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(平5.6.18、裁決事例集No.45 18頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、ガス配管工事業を営む同族会社であるが、昭和60年8月1日から昭和61年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成元年5月30日付で本件事業年度以降の法人税の青色申告の承認の取消し(以下「青色申告取消」という。)をするとともに、同年6月12日付で次表の「更正等」欄のとおり本件事業年度の更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成元年6月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月26日付で青色申告取消については異議申立てを棄却する旨の異議決定を、更正及び過少申告加算税の賦課決定については次表の「異議決定」欄のとおりその一部を取り消す異議決定をした。

(単位:円)
項目
区分
所得金額 納付すべき税額 過少申告加算税の額
確定申告 285,404 88,300
更正等 7,954,436 2,465,700 212,000
異議決定 2,444,162 757,600 186,000

 請求人は、原処分(異議決定で一部取り消された後のもの。以下同じ。)について、平成元年10月23日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正について
 原処分庁は、請求人が昭和60年8月21日に従業員13名(以下「本件従業員」という。)に対して支給した夏期賞与2,000,000円(以下「本件賞与」という。)は架空の賞与であるから、本件賞与相当額を損金の額に算入できないと判断している。
 しかしながら、本件賞与は、当時、請求人の業況が悪く、夏期賞与が支給できない状態であったため通常の支給時期の8月5日前後より遅れたものの、次のとおり昭和60年8月21日には支給しており、本件従業員に対する賞与として本件事業年度の損金の額に算入すべきものである。
(イ) 本件賞与の支払資金2,000,000円については、請求人は、経理担当者であるA女(以下「A女」という。)の夫が経営するB工務店から昭和60年8月9日に2,000,000円を借り入れて手当てしていること。
(ロ) 請求人は、本件賞与の支給に際し、本件従業員ごとの支給額を記載した明細書を作成していること。
(ハ) 請求人は、給料及び賞与の計算業務をC事務所に委託していたが、本件賞与については、A女が同事務所に報告することを失念していたため、同事務所が従業員ごとに作成している給与台帳に記載されず、また、従業員に交付する出勤日数、残業手当、支給合計、控除合計などを記載している給与明細書(以下「給与明細書」という。)も作成されなかったが、現実に本件賞与は支給しており、本件賞与に係る源泉徴収税額182,000円は、平成4年2月26日に納付している。
(ニ) 本件従業員のうち12名は、請求人に対し、平成2年8月25日付ないし同年9月5日付で、請求人から昭和60年8月21日に夏期賞与をもらった旨を記載した証明書(以下「本件証明書」という。)を提出していること。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、異議決定を経た後の更正は、その一部が取り消されるべきであるから、これに伴う過少申告加算税の賦課決定も取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正について
 本件賞与は、次のとおり、本件従業員に支給したものとは認められず、架空に計上したもので本件事業年度の損金の額に算入されない。
(イ) 本件賞与については、従業員に交付される給与明細書が作成されていないこと。
(ロ) 請求人がD市役所に提出した本件従業員の昭和61年分給与支払報告書の支払金額の中には、本件賞与の額が含まれていないこと。
(ハ) 本件従業員及びその妻のうちの数名は、異議審理の調査担当者に対し、請求人から昭和60年の夏期賞与の支給を受けていない旨を答述していること。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 以上のとおり、本件賞与は、支払の事実がない架空の賞与であり、国税通則法第68条第1項《重加算税》に規定する重加算税の課税要件を充足することは明らかであるから、当該規定に基づいて算定される重加算税に相当する額までの範囲内でされた過少申告加算税の賦課決定は正当である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1) 更正について

