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(平5.2.24、裁決事例集No.45 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、ねじ製造業を営む非同族の同族会社であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度(以下「当期」という。)の青色の法人税の確定申告書に、所得金額を53,405,347円、納付すべき税額を9,494,800円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 これに対して、P税務署長は、R国税局の職員の調査に基づき、平成3年9月30日付で所得金額を141,322,373円、納付すべき税額を44,661,600円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の額を4,311,000円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
 請求人は、本件更正及び本件賦課決定を不服として、平成3年12月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成4年2月25日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成4年3月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、法人税基本通達9ー6ー4《認定による債権償却特別勘定の設定》(以下「本件通達」という。)に基づき、取引先であるA株式会社に対して有する貸付金の一部を、当期において債権償却特別勘定に繰り入れるため、平成2年3月26日に債権償却特別勘定繰入額認定申請書(以下「本件認定申請書」という。)を原処分庁へ提出し、認定申請金額87,917,026円(以下「本件繰入額」という。)を債権償却特別勘定に繰り入れ、損金の額に算入して確定申告した。
ロ ところで、本件通達は、所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては、所轄国税局長。以下同じ。)が確定申告書の提出後に認定申請額と異なる金額を認定したときは、認定申請法人が速やかにその認定額に基づいて修正申告書を提出することを条件としているが、所轄税務署長が速やかに認定申請書の内容審査を行い、当該確定申告書の提出期限までに認定通知をすべきことも求めている。
 また、法人税法第125条《青色申告の承認があったものとみなす場合》、同法施行令第30条《たな卸資産の評価の方法の変更手続》第5項、同令第36条《有価証券の評価の方法の変更手続》第2項、同令第49条《取替資産に係る償却の方法の特例》第7項、同令第52条《減価償却資産の償却の方法の変更手続》第5項及び同令第139条の6《外貨建債権債務の換算の方法の変更手続》第5項などに規定する承認申請につき、処分がなかったときに承認があったものとみなす、いわゆる、みなす承認の期間がいずれも6か月となっていることからも、本件通達に係る認定通知は、認定申請書提出後相当の期間内に速やかに行われるべきものである。
ハ 請求人は、原処分庁から債権償却特別勘定繰入額に係る認定申請に対する通知書(以下「本件通知書」という。)の送付がなかったため、本件繰入額は認められたとばかり思っていた。
 ところが、原処分庁は、本件認定申請書について内容審査を行っておらず、本件認定申請書の提出から約1年1か月半たった平成3年5月14日になって、急きょ内容審査に着手し、書類審査の結果、本件繰入額の内容について請求人に指摘し、請求人も自らの判断に誤りがあったことを一応認めた。
 しかしながら、原処分庁は、請求人の事務所に臨場して調査を行うなど長期間を費やし、遅延理由の説明もないまま、平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度(以下「翌期」という。)の法定申告期限後の平成3年9月20日付で、本件繰入額の全額が損金算入できないとする旨の本件通知書を請求人に送付し、P税務署長は、請求人が修正申告書を提出する余地もなく、同月30日付で本件更正及び本件賦課決定をした。
 仮に、本件繰入額の認定が更に内容審査を要するものであったとしても、原処分庁は、請求人が不利益を被ることのないように、少なくとも翌期の申告時期までに本件通知書を送付すべきであり、また、P税務署長は、同様の理由で、請求人に修正申告書を提出させるべきであったから、上記原処分庁及びP税務署長の対応は、本件通達の趣旨に反した不当なものである。
ニ 原処分庁は、本件通達にみなす承認の定めがないことを理由として、更正可能期間内に認定通知をすれば足りると主張するが、前記ロのとおり、認定通知は速やかに行われるべきものであるから、原処分庁の対応が本件通達の趣旨に反した不当なものであることは明白であり、当該主張は、事務処理の怠慢による責任を回避したものにすぎない。
ホ したがって、本件更正の原因が請求人にあるとしても、本件通知書が遅延したことにより請求人に過少申告加算税等附帯税で多大な損失を与えた責任は原処分庁及びP税務署長にあるから、本件賦課決定は不当である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件通達は、法人税法上、貸金等の一部を貸倒損失として計上することが認められていないため、企業の実態と税法上の制約との間に現実的な調整を加えるという意味合いから、法人が所定の金額について、認定による債権償却特別勘定を設定し損金算入をすることができることとしたものである。
 本件通達は、従前には、認定申請に対する所轄税務署長の回収不能と見込まれる金額の認定が、事業年度末までに行われることが原則であったため、認定が遅れるとその設定ができなくなる等実情に即さない面があったことから、昭和55年12月25日の改定により、事前認定制度を緩和し、法人が事業年度末までに認定申請書を提出し、回収不能と見込まれる金額を債権償却特別勘定として設定できることとしたものである。
 ただし、認定申請法人は、上記所轄税務署長の認定の前に債権償却特別勘定の設定額を損金の額に算入する場合、当該認定の金額と差異が生じないように自己の判断と責任で損金の額に算入すべきである。
 また、上記所轄税務署長の認定は、認定申請に対するみなす承認の定めがない以上、事後的にせよ、すべて行われるものであるから、所轄税務署長が確定申告書提出後に申請額と異なる認定をしたときは、速やかに修正申告書を提出しなければならない。
 なお、本件通達に係る修正申告書の取扱いは、通常の修正申告書の場合と同様に取り扱われることになる。
ロ 請求人は、原処分庁が本件通達の趣旨に反し、事務処理の怠慢により本件認定申請書に係る認定通知を長期間行わず、P税務署長は修正申告の余地もなく本件更正を行い、過少申告加算税等附帯税について請求人に多大な損失を与えたから、本件賦課決定は不当であると主張するが、次のとおり、請求人の主張には理由がない。
(イ) 本件通達による認定は、上記イのとおりであり、基本的には書類審査であるが、書類だけからでは申請金額の適否が判断できない場合、臨場調査等によりその内容について審査を行うものであるから、相当の期間を要することもある。
 このことから、原処分庁が本件通達の趣旨に反して事務処理を怠り、本件通知書の送付を速やかに行わなかったため不利益を与えたとする請求人の主張は当たらない。
(ロ) 請求人は、修正申告の余地もなく本件更正を受けたと主張するが、原処分庁が調査の結果に基づいて修正申告書の提出をしょうようしたにもかかわらず、請求人は過少申告加算税が課されることを不当としてこれに応じなかったものである。
 本件更正は、請求人の判断により本件繰入額の算入を誤ったことに基因し、更正可能期間内にしたものであるから、本件通知書の送付が相当の期間なされなかったといって、違法になされたものではなく、また、修正申告書の提出か更正かという方法の相違等によって本件賦課決定の適否に何ら影響を与えるものではない。
(ハ) 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項によれば、過少申告加算税が課されないのは、「納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合」と規定されている。
 本件繰入額の損金算入が請求人の判断と責任で行われたものである以上、その算定を誤ったことは、上記の正当な理由に該当しないことは明らかである。
ハ 以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、かつ、他に通則法第65条第4項に該当する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定は、適法である。

