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(平5.5.24、裁決事例集No.45 336頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 共同審査請求人A女(以下「請求人」という。)、B男、C男、D男(以下この4名を併せて「請求人ら」という。)は、昭和63年11月7日に死亡した○○(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)にそれぞれ次表のとおり記載して法定申告期限までに申告(以下「本件申告」という。)した。

(単位:円)
項目
相続人
課税価格 納付すべき税額
A女 99,387,000 26,492,400
B男 2,442,000 647,400
C男 1,000,000 263,300
D男 352,000 98,700

 

 その後、請求人らは平成元年11月14日に、本件申告書に記載した相続財産の一部の価額が過大となっているとして、課税価格及び納付すべき税額をそれぞれ次表のとおりとする更正の請求書を提出(以下「本件各更正の請求」という。)した。

(単位:円)
項目
相続人
課税価格 納付すべき税額
A女 78,853,000 17,017,200
B男 2,442,000 531,700
C男 1,000,000 199,400
D男 352,000 66,400

 

 原処分庁は、これに対し平成2年4月26日付でいずれも更正をすべき理由がない旨の通知(以下これらの通知を併せて「本件各通知」という。)をした。
 請求人らは、本件各通知を不服として平成2年6月25日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成2年9月25日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の本件各通知になお不服があるとして平成2年10月23日に審査請求をしたところ、審判所は、これに対し平成4年1月9日付でいずれも棄却する旨の裁決をした。
 その後、原処分庁は、平成4年2月13日付で、次表のとおり各更正(以下「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各賦課決定」といい、本件各更正と併せて「本件各更正等」という。)をした。

(単位:円)
項目
相続人
更正 賦課決定
課税価格 納付すべき税額 過少申告加算税
A女 183,608,000 56,178,000 3,127,500
B男 2,442,000 747,100 9,000
C男 1,000,000 305,900
D男 352,000 107,700

 

