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(平5.12.10、裁決事例集No.46 137頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和61年8月1日から昭和62年7月31日までの事業年度(以下「昭和62年7月期」という。)の青色の法人税の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、昭和62年7月期の修正申告書に次表の「修正申告」欄のとおり記載して、昭和63年3月25日に修正申告をした。
 更に、請求人は、昭和62年7月期の修正申告書に次表の「再修正申告」欄のとおり記載して、平成元年8月31日に修正申告(以下「再修正申告」という。)をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 修正申告 再修正申告
所得金額 181,852,805 182,267,405 182,609,507
納付すべき税額 72,396,700 72,570,900 72,714,500

 

 原処分庁は、これに対し、平成2年11月28日付で所得金額を492,609,507円、納付すべき税額を202,881,400円とする更正処分及び重加算税の額を39,048,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成3年1月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し、同年4月30日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成3年5月29日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分の手続について
(イ)信義則違反
 請求人は、契約締結前に、昭和62年6月9日付でA株式会社(以下「A社」という。)にP市R町9番所在の土地(47.86平方メートル)及び同地上の建物(鉄筋コンクリート造陸屋根5階建延186.79平方メートル)(以下、総称して「R町物件」という。)を600,000,000円(立退料及び移転料100,000,000円を含む。以下同じ。)で譲渡した取引(以下「本件取引」という。)及び同日付でA社からP市S町2丁目28番所在の土地(71.37平方メートル)及び同地上の建物(鉄筋コンクリート造陸屋根5階建延275.19平方メートル)(以下、総称して「S町物件」という。)を240,000,000円で購入した取引を原処分庁に説明し、これら取引について請求人が行った税金計算に問題がない旨の指導を受けており、また、確定申告書提出後に税務調査を受け、指摘された是正すべき事項については修正申告により是正し納税も行っているが、これらの過程で本件取引に係る譲渡価額について問題にされたことはなかった。
(ロ)更正の理由附記の不備
 更正処分は、次の事項が明らかにされておらず、理由附記に不備がある。
A R町物件のA社からB株式会社(以下「B社」という。)への譲渡価額
B 原処分庁が認定したR町物件の譲渡価額910,000,000円について、土地及び建物のそれぞれの譲渡価額の内訳
(ハ)更正の期間制限
 原処分庁は、原処分に係る税務調査の結果、当初はS町物件について、本来550,000,000円の価額のものを240,000,000円で買ったことにより310,000,000円の受贈益があるとして請求人に対し修正申告のしょうようを行った。
 しかし、請求人が修正申告のしょうように応じなかったところ、その時点で受贈益課税を理由とする更正処分の時効が成立していたため、原処分庁は、更正理由をR町物件をA社に600,000,000円で譲渡した取引(以下「本件取引」という。)に係る譲渡価額に虚偽仮装行為があったことに一転して強引に更正処分を行ったが、このことは、公正な課税手続の観点からみて極めて不当である。
ロ 所得金額について
 原処分庁は、本件取引の譲渡価額について、実際は910,000,000円であるにもかかわらず、請求人が600,000,000円であるかのように仮装して、譲渡益310,000,000円を過少に計上したと認定しているが、本件取引は、買主であるA社と請求人との間で締結された譲渡価額を600,000,000円とする売買契約に基づいた真実の取引であり、これを虚偽仮装の取引であるとして譲渡価額を910,000,000円と認定した原処分庁は事実を誤認している。
 したがって、請求人の昭和62年7月期の所得金額は再修正申告のとおりであり、原処分庁は更正処分に当たり昭和62年7月期の所得金額を過大に算定している。
ハ 重加算税の賦課決定処分について
 原処分庁は、本件取引について、請求人が譲渡価額の圧縮を図る目的をもって虚偽仮装を行い譲渡益の一部を除外したとして重加算税の賦課決定処分を行っているが、本件取引の経緯等は次のとおりであり、そのような事実はない。
