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(平5.10.12、裁決事例集No.46 15頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、舗装工事業を営む同族会社であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日まで、平成2年4月1日から平成3年3月31日まで及び平成3年4月1日から平成4年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。ただし、消費税については各課税期間と読み替えるものとする。)の重加算税の各賦課決定処分に対する本件審査請求(平成5年1月25日)に至る経緯及びその内容は、別表に記載のとおりである。

(2) 原処分の概要

 原処分庁は、平成4年6月に請求人に対する税務調査(以下「本件調査」という。)を行い、その結果、本件各事業年度において、請求人の取締役A(以下「A」という。)が請求人の売上金の一部を除外し、A及びその妻B(以下「B」という。)の個人名義の普通預金に留保するなどしていた事実(以下「本件事実」という。)が判明した。
 請求人は、その事実を認めて、平成4年7月9日に、本件各事業年度の法人税及び消費税の修正申告書並びに平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度の法人臨時特別税の期限後申告書を提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年7月31日に、本件事実は、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項及び第2項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当するとして、重加算税の各賦課決定処分をしたものである。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、本件事実を請求人の仮装、隠ぺい行為と認定しているが、次のとおり、請求人には仮装、隠ぺいの行為はない。
(イ) 本件事実は、請求人の営業を統括していたAが、その立場を奇貨として、得意先から集金した金銭の一部を着服するという、A個人の背任行為等であって、請求人の代表取締役C(以下「代表者」という。)は当該背任行為等に関与はおろか、関知さえしていなかった。
(ロ) 代表者は、本件調査によって初めて本件事実を知ったものであり、それまで長期にわたりその事実を発見できなかったのは、代表者及び従業員の経理・経営知識が不足して、かかる不正行為をチェックすることができなかったためである。
(ハ) 請求人は、Aが作成した営業報告等の資料に基づいて、本件各事業年度の確定申告をしたものである。したがって、請求人には、利益を隠ぺいし、そのためにあらかじめ計画的に仮装、隠ぺいした事実はなく、仮装、隠ぺいの意思及び行為はなかった。
(ニ) なお、請求人は、公共事業の指名業者であることから、そもそも、諸官庁からの指名資格を失うおそれがある会社存亡の危険を犯してまで、本件事実に及ぶ必然性は全くない。
ロ 代表者は、もともと税務官庁に対する漠然とした恐れを持っていたので、本件調査の際に非協力と誤解された態度に出たことは事実であるが、そのことを理由とした原処分は酷にすぎる。
ハ 以上のとおり、本件事実は、専らA個人の背任行為等に係るものであって、請求人に仮装、隠ぺいの意思及び行為はなく、また、本件事実を代表者が知り得なかったことについて、経理・経営知識の不足というやむを得ない事情があるから、重加算税の賦課決定処分は違法、不当である。

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(2) 原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件事実の概要は次のとおりである。
(イ)Aは、請求人の工事売上金の一部を、いったん、A名義の普通預金(D信用金庫P支店及びE銀行R支店。)及びB名義の普通預金(F銀行S支店及びG信用金庫T支店。)口座に入金し、そのうちの一部は請求人の預金口座に振り込むなどして売上げに計上しているものの、残りの部分は売上げから除外し隠ぺいしていたものである。
(ロ)Aは、除外した資金を、上記(イ)の普通預金及び家族名義の定期預金等に留保するほか、個人的に流用していた。
ロ 請求人は、本件各事業年度について、上記イのとおり売上げの一部が除外されたところに基づき、課税標準等を過少に記載した法人税及び消費税の確定申告書を提出し、また、法人臨時特別税については無申告であったものである。
ハ ところで、Aは、1昭和60年3月8日の法人設立日から本件調査の時点に至るまで、請求人の取締役の地位にあること、2請求人の賃金台帳には「専務取締役」と記載されていることから、Aは請求人の役員としての地位を有し、その行為は客観的に請求人の業務の執行をしたと認められる以上、Aが売上金を除外し仮装、隠ぺいした行為は、請求人の行為と同視すべきものである。
ニ したがって、本件事実に基づいた請求人の本件各事業年度の確定申告書の提出及び無申告であったことは、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき」されたものと認められる。
ホ なお、請求人は、代表者が本件調査に非協力であったことを理由とする原処分は酷である旨主張するが、原処分庁はかかる理由を根拠として原処分を行っていないので、この点に関する請求人の主張は失当である。
ヘ また、請求人は、本件事実を代表者が知り得なかったことが、経理・経営知識の不足にあるとして、やむを得ない事情を主張するが、一般的に経理・経営知識の不足は、通則法第65条《過少申告加算税》第4項及び同法第66条《無申告加算税》第1項に規定する「正当な理由」に該当しないことから、やむを得ない事情があるとする請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、重加算税の賦課決定処分の可否にあるので、以下検討する。

(1) 請求人は、本件事実は請求人の仮装、隠ぺい行為に該当しない旨主張するので、以下検討する。

イ 本件事実に関する原処分庁の主張(前記2の(2)のイ)については、請求人は争わず、また、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
ロ 請求人の答述、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)Aは、請求人の法人設立日である昭和60年3月8日から平成5年2月10日まで、請求人の専務取締役の地位にあったこと。
(ロ)Aは、代表者の実弟であること。
(ハ)本件各事業年度においては、代表者が専ら新規事業の開拓に携わっていた等の事情により、請求人の事業に係る工事関係の契約、売上金の回収及び資金の管理等会社運営全般は、事実上Aが統括して執り行っていたこと。
ハ ところで、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、客観的にみて、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課す行政上の制裁措置である。
ニ このような制度の趣旨に鑑みれば、重加算税を課し得るためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解される。
 また、隠ぺい又は仮装の行為者は、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく、その役員又は家族等で経営に参画していると認められる者の行為は、法人の代表者がそれを知らなかった場合であっても、当該法人の行為と同視されるべきものと解するのが相当である。
ホ これを本件についてみると、1本件事実は争いのない事実であること、2本件事実の行為者であるAは、本件各事業年度において、請求人の専務取締役であり、かつ、実質的に経営上の主宰者と認められることから、本件事実は、代表者がそれを知っていたかどうかにかかわらず、請求人の行為と同視するのが相当である。
 そうすると、請求人が本件事実に基づき課税標準等を過少に申告し又は無申告であったことは、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき」納税申告書を提出していたとき又は法定申告期限までに提出しなかったことに該当するから、原処分庁が、納税義務者たる請求人に重加算税を課したことは相当であるといえるので、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2) なお、請求人は、代表者が本件調査に非協力であったことを理由とする原処分は酷である旨主張するが、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁が、代表者の本件調査への協力度合いを根拠として原処分を行った事実は認められないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) また、請求人は、本件事実を代表者が知り得なかったことについて、経理・経営知識の不足というやむを得ない事情があるとして、原処分は違法、不当である旨主張する。

 ところで、通則法第65条第4項及び第66条第1項では、「正当な理由」があると認められる場合には、例外的に加算税を課さない旨規定している。
 しかしながら、「正当な理由」とは、社会通念上、納税者の責めに帰することのできない相当な理由があると認められる場合を指すものであって、経理・経営知識の不足はこれに当たらないと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、本件全資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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