 請求人らは、本件各更正等を不服として、平成4年3月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の本件各更正等になお不服があるとして、平成4年7月27日に審査請求をしたものであるが、本件各更正等に対する審査請求について併合審理する。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件各更正について
 請求人A女及び被相続人の妻E女(以下「E女」といい、以下この2名を併せて「A女等」という。)は、P市R町7丁目323番ほか1筆合計336.52平方メートルの宅地(以下「本件宅地」という。)及び同宅地上の鉄筋コンクリート造陸屋根3階建の建物(以下「本件建物」という。)を本件相続により取得した。
 A女等は、本件宅地のうち200平方メートルの価額を、租税特別措置法第69条の3《小規模宅地についての計算の特例》第1項(所得税法等の一部を改正する法律(昭和63年法律第109号)附則第72条《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例に関する経過措置》の規定により、事業に準ずるものを含む。以下「小規模宅地等の特例」という。)に規定する居住の用に供している宅地等(以下「居住用宅地等」という。)として、評価算定し本件申告をしたが、本件建物の1階及び2階部分(以下「本件建物1・2階部分」という。)の床面積に対応する部分の274.91平方メートルの宅地(以下「本件敷地」という。)は、小規模宅地等の特例に規定する事業の用に供している宅地等(以下「事業用宅地等」という。)に該当することとなるので、請求人らは、本件各更正の請求をしたところ、原処分庁は、これに対し本件各通知をした。
 更に、原処分庁は、本件宅地のうち91.61平方メートルが小規模宅地等の特例にいう居住用宅地であると認定して本件各更正をした。
 しかしながら、本件敷地は、次の理由から事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用が認められるべきである。
(イ) 「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和61年7月9日付直資1ー10ほかの国税庁長官通達をいい、以下「信託通達」という。)は、土地の価額が高騰し、個人所有の土地が社会的に供給されず政治的・経済的に大きな問題となったことから、個人所有の土地の供給を促すため、土地信託の奨励と税制上の優遇措置として制定されたものである。
 また、信託通達は、個人が信託受益権を相続した場合には、当該信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等を事業用宅地等として小規模宅地等の特例の規定を適用することとしたものである。
 そうすると、1本件宅地及び本件建物は、被相続人の存命中に同人とF信託銀行株式会社(以下「F信託銀行」という。)との間で締結された賃貸を目的とする土地信託契約(以下「本件信託契約」という。)の対象とされており、本件信託契約に基づきF信託銀行に本件宅地の所有権移転登記がなされていることから、請求人には、賃貸が現実化されたときの収益(賃料収入)に対する受益権しか存在していないこと、2本件建物1・2階部分については、被相続人の存命中である昭和63年10月3日にF信託銀行とG会社(以下「G社」という。)との間で賃貸借契約を結ぶための覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わしていること及び3請求人は、F信託銀行にコンサルタント料を支払っていることから、本件宅地及び本件建物には信託通達が適用される。
 したがって、本件敷地は、小規模宅地等の特例に規定する事業用宅地等に該当することとなるので小規模宅地等の特例の規定を適用すべきである。
(ロ) また、本件のように宅地等が相続開始の時において完全な事業用として信託され、受託者にその管理及び運用がゆだねられていて、請求人の自己使用ができない場合には、本件建物の1・2階部分は貸家とみるべきであり、本件敷地は貸家建付地であるとみるべきである。
 したがって、単に被相続人の死亡時において、たまたま現実に入居があったかどうかという請求人の責めに帰さない偶然の事実を基に、1小規模宅地等の特例の規定を適用しないこと及び2本件建物の1・2階部分は貸家ではないとし、また本件敷地部分は貸家建付地ではないとして、それぞれの価額を算定することは、請求人に予想外の納税を強いることとなり、課税の公平に反することとなる。
ロ 本件各賦課決定について
 以上のとおり、本件各更正は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 本件各更正等は、次のとおり適法である。
イ 本件各更正について
(イ) 個人が相続により信託受益権を取得した場合には、信託通達4ー1により、当該個人が当該受益権を取得した時において、当該信託受益権の目的となっている信託財産の各構成物を取得したものとして相続税の課税価格等の計算をすることとされている。
 そして、信託受益権の目的となっている信託財産の各構成物の価額は、相続税法第22条《評価の原則》により当該財産の取得の時における時価によるものとされており、その時価は、課税時期の現況に応じて、「相続税財産評価に関する基本通達」(平成3年12月18日付課評2ー4ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)の定めによって評価した価額によるものとされている。
 ところで、個人が相続により取得した財産のうち信託受益権がある場合において、当該信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等が、小規模宅地等の特例に規定する事業の用又は居住の用に供されていた宅地等(以下「居住用宅地等」という。)に該当するか否かは、当該土地等がその相続の開始の直前において当該相続に係る被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていたか否かによって判断するものとされている。
 また、貸家建付地とは、相続開始の時において現に貸付けの用に供されている建物の敷地であって、貸家建付地か否かの判定は、建物の賃貸借契約が相続開始の時において有効に成立しているか否かによって行うこととされている。
(ロ) これを本件についてみると、次のとおりである。
 本件宅地及び本件建物は、相続開始日において、F信託銀行に信託されているから、請求人は信託受益権を相続したものと認められるところ、遺産分割協議書には信託受益権に係る記載はないが、信託財産の構成物である本件宅地及び本件建物に係る相続割合の記載があるからこの相続割合に基づき信託受益権を相続したものと認められる。
 また、本件相続の開始の日における本件建物の利用状況についてみると、本件建物1・2階部分は、F信託銀行とG社との間で本件覚書を取り交わしているものの、同行が本件建物1・2階部分をG社に賃貸するとの賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)は、本件相続の開始後になされており、また、賃借人の入居、敷金及び賃料の授受は本件相続の開始後であったものと認められる。
 そうすると、本件建物1・2階部分は、本件相続の開始の時において、本件建物に係る賃貸借契約は有効に成立していなかったと認められるから、現に貸付けの用に供されていたものということはできない。
 したがって、本件建物1・2階部分の敷地である本件敷地を貸家建付地としてその価額を評価することはできない。
(ハ) 信託財産に属する土地等が、小規模宅地等の特例に該当するか否かは、当該土地等がその相続の開始の直前において当該相続に係る被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等に該当するか否かによるところ、本件相続の開始の直前において、本件建物の3階部分は被相続人の居住の用に供されていたものと認められるが、本件建物1・2階部分については、被相続人の事業(貸家)の用に供されていたものとは認められず、また居住の用に供された事実も認められない。
 したがって、本件宅地のうち本件敷地について小規模宅地等の特例を適用することはできない。
(ニ) 本件建物の3階部分は、被相続人及びA女等の居住の用に供されていたから、本件宅地のうち本件建物の3階部分の床面積に対応する部分については、居住用宅地として小規模宅地等の特例が適用されるところ、当該3階部分に対応する本件宅地の面積は次の算式により91.61平方メートルと算定した。

