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(平5.1.29、裁決事例集No.45 251頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、英会話教材の販売及び各種学校の経営等を営む同族会社であるが、原処分庁は、平成2年8月28日付で請求人が所得税法第204条《源泉徴収義務》第1項に規定する外交員に支給する報酬について徴収して納付すべき所得税について、別表1「原処分の内訳(1)及び(2)の当初告知等」欄のとおり納税告知及び不納付加算税の賦課決定をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成2年10月25日に異議申立てをした。
 その後、原処分庁は、平成3年1月31日付で別表1「原処分の内訳(1)」及び「原処分の内訳(2)」の「訂正告知等」欄のとおり、平成2年8月28日付の納税告知及び不納付加算税の賦課決定を訂正する納税告知及び賦課決定をした。
 異議審理庁は、平成2年10月25日の異議申立てについて平成3年7月15日付でいずれも棄却の決定をし、異議決定書謄本を同月22日付で請求人に送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分(平成3年1月31日付の納税告知及び不納付加算税の賦課決定により訂正された後のものをいう。以下同じ。)になお不服があるとして、平成3年8月21日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。

イ 納税告知について
(イ) 請求人は、請求人が各マネージャー(請求人においてマネージャーと称している者をいう。以下同じ。)ごとに算定した販売手数料の額から、1マネージャーが負担すべき事務所家賃及び電話使用料の経費相当額(以下「本件経費相当額」という。)、2委託販売員(請求人の営業組織上、各マネージャーの下部にランクする委託販売員をいう。以下同じ。)の販売手数料及び3委託販売員の報奨金及び賞与に充てるための社内積立金等の額(以下「報奨金の社内積立金等の額」という。)を控除した後の金額(以下「控除後報酬額」という。)について、所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員の業務に係る報酬(以下「外交員報酬」という。)に該当するとして、マネージャーに販売手数料を支払う際に、所得税の源泉徴収を行い、その税額を納付していた。
 これに対し、原処分庁は、1請求人が源泉徴収の対象としていた控除後報酬額と2マネージャーが負担すべき本件経費相当額の合計額(以下「本件報酬の額」という。)が外交員報酬に該当するとして、本件報酬の額に対する源泉徴収に係る税額(以下「源泉徴収税額」という。)と請求人がマネージャーに対する源泉徴収税額として納付していた金額との差額について納税告知を行った。
(ロ) しかしながら、次のとおり、請求人には、マネージャーに対して支払う本件報酬の額について所得税を源泉徴収する義務はない。
A マネージャーは、請求人の商品の外交販売に従事せず、その者自身が雇用する委託販売員に請求人の商品を外交販売させ、その結果として、請求人から取扱数量又は取扱金額に応じた販売手数料を受領する者であるから、請求人との関係において、下請業者又は特約店としての事業主である。
B また、所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員は、その個人が、販売業者から委託を受け、自らその販売業者の商品を外交販売し、その取扱数量又は取扱金額に応じて報酬を受ける者と解すべきであるから、マネージャーは、上記Aのとおり、請求人の下請業者又は特約店の事業主であり、所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員に該当しない。
ロ 不納付加算税の賦課決定について
 以上のとおり、納税告知は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い不納付加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 納税告知について
(イ) 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人とマネージャー及び請求人と委託販売員との間で、請求人を委託者、マネージャー及び委託販売員(マネージャーと委託販売員を併せて、以下「本件販売員」という。)を受託者とする業務委託契約書(以下「甲委託契約書」という。)を取り交わし、本件販売員は、この委託契約に基づいて請求人の商品の外交販売を行っている。
 また、請求人とマネージャーとの間で、上記契約書に加えて、請求人を委託者、マネージャーを受託者とするマネージャー用業務委託契約書(以下「乙委託契約書」といい、甲委託契約書と併せて「本件委託契約書」という。)を取り交わし、マネージャーは、請求人から委託販売員の指導教育及び販売拡張等を行うよう併せて委託されている。
B 本件販売員の外交販売活動の結果、顧客との間で締結される商品販売に係る契約はすべて請求人の名義で行われ、マネージャーは、本人及び委託販売員の販売実績を販売実績リスト(本件販売員の販売実績を請求人に報告するために作成するものをいい、以下「本件リスト」という。)によって、請求人に報告する。
C 上記Bの本件リストには、請求人の商品を販売した担当者名が記載されているが、その「担当者」欄にマネージャーの氏名も記載されていることから、マネージャー自身も請求人に係る外交販売活動に従事していると認められる。
D 本件販売員は、独自の営業店舗を有せず、請求人の事務所において、請求人所有の電話を使用して外交販売活動を行っている。
E マネージャーと委託販売員との間には、雇用契約も雇用関係も存在しておらず、委託販売員に対する販売手数料の支払及びその所得税の源泉徴収に係る事務は請求人が行っている。
F 請求人は、前記Bの本件リストを基に、マネージャーごとに毎月営業所損益計算書を作成し、マネージャーに対する販売手数料を算定しているが、その際、本件経費相当額、委託販売員の販売手数料、報奨金の社内積立金等の額を控除した控除後報酬額について、所得税法第204条第1項第4号の規定に基づき所得税を源泉徴収し納付している。
(ロ) 上記(イ)の事実から明らかなように、マネージャーは、請求人との本件委託契約書に基づいて、1委託販売員を総括し、2自らも請求人の定めた販売価格、販売条件及び販売方法に基づき、請求人が指定する商品の割賦購入契約又は現金一括購入契約の申込みの勧誘を行い、請求人と顧客との売買契約の締結を媒介する役務を請求人に提供するなど、外交販売活動に従事しているものと認められる。
 他方、請求人は、商品の販売高に応じてあらかじめ定められた手数料をマネージャーに支払っていることから、マネージャーは、所得税法第204条第1項第4号に規定する請求人の外交員に該当する。
(ハ) また、請求人が各月においてマネージャーに支払うべき販売手数料から控除している本件経費相当額の金額は、マネージャーの所得金額の計算上、収入及び必要経費となるものであるから、控除後報酬額に本件経費相当額を含めた本件報酬の額が外交員報酬に該当することになる。
 したがって、請求人がマネージャーに支払う本件報酬の額のうち、源泉徴収の対象としていなかった本件経費相当額を加算して、所得税法第205条《徴収税額》第2号の規定に基づき源泉徴収税額を算定すると42,715,995円となり、請求人がマネージャーの外交員報酬に係る源泉徴収税額として納付した金額26,105,547円を差し引いた16,610,448円について、国税通則法第36条《納税の告知》第1項の規定に基づき、納税告知を行ったものである。
ロ 不納付加算税の賦課決定について
 以上のとおり、納税告知は適法であり、請求人には、納税告知に係る税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項本文の規定に基づき不納付加算税の賦課決定をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、マネージャーが所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員に該当するか否かにあるので審理したところ、次のとおりである。

