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(平4.12.18、裁決事例集No.44 249頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、公益事業及び貸席業を営む宗教法人であるが、原処分庁から平成3年11月27日付で昭和63年1月から平成3年9月までの各月分の給与所得及び報酬、料金等(以下「報酬料金」という。)に係る源泉所得税の額を3,352,010円(給与所得に係る所得税額1,058,180円、報酬料金に係る所得税額2,293,830円)とする納税告知及び不納付加算税の額を303,000円(給与所得に係る不納付加算税の額102,000円、報酬料金に係る不納付加算税の額201,000円)とする賦課決定を受けた。
 その後、原処分庁は,平成3年12月26日付で、上記処分のうち給与所得に係る所得税額を415,640円、同じく不納付加算税の額を25,000円に訂正したが、請求人は、これらの訂正後の処分のうち報酬料金に係る部分に不服があるとして、平成4年1月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月24日付で報酬料金に係る所得税額を1,158,200円及び不納付加算税の額を5,000円とする異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後のこれらの処分のうち、報酬料金に係る部分についてなお不服があるとして、同年5月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 納税告知について
 原処分庁は、請求人が昭和63年1月から平成3年9月までの間に強化費の名目で支出した21,000,000円(以下「本件強化費」という。)のうち13,590,000円について、請求人に所得税の源泉徴収義務があると認定し、納税告知をしたが、本件強化費は、次のとおりA有限会社(以下「A社」という。)に支払ったものであるから、源泉所得税の徴収義務はない。
(イ) 請求人は、昭和57年8月ごろ、当時A社の代表取締役であったB男(以下「B男」という。)を請求人の宗教活動を強化するために招へいする際、B男が会社の経営を引き継ぎやすくするため、A社が負っていたC信用金庫○○支店(以下「C信金」という。)からの借入金債務のうち昭和57年10月26日に借入れした13,000,000円(取引番号001)及び昭和57年10月28日に借入れした38,562,000円(取引番号002)の2口合計51,562,000円(以下「本件借入金」という。)を請求人が代わって支払う旨の約束をした。本件強化費は、この約束に従い本件借入金の元利金及び保証料並びに抵当物件の火災保険料等(以下これらを併せて「元利金等」という。)の支払に充てるため支出したものである。
(ロ) 原処分庁は、昭和57年頃B男とA社の現在の代表者であるD男(以下「D男」という。)によって作成された「A社経営引受けについての締結書」(以下「締結書」という。)を引用し、本件借入金がB男に帰属するとした上で、本件強化費をB男に対する契約金の支払と認定しているが、そもそもこの締結書は正式なものではなく、ここに記載されている「信金借入金をA社から切り離すこととする」というのは、B男が当時、D男にA社の経営を引き継ぐに当たって、本件借入金についてはD男に資金的な負担をかけず、自己の責任において返済することを約束したものであって、本件借入金をB男に帰属せしめるという趣旨のものではない。
 また、原処分庁は、A社の昭和60年4月末の貸借対照表に本件借入金の残高が計上されていないことをもって、本件借入金がA社のものではないとしているが、これはA社の営業政策上の処理と思われ、それ以前の事業年度における経理処理の状況が不明のままでは特に意味のあることではない。
(ハ) 原処分庁は、本件強化費がC信金のB男名義の普通預金口座(口座番号0001、以下「本件預金口座」という。)を経由して本件借入金の元利金等に充当されているから、B男に支払われたものであると認定しているが、当該預金口座を経由することとしたのは債権者の都合によるものであり、B男は当該預金口座から1円たりとも引き出しておらず、本件強化費からは全く利益を受けていない。
(ニ) 以上のとおり請求人は、B男がD男にA社の経営を任せることができるように、同社の借入金を返済したものであり、B男個人に対して報酬を支払ったものではない。
ロ 不納付加算税の賦課決定について