(本件宅地の面積)
366.52平方メートル
× 596.16平方メートル(本件建物の総床面積)分の149.01平方メートル(3階部分の床面積) 91.61平方メートル

 ところで、小規模宅地等の特例の対象となる91.61平方メートルについては、A女等がどのように取得するか明らかではないが、請求人が原処分庁に提出した本件申告書の第11表の付表1「小規模宅地等に係る課税価格の計算明細書」によれば、請求人は本件宅地のうち166.52平方メートルを、E女は、33.48平方メートルを居住用宅地として小規模宅地等の特例の対象に選択しているから、A女等は当該特例対象の91.61平方メートルを、本件申告に係る小規模宅地等の特例の対象の選択割合によりそれぞれ取得したものとして、次の算式により算定した。

請求人 91.61平方メートル ×
 200.00平方メートル分の166.52平方メートル(本件申告の選択割合)
76.27平方メートル
E女  91.61平方メートル − 76.27平方メートル   15.34平方メートル

 

 以上に基づき、A女等が取得した本件宅地に小規模宅地等の特例を適用して、課税価格に算入すべき本件宅地の価額を算定するとそれぞれ次表の「課税価格に算入する価額」欄の金額のとおりとなる。

 

相続人
項目
A女 E女
本件宅地の取得面積 1 166.52平方メートル 200.00平方メートル
上記1の価額 2 310,792,928円 373,280,000円
小規模宅地等の特例の適用対象面積 3 76.27平方メートル 15.34平方メートル
上記3の価額(2÷1×3 4 142,350,328円 28,630,576円
小規模宅地等の特例の減額割合(居住用) 5 0.5 0.5
小規模宅地等につき減額される金額(4×5 6 71,175,164円 14,315,288円
課税価格に算入する価額(26 239,617,764円 358,964,712円

 

(ホ) 以上の結果、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、次表の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄の金額のとおりとなり、当該金額と同額でされた本件各更正は適法である。

(単位:円)
項目
相続人
課税価格 納付すべき税額
A女 183,608,000 56,178,000
B男 2,442,000 747,100
C男 1,000,000 305,900
D男 352,000 107,700

 

ロ 本件各賦課決定について
 以上のとおり、本件各更正は適法であり、請求人らには、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきA女及びB男に対して過少申告加算税を賦課したことは適法であり、また、C男及びD男に係る過少申告加算税の額は、その金額が5,000円未満となるので、国税通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定によりその全額を切り捨てたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件敷地を事業用宅地として小規模宅地等の特例を適用すべきか否か並びに本件宅地及び本件建物の価額にあるので、以下審理する。