(1) 納税告知について

 請求人は、マネージャーは請求人の商品の外交販売に従事せず、その者自身が雇用する委託販売員に請求人の商品を外交販売させ、その結果として取扱数量又は取扱金額に応じた販売手数料を受領する者であり、請求人との関係は下請業者又は特約店の事業主であり、マネージャーは所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員に該当しないから、本件報酬の額について所得税の源泉徴収義務はない旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
イ 当審判所が、請求人が提出した資料及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 甲委託契約書には、次の内容が記載されている。
A 請求人は、請求人の指定する商品を請求人の定めた価格、販売条件及び販売方法に基づき、顧客が請求人の商品を割賦又は現金で購入する契約の申込みの勧誘及び申込金の集金をする業務を本件販売員に委託する。
B 請求人は、上記Aに定める委託業務以外に何らの代理権を与えるものではなく、本件販売員は、受託業務以外の事項について、請求人の名称、営業所名、肩書等を使用してはならない。
C 請求人は、本件販売員が勧誘した申込みに関する契約の成否及び維持継続を決定する一切の権限を有する。
D 本件販売員が勧誘した申込みを請求人が承諾し、かしなく契約が成立した場合には、請求人は請求人の定めに基づく手数料を本件販売員に支払う。
E 本契約は、委託契約であって雇用契約ではなく、本件販売員に何ら労働法規上の権利義務を生じるものではない。
F 本契約の有効な間は、本件販売員は受託業務の履行に専念し、同業ないしは類似業種の他社と業務委託契約又は雇用契約を締結したり、請求人に損害を及ぼす事業に関与してはならない。
(ロ) 乙委託契約書には、次の内容が記載されている。
A マネージャーは、委託販売員が独立して請求人の定める価格、販売条件及び販売方法で顧客に対し、請求人の定める購入契約の申込みの勧誘ができるように適切な指導、指示及び援助をする。
B マネージャーは、委託販売員となる候補者の募集、斡旋及び紹介並びに販売員の補充及び教育をし、委託販売員の業務委託契約の存続の可否につき適切な助言をする。
C マネージャーは、委託販売員が勧誘した申込みが適正か否かを確認、点検し、委託販売員と共同の責任において請求人に購入契約の申込書を提出し、これの諾否を求める。
 なお、マネージャーは、同人が提出した上記の申込書に関する契約の成否及び維持継続を決定する何らの権限も有しない。
D マネージャーは、請求人の委託販売員に対する伝達事項を正確かつ適切に伝達する。
E マネージャーは、委託販売員が請求人の定める販売規定その他伝達事項を遵守し、業務上違法、不当な行為をなすことのないよう指導し監督する責任を負い、また、マネージャーの恣意により請求人と委託販売員との業務委託契約に基づく独立した営業活動に支障を与えてはならない。
F マネージャーの提出した申込書を請求人が承諾し、かしなく契約が成立した場合には、請求人は請求人の定めに基づく手数料をマネージャーに支払う。
G 委託販売員が業務委託契約の規定その他伝達事項に違反し、その結果、請求人に損害を与えた場合には、請求人に対しマネージャーは委託販売員と連帯してその損害を賠償する責めを負うこと及び委託販売員が請求人に対し負担するその他の債務の支払についても同様とする。
H 本契約の有効な間は、マネージャーは受託業務の履行に専念し、同業ないしは類似業種の他社と業務委託契約又は雇用契約を締結したり、請求人に損害を及ぼす事業に関与してはならない。
I マネージャーに請求人を代理又は代表する権限を何ら付与するものではない。
(ハ) 請求人は、マネージャーが提出した本件リストを基に各マネージャーごとに本件販売員の商品販売高に応じて営業所損益計算書を作成し、この損益計算書に基づいて、そのマネージャーごとに算定された販売手数料の額から、1請求人が立て替えた本件経費相当額、2委託販売員の販売手数料及び3報奨金の社内積立金等の額を控除した金額をマネージャーに支払っている。
 なお、営業所損益計算書に記載される販売手数料は、販売した商品ごとに請求人があらかじめ定めた手数料によって、販売数量に応じて算定されている。
ロ ところで、所得税法第204条第1項は、居住者に対し国内において同項第4号に掲げる外交員報酬の支払を行う者は、その支払の際、その報酬について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