(イ)請求人は、本件取引について、A社からの当初の購入申入れに係る譲渡価額が800,000,000円と高額で、この価額で譲渡した場合には納税後にかなりの借金が残ることとなるため取引を断った。しかし、その後A社から再検討の申入れがあり双方で交渉を行った結果、その譲渡価額が600,000,000円となったものである。
 不動産の売買に当たって納付すべき税額を念頭に置いて交渉を行うことは、高額な譲渡所得税が賦課される今日の社会通念としてむしろ当然のことであり、譲渡価額が600,000,000円の場合、税金を払っても借金を抱え込まずに済むことから本件取引に応じたもので、この行為は脱税行為とは全く異なり、社会通念の上からも通常の取引行為である。
 また、請求人は、R町物件の譲渡価額が910,000,000円であるとは考えておらず、A社からも知らされていなかった。
(ロ)原処分庁は、本件取引の請求人の実際の取引先はB社であり、A社は本件取引の仲介業者であるにもかかわらず、これをあたかも本件取引の当事者として本件取引に係る一連の取引に介在したかのように見せかけ、請求人が譲渡価額を虚偽仮装したと認定しているが、本件取引は、請求人の仲介人である株式会社C(以下「C社」という。)を通じて請求人とA社との間で成立したものである。たとえその後にA社がR町物件をB社に転売したとしても、請求人には全くかかわりのないことであり、請求人がB社と本件取引について交渉等を行ったことは全くない。
 以上のとおり、重加算税の賦課決定処分は、事実誤認に基づくものであるから、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 次の理由により、原処分は適法である。
イ 更正処分の手続について
(イ)信義則違反
 本件取引に係る譲渡価額を虚偽仮装した事実は、原処分に係る税務調査で初めて明らかになったものであり、請求人の主張は、更正処分及び重加算税の賦課決定処分に影響を及ぼすものではない。
(ロ)更正の理由附記の不備
 更正処分に係る更正通知書に附記された更正の理由には、処分の内容について土地建物譲渡益過少計上と明示し、また、R町物件の真正な譲渡価額についても、請求人が小切手により取得した360,000,000円とA社のS町物件の購入金額550,000,000円との合計910,000,000円である旨明記するなどして処分の内容を明確に示しているから、更正の理由附記について不備はない。
(ハ)更正の期間制限
 本件取引に係る譲渡価額は虚偽仮装したものと認められるから、法人税法上これを容認することができないことは明らかであり、また、原処分庁が原処分に係る税務調査の結果を基に請求人に対し修正申告を行うよう指導したのは、自主的な修正申告により是正を図りたいとする原処分庁の判断によるもので、請求人がこの指導に応じなかったことから、更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったものである。
ロ 所得金額について
(イ)R町物件の譲渡価額
A 本件取引について調査したところ、次の事実が認められる。
(A)昭和62年5月ころに、C社及びA社を仲介業者とし、R町物件の譲渡(金額800,000,000円)とその代替物件としてのS町物件の購入(金額550,000,000円)について交渉がなされ、昭和62年5月16日付でC社から請求人あてにその取引方法についての文書が提出されていること。
(B)請求人は、上記(A)の取引方法について検討したところ、提示された内容では、R町物件の譲渡に係る税金を負担するとS町物件の購入のための資金が残らないため「問題は税金であり、税金を低くするには価格を低くする以外に方法はない」と判断し、S町物件の取得価額を275,000,000円程度に下げ、その分R町物件の譲渡価額も600,000,000円程度にするという案を作成していること。
(C)上記(B)の案を基に、「この発案方式であるならば、請求人において一番の案件処理として良策かと考えられます。ただし、B社と申すか、我々には難題であることを十分にご理解下さい」と記載された、上記(B)の請求人の案と同様の取引内容による申込文書がA社から請求人に対してなされており、その申込文書には、S町物件については、売主のD株式会社(以下「D社」という。)からA社が550,000,000円で購入し、A社はその半値の価額275,000,000円で請求人に売却することが明記されていること。
(D)上記(C)により、請求人は昭和62年6月9日に、R町物件を600,000,000円でA社に譲渡し、また、S町物件を240,000,000円でA社から購入する内容の契約をそれぞれ締結し、その売買差額360,000,000円について小切手を収受していること。
