月末日まで及び3月1日から3月31日までの年3回の期間(ただし、第1回の計算期間は平成元年7月28日から同年9月30日までとする。)に変更する旨の本件覚書を本件営業者と取り交わしていること。
F 請求人は、本件営業者から平成元年10月26日及び平成2年3月7日付で本件匿名組合の事業に係る会計報告を受け、これに基づき本件匿名組合投資損失1,265,547,555円を本件事業年度の特別損失に計上していること。
(ロ) 当審判所が、請求人から提出された資料及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
A 本件営業者は、上記(イ)のAの(C)のとおり、他の出資者6社と本件リース事業について本件匿名組合と同一内容(出資者の出資する金額に関連する事項を除く)の匿名組合契約を締結し、各出資者の事業年度末が本件匿名組合契約書の契約計算期間末と異なる出資者5社については、請求人と同様にその匿名組合契約締結時に契約計算期間を変更する旨の覚書を取り交わしていること。
B 本件営業者は、第1回目の事業年度(平成元年7月14日から平成2年3月31日までの期間)の確定決算に基づき法人税の確定申告書を○○税務署長に平成2年5月29日に提出していること。
 なお、その確定申告書には、本件営業者の決算報告書の他に本件リース事業に係る匿名組合貸借対照表(平成2年3月31日現在)及び匿名組合損益計算書(平成元年7月27日から平成2年3月31日までの期間)を添付しており、その損益計算書の「重要な会計方針」欄には、1固定資産の減価償却の方法については法人税法に規定する定率法によること、2外貨建資産及び負債の換算基準については取得時換算法によること並びに3収益の計上基準についてはリース期間経過分をリース料収入及び未収リース料に計上していることがそれぞれ記載されていること。
(ハ) 請求人及び本件営業者の当審判所に対する答述によれば、次の事実が認められる。
A 前記(イ)のAの(C)の契約条項は、本件営業者が本件リース事業について他の出資者と匿名組合契約を締結する場合に本件営業者が守るべき義務を定めたものであること。
B 前記(イ)のAの(F)の事業期間については本件営業者の事業年度を、また、計算期間については本件匿名組合の事業に係る利益又は損失の額の会計報告期間を定めたものであること。
C 本件リース事業は、いわゆるレバレッジド・リース取引に該当することを前提としたものであり、本件匿名組合がこの取引を利用して節税(納税の繰延べ)をすることを目的とした一種の金融商品であることから、各出資者の事業年度末がそれぞれの匿名組合契約書の計算期間末と異なる場合においては、必ず各出資者の事業年度末日と同一の計算期間末日が到来するように、それぞれの覚書でその契約の計算期間を変更したこと。
(ニ) ところで、商法上の匿名組合は、出資者が営業者の行う事業のために出資をし、その事業により生じる利益の分配を約する契約で、当事者間の信頼関係に基づく共同企業の一形態であり、当事者は出資者と商人である営業者の二当事者に限られ、その事業は収支損益の区分ができる独立性をもつ限り、営業者の事業の全部又は一部でもよく、また、営業者は営業者の事業について、多数の出資者と匿名組合契約を締結することができるが、この場合には、その事業に対して別個の匿名組合が存し、出資者相互間には何ら法律関係は存しないと解されている。
 また、商法上の匿名組合の所得に対する課税は、匿名組合が法人格を有していないこと及び人格のない社団にも該当しないことから、独立した法人としての課税は行わず、匿名組合の利益又は損失の額は営業者及び出資者の所得として把握され、課税されることになる。
 一方、営業者は、その営む事業について各事業年度末に商法の規定により決算を行うこととなるところ、匿名組合契約に係る事業は、営業者自らの事業となるものであり、その事業の収益は営業者の収益と認識され、また、その財産は営業者に帰属することになるので、営業者は、匿名組合契約に係る事業の収益及び財産を含めて自己の各事業年度の決算を行うこととなるから、出資者が営業者より受ける利益の分配は、営業者の各事業年度の確定決算により算定された匿名組合契約に係る事業の利益又は損失の額に基づきなされることになると解するのが相当である。
 したがって、出資者に対する課税は、営業者の各事業年度の確定決算により算定された利益又は損失の額に基づいて行われることになると解するのが相当である。
(ホ) この点につき、請求人は、匿名組合契約に係る出資者の損益の課税の時期について、匿名組合の計算期間が商法上別段の定めがなく、契約自由の原則に照らし各匿名組合ごとに計算期間を定めることが自由であること及び基本通達14―1―3において匿名組合の計算期間の末日の属する事業年度と定められていることから、本件匿名組合に係る請求人に配分される損益の課税の時期は、覚書計算期間の末日の属する請求人の本件事業年度である旨主張する。
 ところで、前記(イ)ないし(ハ)の事実によれば、本件匿名組合は、法人である本件営業者が営む本件リース事業を対象とするものであり、本件営業者は、当該事業の用に供する航空機の購入資金の一部を請求人を含む出資者7社とそれぞれ匿名組合契約を締結し、それぞれの匿名組合契約に基づきその資金の出資を受け、その事業から生じる利益又は損失の額を各出資者の出資割合でその利益又は損失の額を分配するものであると認められる。
 また、本件営業者がそれぞれの匿名組合ごとに異なる計算期間を覚書等で定めていることは前記(ロ)のAのとおりであるが、それぞれの匿名組合契約は本件リース事業から生じる利益又は損失の額を各出資者の出資割合に基づき分配されるものであり、分配される利益又は損失の額は、前記(ニ)で述べたとおり、営業者の事業年度末の確定決算に基づいて算定されるべきものと認められるから、本件営業者の事業年度末に本件匿名組合の事業に係る利益又は損失の額が確定すると認められ、基本通達14―1―3に定める計算期間とは、本件匿名組合契約書に規定される事業期間と解するのが相当である。
