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(平4.12.15、裁決事例集No.44 271頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和62年11月12日に死亡した○○(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、その相続税について次表の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成3年2月27日付で次表の「更正」欄のとおり更正及び「賦課決定」欄のとおり賦課決定をした。

(単位:円)
区分 項目 金額
申告 課税価格 21,629,000
納付すべき税額 3,013,700
更正 課税価格 29,596,000
納付すべき税額 5,696,100
賦課決定 過少申告加算税の額 176,000
重加算税の額 318,500

 

 請求人は、これらの処分を不服として平成3年4月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成3年8月28日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、なお不服があるとして平成3年9月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、更正及び過少申告加算税の賦課決定についてはその一部の取消しを、また、重加算税の賦課決定についてはその全部の取消しを求める。
イ 更正について
 原処分庁は、別表1の番号1ないし番号8の株式(以下「本件株式」という。)を相続財産と認定したが、本件株式は、次の理由により、請求人固有の財産であり相続財産ではないので、更正は違法である。
(イ) 請求人は、請求人の夫であったA男(以下「A男」という。)と離婚を前提として別居を始めた昭和57年9月ごろ、請求人名義の銀行預金、株式及び電信電話債券(以下「本件財産」という。)を所有していた。
 ところが、A男が、本件財産を夫婦共有の財産であるとして財産分与すべき旨申し立てたので、請求人は、本件財産を保全するため、昭和57年9月ないし11月に本件財産を解約又は売却し、その金員6,788,569円(以下「本件金員」という。)を被相続人に預託した。
(ロ) 被相続人は、本件金員をもって被相続人名義で株式等を取得し、その取得に伴い証券会社が発行した有価証券預り証(以下「預り証」という。)は、請求人が被相続人から受領していた。
 その後、被相続人は、株式等の売買を繰り返し行い、その都度、請求人と被相続人は預り証の受渡しを行うとともに、株式等の売買による差額金を現金で清算していた。
(ハ) 請求人は、請求人固有の財産と被相続人の財産との混同を避けるため、昭和62年11月27日に、B証券株式会社P支店(以下「B証券P支店」という。)において、請求人が被相続人から受領していた預り証と引換えに別表1の番号1ないし番号6の株券の引渡しを受けた。
 また、別表1の番号7及び番号8の株式は、前記(ロ)の被相続人の株式の売買に伴い取得した登録株である。
 したがって、本件株式は、被相続人名義ではあるが、請求人に帰属する本件金員をもって形成された請求人固有の財産であるから相続財産ではない。
ロ 賦課決定について
(イ) 重加算税について
 原処分庁は、別表1の番号1ないし番号6及び番号9の株式の相続税の課税価額を重加算税の賦課決定の対象としているが、1前記イのとおり、別表1の番号1ないし番号6の株式を相続財産であるとした更正は違法であること及び2請求人は、別表1の番号9の株式は相続財産であることは認めるが、相続税の申告後初めてその存在を知ったものであり、隠ぺい又は仮装の事実もないことから、重加算税の賦課決定はその全部を取り消すべきである。
(ロ) 過少申告加算税について
 前記イのとおり、更正の一部の取消しに伴い過少申告加算税の賦課決定もその一部を取り消すべきである。
 なお、前記(イ)のとおり、請求人が別表1の番号9の株式の存在を知ったのは相続税の申告後であったことは国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項の規定する正当な理由に該当するから、過少申告加算税は賦課すべきではない。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
(イ) 本件株式について
 本件株式は、次のことから相続財産である。
A 別表1の番号1ないし番号6の株式は、B証券P支店において被相続人が取得したものであり、いずれも同人の名義に書き換えられ、相続開始日現在、被相続人名義でB証券P支店に保護預かりされていること。
B 別表1の番号7及び番号8の株式は、相続開始日現在、被相続人の名義で登録されていること及びこれら株式に係る配当は、被相続人の配当所得として昭和61年分所得税の確定申告がされていること。
 なお、本件株式は請求人に帰属する本件金員をもって形成された請求人固有の財産である旨の主張は、審査請求に至り初めてなされたものであり、直ちに認めることはできない。
(ロ) 相続税の課税価格
 相続税の課税価格に算入すべき本件株式の価額の合計金額は、別表1の「相続税課税価額」欄のとおり7,962,088円となる。
 なお、本件株式は、共同相続人間において遺産分割が行われていないので、請求人に係る相続税の課税価額は、共同相続人が本件株式を民法第五編第三章(相続の効果)第二節(相続分)(第904条の2を除く。)の規定による相続分により取得したものとみなして計算されることとなる。
 そうすると、請求人の相続税の課税価格は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
区分 請求人 他の相続人 合計
取得財産の価額1 29,397,789 88,693,370 118,091,159
債務・葬式費用の金額2 301,056 903,170 1,204,226
純資産価額3(12) 29,096,733 87,790,200 116,886,933
加算される贈与財産の価額4 500,000 1,000,000 1,500,000
課税価格(千円未満の端数切捨て)34 29,596,000 88,789,000 118,385,000

