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(平5.4.16、裁決事例集No.45 24頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)及びその妻○○は、1昭和55年3月24日に△△株式会社から別表1に記載の土地及び建物(ただし、区分3の宅地については16分の1の共有持分。以下これらを「本件不動産」という。)を代金34,000,000円で購入し、2平成2年2月2日に□□株式会社(ただし、登記簿上はA男)に対し本件不動産を代金87,500,000円で売却した(以下、請求人の持分に係る部分につき「本件譲渡」という。)。
 請求人は、平成2年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)に、本件譲渡に係る譲渡所得について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項の規定及び措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定(3千万円を限度とする特別控除を認めるもの。以下「本件特例」という。)を適用の上、別表2の「確定申告」欄のとおりの各金額を記載して、これを平成3年3月13日に原処分庁に提出した。
(2) 原処分庁は、平成3年12月26日付で、本件譲渡所得に係る特別控除額について本件特例は適用できず、措置法第31条第4項の規定(100万円を限度とする特別控除を認めるもの)を適用するのが正当であるとして、別表2の付表に記載のとおりの計算に基づき、別表2の「更正」欄に記載の各金額をもって本件申告書に係る所得金額等の更正をするとともに、同日付でこの更正により納付すべき税額を基礎として計算した重加算税1,323,000円の賦課決定をした。
(3) 請求人は、これらの処分を不服として、平成4年2月24日にこれらの処分の全部取消しを求める異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年5月25日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後のこれらの処分のうち重加算税の賦課決定(原処分)について、なお不服があるとして、平成4年6月17日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 次の理由により、原処分のうち過少申告加算税に相当する金額を超える部分を取り消すべきである。
イ 請求人は、もともとサラリーマンであり、◎◎市××町2丁目8番18号に居住していたが、昭和55年に、いわゆる脱サラを志して妻と共同で本件不動産を購入し、別表1の区分1に記載の店舗兼居宅(以下「本件家屋」という。)の1階(ただし、洋間1室を除く。)を店舗として本屋を開業し、本件家屋のその余の部分(1階の洋間と2階の全部)は、居住の用に供していた。
ロ 請求人は、昭和57年ないし昭和58年ころに本件家屋の住居部分が手狭となったため、近隣の「○×ビル」3階の3DKマンション(以下「本件マンション」という。)を賃借し、さらに昭和60年に別表3に記載の不動産(以下「本件居宅」という。)を購入して、家族と共にこれらに転居しているが、各転居後においても、請求人だけは時々本件家屋の2階で寝泊まりするという状況にあった。
ハ 以上のことから、請求人は、本件不動産を売却した場合には、税法上居住用財産に適用される30,000,000円の特別控除が受けられるものと思っていた。
ニ 請求人及び妻は、平成2年2月に本件不動産を売却したため、同年分の所得税の確定申告が必要であった。
 そこで、請求人は、平成3年3月13日、確定申告期の申告納税相談会場(P税務署庁舎内)に出向き、原処分庁所属職員(以下「相談担当職員)という。)による指導を受けて、本件申告書及び妻の平成2年分の所得税の確定申告書を提出した。
 この際、相談担当職員は、請求人が持参した本件不動産の売買契約書(購入時と売却時の2通)や登記費用等の領収書その他の関係書類(以下「請求人持参書類」という。)に基づいて、事務的に「譲渡内容についてのお尋ね兼計算書」(以下「お尋ね兼計算書」という。)及び本件申告書等を代筆し、請求人は、本件申告書等に請求人らの住所及び氏名を記入し、押印しただけであった。
ホ 以上のとおり、請求人は、本件申告書の提出に当たり、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当するような行為をしていない。
 したがって、原処分には、この点に関する事実の認識又は法令の適用について誤解がある。
 ちなみに、1請求人は、本件家屋を居住の用に供していなかったとされることについては既に納得しており過少申告加算税を課されるのはやむを得ないが、この金額を越える重加算税部分に不服がある。また、2請求人及びその家族は、前記ロに述べた転居に基づく住民登録(転居届)をしていなかったが、これは、本件家屋が請求人と妻の記念すべき脱サラの場所であり、請求人らにとって経済的、社会的及び精神的な基盤となる所であったからである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は適法である。
 請求人の主張には、次のとおりその理由がない。
イ 請求人は、平成3年3月13日、相談担当職員に申告納税の相談をして本件申告書を提出した。
 この際、請求人は、昭和55年4月から平成2年1月までの間本件家屋をその居住の用に供していた旨申し立てて、相談担当職員をしてお尋ね兼計算書にその旨を記載させ、また、本件家屋に係る店舗と居宅の利用割合に関し、その4分の3に相当する部分を居宅として利用していた旨を申し立てて、相談担当職員をしてこれに基づく本件特例に係る特別控除額を計算させ、その金額を本件申告書に記載させたものである。
ロ しかし、請求人が本件家屋を利用していた状況等は、次のとおりである。
(イ) 本件家屋の1階部分について
 本件家屋の1階部分は、もともと請求人が店舗として利用していたものであり、また、昭和60年6月から売却するまでの間は、B男に賃貸していた。
 このように、本件家屋の1階部分は、いずれの時期においても請求人の居住の用には供されていなかったものである。
(ロ) 本件家屋の2階部分について
 本件家屋の2階部分は、遅くとも昭和60年6月までにはC女に賃貸されており、同人は、この板の間部分を学習塾として売却の直前まで利用していた。
(ハ) 請求人及びその家族の生活の本拠について
 請求人は、昭和60年6月に本件居宅を購入し、請求人及びその家族は、そのころから平成3年6月ころまでの間、本件居宅に居住していた。
 しかるに、請求人及びその家族は、本件居宅を住所とする住民登録をしていなかった。
ハ 上記ロによれば、請求人は遅くとも昭和60年6月以降は、本件家屋に居住していなっかたことが明らかであるところ、たまたま住民登録を異動させていなかったことを奇貨として、前記イのとおり、相談担当職員に対し、昭和55年4月から平成2年1月までの間、本件家屋(ただし、その4分の3に相当する部分)を請求人の居住の用に供していた旨の虚偽の申立てをし、これに基づいて本件申告書を提出したものである。
 よって、これは、通則法第68条第1項にいう「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。

