ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.46 >> (平5.12.17、裁決事例集No.46 42頁)

(平5.12.17、裁決事例集No.46 42頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、A病院を経営する医師であるが、平成4年9月11日の審査請求に至る経緯及びその内容は、別表1に記載のとおりである。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、昭和63年分及び平成元年分については、それぞれその一部の、また、平成2年分については、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)必要経費の特例の規定に関する事項
A 給与・賃金
 原処分庁は、請求人が、請求人の妻B(以下「B」という。)の実父C(平成2年7月26日死亡、以下「C」という。)及び実母D(以下「D」といい、以下Cと併せて「Cら」という。)に対して支払った別表2の給与・賃金の額は、請求人とCらが、所得税法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》(以下「必要経費の特例」という。)に規定する「生計を一にする親族」に該当するから、請求人の昭和63年分、平成元年分及び平成2年分(以下「各年分」という。)の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できないとした。
 しかしながら、次のとおり、請求人とCらは、必要経費の特例に規定する「生計を一にする親族」に該当せず、かつ、Cらに対する給与・賃金の額は、労務に対する適正な当然の対価として支払ったものであるから、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるべきである。
(A)請求人、B、請求人の長男E及び請求人の長女F(以下これらの者を併せて「請求人ら」という。)とCらの住所地は、住民票上はいずれも同一の場所に登録されているが、世帯主はそれぞれ、請求人とC(Cの死亡後はD。以下同じ。)であり、また、本籍地は請求人らはP県に、CらはR県にあること。
(B)請求人が請求人らの居住用に建てた建物(以下「請求人の建物」という。)は、Cらの居宅に接して、請求人が自己の資金で増築したものであるが、それぞれの居住部分は、廊下で区切られており、玄関、台所、風呂及び便所以外は全く独立した生活環境にあり、起居を共にしておらず、外形的事実のみで生計を一にしているとの判断をすべきではないこと。
 なお、便所は2ヶ所あって、それが請求人らとCらの全くの共用ではなく、また、原処分庁が後記(2)のイの(イ)のAの(B)で主張しているK荘内にあった便所は、平成元年に取り壊し、新たに請求人の建物に便所を設置しており、このことは原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)に際し、本件調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)が実地調査をした上、了解していたことであり、原処分庁は事実と全く異なる主張をしていること。
(C)水道光熱費のうち、水道、電気代については、それらの使用の契約者はCであるが、それぞれの使用料の支払は、A病院の支払分と合わせA病院がいったん立替払をし、その後その支払分をA病院に係る事業用部分と請求人ら及びCらに係る家事用部分とに区分し、更に、家事用部分については、毎月末にそれらの使用割合を請求人らが4分の3、Cらが4分の1として精算していること。
 また、ガス代については、Cらが請求人らの分を含めて支払い、その後上記の水道、電気代の場合と同様に、請求人らが4分の3、Cらが4分の1の割合で精算していること。
(D)食費等の状況は、次のとおりであること。
a 食費のうち、米代についてはCらが請求人らの分を含めて支払い、これに食事の材料費等を合わせ、上記(C)の水道光熱費の場合と同様に、請求人らが4分の3、Cらが4分の1の割合で精算していること。
b 食事のメニューについては、Cが糖尿病等で病弱であり、いわゆる食事療養を行っていたことから、低カロリー、減塩食などが多く、請求人らのメニューとは味付け等は全く異なったものであり、食事の調理も請求人らの分についてはBが、Cらの分についてはDがそれぞれ行っていたこと。
c 食事の場所は、請求人らは台所で、Cらは台所前の和室であり、食事の時間帯も違っていたこと。
 また、Cらの食材は、別途専用の冷蔵庫で保管していたこと。
d B及びDは、本件調査に際し、調査担当職員に、1家族全員の食事をB又はDが作ることもある、2食費の負担については、取り決めをしていない、3食事の材料費等の精算もすることはない旨の上記aないしcの主張に反する答述をした事実はないこと。
