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(平5.4.28、裁決事例集No.45 227頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、電子部品製造業を営む同族会社であるが、平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の青色の法人税確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 更に、請求人は、平成3年6月7日に、次表の「修正申告」欄のとおり修正申告をした。
 原処分庁は、これに対し、平成4年4月10日付で、次表の「更正等」欄のとおり更正及び重加算税の賦課決定をした。

(単位:円)
区分 確定申告 修正申告 更正等
所得金額 16,405,269 16,477,419 42,619,119
納付すべき税額 4,587,600 4,614,600 14,615,500
重加算税の額 3,500,000

 

 請求人は、これらの処分を不服として、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項の規定に基づき平成4年6月3日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

  原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正について
 請求人は、本件事業年度において、従業員に対する期末決算手当(以下「本件賞与」という。)として68,000,000円を損金の額に算入した。
 これに対し、原処分庁は、そのうち26,812,000円は請求人の社会福祉法人A会(所在地P市、以下「A会」という。)に対する寄付金であり、本件賞与には当たらないとして更正をした。
 しかしながら、次に述べるとおり、本件賞与は68,000,000円であり、A会への寄付は、従業員が当該賞与のうちからしたものである。
(イ) 本件賞与を支給することについては、請求人の代表取締役B男(以下「B男」という。)が、平成3年3月末までに口頭で全従業員に伝達し、請求人から本件賞与の支給明細書(以下「支給明細書」という。)を交付している。
 なお、従業員の中には、当該伝達内容をノートにメモした者がいる。
(ロ) 請求人は、本件賞与の支給に際し、個人別の本件賞与に係る社会保険料及び所得税(以下「社会保険料等」という。)を控除する前の支給額(以下「賞与支給額」という。)、社会保険料等の控除内訳及び賞与支給額から社会保険料等を控除した額(以下「差引支給額」という。)を記載した「平成3年1回目賞与・控除一覧表」と題する明細表について、賞与支給額の総額を41,188,000円とするもの(以下「a表」という。)と68,000,000円とするもの(以下「b表」という。)の2種類を作成した。
 これについて、原処分庁は、a表が正当なものであると主張するが、a表は、b表の賞与支給額68,000,000円から寄付額26,812,000円を差し引いた額を表示するために作成したものにすぎず、請求人は、本件賞与をb表に基づき支給している。
(ハ) 従業員は、A会が、請求人の従業員らで構成するA会後援会(以下「後援会」という。)を通じて30,000,000円程度の寄付を要望してきたので、本件賞与のうちから寄付をしたものである。
(ニ) 上記寄付に当たって、従業員は、寄付金額欄が未記入の寄付申込書を提出したが、
 それは、後援会から各人ごとの寄付額の計算を依頼された請求人の経理担当事務員(以下「経理担当者」という。)において同欄を記入することにしたためである。
(ホ) 請求人の幹部職員が、部下に対して上記寄付についての名義貸しを依頼した事実はない。
ロ 重加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は違法であり取り消すべきであるから、これに伴い、重加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正について
 本件賞与のうち26,812,000円は、次に述べることから、請求人のA会に対する寄付金を本件賞与に仮装したものであり、かつ、請求人の未払の寄付金となるべきものであるから、法人税法施行令第78条《未払寄付金》の規定により、本件事業年度の所得金額に加算すべきものである。
(イ) 請求人を退職した従業員(以下「元従業員」という。)の申述によれば、平成3年5月にa表に基づき支給された金額が自分の賞与であったとの認識しかなく、b表に係る賞与支給額については、従業員に対して何ら周知されていない。
(ロ) 元従業員が保存している支給明細書は、a表に基づくもののみであり、b表に基づくものの保存はない。
(ハ) 元従業員の申述によれば、A会に対する寄付については、上司から、自分の賞与のうちから寄付するのではないから名義を貸してほしいと言われたので、寄付申込書に寄付額を記入しないまま署名・押印をして請求人に提出したものであり、自分の寄付額について全く知らされておらず、自主的に行ったものではない。
ロ 重加算税の賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法であり、かつ、請求人のA会に対する寄付金を本件賞与に仮装した行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすことは明らかであるから、同項の規定に基づいて行った賦課決定も適法である。