 

 したがって、相続税の課税価格を上記課税価格と同額でした更正は、適法である。
ロ 賦課決定について
(イ) 重加算税について
 前記イのとおり、更正は適法であり、かつ、請求人は、B証券P支店において被相続人名義で保護預かりとなっていた別表1の番号1ないし番号6の株式及びC証券株式会社R支店(以下「C証券R支店」という。)において被相続人が昭和62年11月10日に取得し被相続人名義で保護預かりとなっていた別表1の番号9の株式をいずれも相続開始後に出庫しているにもかかわらず、相続財産から除外して相続税の申告をした事実が認められる。
 このような請求人の行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する国税の課税基準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当するので重加算税の賦課決定は適法である。
(ロ) 過少申告加算税について
 前記イのとおり、更正は適法であり、かつ、更正により納付すべき税額の基礎となった事実のうち前記(イ)の重加算税の賦課決定の基礎となった事実以外の事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定も適法である。

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3 判断

(1)更正について

 本件株式が相続財産に当たるか否かについて争いがあるので、調査・審理したところ次のとおりである。
イ 本件株式について
(イ) 次のことについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
A 別表1の番号1ないし番号6の株式は、被相続人がB証券P支店においていずれも同人名義で取得し、同人名義で保護預かりされていたものであること。
B 請求人は、昭和62年11月24日に別表1の番号1ないし番号6の株式に係る株券の出庫手続きを行い、同月27日に株券の引渡しを受けていること。
(ロ) 原処分関係資料等を基に当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
A 被相続人は、別表1の番号1ないし番号6の株式の取得代金として、B証券P支店の被相続人名義の累積投資口座から振替出金した資金を充てていること。
 なお、この累積投資口座の資金は、被相続人が所有していたP市××町276番地の宅地227.12平方メートル及び同所同番に所在する建物を昭和59年5月8日に譲渡した譲渡代金50,000,000円を原資としていること。
B 別表1の番号7の株式52株は、昭和59年6月29日にB証券P支店において被相続人が取得したD社の株式1,000株(以下「D株」という。)に対し昭和59年9月に0.05の割合で無償交付された50株及びこの50株に対し昭和60年9月に0.05の割合で無償交付された2株であること。
 ところで、D株の取得代金1,295,440円にはE銀行P支店の被相続人名義の普通預金(口座番号0001)から出金した資金が充てられており、また、同株は、昭和59年8月25日にB証券P支店において売却され、その売却代金1,444,480円は、同月29日に小切手で1,300,000円、現金で144,480円払い出され、この小切手は、同月△△銀行P支店における被相続人名義の普通預金(口座番号0002)に取立入金されていること。
C 別表1の番号8の株式100株は、請求人が相続財産として申告したF社の株式2,000株のうちの1,000株に対し昭和58年5月に0.1の割合で無償交付されたものであること。
D 別表1の番号7及び番号8の株式は、相続開始日現在、被相続人名義でそれぞれの株主名簿に登録されていること。
E 被相続人は、前記Bの株式52株及び前記Cの株式2,100株について、昭和61年中にそれぞれ配当金962円と16,800円を受け取り、配当所得として昭和61年分所得税の確定申告をしていること。
F 本件財産のうち銀行預金については、G銀行S支店において請求人名義の定期預金が、別表2のとおり、昭和57年11月8日に解約され、その元本及び利息の金額の合計2,376,360円がG銀行S支店の同人名義の普通預金(口座番号0003)へ振替入金され、同日、この普通預金口座も解約され、2,376,530円が現金引き出しされていること。
 なお、請求人は、この現金のうち2,370,000円で同年11月9日に○○銀行P支店で貸付信託を取得し、相続開始日現在においても所持していること。
G 本件財産のうち株式及び電信電話債券は、別表3のとおり、昭和57年9月ないし、11月に合計4,412,039円で売却され、その売却代金は、すべて現金で引き出されていること。
(ハ) 請求人は、当審判所に対して、次のとおり答述している。
A 請求人は、本件金員を被相続人に預託し、その運用は、すべて被相続人に任せていたこと。
B 請求人は、被相続人が本件金員で株式を取得し、その取得に伴い証券会社が発行した預り証については、その後の株式の売買の都度受け渡しをしていたが、その記録はしていないこと。
 また、被相続人がその運用を記録したものはないこと。
C 被相続人が請求人から本件金員を受領したとする記録は残されていないこと。
(ニ) 前記(イ)ないし前記(ハ)の事実及び答述を基に本件株式の帰属について判断すると、次のとおりである。
A 本件株式は、前記(ロ)のAないし前記(ロ)のDのとおり、すべて被相続人固有の資金によって同人名義で取得され、かつ、すべて同人名義で保護預かり又は登録されていることから、被相続人に帰属するものと認められる。
B なお、請求人は、本件株式は本件財産の処分によって得た本件金員をもって形成された請求人固有の財産である旨主張するが、前記(ロ)のF及び前記(ロ)のGのとおり、請求人は、本件財産を昭和57年9月ないし11月に解約又は売却して本件金員6,788,569円を得た事実は認められるものの、そのうちの2,370,000円は前記(ロ)のFのとおり請求人名義の貸付信託の取得に充てられており、その余の金員の使途については前記(ハ)のとおり、請求人はこれらを明らかにする書類を何ら残しておらず、また、他にもその使途を明らかにする書類もないこと及び前記Aの認定のとおり、本件株式は被相続人に帰属すると認められることから、この点に関する請求人の主張を認めることはできない。
 以上のとおり、本件株式は被相続人に帰属すると認められるので相続財産となる。
ロ 相続税の課税価格
 相続税の課税価格は、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定によれば、相続により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合において、相続により取得した財産の全部又は一部が共同相続人によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法(第904条の2を除く)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算する旨定められているところ、本件株式については、共同相続人間において遺産分割協議の対象とされていないことから、未分割の相続財産と認められるので、本件株式は、相続税の課税価格の計算上、各相続人が民法(第904条の2を除く)の規定による相続分に従って取得したものとして計算することとなる。
 そうすると、請求人の相続税の課税価格及び納付すべき税額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
区分 請求人 他の相続人 合計
取得財産の価額1 29,397,789 88,693,370 118,091,159
債務・葬式費用の金額2 301,056 903,170 1,204,226
純資産価額3(12) 29,096,733 87,790,200 116,886,933
加算される贈与財産の価額4 500,000 1,000,000 1,500,000
課税価格(千円未満の端数切捨て)34 29,596,000 88,789,000 118,385,000