(E)町内会費及び近隣の慶弔費は、請求人及びCらは別世帯として、それぞれ、別途に支払っていること。
(F)Cは、昭和55年頃から平成2年7月26日に死亡するまで、A病院の事務長として、Dは、同病院の開業時から現在まで、炊事婦等として、それぞれ請求人の事業に従事していること。
(G)Cらが、請求人から支払を受けた給与・賃金の額については、源泉徴収がなされ、地方税についても特別徴収がなされていること。
(H)Cらは、上記(G)の給与・賃金の額及び後記Bの地代家賃の額をそれぞれそれ以外の収入と合わせ、十数年間にわたり、毎年、所得税の確定申告書に記載して、これを原処分庁に提出し、いずれの年分も申告是認されていること。
 また、この間一度も原処分庁から、請求人とCらが生計を一にする親族に該当するとの指導を受けた事実のないこと。
(I)Cは、請求人の事業に従事する以前に大会社の支社長等をしていたことから、財産も収入もあり、自己の計算において請求人とは独立の生計を営んでいたこと。
(J)請求人の建物に係る固定資産税相当額をCに負担してもらった事実はないこと。
 また、請求人の建物の敷地は、Cの所有であったことから、請求人は、その敷地相当分の宅地に賦課される固定資産税相当額をCに支払っていたこと。
B 地代家賃及び租税公課
 原処分庁は、請求人がA病院の敷地(D所有)の地代として、Dに支払った別表3の地代家賃の額及びDがS市に支払った当該敷地に係る固定資産税の額につき、必要経費の特例の規定により、請求人の各年分の事業所得の計算上、地代家賃の額については必要経費に算入できないとし、当該固定資産税の額については必要経費に算入した。
 しかしながら、上記Aのとおり、請求人とDは必要経費の特例に規定する「生計を一にする親族」に該当せず、また、当該地代家賃の額は、原処分庁から適正地代であると指導を受けた額であることからも、必要経費に算入されるべきであり、当該固定資産税の額は必要経費に算入されないものである。
(ロ)必要経費の特例の規定に関する事項以外の事項
A 総収入金額
 昭和63年分及び平成元年分の確定申告書に記載した事業所得に係る総収入金額は、それぞれ別表4のとおり計算誤りがあるので、確定申告の額からそれぞれ減算を求める。
B 退職金
 平成2年分の事業所得の金額の計算上、請求人の従業員であったGに係る退職金100,000円について、必要経費に算入もれがあったので、これを必要経費に算入すべきである。
C 修繕費
 平成元年分の修繕費の額について、総勘定元帳の残高は、2,573,693円であり、当該残高から家事関連費の額に該当する572,072円と確定申告の額1,035,217円を控除した残額966,404円が必要経費に算入もれとなっているので、これを必要経費に算入すべきである。
D 確定申告額
 平成元年分及び平成2年分の確定申告書に添付した、それぞれの年分の所得税青色決算書(損益計算書)の「所得金額」欄に集計誤りがあり、その結果、それぞれの年分の確定申告書の「所得金額3」欄の金額が、平成元年分が524,514円、平成2年分が100,000円過少になっているので、それぞれ確定申告額に加算すべきである。
E 請求人は、原処分庁が平成4年3月13日付でされた各年分の更正処分(以下「本件更正処分」という。)のうち、上記AないしD以外の部分については、争わない。
 以上の結果、請求人の各年分の事業所得の金額は、昭和63年分が22,596,967円、平成元年分が13,370,552円及び平成2年分が9,915,428円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分のうち、昭和63年分及び平成元年分については、それぞれその一部が、平成2年分については、その全部が取り消されるべきであるから、それらの取消しに伴い、各年分の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)も、昭和63年分及び平成元年分については、それぞれその一部が、平成2年分については、その全部が取り消されるべきである。

トップに戻る

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ)必要経費の特例の規定に関する事項
A 給与・賃金
 請求人が、Cらに支払った各年分の給与・賃金の額は、次のとおり、請求人とCらが必要経費の特例に規定する「生計を一にする親族」に該当するから、当該給与・賃金の額は請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。
 なお、Cらが、請求人の事業に従事していたことについては争わない。