 上記イのとおり、納税告知はその一部が取り消されるべきであるから、それに伴い不納付加算税の賦課決定についてもその一部の取消しを求める。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次に述べるとおり適法である。
イ 納税告知について
 請求人が支出した本件強化費は、次のとおりB男に対する契約金の支払であるから、請求人には源泉所得税の徴収義務がある。
(イ) B男がD男と取り交わした締結書によると、B男は昭和57年8月24日をもってD男にA社の経営権を譲渡するとともに、本件借入金をA社から切り離したことになっている。本件借入金の借入名義人はA社のままになってはいるが、これは形式的なものにすぎず、現にA社の昭和60年4月末の貸借対照表には本件借入金の残高が計上されていないこと、債権者であるC信金もB男個人に対する貸付金であると認識していることを総合すると、本件借入金はA社に帰属するものではなく実質債務者はB男である。
(ロ) 請求人は、宗教活動の隆盛を図るにはB男をA社から引き抜く必要があったため、本件借入金をB男に代わって弁済することとし、昭和57年11月以降強化費の名目でおおむね毎月600,000円を支出している。この強化費は、B男自身が開設したC信金の本件預金口座を経由して本件借入金の返済に充てられているから、B男個人に支払われたものである。
(ハ) 以上のことから、本来B男が弁済すべき債務を請求人が弁済していることになり、しかも、請求人からB男に対して求償権の行使がなされていない以上、B男が請求人から利益を享受していることは明らかである。
 よって、本件強化費のうち本件借入金の元金に充当された部分の金額13,590,000円は、B男に対する契約金の分割払である。
ロ 不納付加算税の賦課決定について
 上記イのとおり、納税告知は適法であり、かつ、請求人には国税通則法第67条《不納付加算税》第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、その一部の取消しを求める請求人の主張は失当である。

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3 判断

(1) 納税告知について

 請求人が支出した本件強化費について、所得税の源泉徴収義務があるか否かに争いがあるので、以下審理する。
イ 本件強化費の支払の目的である本件借入金の帰属について、請求人はA社のものであると主張し、原処分庁はB男のものであると主張するので、まずこの点について審理する。
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A 昭和57年8月ごろ、請求人は、B男を請求人が開設したE研究所及びその付属研修所(以下併せて「E研修所」という。)の所長に招へいしたこと。
 B男は、同所長に就任以降も平成元年2月までA社の代表取締役の地位にあったものの、専らE研修所の業務に従事していたこと。
B 上記Aと同じ時期に、D男は経営を引き継ぎ、専務取締役としてA社に入社したが、その際、請求人の名称が印刷してある事務用紙を用いて「締結書」と標記した文書が作成されたこと。
C 上記A及びBのことに起因して、本件借入金は請求人が弁済することとなり、同年11月以降ほぼ毎月、請求人が強化費の名目で支出した金額は、C信金の当該預金口座を経由して本件借入金の元利金等に振替充当されていること。
(ロ) 当審判所がC信金及びA社を調査したところ、次の事実が認められる。
A 本件借入金は、昭和57年10月、それまでの短期借入金を含む数口の債務(以下「本件旧債務」という。)をA社名義で2口の長期分割返済の債務にまとめる形で借り換えられたものであり、その際、新たに請求人の代表者であるF男(以下「F男」という。)が連帯保証人になるとともに、同人名義の不動産を担保として差し入れていること。
B 本件借入金の借入名義人を本件旧債務と同じA社にしたのは、本件旧債務に対する県信用保証協会の保証を本件借入金についても引き続き得る必要があったことと、F男の保証が得られたことによるものであるが、C信金が保管する本件借入金の貸付関係書類によれば、C信金は、A社に対する債権のうち本件借入金については返済者を「B男(F男)」と記載して他の借入金と識別しており、本件借入金の返済金の授受等債権管理のための折衝を専ら請求人及びB男と行っていること。
C A社の昭和55年5月1日から昭和56年4月30日までの事業年度に係る法人税の確定申告書控えに添付された貸借対照表には、82,026,600円の借入金が計上されており、その「内訳書」には本件旧債務も記載されていること。