(E)原処分庁が、R町物件の最終取得者(A社からの買主)であるB社を調査したところによれば、B社はA社に対してR町物件の買収と併せて隣接地の買収交渉も依頼しており、その売買契約に当たっては、B社が地主と直接契約を行い、A社は仲介人になっているに過ぎず、また、B社はR町物件の買収に関しては、A社から逐一その交渉経過の報告を受け指示を与えていた事実が認められ、上記(B)及び(C)の経緯について了知していたと認められること。
(F)原処分庁が、S町物件の売却側の仲介人であるE銀行を調査したところによれば、請求人がR町物件を売却した上でS町物件を購入したいとの申入れが仲介業者であるA社を通じてあり、種々条件交渉の結果、S町物件の譲渡価額は550,000,000円となったこと。
 なお、E銀行は、A社が買主になることについてはあくまで経理上の都合であると認識していたこと。
B 以上の事実から、請求人は、R町物件及びS町物件の売買希望価額が、それぞれ800,000,000円及び550,000,000円であったことを認識した上で、「税金を低くするためには価格を低くする以外に方法はない」と判断し、両物件の売買価額を低くする案をA社に提示しており、請求人がS町物件の取引価額は550,000,000円であると認識していたことは明らかである。
 また、請求人がR町物件の購入希望者がB社であることを認識していたことは明らかで、A社は本件取引の仲介業者であり、「税金を低くするために」売買の当事者として介在させたものに過ぎないと認められる。
C 請求人が、S町物件を取得価額240,000,000円で取得し、R町物件を譲渡価額600,000,000円で譲渡したとする一連の取引は、請求人がR町物件の譲渡価額とS町物件の取得価額の圧縮を図る目的で、仲介業者であるA社を、あたかも取引の当事者として本件取引に係る一連の取引に介在したかのように見せかけ、譲渡金額等を虚偽仮装したものと認められる。
D 本件取引の実態は、請求人が本件取引に係る一連の取引が行われた当時550,000,000円で取引されていたS町物件と小切手360,000,000円を取得し、その見返りとしてB社に対しR町物件を売却したものと認められる。
 したがって、請求人が売却したR町物件の真正な譲渡価額は、D社からA社が購入したとするS町物件の購入金額550,000,000円と、請求人が売買差額として小切手により取得した360,000,000円を加えた910,000,000円であると認められる。
(ロ)所得金額
 本件取引に係る譲渡価額は、上記(イ)のとおり910,000,000円と認められ、請求人の申告に係る譲渡価額600,000,000円との差額310,000,000円は昭和62年7月期の益金に算入すべきものである。
 よって、昭和62年7月期の所得金額は、再修正申告に係る所得金額182,609,507円に土地建物譲渡益過少計上額310,000,000円を加算した492,609,507円となり、更正処分に係る金額と同額になるから、更正処分は適法である。
ハ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、上記ロで述べたとおり、R町物件の譲渡価額を虚偽仮装して低くすることにより、土地建物譲渡益を過少に計上し、その売買差額310,000,000円を収益に計上せず、昭和62年7月期の所得金額を殊更過少に申告していることが認められる。
 このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するから、同条第1項の規定に基づき昭和62年7月期の重加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、更正処分に係る手続の違法性の存否、R町物件の譲渡価額の多寡及び重加算税賦課決定処分の適否にあるので、以下審理する。

(1) 更正処分の手続について

イ 信義則違反
 請求人は、契約締結前に、本件取引及びS町物件の取引を原処分庁に説明し、これら取引について請求人が行った税金計算に問題がない旨の指導を受けており、また、確定申告書提出後に税務調査を受け、指摘事項については修正申告により是正し納税も行っているが、本件取引に係る譲渡価額について問題にされたことはなかった旨主張する。
 しかしながら、当審判所に対する請求人の答述によれば、請求人は、原処分庁にR町物件を600,000,000円で売却し、S町物件を240,000,000円で購入した場合の税金の計算について正しいかどうかの確認を、S町物件のA社の取得価額について説明することなくしたものと認められるから、請求人の説明を前提とした範囲内で原処分庁が請求人の計算方法について問題がないと回答したことは、更正処分に影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 更正の理由附記の不備
 請求人は、R町物件のA社からB社への譲渡価額が不明であること及び原処分庁が認定したR町物件の譲渡価額910,000,000円に係る土地及び建物のそれぞれの譲渡価額の内訳が示されていないことから、更正処分は理由附記に不備がある旨主張する。
