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(平5.12.21、裁決事例集No.46 148頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、婦人服小売業を営む同族会社であるが、昭和58年9月1日から昭和59年8月31日まで、昭和59年9月1日から昭和60年8月31日まで、昭和60年9月1日から昭和61年2月28日まで、昭和61年3月1日から昭和62年2月28日まで、昭和62年3月1日から昭和63年2月29日まで及び昭和63年3月1日から平成元年2月28日までの事業年度(以下、これらの事業年度を順次「昭和59年8月期」、「昭和60年8月期」、「昭和61年2月期」、「昭和62年2月期」、「昭和63年2月期」及び「平成元年2月期」といい、これらの事業年度を併せて「各事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
 その後、請求人は、平成元年2月期について平成元年5月15日に別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁へ提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年11月28日付で各事業年度について、それぞれ別表の「更正処分等」欄のとおり法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成3年1月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)更正の理由附記
 請求人は、請求人の取引先である株式会社A(以下「A社」という。)から商品を仕入れ、その仕入金額を売上原価として各事業年度の損金の額に算入した。
 原処分庁は、これに対し、各事業年度において、請求人とA社との取引金額の一部に架空な仕入れ(以下「本件仕入れ」という。)があるので、本件仕入れは、各事業年度の損金の額に算入されないとする更正処分を行った。
 ところで、青色申告に係る法人税の課税標準を更正する場合に、法人税法の規定がその更正通知書に更正の理由を附記しなければならないとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨であるから、更正通知書には、どのようにしてそのような判断に至ったのかが資料により具体的に示されていなければならない。
 しかしながら、原処分に係る更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)に附記された更正の理由は、次のとおり不備がある。
A 本件更正通知書の「更正の理由」欄には、「貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから・・・更正しました。」という記載があるだけで、本件仕入れは、請求人のどの帳簿書類にどのように架空に計上されているのか具体的な記載がない。
B また、本件更正通知書の「加算」欄には、「・・・A社からの仕入について、同社を調査した結果、次の取引に係る仕入の一部が架空計上されていること及び当該架空計上部分が、当該事業年度において貴社の代表取締役であったC(以下「C」という。)に対して返金されている事実が判明しました・・・。」と記載されているが、その記載は、単に原処分庁がA社を調査した結果を示しただけで、次のとおり、原処分庁がどのような理由及び根拠に基づいてそのように認定したのかが不明であり、また、請求人の帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示したものであるともいえない。
(A)「仕入の一部が架空計上されている」とした上で、「仕入金額」及び「左のうち架空計上額」を表により示しているが、それらの金額が、請求人の帳簿書類のどの箇所にどのように計上され、また、当該架空計上額がどのような方法で算出されたものかの記載がない。
(B)「Cに対して返金された」と記載しているが、返金の具体的方法の記載がなく、また、更正処分を受ける者が、返金を受けたとするCではなく、請求人となるのかの記載もない。
(ロ)本件仕入れ
 仮に、本件更正通知書に附記された更正の理由に不備がないとしても、本件仕入れは、現品が存在し、従業員が行った商品の棚卸しの際に期末商品棚卸表に記載されているものもあり、また、その商品を購入した顧客も一部判明しており、架空な仕入れではない。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法で取り消すべきであるから、これに基づく重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ) 更正の理由附記
 本件更正通知書に附記した理由には、1原処分庁が損金算入を否認する項目が、A社に対して支出したとしている仕入れであること、2当該仕入れに係る納品年月日及び仕入金額を特定していること、更に、3架空仕入れであるとして損金算入を否認した理由が、請求人の取引先であるA社を調査した結果、A社からの仕入れのうち架空計上分がCに対して返金されているという事実に基づいたものであることを具体的に摘示しているから、その理由の記載は不服申立てを行うのに必要な程度に具体的になされている。
(ロ)本件仕入れ
 本件仕入れは、次のとおり架空な取引であり、各事業年度の損金の額に算入されない。
 原処分の調査担当者がA社に対する調査をしたところ、Cが、A社に対し、請求人に対する商品の販売に関し、正規の取引とは別に架空の取引の仕切書及び納品書(以下「納品書等」という。)を請求人に発行するよう依頼し、請求人がその架空の取引額と正規の取引額と併せた額をA社の預金口座へ振り込んだ後、Cが仕入れのためA社に来店した際に現金で受領した事実を確認した。