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3 判断

(1) 更正について

 請求人が損金に計上した本件賞与68,000,000円のうちa表に係る賞与支給額41,188,000円を超える部分(以下「本件賞与差額」という。)26,812,000円が、従業員に対する賞与であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 原処分関係資料、請求人の提出資料、関係人の答述及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) A会は、平成2年8月10日に主務官庁から社会福祉法人の認可を受け、平成3年4月1日から身体障害者福祉工場として操業を開始しており、同福祉工場の主たる業務内容は請求人の事業に係る下請であること。
 なお、A会と請求人の敷地は隣接しており、また、A会の理事長は、認可当初からB男であること。
(ロ) 請求人は、A会に対して平成2年8月15日付金銭消費貸借契約書により利率年3パーセント、返済期限平成12年7月31日の条件で48,124,077円を貸し付けていること。
(ハ) 請求人は、従業員187名に対する本件賞与68,000,000円について、本件事業年度において損金の額に算入し、翌事業年度の平成3年5月31日に支給した旨次の仕訳で会計処理していること。
 なお、そのうち38,169,748円については、各従業員の社内預金口座に振り替えていること。
(借方)未払金 68,000,000円
(貸方)預り金 38,169,748円(摘要)期末手当社内預金
     〃  24,848,755円(〃)寄付金預り
     〃   4,981,497円(〃)社会保険料等
(ニ) a表及びb表の基礎となったもので、各従業員ごとの賞与支給額の算定経過等を記載した「平成2年度期末手当」と題する一覧表(以下「賞与算定表」という。)によれば、各人のa表及びb表の賞与支給額は、標準的には次のとおり算定されていること。
「支給」欄の額………基本賃金×1.8……1
「寄付」欄の額………1×3分の2…………2
 賞与支給額
  a表………………1×103パーセント
  b表………………(12)×103パーセント
 なお、上記の計算においてA会への寄付(以下「本件寄付」という。)をしなかった従業員4名については、「寄付」欄の額が零円とされている(このうち3名は、「寄付」欄の額がいったん算定された後に零円に減額されている。)。
(ホ) 本件寄付をしなかった4名の賞与支給額について、その者と雇用形態、基本賃金及び勤務成績が類似する者で本件寄付をしたとする者の賞与支給額と比較すると、a表の場合はそれぞれ近似しているが、b表の場合、本件寄付をしたとする者は本件寄付をしなかった者に比べて1.5倍以上と著しく高額になっていること。
(ヘ) a表及びb表は、いずれも請求人のパーソナルコンピューターから出力されたもので、両表には、各従業員の賞与支給額、社会保険料等の額及び差引支給額が記載されており、それぞれの総額は次表のとおりであること。
 また、a表の欄外下部には、従業員187名について、次表の「3」欄の差引支給額24,848,755円の各人ごとの内訳が鉛筆で加筆されており、当該金額がA会に対する寄付金として、b表に係る差引支給額から控除されていること。
 なお、従業員187名のうち本件寄付をしなかった4名については、a表とb表とが同額であるため、差額は零円となっていること。

(単位:円)
区分 1a表 2b表 3差額(21
賞与支給額 41,188,000 68,000,000 26,812,000
控除額 社会保険料 333,246 549,037 215,791
所得税 2,685,006 4,432,460 1,747,454
控除額計 3,018,252 4,981,497 1,963,245
差引支給額 38,169,748 63,018,503 24,848,755

(注)「3」欄の差引支給額24,848,755円が本件寄付の総額である。

 

(ト) 上記(ヘ)により控除されたA会に対する寄付金(以下「本件寄付金」という。)の総額24,848,755円については、平成3年5月31日に請求人に預り金として受け入れられた後、同年7月31日に9,938,203円、同年12月9日に14,730,889円の2回に分けて合計24,669,092円がA会へ支払われていること。
 なお、残額の179,663円は、後記(ヌ)の寄付申込書未提出者のうちの2名の従業員に返金され、A会に支払われていないこと。
(チ) A会における本件寄付金の受入れ状況及び主な使途は次表のとおりであること。
 なお、A会は本件寄付金の受入れに際して、請求人の経理担当者が作成した「A会寄付申込者名簿」に基づいて領収書を作成し、それぞれ後援会長C男(請求人の取締役工場長、以下「C男」という。)に一括して渡していること。

(単位:円)
年月日 受入金額 払出金額 主な使途
平3.7.31 9,938,203
平3.8.21 7,639,610 請求人に対する借入金返済
平3.9.6 1,380,280 請求人に対する借入金利息の支払
平3.12.9 14,730,889
平3.12.17 15,000,000 請求人に対する借入金返済

