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(平4.9.30、裁決事例集No.44 327頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和63年分の所得税の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成元年12月11日付で次表の「更正」欄のとおり、更正をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成元年12月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成2年3月20日付で次表の「異議決定」欄のとおり、その一部を取り消す旨の異議決定をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 更正 異議決定
総所得金額 3,050,663 3,050,663 3,050,663
内訳 給与所得の金額 540,000 540,000 540,000
雑所得の金額 1,707,831 1,707,831 1,707,831
一時所得の金額 802,832 802,832 802,832
分離課税の長期譲渡所得の金額 0 19,076,550 15,239,785
納付すべき税額 232,700 4,047,900 3,280,500

(注)一時所得の金額は、所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定による2分の1相当額である。

 

 請求人は、原処分(異議決定で一部取り消された後のもの。以下同じ。)について、平成2年4月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 居住用財産の特別控除の適用について
 請求人及び同人の妻A女(以下「A女」という。)は、昭和63年1月14日付の不動産売買契約書により次表の「請求人の所有物件」欄の物件(以下「本件不動産」という。)及び「A女の所有物件」欄の物件(以下「妻の不動産」という。)を、それぞれ21,215,000円及び26,143,000円で株式会社B(以下「B社」という。)へ譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。

 

請求人の所有物件 A女の所有物件
1家屋
    P市R町27番地1
    家屋番号 27番1
  木造セメント瓦葺二階建居宅
  床面積 1階
          52.20平方メートル
        2階
          18.00平方メートル
2倉庫
  同所同番地
          18.18平方メートル
3宅地
  P市R町27番地1
          280.53平方メートル
1家屋
    P市R町27番地2
      及び26番地
  木造瓦葺平屋建居宅
  床面積(実測)
        141.03平方メートル


2宅地
    P市R町27番地2
        156.81平方メートル
3宅地
    P市R町26番地1
        188.85平方メートル

 