(A)必要経費の特例に規定する「生計を一にする」の意義については、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうのではなく、同一の生活共同体に属して日常生活の資を共通にしていることをいうのであるから、請求人とCが住民票上は、それぞれ世帯主となっており、また、本籍地は、請求人らがP県、CらがR県になっているからといっても、それをもって生計がそれぞれ別であるとはいえない。
(B)請求人の建物は、請求人から提出された図面でみる限り、廊下で請求人らとCらの居住部分が区切られており、それぞれが日常生活をする上でのプライバシーは一応守られてはいるが、「生計を一にする」の意義は、上記(A)のとおりであるから、起居する場所が別であるからといって生計を一にしていないとはいえない。
 なお、請求人は、便所は2ヶ所あって、それが請求人らとCらの全くの共用ではないと主張するが、請求人が、審査請求書に添付している建物平面図の赤線部分の中にある便所は、請求人が有限会社Hから従業員の研修室及び子供部屋として賃借しているK荘の中にある便所であり、Cらが使用していることはもちろん、請求人の子供も当然に使用しており、請求人らと全くの共用はしていないとする請求人の主張は適当ではない。
(C)請求人は、Cらの使用に係る水道、電気代はCら自らが負担していると主張するが、本件調査及び異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)時において、その事実の確認を行ったが、その事実は確認できなかった。
 また、請求人は、前回の税務調査において、その事実について、病院の経理と照合し明確に記帳されていたので認めてもらったと主張するが、その事実はない。
(D)食事については、調査担当職員が、本件調査に際し、B及びDに対して質問したところ、1Dを含む家族全員の食事をB又はDが作る、2食費の負担については、取り決めはしていない、3食事の材料費等の精算をすることはない旨の答述をしており、請求人の主張は事実に反する。
(E)請求人は、Cが負担した請求人の建物の敷地相当分に係る固定資産税相当額を請求人の家事費から同人に支払い、同人には負担をかけていないと主張するが、本件調査及び異議調査において、請求人からCに支払ったとする事実の確認を行ったところ、その事実は確認できなかった。
(F)請求人は、原処分庁が生計を一にしているかどうかを、外形的事実のみをとらえて判断していると主張するが、原処分庁は、上記(A)ないし(E)の各事実に基づいて判断したものであり、請求人らとCらは、仮に起居している場所が別であるとしても、日常生活の資が共通であるものと認められ、また、明らかに互いに独立した生活を営んでいるとは認められない。
B 地代家賃及び租税公課
 上記(1)のイの(イ)のBの地代家賃及び租税公課のそれぞれの額は、上記Aのとおり、請求人とDが必要経費の特例に規定する「生計を一にする親族」に該当するので、請求人の事業所得の計算上、必要経費の特例の規定により、地代家賃の額については、必要経費に算入できず、固定資産税の額については、必要経費に算入することとなる。
(ロ)必要経費の特例の規定に関する事項以外の事項
A 総収入金額
 請求人は、本件調査に際し、確定申告書に記載した昭和63年分及び平成元年分の総収入金額に計算誤びゅうがあった旨の主張をせず、異議調査において、異議調査を担当した職員がこの件について具体的な説明を求めたが、説明がなかったことからその事実の確認ができなかった。
 なお、請求人の主張する総収入金額については、確定申告書に記載された金額、異議申立ての際の補正書に記載された金額及び審査請求において主張する金額が、それぞれ相違していることから、請求人の帳簿書類については、その記帳状況が不備であることが伺え、この点に関する請求人の主張は、信ぴょう性に欠ける。
B 退職金、修繕費及び確定申告額
 審査請求における新たな主張であるが、上記Aのとおり、請求人の帳簿書類については、その記帳状況が不備であることが伺え、これらの点に関する請求人の主張は、信ぴょう性に欠ける。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はいずれも適法であり、それらの処分により、納付すべき税額の計算の基礎になった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は、いずれも適法である。

トップに戻る

3 判断

(1) 更正処分について

イ 事業所得の金額
(イ)必要経費の特例の規定に関する事項
 請求人とCらが、必要経費の特例に規定する「生計を一にする親族」に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。