D A社の昭和56年5月1日から昭和57年4月30日までの事業年度に係る法人税の修正確定申告書控えに添付された貸借対照表には、本件借入金以外の借入金18,808,000円が計上されていること。
E 上記C及びDの各申告書の「代表者自署押印」欄には、「B男」と記載されていること。
F A社の昭和57年5月1日以降の事業年度に係る貸借対照表には、本件借入金の残高の計上がないこと。
(ハ) 当審判所がD男の保管する「締結書」を調査したところ、A社の経営引受けのための条件の一部として、1銀行の旧債務についてはD男に責任を負わせないこと、2銀行借入金及び公庫代理借入金は、代表取締役B男により別口で返済し、専務D男には一切関係ないものとすること、3信金の借入金は、当面代表取締役B男の名において返済するが、A社からは完全に切り離すこととする旨が記載されており、「譲渡者」としてB男、「引受者」としてD男、「立会人保障人」としてF男ほか3名がそれぞれ署名捺印している事実が認められる。
(ニ) F男は当審判所に対して、締結書は法的根拠のない単なる覚書である旨記載したB男の申述書を証拠として提出するとともに、当時、本件借入金について、経理処理のことはよく考えなかったが、要するに請求人が毎月返済していけばよいと考えていた旨答述する。
(ホ) B男は当審判所に対して次のとおり答述する。
A この締結書は白紙に戻したから無効である。
B 本件強化費は、当時原処分庁の指導に基づき、本件預金口座からいったんA社の収入に入金処理し、そこから本件借入金に充当していたから、D男も本件借入金がA社に帰属するものであることを認識していたはずである。
(ヘ) D男は当審判所に対し、締結書及び本件借入金に関して次のように答述する。
A この締結書は正本であり、この締結書のとおりA社の経営を引き受けている。
B 本件借入金は名義はともかく、当時、私からは切り離すという約束だったから私のものではない。事実私は、本件借入金についてC信金と話をしたことがなく、C信金からも何の話もない。
(ト) そこで以上に基づき、本件借入金の帰属について検討すると次のとおりである。
A 前記(イ)の事実によれば、請求人がB男を招へいするための当事者間の話合い及びB男とD男との間におけるA社の経営引継ぎのための折衝は、日時の前後、因果関係は定かではないものの、昭和57年のほぼ同じ時期に行われたものと推認される。
 しかも、これらのことは相互に関連を持って進められたことがうかがわれ、また、本件借入金を請求人が弁済することとしたのもこれらのことと密接な関連があったものと認められる。
B 請求人は、A社の経営がB男からD男に引き継がれた際作成された締結書を正式のものではないと主張し、B男は、これを無効である旨答述するが、締結書の一方の当事者であるD男は、自己の保管する締結書を正本として有効なものと認識しており、債権債務の移動を伴った経営の引継ぎ引受けという重要な取引が、なんの文書も作成されず単に口頭で行われるということは考えられないから、少なくとも、経営を引き受ける立場のD男にとっては、当該締結書は契約を担保するための重要な文書ということができる。
 そうすると、他に明確な内容を表した契約書が存在しない限り、これを無効とするB男の答述は直ちに信用し難く、請求人の言うように仮にこの締結書が正式なものではないとしても、ある程度当事者を拘束する覚書としての効力を付与されたものとみるのが相当である。
C ところでこの締結書には、前記(ハ)のとおり本件旧債務を含むA社の全金融債務の経営引継ぎ後の処理方法について記載されている。
 その中で、本件借入金の前身である本件旧債務について「専務D男には責任を負わせない」、「専務には一切関係ない」、「A社から完全に切り離す」と繰り返し記載していることは、A社及びその経営を引き受けるD男には、本件旧債務を弁済する義務が全くないことを強調したものと認められ、更に、D男にとっては、正にこのことがA社の経営を引き受ける上で重要な要件であったと考えられるから、前記(ヘ)のD男の答述は、本件借入金の処理に関する経緯を反映したものとして信ぴょう性がある。
 したがって、本件借入金については、締結書の記載内容にそった処理が行われたと推認することができる。
D 本件借入金は、D男が入社した直後の昭和57年10月に本件旧債務をA社名義で借り換えたものであるが、前記(ヘ)のとおりD男はこれに関知していないこと、また、前記(ロ)のBのとおりC信金は、A社名義の債権について、A社が返済すべきものとB男が返済すべきものとに識別していることが認められ、本件借入金はB男またはF男が返済すべきものとして、返済金の授受や債権保全の為の折衝を専ら請求人及びB男と行っていたこと、更に、前記(ロ)のD及びEのとおり、代表者としてB男の氏名が記載されているA社の修正確定申告書に添付されている昭和57年4月30日現在の貸借対照表には、本件借入金が計上されていないことなどからすると、名義はともかく、実質、本件借入金は、当時、既にA社には存在しなかったものと認めるのが相当であり、本件強化費をいったんA社の収入金に計上し、そこから本件借入金に充当していたというB男の答述は信用できない。