(1) 本件各更正について

イ 本件宅地のうち小規模宅地等の特例を適用すべき面積
(イ) 次の事実については当事者双方に争いがなく、当審判所の調査したところによっても、その事実が認められる。
A 被相続人は、昭和62年7月13日、F信託銀行との間で本件宅地及び建築予定の本件建物を信託不動産とする本件信託契約を締結したこと。
B F信託銀行は、昭和62年7月15日、本件信託契約に基づき□□株式会社に本件建物の建築を依頼したこと。
C 本件建物の完成に伴い、被相続人及びA女等は、昭和63年5月31日、本件建物の3階部分に入居した。
D F信託銀行は、昭和63年8月5日、本件信託契約に基づき、昭和63年5月30日に本件建物を新築し、これを原因とする本件建物の所有権の保存登記がなされていること。
 なお、本件建物の総床面積は596.16平方メートルであり、各階の床面積は、1階部分210.90平方メートル、2階部分236.25平方メートル及び3階部分149.01平方メートルであること。
E 昭和63年9月30日ころ、本件建物の2階部分に漏水箇所が発見されたこと。
F 課税時期における本件宅地の面積は、366.52平方メートルであること及び評価基本通達に基づいて算定される本件宅地の自用地としての1平方メートルあたりの価額は1,866,400円であり、当該金額に本件宅地の面積を乗じた金額は、684,072,928円であること。
G 課税時期における本件建物の価額を自用家屋として評価算定すると、その価額は、73,181,900円となること。
(ロ) 当審判所が、原処分関係資料等を調査したところによれば、次のとおりである。
A 被相続人は、昭和62年7月ころまで本件宅地上に木造瓦葺二階建の建物を所有し、A女等と共に居住していたが、当該建物は昭和62年7月に取り壊されたこと。
 また、当該建物は、その取壊しの直前において、賃貸されていた事実はないこと。
B F信託銀行は、昭和63年10月3日、G社との間で、本件覚書を取り交したこと。
 なお、本件覚書には、詳細を協議の上、速やかに別途賃貸借契約を締結すること及び本件建物の賃貸借に関する基本事項として1賃貸借期間を2年間、2月額賃料を坪当たり20,000円及び3敷金を賃料の6か月分相当額とすることが記載されていること。
C F信託銀行は、前記(イ)のEで述べた漏水箇所につき、調査及び補修を行い、昭和63年11月4日に全対策を完了したこと。
D 昭和63年11月7日、被相続人が死亡したこと。
E 本件覚書に基づき、昭和63年12月7日、賃貸人をF信託銀行、賃借人をG社とし、賃貸借契約を本件建物1・2階部分とする本件賃貸借契約が締結されたこと。
F 本件賃貸借契約によると、賃貸借期間は昭和63年12月1日から2年間及び敷金の額は賃料の6か月分に相当する14,756,400円とされているほか、G社は賃貸借契約を他に転貸できるものとされていること。
G 前記Fで述べた敷金は、昭和63年12月20日に支払われているが、これ以前において本件賃貸借契約に係る賃料等の支払がなされた事実が認められないこと。
H G社は、昭和63年12月15日、△△株式会社との間で、本件建物の201号室について賃貸借契約を締結したこと。
I G社は、平成元年6月30日、××株式会社との間で、本件建物の101号室について賃貸借契約を締結したこと。
(ハ) ところで、小規模宅地等の特例の制度は、被相続人若しくは被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)の事業又は居住の用に供されていた宅地等は、相続人の生活の基盤の維持のために必要不可欠なものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であり、特にそれが事業用のものである場合には、雇人、取引先等事業主以外の者の社会的基盤として、居住用宅地等にない制約を受ける面があることなどの観点から、相続税の課税価格算定上特別の配慮を加えることをその趣旨として設けられたものである。
 そして、個人が相続等により取得した財産のうちに被相続人等の事業又は居住の用に供されていた宅地等がある場合には、それらの宅地等のうち200平方メートルまでの部分で当該個人が選択したものについて、相続税の課税価格に算入すべき価額は、相続により取得した時の土地の価額に、事業用宅地及び居住用宅地のそれぞれに、その定められた一定の割合を乗じて計算した金額とするものとされている。
 また、個人が信託受益権を相続した場合、小規模宅地等の特例の適用の取扱いについては、信託受益権の目的となっている信託財産に属する宅地等が、相続開始の直前において被相続人等の事業又は居住の用に供されていた宅地等に該当するものであるときに適用の対象となると解される。
(ニ) これを本件についてみると、小規模宅地等の特例の適用は、本件宅地のうち本件相続開始の直前において被相続人等の事業又は居住の用に供されていた部分についてのみ適用されるものであるところ、前記(イ)及び(ロ)の各事実によれば、本件建物1・2階部分については、本件相続の開始の直前において被相続人等の事業(貸家)の用に供されていたものとは認められず、また、居住の用に供された事実も認められないから、本件宅地のうち、本件相続の開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた本件建物の3階部分の床面積に対応する部分のみについて、小規模宅地等の特例が適用されることになる。
 したがって、原処分庁が本件宅地の価額を算定するに当たって、本件敷地について、小規模宅地等の特例の適用がないとしたことは相当である。
 また、本件宅地のうち小規模宅地等の特例の適用の対象となる地積は、次の算式により算出するのが合理的であるから、居住用宅地の面積は、91.61平方メートルと認められる。