A 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査したところによっても、その事実が認められる。
(A)住民票によると、請求人らは、請求人を世帯主として、S市T町1丁目125番地に住民登録がされていること。
 また、Cらも、Cを世帯主として、S市T町1丁目 125番地に住民登録がされていること。
(B)請求人らの本籍地は、P県U市V町 167番地でありCらの本籍地は、S市T町1丁目125番地であること。
(C)請求人とCらは、BがCらの長女であることから、民法上の「一親等の姻族」であり、所得税法上の「親族」に該当すること。
(D)Cらは、請求人の事業に従事したことにより請求人から支払を受けた別表2の給与・賃金の額及びDが請求人にA病院の敷地を貸し付けたことにより請求人から支払を受けた別表3の地代家賃の額については、それ以外の収入と合わせて、それぞれ各年分の確定申告書(Cについては、平成2年分を除く。以下同じ。)に記載し、これを原処分庁に提出していること。
(E)請求人の建物は、Cらの居宅に接して増築されており、それぞれの居住部分の境として共用の廊下があること。
 また、玄関、台所及び風呂は共用していること。
B 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(A)請求人の建物の敷地の所有者は、C(Cの死亡後はD及びBが、それぞれ持分2分の1の共有)であること。
(B)便所は、請求人の建物に2ヶ所設置されていること。
(C)請求人は、生計費等の状況について、次のとおり答述していること。
a 食費のうち、米代については、Cらが支払い、その他の食事の材料費等については、購入した者がその都度、支払っている。
b ガス代は、Cらが支払っている。
c 水道及び電気の使用契約は、Cであるが、それらの使用料はA病院分を含め、A病院の経理で立替払をし、後日、A病院に係る事業用部分と請求人ら及びCらに係る家事用部分に分けて精算している。
d 上記aないしcの生計費については、請求人らとCらはそれぞれの負担割合を請求人らが4分の3、Cらが4分の1とし、毎月末にそれぞれ負担すべき金額を算定し、精算している。
e 台所は、請求人らとCらは共同で使用しており、食事の調理は、請求人らの分についてはBが、Cらの分についてはCが食事療法を行っていたことからDが調理しており、また、食事の時間帯もそれぞれ違っている。
f 町内会費及び近隣の慶弔費については、請求人及びCらは、それぞれ別個に支払っている。
(D)請求人は、上記(C)の生計費の状況を裏付ける証拠資料として、当審判所に昭和61年11月以降の領収書等が添付された計算明細ノート(以下「ノート」という。)を提示したこと。
(E)Cらは、本件の給与・賃金の額及び地代家賃の額以外に収入があり、それらを合わせて、それぞれ各年分の確定申告書に記載し、これを原処分庁に提出していたこと。
 また、原処分庁は、必要経費の特例の規定により、請求人の必要経費に算入しなかった給与・賃金の額及び地代家賃の額並びに必要経費に算入した固定資産税の額について、Cらに対し、これに対応する額について、更正処分をしていないこと。
C そこで、上記A及びBの事実に基づき検討すると、次のとおりである。
(A)請求人の建物及びCらの居宅の状況についてみると、請求人の建物は、Cらの居宅に接続して建築されたものであり、両者の居住部分は、それぞれ廊下で区切られているものの、玄関、台所及び風呂は共用しており、それぞれ独立した生活環境にあるとはいえず、社会通念上、同一家屋に居住しているものと認められる。
(B)原処分庁は、K荘内の便所について、請求人らとCらが共用していると主張しているが、当該便所は、当審判所が調査したところによれば、平成元年には既に取り壊されている事実が認められ、この点については、原処分庁は事実誤認をしている。
(C)請求人は、生活費等については、請求人らとCらが支払った分について、それぞれを後日請求人らが4分の3、Cらが4分の1の割合で精算している旨主張するが、前記Bの(C)の請求人の答述及び前記Bの(D)のノートを検討すると、確かにその割合によって、それぞれの負担額を算定している事実は認められるものの、これをもって両者が互いに生活費等を精算しているとする証拠資料としては不十分であり、また、請求人の建物の敷地相当分に係る固定資産税相当額を請求人とCとの間で精算したとする証拠資料の提出はなく、他にこれを認めるに足りる証拠資料はない。
(D)食事の状況等については、請求人の答述、及びCが糖尿病、高血圧症等であった事実等を勘案すれば、請求人の主張は相当であると認められる。
(E)町内会費等の支払については、請求人の答述、及び住民票上において世帯主が請求人とCであること等を勘案すれば、これを両者がそれぞれ別個に支払っているものと推認はできるが、これを認めるに足りる証拠の提出はない。ただ、このようにそれぞれ別個に支払うことは、例えば親と子が同一家屋に居住して生計を一にしている場合でも、まま起こり得ることである。
