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(平5.5.26、裁決事例集No.45 65頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、納税者○○(以下「滞納者」という。)の昭和54年分所得税の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成2年11月1日付で次表に掲げる建物(以下「本件建物」という。)を差し押さえた(以下「本件滞納処分」という。)。

 

所在地P市R町2丁目1番地8
家屋番号 1番8の2
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積 一階 38.74平方メートル 二階 35.30平方メートル

 

 共同審査請求人A女、同B男、同C男、同D女、同E女、同F女、同G男、同H女、同I男、同J女及び同K株式会社(以下、それぞれ「A女」、「B男」、「C男」、「D女」、「E女」、「F女」、「G男」、「H女」、「I男」、「J女」及び「K社」といい、これらを併せて「請求人」という。)は、これを不服として、平成3年5月7日に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をしたところ、異議審理庁は、法定の不服申立期間経過後にされた異議申立てであるとして、同年10月25日付でいずれも却下の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分についてなお不服があるとして同年11月20日に審査請求をした。
 なお、請求人は、平成4年3月31日にA女、B男及びC男を請求人の総代に選任し、同年4月21日にその旨を当審判所に届け出た。
 また、本件滞納国税については昭和60年12月6日に○×税務署長から■■国税局長に徴収の引継ぎが行われている。

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2 主張

(1) 請求人の主張

イ 本件審査請求の適法性について
 異議審理庁は、本件異議申立てが国税通則法(以下「通則法」という。)第77条《不服申立期間》第1項の規定に反した不適法なものであるとして却下の決定をしたが、請求人が本件滞納処分があったことを知った日は平成3年3月26日であるから、本件異議申立ては適法にされている。
ロ 本件建物の帰属について
 本件建物は、次に述べるとおり請求人の共有財産であり、これを滞納者の所有財産と認定してされた原処分は違法であるから、原処分の全部の取消しを求める。
(イ) 本件建物は、請求人の共有利用及び投資の目的でP市R町2丁目1番8所在の土地(64.72平方メートル、以下「本件土地」という。)上に建築したが、本件土地は昭和53年6月13日に、隣接する私道の持分及び当時本件土地上に存した建物(以下、これらと本件土地と併せて「P市物件」という。)とともに取得をしたもので、本件建物及びP市物件の取得に当たり、次表のとおり請求人がそれぞれ出資をしている。
 なお、P市物件の取得当時本件土地上に存していた建物は本件建物の建築のために取り壊した。

(単位:円)
氏名 金額 氏名 金額
A女 2,000,000 G男 1,000,000
B男 4,000,000 H女 1,500,000
C男 3,000,000 I男 1,000,000
D女 1,000,000 J女 300,000
E女 3,000,000 17,500,000
F女 700,000 K社 不明

(注)K社は建築資材を出資したがその金額は不明である。

 

(ロ)原処分庁は、本件建物の固定資産課税台帳上等の名義が滞納者であることを理由に本件建物を滞納者の所有財産と認定したが、固定資産課税台帳上等の名義が滞納者名義になっているのは、出資をしていない滞納者の名義とした方が、出資者間の公平が保たれると考えたためである。
 なお、本件土地の真実の所有者は請求人であるが、登記簿上の所有者は滞納者名義となっていたため、これを請求人名義に変更登記した後、本件建物についても請求人名義に登記すべく準備している間に、原処分庁が誤って職権により滞納者の所有財産として登記をしたうえ本件滞納処分をしたものである。
 また、原処分庁は、請求人から滞納者に対する出金の事実があったとしても、それは滞納者に対する生活費等の資金援助と認められる旨主張するが、請求人は出資と資金援助は明確に区分している。