(本件宅地の総面積)
366.52平方メートル
× 596.16平方メートル(本件建物の総床面積)分の149.01平方メートル(3階部分の床面積) 91.61平方メートル

(ホ) 請求人は、信託通達の制定目的は土地信託に対する税制上の優遇措置を設け、土地信託を奨励し個人所有の土地の供給を促すものであり、当該通達は、個人が信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等を相続した場合には、当該土地等は小規模宅地等の特例の対象となる旨定めたものであるから、本件敷地について小規模宅地等の特例の適用がある旨主張する。
 しかしながら、信託通達4ー6は、個人が信託受益権を相続した場合に、当該信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等が、課税時期において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等に該当するものであるときは小規模宅地等の特例を適用する旨定めており、信託通達は、信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等を、土地信託以外の用に供されている土地等に比し税制上格別に優遇する措置を定めたものとは認められず、また、請求人の主張するように土地信託が、個人所有の土地の供給を促すために奨励されているとしても、これをもって信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等を一律に小規模宅地等の特例の適用の対象とすべき理由にはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は、いずれも独自の見解であって採用できない。
(ヘ) 請求人は、本件のように相続の開始の時において既に信託契約により土地及び建物の管理運用が受託者にゆだねられている場合には、相続開始の時に当該建物に現実に入居があったかどうかということは、委託者の責めに帰さないことであるから、当該入居の事実がなかったことをもって当該建物は事業の用に供されていないとし、小規模宅地等の特例の規定を適用しないことは、納税者に予想外の納税を強いることとなり、課税の公平を欠くものである旨主張する。
 しかしながら、土地信託の場合は、信託の設定時や終了時には財産権の形式的な移転が行われ、信託期間中は、信託財産の管理及び運用等がすべて受託者の名義で行われるという他の財産管理手法には見られない特性があるものの、その実質を見ると、信託報酬を対価として委託者が受託者に土地等の財産の管理及び運用をゆだね、委託者はその運用収益を信託配当として享受するというものであって、土地等を中核とする財産の管理手法の一形態にすぎず、所有者が自ら財産の管理及び運用を行う場合等信託以外の財産管理手法による場合と基本的には異ならないものと考えられる。
 そうすると、単に信託契約が締結されたことをもって、信託受益権の目的となっている信託財産に属する土地等の取扱いを、所有者が自ら財産の管理及び運用を行う場合の取扱いと異にすべき理由は認められないから、当該土地等に係る賃貸借契約が締結されるなど、現実に運用され収益を計上し得る状態にあるか否かを基準として、当該土地等が小規模宅地等の特例に規定する事業用宅地等であるか否かを判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件宅地及び本件建物の価額
(イ) 本件宅地の価額
 前記イの(ニ)のとおり、本件建物1・2階部分は、被相続人等の事業の用に供されていたものとは認めらず、また、本件建物の3階部分の床面積に対応する91.61平方メートルは居住用宅地であるから、本件宅地の価額は自用地として評価算定すべきである。
 本件宅地の自用地としての価額は、前記イの(イ)のFのとおりであるから、その価額は684,072,928円である。
 また、原処分庁は、本件建物の3階部分の床面積に対応する91.61平方メートルに係るA女等の小規模宅地等の選択割合を、前記2の(2)のイの(ニ)のとおり算定しているところ、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。
 以上に基づき、A女等が取得した本件宅地に小規模宅地等の特例を適用して、課税価額に算入すべき本件宅地の価額を算定すると、それぞれ次表の「課税価格に算入する価額」欄の金額となる。