 請求人は、本件不動産の譲渡に係る分離長期譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額の計算上、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定(以下「居住用財産の特別控除」という。)を適用して本件譲渡所得の金額を零円として確定申告をした。
 これに対し、原処分庁は、請求人が主として居住の用に供していた家屋は上表「請求人の所有物件」欄の1の家屋(以下「本件家屋」という。)ではなく、上表の「A女の所有物件」欄の1の家屋(以下「妻の家屋」という。)であると認定し、請求人の本件譲渡所得の金額の計算上居住用財産の特別控除の適用はないとして更正をした。
 しかしながら、本件不動産は、以下述べるとおり、居住用財産の特別控除の対象となる居住用財産である。
(イ) 請求人は、本件家屋をその取得以来、妻の家屋を母屋、本件家屋を部屋として、次のように互いにその機能を補完しあって、居住の用に供していたものであるから、本件家屋は、客観的にも実質的にも妻の家屋とともに一構えの家であり一つの家屋であることは明白である。
A 本件家屋は、妻の家屋と隣接し、本件家屋の玄関と妻の家屋の勝手口とは、約2メートルの距離にすぎないこと。
B 本件家屋には、風呂はなく、また、流し台はあるものの台所といえるような設備はなく、その反面、妻の家屋にはない物干場として利用していたテラス及び付属建物として倉庫があること。
C 妻の家屋は道路に面しており騒音や振動が激しいが、本件家屋は道路に面しておらず、静かなことから、請求人は、本件家屋を読書や就寝のために使用していたこと。
(ロ) なお、原処分庁は、請求人のような2人の家族では妻の家屋のみで十分居住できる旨主張するが、居住の条件には人それぞれ差異があり、かつ、満足度も相違するものであって、本件不動産及び妻の不動産を譲渡した時点の同居親族の家族構成は請求人及びA女の2人であったとしても、養子のC男(以下「C男」という。)夫婦は昭和52年7月ごろ転勤のため別居するまで、また養母D女(以下「D女」という。)は昭和56年6月19日に死亡するまで同居親族として本件家屋及び妻の家屋に居住していたことからも、単に本件不動産及び妻の不動産を譲渡した時点の同居親族の家族構成を居住用財産の特別控除の適用の判断材料とすることは適切でない。
ロ 本件譲渡所得の金額
 以上のとおり、本件不動産は居住用財産の特別控除の対象となる居住用財産であるから、本件譲渡所得の金額は、別表1の「請求人主張額」欄のとおり零円となる。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により正当であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 居住用財産の特別控除の適用について
(イ) 居住用財産の特別控除の適用において、二棟以上の家屋が一体として一の機能を有する一構えの家屋であると認められるか否かは、まずそれぞれの家屋の構造、間取り、設備、規模等の客観的状況によって判定すべきであり、当該個人及びその家族の使用状況等についてのいわば主観的事情は二義的に参酌すべき要素にすぎないものとされている。
 また、居住用財産の特別控除の対象となる家屋とは、夫婦がそれぞれ家屋を有している場合には、特段の事情がない限り、これらの家屋のうち夫婦が主として居住の用に供していると認められる一の家屋だけがこれに該当すると解されている。
 更に、夫婦がいずれの家屋を主として居住の用に供している家屋と判定するかについては、その日常生活の状況、当該家屋への入居目的、構造及び設備の状況並びにその他の事情を総合勘案して判定すべきであるとされている。
(ロ) これを本件についてみると、本件家屋と妻の家屋とは隣接しているものの、両家屋は、次のとおり、それぞれ別個の独立した家屋としての機能を有しているものと認められるから、仮に、請求人が主張するように妻の家屋が騒音や振動が激しいため、夜間は本件家屋で就寝していたとしても、両家屋が一の家屋に該当すると認めることはできない。
A 本件家屋には、1階には2部屋、玄関、台所及び便所の設備があり、2階にも1部屋あり、また、簡易水道、ガス及び電気が引かれており、更に、延床面積が70.20平方メートルあることから、通常生活の用に十分に供することができる一般的な家屋と認められること。
B 本件家屋には、C男夫婦が居住した後、D女が昭和56年6月19日に死亡するまで居住していたこと。
C 妻の家屋は平家建てで、8部屋、玄関、台所、風呂及び便所の設備があり、簡易水道、ガス及び電気が引かれており、延床面積は141.03平方メートルで通常生活の用に供することができる一般的な家屋と認められ、本件不動産及び妻の不動産の譲渡時点においても、本件家屋を加えなければ妻の家屋が居住用家屋としての機能を果たさないとは認められないこと。
D 昭和56年6月19日にD女が死亡した後の請求人の同居親族の家族構成は請求人とA女の2人であったこと。
(ハ) また、請求人が主として居住の用に供していた家屋は、請求人が妻の家屋を母屋とし本件家屋を部屋として使用していたと主張することから、妻の家屋であると認められる。
(ニ) 以上のとおり、本件家屋と妻の家屋とは一の家屋とは認められず、主として居住の用に供していたと認められる家屋は妻の家屋であるから、本件不動産を居住用財産の特別控除の対象となる居住用財産として認めることはできない。
ロ 本件譲渡所得の金額
 以上のとおり、本件不動産は居住用財産の特別控除の対象となる居住用財産とは認められないから、本件譲渡所得の金額は、別表1の「原処分庁主張額」欄とおり15,239,785円である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1) 居住用財産の特別控除の適用について