D ところで、所得税法第56条では、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が、居住者の営む事業に従事したこと等により、当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額を居住者の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、他方、その親族のその対価に係る各種所得の計算上必要経費に算入されるべき金額を居住者の事業所得等の計算上、必要経費に算入する旨、規定されている。
 この必要経費の特例の規定は、もともと個人事業は、家族全体の協力の下で、家族の財産を共同で管理、使用して成り立つものが多く、それについて、必ずしも個々の対価を支払う慣行があるとはいえず、対価が支払われる場合であっても、支払われた対価をそのまま必要経費として認めることとすると、個人事業者が、その所得を恣意的に家族に分散して不当に税負担の軽減を図るおそれが生じ、また、適正な対価の認定を行うことも実際上困難であることから、そのような方法による税負担の回避という事態を防止するために設けられたものと解されている。
 そして、「生計を一にする」とは、同一の生活共同体に属して、日常生活の資を共通にしていることをいい、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる特段の事情があるときを除き、これらの親族は、生計を一にするものと解されるところ、この場合において、明らかに互いに独立した生活を営んでいるというためには、少なくとも家事上の共通経費について、実費の精算が行われ、家事上の支出に関して親族間における債権債務の発生及び決済の状況が、明らかにされていることが必要であると解するのが相当である。
E そこで、これを本件についてみると、前記Cの(A)及び(C)の事実によれば、請求人らとCらは、同一の家屋に居住していると認められ、また、家事上の共通経費についての実費の精算が行われているとする明らかな事実が認められないことから、請求人らとCらが、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる特段の事情は認められない。
 また、1前記Cの(B)のとおり、原処分庁が一部事実誤認をしていることが認められ、2前記Cの(D)及び(E)のとおり、食事の状況等及び町内会費等の支払について、一部請求人の主張に沿う事実が推認でき、3Cらに請求人から支払を受けた給与・賃金の額及び地代家賃の額以外の収入があり、仮に、それで生計費等の一部を支出しているとしても、それらをもって、直ちに請求人とCらが、生計を別にしているとはいい難い。
 そうすると、原処分庁が、請求人とCらが生計を一にする親族に当たるとして、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費の特例の規定により、1請求人が、Cらに支払った別表2の給与・賃金の額、並びにDに支払った別表3の地代家賃の額を必要経費に算入せず、2DがS市に支払った固定資産税の額を必要経費に算入したことは相当である。
 また、原処分庁は、Cらの各年分の確定申告の所得金額から上記1の金額を減算し、Dの各年分の確定申告の所得金額に上記2の金額を加算する処分をしていないが、このことをもって、必要経費の特例に規定する「生計を一にする親族」に該当するか否かの判断に影響を与えるものでもない。
(ロ)必要経費の特例の規定に関する事項以外の事項
A 総収入金額
 請求人提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査したところによれば、請求人の昭和63年分及び平成元年分の総収入金額は、別表5のとおり、昭和63年分が272,724,869円及び平成元年分が271,434,022円であることが認められる。
 そうすると、昭和63年分669,524円及び平成元年分3,215,260円は、それぞれ総収入金額から減算されるべきである。
 なお、当審判所認定額と原処分庁主張額との間に増減額が生じた理由は、同表の「増減理由」欄に記載のとおりである。
B 退職金
 請求人提出資料及び当審判所が調査したところによれば、1請求人は、平成2年4月20日付でGに対し退職金100,000円を支給する旨通知していること、2Gは、請求人に対し、平成2年4月28日付で退職金を受領した旨の文書を交付していること、3請求人の帳簿書類には、平成2年4月25日付でGに対する退職金100,000円の計上があることが認められ、これらを総合すると、請求人の主張のとおり、Gに対する退職金100,000円は、平成2年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるべきである。