 

(リ) 寄付申込書の提出の経緯等は、次のとおりであること。
A 請求人が作成した期末手当振込み等通知書(その中央切取り線下部が寄付申込書となっている。)には、寄付申込書は、住所、氏名を記入・押印の上、明日(平成3年6月1日)12時までに提出願いたい旨付記されている。
B 従業員は、寄付額を記入しないまま寄付申込書を上司等へ提出し、寄付金額欄は経理担当者が後日記入している。
 なお、当該申込書は、本件寄付をしたとする従業員183名のうち3名からは提出されていない。
C 上記Bの寄付金額欄の記入に当たって、8名分の寄付申込書の金額について誤記があったため、他の1名の寄付申込書を経理担当者が差し替えて、本件寄付金の総額24,848,755円に符号させている。
D 寄付申込書の原本は請求人、写しはA会でそれぞれ保管されている。
(ヌ) 上記(リ)のBの寄付申込書未提出者3名についても本件賞与のうちから本件寄付金が差し引かれていること。
(ル) 後援会の活動事績等は、次のとおりであること。
A C男から提出された「社会福祉法人A会後援会」と題する規約(以下「後援会規約」という。)は、作成日付が明らかでなく、また、役員の選任経過、会員である従業員に本件寄付を要請することとした経緯、総会・役員会及びその他後援会の活動事績を示す記録はない。
B 平成3年1月28日から記帳されている後援会の金銭出納帳によれば、会費は会員1口当たり年100円であり、会費収入が会活動に使用された事績はない。
(ヲ) B男は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A A会の資金が不足しているので、平成3年4月ころA会の理事長として当時の後援会長D男(請求人の元総務部長で、平成3年8月に退職している。以下「D男」という。)に、30,000,000円くらいの寄付を要請した。
B 本件寄付金の全額を請求人の預り金として受け入れたのは、請求人の資金繰りの必要性とA会の方で緊急な資金の必要がなかったためと思う。
C 本件寄付金は、後日A会から貸付金の返済として請求人が受け入れているが、これは当該貸付金の原資が銀行借入金であるため、その返済に充当したと思う。
(ワ) 常務取締役E男(以下「E男」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 支給明細書はb表に基づくものを従業員に交付しており、a表を作成したのは、単に寄付した場合と寄付しなかった場合の差引支給額の差を表すためである。
B 寄付申込書の寄付金額欄は、C男の依頼で経理担当者が記入した。
C 本件寄付をしなかった者の賞与支給額が他の従業員に比べて少ないのは、退職予定であったことや班長の評価等によるものである。
(カ) C男は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件寄付については、平成3年4月末か5月初めころ、B男からA会の運営に役立てるため、賞与支給額の3分の1程度を寄付してほしいと要請されたので、D男ら後援会の役員4名で相談して、この要請を受け入れることとした。
B 本件寄付については、従業員に対し、同年5月初めにD男から説明したほか、自分が各班長を通じて全員に周知した。
C 本件寄付についてはいろいろ問題もあったが、会員に対してある程度無理にお願いした面もある。
D 外部の出入業者も後援会の会員になっているが、本件寄付については従業員以外には要請しなかった。
E 従業員ごとの寄付額の計算については、関与していない。
F 後援会規約は、いつ作成されたかはっきり分からない。
 また、同規約は、会員に配付されていない。
(ヨ) D男は当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件寄付については、社員食堂で、みんなに本件賞与の20〜30パーセント程度お願いする旨伝えた。
B 従業員ごとの具体的な寄付額の計算については、幹部の数名分を除き経理担当者に任せた。
(タ) B男の伝達内容を記録したという従業員F男は、当審判所に対し、平成3年3月26日に、経理担当者から自分の部署の職員の賞与支給額を聞いてメモし、各人に伝えた旨答述していること。
(レ) 元従業員について当審判所が調査したところ、次のとおりであること。
A 元従業員Q及びRは、平成3年5月ころa表に基づく支給明細書を、また、同年10月ころ、b表に基づく支給明細書を交付された旨それぞれ答述しており、そのうちQは、a表及びb表に基づく各支給明細書を毎月の給与等の支給明細書と合わせて、交付を受けた順に編てつ・保管しており、a表に基づくものは、4月分と5月分との間に、b表に基づくものは、9月分と10月分の間にそれぞれ編てつしている。