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(2) 原処分庁の主張

イ 本件審査請求の適法性について
 滞納者は、本件建物に係る公売予告通知書を受領したので、公売を避けるために納税資金の金策を請求人に依頼している旨、平成3年1月28日に原処分庁の徴収担当職員(以下「徴収担当職員」という。)に申し立てていることからすれば、請求人は、遅くとも平成3年1月28日までには本件滞納処分があったことを知っていたことになる。
 そうすると、本件異議申立ては、同年1月29日から起算して2月を経過した日以後の平成3年5月7日にされているので、通則法の規定に反し不適法となり、本件審査請求も不適法となるから、審査請求を却下するとの裁決を求める。
ロ 本件建物の帰属について
 仮に、本件異議申立てが適法であったとしても、次に述べるとおり、本件建物は滞納者の所有財産と認められ、原処分は適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(イ) 本件建物は、本件滞納処分時には未登記であったが、その1工事請負契約書の注文者名、2建築代金の支払に対する領収証のあて名及び3固定資産課税台帳上の所有者名がいずれも滞納者名であることから、滞納者の所有と認定したものである。
(ロ) 請求人は、本件建物を請求人の出資により取得した旨主張するが、その裏付けとなる証拠の提出がなく、請求人から滞納者への出金の事実が認められない。
 また、仮に、請求人から滞納者に対する出金の事実があったとしても、それは生活費を含めた資金援助と認められる。

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3 判断

(1) 本件審査請求の適法性について

 本件異議申立てが、通則法に規定する不服申立期間を徒過してされたものであるか否かに関し、請求人が本件滞納処分があったことを知った日がいつであるかについて争いがあるので、以下審理する。
イ 原処分関係資料等を当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 徴収担当職員は、平成3年1月28日、滞納者から納税資金の金策を請求人に依頼している旨の申立てを電話で受けたこと。
(ロ) 滞納者は、異議調査において、本件滞納処分があったことを請求人に知らせたのは、公売予告通知を受け取ってからであるが、いつ知らせたか忘れた旨申述していること。
(ハ) 異議調査において、A女は平成3年3月26日に滞納者から本件滞納処分があったことを聞いた旨、また、F女は同日にA女から本件滞納処分があったことを聞いた旨それぞれ申述していること。
(ニ) 当審判所に対し、A女は徴収担当職員が同人の家に臨場した日の2〜3日前に滞納者から本件滞納処分があったことを電話で聞いた旨、また、B男は徴収担当職員がA女の家に臨場した日の2〜3日前に、滞納者あるいはA女からの連絡で本件滞納処分があったことを聞いた旨それぞれ答述していること。
(ホ) 徴収担当職員は、平成3年3月27日にA女宅に臨場し、滞納者、A女、B男、C男、E女及びD女と面談をしていること。
 その際、徴収担当職員は上記請求人に対して、本件滞納処分に不服があれば少なくとも同日から2月以内に異議申立てをする必要がある旨の説明をし、帰局後、A女あてに異議申立書の用紙を送付していること。
(ヘ) 滞納者は、当審判所に対し、病弱等で家庭事情が複雑な状態等にあった請求人に、本件滞納処分についての相談を自らすることができなかった旨の上申書を提出していること。
ロ 上記各事実に基づいて、以下検討する。
(イ) 原処分庁は、徴収担当職員が、平成3年1月28日に滞納者から納税資金の金策を請求人に依頼しているという申立てを受けたことをもって、請求人が本件滞納処分があったことを知った日は平成3年1月28日以前である旨主張する。
 しかしながら、前記イの(イ)のとおり、平成3年1月28日に滞納者から上記申立てがあった事実は認められるものの、前記イの(ハ)のとおり、A女及びF女は異議調査時において本件滞納処分があったことを知ったのは平成3年3月26日である旨申述していること、また、前記イの(ニ)及び(ホ)の事実によれば、A女及びB男は本件滞納処分があったことを知ったのは早くても平成3年3月24日となること、滞納者には前記イの(ヘ)の事情があったことに、前記イの(ホ)の徴収担当職員の異議申立てに関する指導の経緯を併せ考えれば、請求人が本件滞納処分があったことを知ったのは早くても平成3年3月24日であると認めるのが相当である。
(ロ) 以上によれば、平成3年5月7日にされた本件異議申立ては、通則法に規定する不服申立期間内にされた適法なものと認められる。