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3 判断

  本件審査請求の争点は、原処分庁が本件通達の趣旨に反して本件認定申請書の内容審査を速やかに行わず、長期間経過後に本件通知書を送付するなど事務処理を怠り、請求人に過少申告加算税等附帯税について多大な損失を与えたとして、原処分を取り消すべきか、否かにあるので、以下審理する。

(1) 当事者双方の答述、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人は、平成2年3月26日に本件認定申請書を提出した後、本件繰入額について損金経理により債権償却特別勘定を設定し、同年6月28日に当期の法人税の確定申告書を提出したこと。
ロ 原処分庁は、平成3年5月14日に請求人に対して本件認定申請書の内容について問題点を指摘し、更に内容審査のために書類等の確認を要したことから、同月29日以後の法人税調査に併せ、内容を審査して認定を行ったこと。
ハ 請求人は、原処分庁が平成3年6月14日に認定の結果を説明し、以後数回修正申告のしょうようをしたところ、認定額については理解し納得できるものの、過少申告加算税等附帯税について免除して欲しいとして修正申告のしょうように応じなかったこと。
ニ 原処分庁は、平成3年9月20日付で本件通知書を請求人に送付したこと。
ホ P税務署長は、平成3年9月30日付で本件繰入額の損金算入誤りを是正する本件更正及び本件賦課決定をしたこと。
ヘ 請求人は、所轄税務署長が認定申請金額と異なる金額を速やかに認定通知したときは、認定額に基づいて速やかに修正申告書を提出すべきであり、この場合、過少申告加算税を賦課決定されてもやむを得ないと認識していること。
(2) ところで、過少申告加算税は、当初から正当に申告した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するとともに、過少申告を防止しようとする行政上の措置であることから、通則法第65条第1項及び第2項によって、修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき税額に対して課されるものであるが、同条第4項によると、「納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合」には、その部分について過少申告加算税を課さない旨規定されている。
 この場合の「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば修正申告又は更正前の申告がその後の事情の変更により納税者の過失に基づかず過少となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合を意味するのであって、納税者の不知、誤解あるいは判断の誤りに基づく場合には、これに該当しないと解すべきである。
(3) また、本件通達は、法人税法上、部分的な貸倒れが認められていないが、実際問題として部分的貸倒れを絶対に認めないことは現実の経済情勢に即応できないことから、これに対処するために現実的な調整を図っているものである。
 したがって、本件通達による債権償却特別勘定の設定に係る損金算入については、法人の判断と責任に基づいて行うべきものであり、本件通達にはみなす承認の規定がなく、事後的にせよ、すべて所轄税務署長の認定が行われることを考えると、認定通知が適法になされており、これに認定申請法人の許容し難い特設の事情が存しない限り、認定通知が認定申請書の提出後速やかになされなかったとしても、認定申請法人はこれを甘受しなければならないと解される。

(4) 以上の事実等を基に判断すると、次のとおりである。

イ 本件更正は、請求人自らの判断により損金算入した本件繰入額が本件通達上認められないことに基因して行われたものであること及び原処分庁が平成3年6月14日以後、請求人に対して認定額に基づいて修正申告のしょうようを行い、請求人も本件繰入額の全額が損金算入誤りであったと認めながらこれに応じなかったため、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項の規定による期間内に行われたものであることから、これを不当ということはできない。
ロ 本件通知書は、請求人の主張のとおり、本件認定申請書提出後相当の期間を経過した後に送付されていることが認められるが、本件通知書が速やかに送付されなかったことのみをもって、請求人の本件繰入額の損金算入誤りが許されるものではないこと及びこれに特段の事情があると認めるに足りるものがないことからすれば、原処分庁の事務処理が本件通達の趣旨に反したものとはいえず、本件賦課決定が不当なものであるとの請求人の主張は当たらない。
ハ このほか、本件更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた原処分は適法である。

(5) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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