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3 判断

(1) 請求人は、本件特例を適用して申告したことに関して、重加算税を賦課されるような仮装、隠ぺいに当たる行為をしていない旨主張するのでこの点について以下に検討する。

イ 原処分庁の提出資料及び当審判所の調査の結果によると、次の事実(争いがない事実を含む。)が認められる。
(イ) 本件家屋の利用状況に関すること
A 請求人は、本件不動産の購入直後から、本件家屋の1階(ただし、洋間1室を除く。)を請求人が経営する本屋として利用し、その奥にあった洋間1室も昭和57年ないし昭和58年ころに改装の上書店として利用していた。
 また、請求人は、昭和60年6月から本件家屋の1階全部をB男に賃貸し、同人は、これを書店として本件譲渡の直前まで利用していた。
B 本件家屋の2階は、もともと居住用に建築されていたもので、居間2室(各6畳くらい)、食堂兼台所(4.5畳くらい)、浴室及び便所があったが、請求人は、昭和56年4月に居間2室をC女に賃貸し、同人は、これを週2回開催する×○塾として本件譲渡の直前まで利用していた。
 また、C女が借り受けた時には、本件家屋の2階は、既に居間2室とその他の部分とが間仕切りされていて、居間2室は、通しの板の間(12人満席くらい)であり、また、学習用の机が置かれていた。
 ちなみに、C女は、原処分庁所属職員に対して、その賃借期間中の居間2室に関して「当初の2ないし3年は、■■塾なども借りていたようだが、それ以降は私だけだったように思う。」と供述している。
(ロ) 請求人及びその家族の住居に関すること
A 請求人は、遅くとも昭和58年ころには、本件不動産の近隣に所在する本件マンションを賃借し、請求人及びその家族は、この時から昭和60年6月までの間、これを居住の本拠として利用していた。
B 請求人は、昭和60年6月に本件居宅を購入し、請求人及びその家族は、この時から本件譲渡のころまで引き続き本件居宅を居住の本拠として利用していた。
(ハ) 本件申告書提出時の状況に関すること
A 請求人は、平成3年3月13日に、平成2年分所得税の確定申告のため、P税務署に出向き、請求人持参書類を提示して相談担当職員と面談した。
B 相談担当職員は、請求人において事前に記載することを求めていたお尋ね兼計算書の記載がなされておらず、直ちに本件譲渡に係る所得金額等の計算ができなかったため、まず、このお尋ね兼計算書の記載(代筆)に着手し、請求人持参書類によって明らかな事項については、それらに基づいて記載したが、本件不動産の利用状況等に関しては、これを明らかにする書類がなかったため、専ら請求人の説明によってこれを記載した。
C お尋ね兼計算書には、その「売却された資産」の「利用状況」欄に、1居住用及び事業用にしていた旨及び2居住用にしていた期間は昭和55年4月から平成2年1月までであった旨記載されている。
 また、お尋ね兼計算書と同時に作成された「譲渡所得計算明細書」には、居住用及び事業用に供していた部分の割合として、前者が4分の3、後者が4分の1であった旨記載されている。
ロ 上記イの(イ)及び(ロ)に認定の事実によれば、請求人は、その購入当初の約1年間については、本件家屋を居住用及び事業用に利用していたが、以後その所有期間の大部分においてはこれを居住用に利用していなかったことが明らかである。
 ちなみに、請求人は、その所有期間の大部分においても、時々請求人の寝泊まりだけに台所等を利用していた旨主張するが、請求人の答述以外にはこれを証する資料がなく、本件居宅や、本件家屋の近隣居住者等の答述に照らして、このような事実さえも認めることができないところである。
 なお、請求人及び家族の住民登録は、昭和55年4月から平成2年2月までの間本件不動産の所在地を住所としてなされる(争いがない事実。)が、このような事実をもってしても以上の判断が左右されるものではない。
ハ また、前記イの(ハ)に認定の事実によれば、請求人は、相談担当職員に対して、本件家屋の4分の3相当部分を、昭和55年4月から平成2年1月までの間その居住の用に供していた旨の説明をしたものと推認するのが相当であって、お尋ね兼計算書等の記載が請求人持参書類により事務的になされたもので、請求人の説明に基づくものでない旨の請求人の主張は、到底採用することができない。
ニ 以上検討したところによれば、請求人は、平成3年3月13日に、P税務署において、相談担当職員に対して、その購入直後の約1年間を除いて本件家屋を全く居住の用に供していなかったにもかかわらず、その全所有期間を通じてその4分の3相当部分を居住の用に供していた旨の虚偽の申立てをして、相談担当職員をして申告関係書類にその旨の虚偽の事実を記載させ、かつ、これを基礎として計算した本件申告書を作成させた上でこれを提出したことになり、このような請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するものと判断するのが相当である。

(2) 原処分のその他の部分については請求人が争わないところ、本件全資料によっても、格別に違法と目すべきところが認められない。

(3) そうすると、本件審査請求は、その理由がないものとして棄却を免れない。

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