(チ) 以上を総合すると、名義上、A社となっている本件借入金は、もともとA社には帰属せず、締結書が示唆しているとおり、本件旧債務をA社から切り離し、返済の全責任を負うこととなったB男が、本件借入金の実質債務者であるとするのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ つぎに、本件強化費がB男に対する契約金の支払であるか否かについて審理する。
(イ) 請求人が昭和57年にB男を招へいするための条件として本件借入金を弁済することとし、同年11月以降、本件強化費がその返済のために支出されていること及び本件強化費が請求人の各事業年度の損益計算上、損金として経理されていることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(ロ) 当審判所がC信金を調査したところ、次の事実が認められる。
A C信金は、本件借入金に関する債権管理の為の折衝を専ら請求人及びB男と行っており、また、返済金はC信金が請求人から直接受け取り、その際、請求人宛の「受取書」が作成されていること。
B 本件借入金が借入名義人以外の第三者であるF男から直接入金されることは事務処理上問題があるため、B男の預金口座を経由して返済させることとしたこと。
C 本件借入金は、弁済期限の到来を機に平成4年9月1日、残額23,934,000円が請求人により一括弁済され、同日新たに24,000,000円がF男に貸し出されたが、名義をF男としたのは、もともと本件借入金の借入名義をA社にしたことが適切でなかったためであること。
(ハ) 上記(イ)、(ロ)及び前記(1)のイの(ニ)によれば、請求人は本件借入金の弁済義務が自己にあることを認識しており、債権者であるC信金も同様の認識を持っていたことが認められ、更に、請求人は本件借入金の返済金を強化費として当初から損金に算入しているのであるから、B男に対して求償権を行使する意思があったとは認められない。
 そうすると、本件借入金は昭和57年の借り換えの当初においてC信金及びB男の了解のもとに請求人がB男の債務を肩代わりしたと判断するのが相当であり、しかもこの肩代わりは、F男も答述しているように、請求人がB男を招へいするときの条件として、何らかの対価の支払に代えて行われたのであるから、昭和57年10月の借り換えの時点においてB男の本件借入金債務は請求人に移動したとみるのが相当である。
(ニ) 原処分庁は、本件強化費をB男に対する契約金の支払であると主張する。確かに請求人も認めているように、本件借入金の返済はB男の招へいにその端を発しているから対価性を帯びており、契約金といえないこともない。
 仮に本件強化費が契約金の支払であるとしても、100回余に分割の上ほぼ9年間の長期にわたって支払われ、あまつさえ、その大半が最終の回に支払われるというのは通常一時に支払われる契約金の支払としては社金常識上不自然といわざるを得ず、また、契約金の支払であることを認めるに足りる証拠はない。
(ホ) 本件借入金債務は、前記(ハ)のとおり、その発生の時点(昭和57年10月)において、請求人がその債務を引き受け、B男から請求人に移動したのであるから、その時点においてB男は本件借入金債務を免れると同時に、請求人のB男に対する対価の支払債務も相殺により履行されたというべきである。
 そうすると、本件強化費の支出は、請求人が自己の借入金債務を弁済しているにすぎないから、A社に対する支払であるとする請求人の主張は到底採用できるものではなく、また、原処分庁の認定はB男に対する対価の支払時期に関する判断を誤ったといわざるを得ない。
 したがって、本件納税告知のうち契約金の分割払であるとしてなされた報酬料金に係る部分の取消しは免れない。

(2) 不納付加算税の賦課決定について

 以上のとおり、納税告知に不相当な部分があり、その一部が取り消されることに伴い、不納付加算税の賦課決定も報酬料金に係る部分は不相当となるから、その一部を取り消すべきである。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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