 しかしながら、青色申告書に係る更正処分を行う場合において、更正の理由附記が必要とされる趣旨は、原処分庁に対し、慎重かつ妥当な判断により処分を行うことを担保させるとともに、処分を受けた法人にその理由を理解させ、不服申立てに便宜を与えるものと解されるところ、平成2年11月28日付の更正処分に係る更正通知書に附記された更正の理由には、処分の内容について土地建物譲渡益過少計上と明示され、また、R町物件の譲渡価額についても、請求人が取得した小切手の額面金額360,000,000円とS町物件の購入金額550,000,000円との合計910,000,000円である旨明記されるなど処分の内容が明確に示されており、請求人は原処分の理由を具体的に知ることができるものと認められるから、原処分に瑕疵があり、これを違法とする請求人の主張には理由がない。
ハ 更正の期間制限
 請求人は、原処分庁が、当初、本来550,000,000円の価額のS町物件を240,000,000円で購入したことによる受贈益310,000,000円について請求人に修正申告のしょうようを行い、この修正申告のしょうように請求人が応じなかったところ、その時点で受贈益課税を理由とする更正処分の時効が成立していたため、更正理由を本件取引に係る虚偽仮装行為に一転して強引に更正処分を行ったことは不当である旨主張する。
 ところで、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項は、更正又は賦課決定は3年を経過した日以後においてはすることができない旨規定しているところ、同条第5項では、偽りその他不正の行為があった場合の更正又は賦課決定は法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
 原処分庁は、本件取引について、請求人がR町物件の譲渡価額910,000,000円の圧縮を図る目的で、仲介業者であるA社をあたかも取引の当事者として本件取引を含む一連の取引に介在したかのように見せかけ、売買の取引金額を600,000,000円であるかのごとく虚偽仮装したと認定して、昭和62年7月期の法定申告期限である昭和62年9月30日から3年を経過した後の平成2年11月28日に更正処分をしているので、本件取引に偽りその他不正の行為があったか否かについて、以下審理する。
(イ)当審判所が、原処分関係資料及び請求人が提出した資料並びに本件取引の関係人等を調査したところ、次の事実が認められる。
A 昭和61年7月ころ、C社から請求人に、請求人が所有するR町物件を購入したい旨の申入れがあったこと。
B C社及びA社は、昭和62年3月、請求人の所有するR町物件がいずれ取得可能であるとして、まず、R町物件の隣接地の物件(以下「隣接地物件」という。)をB社に仲介したこと。
C 請求人は、1請求人がF組合G支部組合員を株主としていることから、当該組合員が所在するG地区に代替物件が取得できること、2代替物件が当該組合員に納得してもらえる物件であること、3交換又は売買によって生ずる諸種の税金を納付した後に借金を抱えずに済むこと、の3条件をC社及びA社に提示したこと。
D 上記Cの提示を受けたC社及びA社は、条件にかなう物件としてS町物件を請求人に示したところ、請求人は上記3条件のうち、1及び2については問題のない物件であることを確認したこと。
E A社は、S町物件を550,000,000円で取得して請求人に譲渡しR町物件を800,000,000円で請求人から購入するとの案を、請求人とB社に提示したこと。
F 昭和62年5月16日付でC社から請求人あてにR町物件の譲渡価額は800,000,000円であること及びS町物件の取得価額は550,000,000円であること並びにその取引方法が記載された文書が提出されたこと。
G 請求人は、上記Fで提示された譲渡価額及び取得価額でそれぞれ取引に応じた場合、R町物件の譲渡価額に係る税金を負担すると161,500,000円の赤字となりS町物件を購入する資金が残らないため、「問題は税金であり、税金を低くするには価格を低くする以外に方法はない」と判断し、S町物件の請求人の譲受け価額を275,000,000円程度に下げ、その分R町物件の譲渡価額も600,000,000円程度にするという案を作成したこと。
H A社は、請求人から提案のあった上記Gの価額でS町物件を売買した場合に生じる譲渡損失はB社に譲渡するR町物件の譲渡価額に上乗せすれば補てんできると考え、B社に対し、R町物件のA社からB社への譲渡価額は立退料100,000,000円を含む1,000,000,000円程度の価額となる旨を提案し、B社にとってR町物件の譲渡価額が高額に過ぎて購入できない場合は、上記Bの隣接地物件を原価でA社が買い取ることとしたい旨の申入れを併せて行ったこと。