 また、所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員とは、事業主の委託を受け、継続的に事業主の商品等の勧誘を行い、購入者と事業主との間の売買契約の締結を媒介する役務を自己の計算において事業主に提供し、その報酬が商品等の販売高に応じて定められている者と解されている。
ハ 前記イの事実を上記ロの規定に照らして判断すると、次のとおりである。
(イ) マネージャーは、前記イの(イ)及び(ロ)のとおり、1甲委託契約書に基づき、請求人の指定する商品について請求人と顧客との割賦販売契約等の申込みの勧誘等の業務の委託を受け、継続的に請求人と顧客との売買契約の締結を媒介する役務を請求人に提供するとともに、2乙委託契約書に基づき、請求人が請求人の商品を顧客との購入契約の申込みの勧誘等を委託した委託販売員を請求人の定める購入契約の申込みの勧誘等ができるように指導等をする業務を併せて委託を受けているが、マネージャーが受領する販売手数料は、前記イの(ハ)のとおり、販売した商品ごとにあらかじめ請求人が定めた手数料に基づき、販売数量に応じて算定されているものと認められる。
(ロ) また、請求人は、前記イの(ハ)のとおり、上記(イ)の役務の提供の対価の額として、各マネージャーごとに算定された販売手数料の額から、1請求人が立て替えた本件経費相当額、2委託販売員の販売手数料、3報奨金の社内積立金等の額を控除した金額をマネージャーに支払っている事実が認められることから、マネージャーは、自己の費用負担に基づいて、請求人に上記(イ)の役務を提供しているものと認めるのが相当である。
(ハ) さらに、前記(イ)で述べたとおり、マネージャーは、請求人が請求人の商品を顧客との購入契約の申込みの勧誘等を委託した委託販売員が請求人の定める購入契約の申込みの勧誘等ができるよう適切な指導等についての委託を受けていることからすると、マネージャーと委託販売員との間に雇用契約の存在あるいは商品販売に関する委託契約があるとは認められない。
(ニ) そうすると、マネージャーは、請求人との本件委託契約書に基づき、1請求人の指定する商品について請求人と顧客との割賦販売契約等の申込みの勧誘等の業務及び委託販売員の指導等の業務の委託を受け、2本件経費相当額を負担し、3継続的に請求人と顧客との商品の売買契約を媒介する役務の提供を行っているものであり、4その役務の提供に対する対価の額は、販売した商品ごとに請求人があらかじめ定めている手数料に基づいて、販売した数量に応じて支払われているものと認めるのが相当であるから、マネージャーは、所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員に該当し、請求人には、同法同条に規定する所得税の源泉徴収義務があるとするのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ また、当審判所が、原処分庁が外交員報酬として算定した本件報酬の額について審理したところ、昭和63年12月分、平成元年3月分から同年5月分まで、同年11月分及び平成2年2月分の本件報酬の額に請求人が負担すべき求人広告費等の経費の額が含まれているなど本件経費相当額の算定に誤りが認められる。
 そこで、当審判所が各マネージャーの昭和63年12月分、平成元年3月分から同年5月分まで、同年11月分及び平成2年2月分の本件報酬の額を算定し、所得税法第205条第2号により源泉徴収すべき所得税の額を再計算したところ、別表2の1ないし別表2の6のとおりとなり、これらの金額は、納税告知に係る金額に満たないから納税告知は、その一部を取り消すべきである。

(2) 不納付加算税の賦課決定について

 上記(1)のとおり、納税告知はその一部が取り消されるべきところ、請求人には、納税告知に係る源泉所得税の額のうち、一部取消しにより減額される部分以外の税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項本文の規定に基づいてした不納付加算税の賦課決定は適法である。
 ところで、納税告知に係る源泉所得税の額のうち取り消すべき金額は137,788円となるから、これに伴って不納付加算税の額15,000円も取り消すべきである。

(3) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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