 請求人が、本件従業員に対し、本件賞与を支給したか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) 本件賞与に相当する額2,000,000円は、請求人の備え付けている現金出納簿において昭和60年8月21日に支出された旨記載されていること。
 また、当該現金出納簿には、昭和60年8月9日に2,500,000円が借り入れられ、入金された旨記載がされていること。
(ロ) 本件賞与については、給与明細書が作成されていないこと。
 また、本件従業員の昭和60年分の給与等に係る年末調整においては、本件賞与は総支給額に含まれていないこと。
(ハ) 本件賞与は、請求人からD市役所に提出された本件従業員に係る昭和61年分給与支払報告書の支払金額の中に含まれていないこと。
ロ 当審判所が、請求人が提出した本件証明書、請求人及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、賞与の支給規定を定めていないため、賞与を支給する場合は、その都度、社長が各従業員の勤続年数、過去の支給実績等を総合勘案して支給額を決定していること。
(ロ) 請求人は、給料及び賞与の計算業務をC事務所に委託し、これらを支給する場合は、通常、同事務所は給与明細書を作成し、この給与明細書に各従業員の受領印を徴しているが、本件賞与については、給与明細書の作成がなく、本件従業員の受領印も徴していないこと。
(ハ) 本件従業員のうち2名及び異議審理の調査担当者がその調査の際に不在であった本件従業員のうち1名の妻は、異議審理の調査担当者に対し、次のとおり答述していること。
A 従業員某は、昭和60年の夏は会社の景気が良くなかったとして賞与をもらっていない。
B 従業員某の妻は、昭和60年ころに一度、夏の賞与をもらわなかったことがある。
C 昭和60年8月6日に退職した従業員某は、同月6日又は7日に請求人の事務所へ8月分給料及び離職票を受け取りに行ったが、その後、請求人から何らの金員も受領したことはない。
(ニ) 本件従業員が請求人に提出した本件証明書は、請求人が本件従業員に対し「昭和60年8月21日に(有)○○(請求人)から夏期賞与として200,000円(又は100,000円)を受け取ったことを証明して下さい。」の文言をあらかじめ印刷した書面に、証明年月日、署名、なつ印等を求めたものであり、その証明年月日は、いずれも請求人が審査請求を行った日(平成元年10月23日)以降の平成2年8月25日から翌月5日までの間であること。
(ホ) 請求人は、その備付けの現金出納簿によるとE工務店から昭和60年8月9日に2,500,000円を借り入れ、そのうち本件賞与の支給日である同月21日に1,600,000円を、また、翌月7日に残額900,000円を返済していること。
ハ 以上のとおり、1本件賞与については、通常作成されるべき給与明細書の作成がなく、また、これに代わる賞与の支給額を明らかにする書類なども本件従業員に交付していないこと、2請求人は、本件従業員が本件賞与を受領した事実を明らかにする受領印等が押印された証拠資料の提出をしないこと、3本件賞与については、給与支払報告書の支払金額の中にも含まれていないこと、4異議審理の調査担当者に対してなされた従業員及びその妻の答述は、任意かつ具体的で信頼性があること、5本件証明書は、請求人が本件審査請求後に本件従業員に依頼して作成されたものであること及び6E工務店からの借入金は、そのほとんどが本件賞与の支給されたとする昭和60年8月21日にE工務店に返済されているから、本件賞与の原資であるとの請求人の主張には疑問が残ることから判断して、本件賞与は、本件従業員に支給されたものではなく、架空に計上されたものと認めざるを得ない。
ニ そうすると、請求人の所得金額は、請求人の確定申告に係る所得金額285,404円に、本件賞与相当額2,000,000円と請求人及び原処分庁の双方に争いのない雑費の額に含まれている損金の額に算入されない国税及び地方税の加算税及び遅延金158,758円を加算した2,444,162円となり、異議決定を経た更正に係る所得金額と同額となるから、更正は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 原処分庁は、本件賞与が架空の使用であり、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の課税要件を充足することは明らかであるから、当該規定に基づいて算定される重加算税に相当する額までの範囲内でされた過少申告加算税の賦課決定は正当である旨主張する。
 しかしながら、仮装又は隠ぺいに係る事実認定に基づき別途重加算税の賦課決定を行うのはともかく、過少申告加算税の賦課決定処分の適否が争われている場合において、重加算税の賦課要件の存在することを理由に過少申告加算税に代えて重加算税の額を認定することは、実質的に新たな不利益処分を行うに等しく許されないと解するのが相当である。
 したがって、原処分に係る過少申告加算税の額186,000円のうち、原処分庁が重加算税の額を認定することによって維持されることになった153,000円はこれを取り消すのが相当である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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