 

 したがって、相続税の課税価格を上記課税価格と同額でされた更正は、適法である。

(2) 賦課決定について

イ 重加算税について
 前記(1)のとおり、更正は適法であるところ、重加算税の賦課決定に争いがあるので、調査・審理したところ次のとおりである。
(イ) 別表1の番号1ないし番号6の株式
 請求人は、B証券P支店において被相続人名義で保護預かりとなっていた株式のうち、別表1の番号1ないし番号6の株式に係る株券について、相続開始後の昭和62年11月24日に自ら出庫手続きを行い、同月27日に株券の引渡しを受けたこと。
 その後、請求人が、B証券P支店に対し相続開始日現在において被相続人名義で保護預かりされていた有価証券等の証明願を提出したところ、B証券P支店は、昭和63年3月31日付で、別表1の番号1ないし番号6の株式を記載しないところで有価証券等預り証明書を発行したこと。
 請求人は、この証明書に別表1の番号1ないし番号6の株式が記載されていないことを奇貨として、これを相続税の申告書に添付することによって、これらの株式を相続による取得財産の価格に含めないところで相続税の申告をしたことが認められる。
(ロ) 別表1の番号9の株式
A 別表1の番号9の株式が相続財産であることには、当事者間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められるところ、この株式は、C証券R支店において昭和62年11月10日に買付約定がされ、その取得代金2,550,000円は、昭和62年10月29日にE銀行P支店の被相続人名義の普通預金(口座番号0004)から引き出された現金2,000,000円及び同日H銀行T支店の被相続人名義の普通預金(口座番号0005)から引き出された現金1,000,000円の合計3,000,000円がH銀行T支店からC証券P支店に振り込まれ、その資金のうちから充てられているが、これら一連の行為には全て請求人が携わっていること。
B C証券R支店の営業担当者は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(A) 昭和63年1月ころ、別表1の番号9の株式が記載された「証券預かり内容(顧客)問い合せ」文書を請求人に対して送付し、また、この株式の預り証を交付するため、この株式の相続人を早期に決定するよう請求人に依頼したこと。
(B) 昭和63年1月から3月ごろにかけて請求人に対し、J社の株式は3月決算のため名義書換を早急に済ませるよう再三電話で連絡し、更に、名義書換に関する書類を請求人宅の郵便受けに投入したこと。
C 前記A及び前記Bによれば、請求人は、別表1の番号9の株式が相続財産であることを知り得ながら、昭和63年4月7日にC証券P支店に対し相続開始日現在の被相続人名義株式の保護預かり証明を願い出て、同日、同支店発行の預託証券の証明書を受理し、この証明書に昭和62年11月19日に入庫された別表1の番号9の株式の記載がないことを奇貨として、これを相続税の申告書に添付することによって、相続による取得財産の価格に含めないところで相続税の申告をしたことが認められる。
 なお、請求人は、別表1の番号9の株式は相続税の申告後に初めてその存在を知った旨主張するが、前記Aないし前記Cのとおり、請求人は相続税申告時までにその株式の存在を十分知ることができ、また、請求人は本件更正があるまでに修正申告書を提出することもできたのであるから、請求人の主張は認めることはできない。
以上のような請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当するので、同項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定は適法である。
ロ 過少申告加算税について
 前記(1)のとおり、更正は適法であり、かつ、更正により納付すべき税額の基礎となった事実のうち前記イの重加算税の賦課決定の基礎となった事実以外の事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認めれないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定も適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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