 しかも、前記(ハ)のCで述べたとおり、本件匿名組合は、本件リース事業から生じる損失の負担額を利用した節税目的の金融商品であって、本件営業者は、各出資者がその損失の負担額を早期に計上することを意図して、本件匿名組合契約の契約計算期間を本件覚書により変更し、また、各出資者の計算期間が本来同一であったものを変更したにすぎないものであるから、このような損失の負担額を各出資者が早期に計上できることを意図して行われた計算期間の変更について、それを容認することは課税の公平の原則からみて相当ではないと認められる。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ヘ) また、請求人は、本件営業者が覚書計算期間ごとに計算した匿名組合の事業に係る利益又は損失の額は、合理的に算定されている旨主張する。
 ところで、匿名組合契約における営業者が法人である場合のその所得金額の計算は、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》に基づき、商法その他法人の計算に関する法令の規定及び一般に認められた適正な企業会計の原則(以下「適正な企業会計原則等」という。)に従って、適正妥当と認められ、かつ、合理的と認められる方法を適用すべきものであると解されている。
 また、匿名組合の財産は、営業者の財産として認識されていることから、匿名組合の貸借対照表上のたな卸商品及び売掛金等の資産並びに買掛金及び借入金等の負債の期末評価額等は、営業者が採用し税務署長の承認を受けた方法等により営業者がその事業年度末にその評価を行うことになるほか、匿名組合契約に係る事業のために保有している固定資産の減価償却費の額は、営業者が採用した償却方法等に基づき計算され、かつ、営業者が確定した計算で損金経理をしたものであることを要し、また、その固定資産につき、圧縮記帳等の法人税法の定める特例等を適用する場合には、営業者が確定した決算で損金経理をすることあるいは利益又は剰余金の処分により積立金として積み立てること等により当該特例等の適用が認められると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記(イ)ないし(ハ)の事実によれば、本件匿名組合の事業に係る利益又は損失の額の計算上主要な要素は、リース料収入と本件資産の減価償却費及び航空機購入資金として借り入れた借入金に係る利息であると認められ、当該事業の利益又は損失の額の計算上損金の額に算入される本件資産の減価償却費の額は、前記(ロ)のBで述べたとおり本件営業者が採用している定率法により、減価償却に関する法人税法関係法令に基づき計算された減価償却費で、かつ、本件営業者が作成した各事業年度の確定決算で本件資産の減価償却費として損金経理した金額でなければならない。
 そうすると、本件営業者の各事業年度の決算が確定しなければ、本件匿名組合の事業に係る減価償却費の額も確定しないことになると認められるから、請求人が主張する覚書計算期間を基礎とする減価償却費の算定方法は、減価償却費を単に見積計上したものであり、合理的な算定方法とは認められない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ト) また、請求人は、匿名組合契約の定めに基づき計算される利益又は損失の額に税法上の差額が生じている場合には、当該差額は営業者の所得として申告すればよい旨主張するが、匿名組合の事業に係る利益又は損失の額は、上記(ヘ)で述べたように法人税法第22条の規定に基づき算定することになるので、匿名組合契約の定めに基づき計算される利益又は損失の額に税法上の差額が生じている場合には、当該税法上の差額も当然に匿名組合の構成員に再分配することになり、税法上の差額のすべてを営業者の所得として申告することは相当ではない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(チ) 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件匿名組合投資損失は、本件匿名組合事業の確定した損失の負担額とは認められないので、本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
ロ 寄付金の損金不算入額
 本件匿名組合投資損失を損金に算入しない場合の本件事業年度の寄付金の損金不算入額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても原処分庁の算定額は相当と認められる。
ハ 課税留保金額
 本件匿名組合投資損失を損金に算入しない場合の本件事業年度の課税留保金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても原処分庁の算定額は相当と認められる。
ニ 以上の結果、請求人の主張にはいずれも理由がなく、前記イ及びロに基づいて本件事業年度の所得金額を算定すると1,716,371,062円となり、また、課税留保金額は上記ハのとおり57,034,000円となるところ、これらの金額は、本件更正の金額と同額となるので、本件更正は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 以上のとおり、本件更正は適法であり、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3)その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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