イ 当審判所が、原処分関係資料、請求人、関係人等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人及びA女は、本件譲渡により転居した昭和63年9月11日まで本件家屋及び妻の家屋の住居表示であるP市R町11番52号(以下「本件住所」という。)に住民登録し、居住していたこと。
(ロ) 請求人は、昭和38年6月29日に本件不動産を養父E男(以下「E男」という。)から相続により取得し、本件家屋を昭和45年4月ごろ建て替えていること。
(ハ) A女は、昭和38年6月29日に妻の家屋及び前記2の(1)のイの表の「A女の所有物件」欄の2の宅地をE男から、昭和56年6月19日に同欄の3の宅地をD女からそれぞれ相続により取得したこと。
(ニ) 本件家屋は、木造セメント瓦葺二階建てで床面積は1階52.20平方メートル及び2階18.00平方メートルの家屋であり、1階に6畳と4.5畳の和室、台所、便所、玄関、テラス及び2階に6畳の和室を有しており、また、庭には付属建物として倉庫があること。
(ホ) 妻の家屋は、木造瓦葺平家建てで実測による床面積は141.03平方メートルの家屋であり、6畳の和室を4部屋、5畳の洋間、4.5畳、3畳及び2畳の和室、台所、便所、玄関、風呂並びに納戸を有しており、また、隣接してカーポートがあること。
(ヘ) 本件家屋と妻の家屋とは隣接し、双方とも簡易水道、ガス及び電気の設備を有していること。
(ト) 本件家屋は、請求人が昭和45年4月ごろ建替工事を行った後は、C男夫婦が使用し、C男夫婦が昭和52年7月ごろ転勤のため転居した後は、本件家屋をD女が昭和56年6月19日に死亡するまで使用していたこと。
(チ) 請求人及びA女は、昭和63年1月14日に本件不動産及び妻の不動産をB社に代金21,215,000円及び26,143,000円でそれぞれ譲渡したこと。
(リ) 本件家屋及び妻の家屋における昭和61年1月から昭和63年8月までの期間の電気の消費量は、別表2のとおりであること。
ロ ところで、居住用財産の特別控除の制度は、居住用財産を譲渡した場合には、これに代替する新たな居住用財産を取得しなければならなくなるのが通常であることなど一般の資産の譲渡に比して特殊な事情にあり、担税力が弱いことを考慮し、かつ、住宅政策上の見地から、居住用財産の譲渡所得につき30,000,000円を限度とする特別控除を認め、新たな居住用財産を購入できるように保障する趣旨で設けられたものである。
 また、居住用財産の特別控除の対象となる居住の用に供している家屋については、措置法施行令(平成3年政令第88号による改正前のもの。)第23条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項及び第20条の4《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項により、個人がその居住の用に供している家屋とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとすると規定されているのは、租税負担公平の原則からその特例の適用を限定し、特例の濫用による不公平の拡大を防止する趣旨であると解すべきである。
ハ つぎに、上記ロの「その居住の用に供している家屋」に該当するかどうかは、その者、配偶者、家族構成員等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造、規模、設備、管理の状況その他の諸事情を総合勘案して社会通念に照らして判断すべきであり、また、「その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」かどうかは、1その譲渡した家屋がその譲渡の時においてその者の居住の用に供している家屋である場合には、その譲渡の時において判断すべきであり、2その譲渡した家屋がその者の居住の用に供していた家屋でその譲渡の時においてその者の居住の用に供されていないものである場合には、その家屋がその者の居住の用に供されなくなった時において判断すべきである。
ニ 更に、同一敷地内にある二以上の家屋が一構えの家屋として一の家屋といえるためには、単にこれらの家屋がその者及びその者と同居するのが通常である配偶者等によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分であり、家屋の構造、規模、設備等の状況から判断してそれぞれが独立の家屋としては使用できないものでなければならず、これらの家屋が独立の家屋としての機能を有する場合には、上記ロの居住用財産の特別控除の立法趣旨から、居住用財産の特別控除の対象となる一の家屋とならないというべきである。
ホ これを本件についてみると、上記イのとおり、本件家屋は、1その構造、規模等は通常考えられる生活の用に供することができること、2昭和45年4月ごろから昭和52年7月ごろまでC男夫婦が使用し、その後D女が昭和56年6月19日まで使用していたこと、3台所には水道及びガスの設備並びに流し台が備えられていることから、独立した家屋であると認められ、風呂がないことをもって独立した家屋ではないと認めることはできない。
 なお、本件家屋の敷地である前記2の(1)のイの表の「請求人の所有物件」欄の2の宅地は、280.53平方メートルあり、本件家屋を増築し、風呂を設置するに十分な広さを有する。
 他方、妻の家屋も1通常生活の用に供することができる構造、規模、設備等を有しており、2本件家屋と一体とならなければ居住の用に供することに支障を来す事情は認められないことから、本件家屋と妻の家屋は、それぞれ別個独立して居住の用に供しうる機能を有する家屋であり、両家屋を一の家屋として認めることはできない。
ヘ つぎに、1請求人及びA女は、本件物件及び妻の物件を譲渡した時に本件住所に居住しており、2本件家屋及び妻の家屋の電力の消費量については、上記イの(リ)のとおり本件家屋の使用量が微量であり、また、3請求人が妻の家屋が母家であり、本件家屋が部屋であると主張していることからも、本件不動産及び妻の不動産の譲渡時において請求人の主として居住の用に供されていた家屋は、妻の家屋であると認められる。
ト そうすると、本件不動産は、居住用財産の特別控除の対象となる居住用財産に該当しないから、本件譲渡につき居住用財産の特別控除の規定の適用を認めることはできない。

(2) 本件譲渡所得の金額

 以上のとおり、本件譲渡については、居住用財産の特別控除の規定を適用することはできないので、本件譲渡所得の金額を措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額1,000,000円を控除して計算すると、別表1の「審判所認定額」欄のとおり15,239,785円となり、異議決定を経た後の更正に係る本件譲渡所得の金額と同額であるから、更正は適法であり、請求人の主張は採用できない。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。