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(平5.12.13、裁決事例集No.46 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1) 更正の請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年3月28日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続によって、被相続人の自宅の敷地であるP市R町4番地の14の宅地230.44平方メートル(以下「甲宅地」という。)、被相続人の貸家の敷地であるP市S町570番地の15の宅地100.59平方メートル(以下「乙宅地」という。)及びその他の財産を相続した。
ロ 請求人は、法定申告期限内の平成3年9月27日に、租税特別措置法第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項(ただし、平成4年法律第14号改正前のもの。以下「本件特例」という。)に規定する「小規模宅地等」として甲宅地のうちの200平方メートルの部分を選択し、本件特例を適用の上、課税価格を361,857,000円、納付すべき税額を171,827,100円とする相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を原処分庁に提出した。
ハ 請求人は、平成3年10月25日、本件特例の適用を受けようとする宅地を、申告の際に選択した甲宅地のうちの200平方メートルの部分から、甲宅地のうちの99.41平方メートルの部分と乙宅地との合計200平方メートルに変更し、課税価格を273,781,000円、納付すべき税額を123,366,300円とする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

(2) 原処分及び不服申立ての経緯

イ 原処分庁は、平成4年4月8日付で、本件更正の請求に対し、本件特例の適用要件に該当しないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
ロ 請求人は、上記の処分(原処分)に不服があるとして、平成4年6月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月7日付でこれを棄却する旨の異議決定をした。
 よって、平成4年9月21日に本件審査請求に及んだものである。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その取消しを求める。
イ 乙宅地上の建物(以下「本件貸家」という。)の貸付け(以下「本件貸付け」という。)は、次のとおり被相続人の事業として行われていたものであるから、乙宅地は、本件特例の適用を受ける被相続人の事業の用に供されていた宅地(以下「事業用宅地」という。)に該当する。
(イ)本件貸家は、それぞれ機能的に独立する1階店舗4棟、1階屋根付私道1棟及び2階貸部屋1棟の計6棟からなっているから、建物の貸付けが事業といえるかどうかの基準を定めた平成元年5月8日付直資2ー208国税庁長官通達「租税特別措置法(相続税法の特例のうち農地等に係る納税猶予の特例及び延納の特例関係以外)の取扱いについて」69の3ー1《貸し付けられていた建物の敷地が事業用宅地等に当たるかどうかの判定》(以下「本件通達」という。)の「(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。」という基準を満たしている。
(ロ)本件貸付けは、次の理由により、社会通念上事業的規模の不動産貸付けに該当する。
A 被相続人は、本件貸付けを生業とし、毎年の申告所得のすべてが本件貸付けに係る賃貸料収入に基づくものであったこと。
 なお、本件貸付けに係る賃貸料収入が低額であるのは、本件貸家が被相続人の先代より継続して賃貸されているため、物価統制令等の理由で賃貸料が物価上昇に比例できずにいるからであるが、賃貸料収入が必要経費を大きく上回ることをみても営利性は十分であり、賃貸料収入が低額であることを理由に事業的規模でないとするのは誤りである。
B 本件貸家は、繁華街地区にある飲食店であり、建物の維持管理のために通常の不動産貸付けに伴う稼働以上のものを必要とし、被相続人は、月4、5回の家賃等徴収の臨場、賃貸料の値上げ交渉等で多大の労力を費やしたこと。
C 本件貸家は、「S町」という繁華街にあり、被相続人の相続開始後の立退き交渉でも、賃借人から地価の80パーセントに及ぶ立退料を要求されていること。
ロ 本件特例は、昭和63年法律第109号により改正されたものであるが、当該改正において、従前の規定から事業に準ずる不動産貸付けが除かれた趣旨は、租税負担回避行為の防止にある。
 ところで、本件貸付けは、上記イの(ロ)のAのとおり、被相続人の先代時に開始されて現在まで継続しているものであるから、租税負担を回避する目的で一時的に行った貸付けでないことは明らかであり、このような場合に、本件特例を狭義に解し、本件特例の適用を認めないことは、上記法改正の趣旨を参酌しないものであって不当である。

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(2) 原処分庁の主張

 乙宅地は、次のとおり事業用宅地に該当しないから、原処分は適法である。
イ 本件通達によれば、乙宅地が事業用宅地に当たるかどうかは、本件貸付けが事業として行われていたかどうかにより判定されるが、1社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っていたとき、2貸間、アパート等(1棟の建物で、その構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途に供することができるものを含む。)については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上、独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であるとき、3賃貸料の収入の状況、貸付建物の管理の状況等からみて2の場合に準ずる事情があると認められるときのいずれかに該当すれば、本件貸付けは事業として行われていたものと判定されることになる。
ロ 本件貸付けは、1棟の建物を5室に区分して賃貸しているものであり、個々の独立した家屋の貸付けではないから、上記2には該当しない。
ハ 本件貸付けに係る賃貸料収入は、昭和63年分が2,016,000円、平成元年分が2,240,000円、平成2年分が2,040,000円と少額であり、事業的規模の不動産貸付けといえる程度の収入金額とは認められない。
 また、被相続人が本件貸家の維持管理のために通常月で4日ないし5日程度の労力を費やしていたとしても、その程度の稼働内容は、通常の不動産貸付けであれば規模に関係なく行われるものであるから、そのことをもって本件貸付けが事業的規模の不動産貸付けであるということはできない。

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3 判断

 本件更正の請求について検討したところ、次のとおりである。

(1) 当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 甲宅地は、本件特例の適用要件を満たしていること。
ロ 本件申告書には、甲宅地について、本件特例の適用を受けようとする旨の記載及び必要書類の添付があること。
ハ 本件申告書の課税標準等及び税額等は適法に計算されていること。

(2) ところで、国税通則法第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大であるときに、更正の請求ができる旨規定している。
 それによれば、納税申告書の提出により確定している納付すべき税額が過大であることのみでは更正の請求ができる事由とはならず、当該過大であることが課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算自体に誤りがあったことに基づいていなければならない。更に、所得計算の特例又は減免等の規定で、納税者に一定事項の申告及び選択等を条件としてその規定の適用を受けることをゆだねている場合に、いったん自由な意思でこれらの規定に従い、かつ、適法な計算に基づいて申告書を提出し税額を確定させた者は、後日その一定事項の申告及び選択等の内容を変更することを理由に更正の請求をすることはできないと解すべきである。
 これを本件についてみれば、上記(1)の認定事実のとおり本件更正の請求は、本件申告書に記載した「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」には該当しないから乙宅地が事業用宅地に該当するか否かについて審理するまでもなく不適法であり、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした原処分は結論において適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、本件全資料を総合しても、これを不相当とする理由は認められない。

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