 また、Rは、同年10月ころb表に基づく支給明細書の交付を受けた際、会社の人から税務署の調査が行われているので、この支給明細書を同年3月末にもらったと口裏を合わせるよう指示され、その後、退職届を提出したときも同趣旨のことを指示された旨答述している。
B 上記Rは、会社の人から、会社がA会へ寄付するため名義を貸してほしいと、また、元従業員Sは、会社が寄付することができないから名義を貸してほしいとそれぞれ依頼され、負担はかけないということであったから、寄付申込書に寄付額を記入しないまま住所、氏名を記入、押印して会社へ提出した旨それぞれ答述している。
C 元従業員Tは、税務調査があったころに本件寄付に係る領収書をもらった旨、また、前記Q及びRは、b表に基づく支給明細書の交付を受けて、初めて自分の寄付額を知った旨それぞれ答述している。
(ソ) 請求人の従業員について、当審判所が調査したところ、次のとおりであること。
A 従業員V及びWは、後援会員であるが、後援会の活動状況、役員の選任経過については具体的に知らない旨それぞれ答述している。
B 従業員V及びXは、D男から賞与のおよそ3分の1程度の寄付をお願いしたいという話があった旨を、また、Vは、寄付額の計算は、後援会に一任した旨それぞれ答述している。
C 上記V、W及びXは、自分の寄付額がどういう経緯で誰によって計算されたかについては知らない旨それぞれ答述している。
 また、W及びXは、本件寄付時に本件寄付に係る領収書を受領したかどうか覚えていない旨それぞれ答述している。
(ツ) 元従業員について原処分調査担当者が調査したところによれば、次のとおりであること。
A 元従業員Y及びZが所持している支給明細書は、いずれもa表に基づいて作成されたものである。
 また、両名ともb表に基づくものは交付を受けていない旨それぞれ申述している。
B 上記Y及びZは、平成3年4月又は5月に上司から、会社が寄付をするのだけどいろいろあって名前を貸してほしい旨の依頼があり、自分の賞与の手取額は変わらないとのことから寄付申込書に寄付額を記入しないまま署名、押印し、提出したものであり、自分の寄付額は知らない旨それぞれ申述している。
ロ 以上の事実に基づいて判断すると、次のとおりである。
(イ)支給明細書の交付状況等についてみると、
A 請求人の主張及びE男の答述によれば、従業員にはb表に基づく支給明細書が交付されているはずのところ、元従業員Y及びZは、b表に基づく支給明細書の交付を受けておらずa表に基づく支給明細書のみを、また、元従業員Qは、a表及びb表に基づく2通の支給明細書をそれぞれ所持していること、
B 2種類の支給明細書の交付時期については、1a表に基づく支給明細書は平成3年5月ころ(本件賞与の支給時)に交付を受けた旨の上記Q、Y、Z及び元従業員Rの答述、2b表に基づく支給明細書は同年10月ころ交付を受けた旨のQ及びRの答述並びに3Qにおけるa表及びb表に基づく各支給明細書の保管状況からみると、請求人は、a表に基づくものは同年5月に、b表に基づくものは同年10月ころにそれぞれ従業員に交付したものと認められること、
C 上記Rの、平成3年10月ころb表に基づく支給明細書の交付を受けた際に、会社の人から口裏を合わせるよう指示された旨の答述は、1原処分に係る調査が同年10月初旬に着手されていること及び2b表に基づく支給明細書を、殊更その時期に交付すべき特段の理由がないことから信頼できること、
から、請求人は、従業員に対し本件賞与の支給時にa表に基づく支給明細書を交付し、原処分に係る調査が着手された後に、更にb表に基づく支給明細書を交付して口裏を合わせるよう指示したものと認められる。
 したがって、本件賞与について、b表に基づく支給明細書を交付して従業員に伝達した旨の請求人の主張及び当該主張にそう前記イの(タ)のF男の答述はいずれも採用することはできない。
(ロ) b表の賞与支給額の算定経過等についてみると、
A 前記イの(ニ)のとおり、各従業員ごとの賞与支給額の算定に際して、本件寄付をしなかった者に対しては、賞与算定表の「寄付」欄の額が加算されていないことから、b表に係る賞与支給額は、専ら本件寄付に応じるか否かを基準として算定されていると認められること。
B 本件寄付金の総額は、前記イの(ヘ)のとおり、本件賞与差額26,812,000円から社会保険料等1,963,245円を控除した24,848,755円となっており、また、前記イの(ハ)、(ニ)及び(ヘ)のとおり、b表に係る差引支給額から本件寄付金を控除した額がa表に係る差引支給額38,169,748円と同額になるように算定され、当該金額が各従業員の社内預金口座に振り替えられていること、