(2) 本件建物の帰属について

 本件建物の帰属について争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ) 滞納者の昭和54年分の所得税は、S市○△町5丁目6番13所在の土地及び建物(以下両者を併せて「S市物件」という。)の譲渡に係る譲渡所得をその内容とするものであること。
(ロ) 本件建物は、注文者を滞納者、請負者を×○工務店(L男)、工期を昭和54年3月14日着手、同年5月30日完成、請負代金を6,360,000円とする工事請負契約書に基づき、本件土地上に建築されたものであること。
(ハ) 本件建物は、平成2年11月5日に本件滞納処分に係る差押えの登記をするための所有権保存登記がされるまでは、未登記であったこと。
(ニ) 本件建物の固定資産課税台帳上の所有者は滞納者となっていること。
(ホ) 本件土地の所有者は、滞納者として登記されていること。
(ヘ) P市物件の昭和53年6月13日付土地建物売買契約書は、売主がM女、買主が滞納者となっていること。
ロ 原処分関係資料等を当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件建物は、滞納者を建築主として、建築確認申請が行われていること。
(ロ) 本件建物は、昭和60年4月1日以降、滞納者の居所とされているが、請求人の住居として使用されたことはないこと。
(ハ) K社は、青色申告書提出についてその承認を受けている法人であるが、その決算書等から滞納者に対して出資金を計上した事実を確認できないこと。
(ニ) 滞納者は、異議調査において、S市物件を担保に借入れをしてP市物件の購入代金を支払い、当該借入金はS市物件の売却代金で返済した旨申述していること。
(ホ) 滞納者は、S市物件の土地を担保に、△△信用金庫××支店から、昭和53年6月9日に22,000,000円を借り入れ、これを昭和54年9月21日に返済していること。
(ヘ) M女は、P市物件の売買代金10,000,000円を、昭和53年6月13日に受領していること。
(ト) 株式会社□□は、S市物件の売買代金64,750,000円を、次表のとおり支払っていること。

 

支払年月日 支払金額
昭和 年 月 日
54.8.31

10,000,000
54.9.21 49,750,000
54.9.26 5,000,000

ハ 上記各事実に基づいて、以下検討する。
(イ) 本件建物は、前記イの(ハ)のとおり本件滞納処分に係る差押登記がされるまで未登記であったが、前記イの(ロ)及び(ニ)並びにロの(イ)のとおり、工事請負契約書、固定資産課税台帳及び建築確認申請の当事者がいずれも滞納者となっており、所有権を有しない滞納者を本件建物の名義人としなければならない特段の事情も見当たらないことからすれば、その所有者は滞納者であることが推認できる。
 更に、前記ロの(ロ)のとおり本件建物が滞納者の居所とされていたこと並びに前記イの(ホ)及び(ヘ)のとおり、本件土地の登記簿上の所有者及びその取得の際の買主がいずれも滞納者であるという事実を併せ考えれば、本件建物は滞納者の所有財産と認めるのが相当である。
(ロ) 請求人は、出資者間の公平を保つために取引名義人等を滞納者とした旨主張するが、その主張を認めるに足る証拠はなく、また、P市物件及び本件建物を請求人の出資により取得した旨の請求人の主張については次のとおりであり、これら主張はいずれも採用できない。
A 請求人は、当審判所に対して、出資を証する書類として、A女、B男、D女及びN女名義の普通預金通帳の各写しを提出したが、これら通帳からはP市物件及び本件建物の取得資金に見合う出金の事実は認められず、また、K社が出資した金額については不明である旨主張しているところ、前記ロの(ハ)のとおり、K社の決算書等から滞納者に対する出資の事実も認められない。
B 更に、請求人が本件建物と併せて出資の対象としたと主張するP市物件については、前記ロの(ニ)のとおり、滞納者はS市物件を担保として借入れをした資金によりその代金を支払った旨異議調査において申述しており、その事実は、前記ロの(ホ)ないし(ト)のとおり確認できる。
C 以上によれば、請求人の提出資料から請求人が本件建物取得資金を出資したとの主張は、その事実を認めることができず、当審判所の調査によっても請求人の主張を認めるに足る証拠資料もない。
 以上審理したところによれば、本件建物は、滞納者の所有と認められるから、原処分庁が本件建物を滞納者の所有財産と認定したことは相当である。

(3) 原処分のその余の部分について

 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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