I B社は、R町物件と隣接地物件とを一括で運用すれば採算性がよくなること等から、R町物件を上記Hの提案どおりの譲渡価額で購入することを承諾したこと。
 なお、A社からB社への前記E及びHの申入れ等は、すべてB社の仲介人であるH株式会社を通じて行われ、A社とB社とが直接に交渉等を行った事実は認められない。
J A社は、前記Gの案を基にS町物件をD社から550,000,000円で購入し、275,000,000円で請求人に譲渡するとの案を文書でC社を通じて請求人へ提出したこと。
K 請求人は、上記Jの案を基にC社及びA社と協議の結果、昭和62年6月9日にR町物件を請求人からA社へ600,000,000円で譲渡し、S町物件をA社から請求人へ240,000,000円で譲渡する内容の契約をそれぞれ締結し、請求人はその売買差額360,000,000円を3通の小切手で収受したこと。
 また、A社は、S町物件を550,000,000円でD社から購入する旨の契約とR町物件を985,000,000円でB社に譲渡する旨の契約を同日付でそれぞれ締結したこと。
(ロ)上記(イ)のAないしKの事実を総合すると、本件取引は、R町物件の売却に伴い請求人がR町物件売却に伴う納税資金及び代替物件たるS町物件を取得するという請求人の意向をA社が充足することによって実現したものと認められる。
 したがって、R町物件の価額600,000,000円、S町物件の価額240,000,000円及び両物件の売買差額360,000,000円は、相互に一体となって同時に決定されたもので、これらは不可分一体の関係にあると認められ、R町物件の価額は、S町物件の価額と売買差額との合計額になるという関係にある。
 このため、A社が、D社から550,000,000円で取得したS町物件を240,000,000円で請求人に譲渡して巨額の損失を生ずる極めて不自然な取引も、請求人から600,000,000円で取得したR町物件を985,000,000円でB社に譲渡した取引と合わせ考えるとA社の利益が発生する自然な取引となることからすれば、これら一連の取引を不合理な取引ということはできない。
(ハ)ところで、A社とD社及びA社とB社との取引にあっては、上記(ロ)の前段のごとき格別の事情は認められないところから、これらの者との間におけるそれぞれの取引価額、すなわち、S町物件の価額550,000,000円及びR町物件の価額985,000,000円は取引当時の経済実態を反映した価額とみるのが相当である。
 一方、請求人のA社からの取得価額240,000,000円は、上記(ロ)のとおり、R町物件の価額及びR町物件の売却に伴う請求人の納税資金をも併せ考慮して決定された価額で、取引当時のR町物件に係る経済実態を必ずしも反映した価額とはいえない。
 したがって、本件取引が行われた当時における経済実態を反映したR町物件の譲渡価額を、S町物件の本件取引当時における経済実態を反映した価額550,000,000円と売買差額360,000,000円との合計910,000,000円であると原処分庁が判断したことは、必ずしも不当とはいえないところ、請求人とA社との取引価額600,000,000円を請求人の昭和62年7月期の所得金額の計算の基礎とすることは、本件取引が行われた当時における経済実態を反映したものとは認められず、税負担の公平を害するといわざるを得ない。
(ニ)しかしながら、前記(ロ)で述べたとおり本件取引に係る一連の契約からみると、請求人とA社との取引においてR町物件の価額をS町物件240,000,000円と売買差額360,000,000円との合計額と同額である600,000,000円とする合意が明確に成立している事実が認められるところ、前記(ロ)のとおり、この契約自体を虚偽仮装のものとみることは相当でない。
 したがって、請求人とA社との間で、R町物件の価額を910,000,000円とする契約が存在し、それをあえて600,000,000円に偽装仮装した契約を作成したものと認定した原処分は相当ではない。
 また、A社は、S町物件を取得して請求人に譲渡し、R町物件を請求人から購入することにより成立した一連の本件取引の当事者であったことが認められ、請求人が譲渡価額及び取得価額の圧縮を図る目的で、仲介業者であるA社をあたかも取引の当事者として一連の取引に介在したかのように見せかけ、譲渡価額等を虚偽仮装したとは断定できない。
(ホ)したがって、本件取引について国税通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為があったとは認定できないところ、法定申告期限から3年を経過してなされた本件更正処分は違法であるから、その全額を取り消すべきである。

(2) 重加算税の賦課決定処分について

 前記(1)のハのとおり、本件更正処分は違法であり取り消すべきであるから、これに基づいてなされた本件賦課決定処分もその全額を取り消すべきである。

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