から、請求人は、本件賞与差額26,812,000円について賞与支給額の算定時から既に請求人のA会に対する寄付に充てることを予定していたと認められ、また、b表は、本件賞与差額26,812,000円についても従業員へ支給したとした場合に従業員の負担を増加させないで、実際にA会に寄付できる額を計算するために作成したものと認められる。
 なお、E男は、本件寄付をしなかった者の賞与支給額が少ないのは、その者が退職予定であったためである旨等答述するが、a表の賞与支給額でみると、前記イの(ホ)のとおり、雇用形態等が類似する者の間では均衡が取れていること及び当該答述を裏付ける資料の提出がないことから、当該答述は認められない。
(ハ) 従業員から寄付申込書が提出された経緯及び本件寄付金の流れについてみると、
A 前記イの(リ)のとおり、請求人は、本件賞与支給日当日の平成3年5月31日に寄付申込書の提出を依頼し、従業員は寄付額を記入しないまま寄付申込書を提出していること、
B 前記イの(レ)のB及び(ツ)のBのとおり、元従業員Rは、会社がA会に寄付するため名義を貸してほしいと言われた旨答述し、同Y及びZもそれぞれ同旨の申述をしていること、
C 本件寄付金は、B男も認めているように、前記イの(ハ)、(ト)及び(チ)のとおり、本件賞与支給日にA会に払い出されることなく、預り金として請求人の手元に留保され、相当の期間資金繰りのために運用され、また、その後A会に支払われた際にも、間をおかず前記イの(ロ)の貸付金の回収の形で請求人に還流していること、
D 請求人は、前記イの(ヌ)のとおり、寄付申込書の提出の有無に関係なく、しかも、前記イの(リ)のAの寄付申込書の提出期限前の平成3年5月31日に、b表に係る差引支給額から本件寄付金を差し引いていること、
から、請求人は、寄付申込書を従業員から徴することにより、請求人のA会に対する寄付をあたかも従業員がしたかのごとく形式を整えたものと認められる。
 なお、前記イの(ト)のとおり、寄付申込書未提出者2名について寄付金相当額が返金されているが、当該返金が原処分調査の着手後であることからすると、これは、寄付申込書の提出が形式的なものにすぎないことを取り繕うためになされたものと認められる。
 また、後援会は、前記イの(ル)及び(カ)のFのとおり、いつ、どのような手続で結成されたのかさえも明らかでない状況で、その実態を備えていないと認められるから、経理担当者が後援会からの依頼により、本件寄付に関する事務を行った旨の請求人の主張並びにこれにそう前記イの(カ)、(ヨ)及び(ソ)のC男、D男及び従業員Vらの答述はいずれも採用することはできない。
(ニ) 以上を総合すると、本件賞与は、a表に係る賞与支給額41,188,000円であり、法人の寄付金については、法人税法第37条《寄付金の損金不算入》第2項に損金算入限度額が定められていることから、請求人は、A会に対する寄付を従業員の名を借りて行うことにより、請求人の名で寄付をした場合における法人税の負担の軽減を図るためa表に係る賞与支給額に本件賞与差額26,812,000円を上乗せしたb表を作成したものと認められる。
 したがって、b表は、仮装のものと認めるのが相当である。
ハ 以上のとおり、本件賞与差額26,812,000円は、請求人のA会に対する寄付に充てることが予定された架空の賞与というべきである。
 そうすると、本件賞与とされた68,000,000円のうち本件賞与差額26,812,000円は損金にならないとして、これを所得金額に加算した更正は適法であり、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(2) 重加算税の賦課決定について

 以上のとおり、更正は適法であり、かつ、本件賞与の額は、a表に係る賞与支給額が正当なものであるにもかかわらず、b表を作成し、また、従業員から寄付額を記入しないまま寄付申込書に署名・押印させて提出させるなどして、請求人のA会に対する寄付を、従業員が本件賞与のうちからA会に寄付したかのように仮装する方法により、本件賞与として26,812,000円を架空に計上し、それに基づいて納税申告書を提出したことは、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすものであるから、同項の規定に基づいて行った賦課決定も適法である。

(3) 原処分その余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても相当と認められる。

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