 

相続人
項目
A女 E女
本件宅地の取得面積 1 166.52平方メートル 200.00平方メートル
本件宅地の価額 2 310,792,928円 373,280,000円
小規模宅地等の特例の適用対象面積 3 76.27平方メートル 15.34平方メートル
上記地積に係る価額(2÷1×3 4 142,350,328円 28,630,576円
小規模宅地等の特例の減額割合(居住用) 5 0.5 0.5
小規模宅地等につき減額される金額(4×5 6 71,175,164円 14,315,288円
課税価格に算入する価額(16 239,617,764円 358,964,712円

 

(ロ) 本件建物の価額
 貸家の用に供している建物は、借家人にその建物の使用権が認められ、その借家人が家賃を滞納しているような場合等特別な事由がない限り、その借家人を立ち退かせることができないという制約があるから、貸家の用に供されている建物の価額は、自用家屋としての価額から借家権の価額を控除して算定するのが合理的である。
 また、相続税法第22条が「相続により取得した財産の価額は当該財産の取得の時の時価」によると規定されていることからも併せ考えれば、貸家の用に供されている建物は、相続開始の時においてその建物が現に賃貸されているものと解すべきであり、換言すれば、建物の賃貸借契約が相続開始の時において現に有効に成立しているか否かによってこれを判断するのが相当である。
 そこで、これを本件建物についてみると、前記イの(ロ)のEのとおり、本件賃貸借契約は本件相続の開始後になされたものであり、本件相続による財産取得の時、すなわち相続開始の時においては賃貸人の入居はおろか敷金及び賃料の授受も行われていなかったことが認められる。
 そうすると、本件建物1・2階部分は貸家の用に供されていなかったものと認められるので貸家の評価はできず、また、本件建物3階部分は居住の用に供しているから、本件建物は自用家屋として評価するのが相当である。
 したがって、前記イの(イ)のGのとおり本件建物の価額は、73,181,900円である。
(ハ) 請求人は、1本件宅地及び本件建物1・2階部分は土地信託等の受託者にその管理運用がゆだねられていること及び2課税時期に本件建物1・2階部分に入居があったかどうかは、請求人らの責めに帰さない偶然の事実であることから、本件敷地の価額を貸家建付地として評価し、また、本件建物の価額を貸家として評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、相続税法第22条は、相続等により取得した財産の価額をその取得の時における時価によることとしていることからみて、貸家とは相続開始日において現に賃貸されているもの、いわゆる借家権が生じているものと解するのが相当であって、本件建物が信託受益権の目的となっている信託財産であることをもって、その価額を貸家として評価する理由はない。
 また、本件建物1・2階部分が貸家とは認められないことは上記のとおりであるから、本件敷地の価額を貸家建付地として評価する理由はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は、いずれも理由がない。
ハ 本件相続に係るその他の財産及び債務の価額に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められるから、本件相続に係る総遺産価額、課税価格の合計額及び相続税の総額は、次表のとおりとなる。

(単位:円)
項目 金額
総遺産価額 本件宅地の価額 598,582,476
本件建物の価額 73,181,900
本件宅地及び本件建物以外の財産の価額 47,784,393
合計 719,548,769
債務及び葬式費用の額 206,740,187
課税価格の合計額 512,806,000
相続税の総額 156,901,800

 

ニ 以上の結果、本件相続に係る請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、次表の「課税価格」欄および「納付すべき税額」欄の金額のとおりとなり、これらの金額はいずれも原処分に係る金額と同額であるから、本件各更正は適法である。

(単位:円)
項目
相続人
課税価格 納付すべき税額
A女 183,608,000 56,178,000
B男 2,442,000 747,100
C男 1,000,000 305,900
D男 352,000 107,700

(2) 本件各賦課決定について

 以上のとおり本件各更正は適法であり、また、請求人らには、本件申告に当たり、原処分庁が、過少申告加算税の基礎とした事実を本件申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、原処分庁が請求人及びB男に対し、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件各賦課決定は適法である。

(3) その他

 原処分のその余の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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