C 修繕費
 請求人提出資料及び当審判所の調査したところによれば、1平成元年分の請求人の総勘定元帳に計上された修繕費の額は2,573,693円であり、この修繕費の額のうちには資本的支出となるものはないこと、21の修繕費の額のうち家事関連費の額に該当するものが572,072円であること、3確定申告における修繕費の額は1,035,217円であることが認められるので、請求人の主張のとおり、修繕費の計上漏れの額966,404円は、必要経費に算入されるべきである。
D 確定申告額
 当審判所の調査したところによれば、請求人の主張のとおり、平成元年分及び平成2年分の確定申告書に添付したそれぞれの年分の所得税青色申告決算書の「所得金額」欄に集計誤りがあり、その結果、それぞれの年分の確定申告書の「所得金額3」欄の金額が、平成元年分が524,514円及び平成2年分が100,000円それぞれ過少に記載されていることが認められるので、それぞれの金額は、確定申告額に加算されるべきである。
 以上の結果、請求人の各年分の事業所得の金額は、別表6の「審判所認定額」欄のとおり、昭和63年分が31,507,967円、平成元年分が22,245,552円及び平成2年分が16,910,500円となる。
ロ 給与所得の金額について
 給与所得の金額について、昭和63年分が392,000円及び平成元年分が382,400円であることについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査したところによっても相当と認められる。
ハ 雑所得の金額について
 昭和63年分について、事業所得に係る総収入金額に計上していた昭和62年分の所得税還付加算金31,200円は、雑所得の金額に該当するので、昭和63年分の雑所得の金額は527,262円となる。
 なお、平成元年分が734,027円及び平成2年分が684,238円であることについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査したところによっても相当と認められる。
ニ 総所得金額について
 以上の結果、各年分の総所得金額は、昭和63年分が32,427,229円、平成元年分が23,361,979円及び平成2年分が17,594,738円となる。
ホ 所得控除の額について
 Cらが、請求人から支払を受けた給与・賃金の額及び地代家賃の額並びにDがS市に支払った固定資産税の額は、必要経費の特例の規定により、Cらの各年分の所得金額の計算上ないものとみなされるが、それらの額がないものとみなされても、Cらにはそれ以外の収入があることから、Cらは所得税法第2条《定義》第1項第34号に規定する扶養親族には該当しない。
 そうすると、各年分の所得控除の額は、確定申告書に記載のとおり、昭和63年分が1,439,600円、平成元年分が1,632,000円及び平成2年分が1,735,000円であり、これらの額は、当事者間においても争いはない。
ヘ 課税される所得金額
 以上の結果、各年分の課税される所得金額(1,000円未満切り捨て)は、昭和63年分が30,987,000円、平成元年分が21,729,000円及び平成2年分が15,859,000円となる。
 そうすると、昭和63年分及び平成元年分の課税される所得金額は、いずれも本件更正処分の金額を下回るから、それぞれその一部を取り消すべきであり、平成2年分については、本件更正処分の金額と同額であるから、その処分は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

イ 上記(1)のとおり、昭和63年分及び平成元年分については、本件更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、それぞれ昭和63年分が4,670,000円及び平成元年分が4,060,000円となり、この納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて昭和63年分及び平成元年分の過少申告加算税の額をそれぞれ算定すると、昭和63年分が467,000円及び平成元年分が406,000円となり、当該金額は、いずれも賦課決定処分の金額に満たないから、それぞれその一部を取り消すべきである。
ロ 平成2年分については、上記(1)のとおり本件更正処分は適法であり、また、この更正処分により、納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分も適法である。

(3) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る