 なお、A社は、架空の取引の納品書等に、通常取引では使用しない品番を記載し、また、売上帳又は納品書等の控えに「〇」印や「×」印等を記載するとともに、請求人との取引に係る決済代金の振込みに使用したD信用金庫P支店のE(A社の商号の一部とA社の代表取締役であるBの名を組み合わせた個人名義(編者注))及びF(Bの娘)名義の預金通帳の出金欄の余白にG(請求人)返金などと記載して、正規の取引と区別している。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、存在しない仕入れを計上し、後日、その仕入れに係る代金を別途返金させた請求人の行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する法人税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき所得金額等を過少に申告していたことに該当し、重加算税の賦課決定処分についての要件を充足することは明らかであるから、同法の規定に基づいて行われた原処分は正当である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1) 更正処分について

イ 更正の理由附記
(イ)青色申告書に係る更正処分を行う場合において、法人税法が更正通知書にその理由を附記すべき旨を定めたのは、原処分庁の判断の慎重・合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、更正処分の理由を納税者に理解させて不服申立てに便宜を与えようとするものであるから、その理由附記の程度としては、納税者の申告のいかなる点にどのような誤りがあり、また、更正された数値がどのようにして算出されたものであるかが理解できる程度であれば足りるものであり、それ以上に事実関係の細部にわたり法的評価及び判断の根拠となった事実関係までのすべてをも記載することは要しないものと解されている。
(ロ)これを本件についてみると、請求人は、本件更正通知書に附記された更正の理由について具体的事実関係が明らかでない旨主張するが、原処分庁は、本件更正通知書により、1損金算入を否認する勘定科目が、売上原価のうちA社に対して支出したとしている仕入れであること、2その仕入れに係る納品年月日及び仕入金額を特定していること、更に、3架空仕入れであるとして損金算入を否認した理由が、請求人の取引先であるA社を調査した結果、A社からの仕入れのうち架空計上分がCに対して返金されているという事実に基づいたものであることを記載しており、請求人は、これにより不服申立てを行うのに必要な程度に更正処分の理由を具体的に知ることができるので、本件更正通知書に附記された更正の理由は十分なものといえるから、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件仕入れ
 本件仕入れについて、架空に計上されたものか否かについて争いがあるので調査・審理したところ、次のとおりである。
(イ) 請求人は、本件仕入れは架空なものではない旨主張して、1各事業年度の総勘定元帳の仕入勘定及び旅費勘定、仕訳伝票、買掛補助簿のA社口座並びにA社からの請求書、領収証及び納品書等、2昭和61年2月期ないし平成元年2月期の運送会社からの送り状及び請求書並びに期末商品棚卸表、3商品及びその商品の品質表示票を写した写真並びにその商品を購入した顧客の住所・氏名を記載したとする書面、4昭和60年8月期ないし平成元年2月期のC及び従業員からの出張旅費請求書などを証拠資料として提出したので、当審判所がこれら請求人の提出資料及び請求人を調査したところ、次の事実が認められる。
A 運送会社からの送り状及び請求書によれば、本件仕入れに係る商品の一部がA社から請求人へ納品されていること。
B 期末商品棚卸表によれば、本件仕入れに係る商品の一部が事業年度末に在庫商品となっていること。
C 商品及びその商品の品質表示票を写した写真によれば、その品質表示票に記載された商品番号と本件仕入れに係る商品の商品番号とが一致すること。
D 出張旅費請求書によれば、本件仕入れに係る決済代金に相当する金員が、請求人との取引に使用されたA社の預金口座から出金された日又はその前後の日にCが出張した事績がない日があること。
(ロ)当審判所が原処分関係資料を調査したところ、A社の代表取締役であるB(以下「B」という。)は、原処分の調査担当者に対し、次のとおり答述していることが認められる。
A 正規の取引とは別に架空の取引の納品書等を作成し、請求人に発行した。
B 架空の取引の納品書等には、通常取引では使用しない商品番号を記載した。
C 架空の取引と正規の取引とを区別するために、A社の売掛帳及び納品書の控えの本件仕入れに該当する箇所に「〇」印や「×」印などを記載した。
 なお、これらの帳簿書類にはBの答述どおりの記載がある。
D A社は、架空の取引の代金を請求人から架空の取引額と正規の取引額とを併せた額を預金口座へ振り込む方法により受け取った後、Cが仕入れのため同社に来店した際に現金で返金した。
 なお、請求人との取引に使用された預金通帳の出金欄の余白には「G(請求人)返金」などのメモ書きがある。
(ハ)上記(ロ)のBの答述内容について、当審判所が調査したところ、次のとおりである。
A 本件仕入れに係る納品書等の中には本件仕入れ以外の取引も混在しているものが多数あること。
B 本件仕入れに係る商品番号の中にはそれ以外の仕入れに係る商品番号と続き番号になっているものがあるなど、通常取引では使用しない商品番号であるのか否かが判然としないこと。
C A社の売掛帳及び納品書の控えへの記載並びに請求人との取引に使用された預金通帳の出金欄余白へのメモ書きは、それらの記載がいつなされたものか不明であり、また、架空の取引と正規の取引とを区別するために記載されたものかどうかが判然としないこと。
(ニ)当審判所が、原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
A CがA社へ来店した日は、請求人の旅費の支出事績を調査して確認したものであるところ、上記(イ)のDと同様に、本件仕入れに係る決済代金に相当する金員が、請求人との取引に使用されたA社の預金口座から出金された日又はその前後の日にCが出張した事績がない日があること。
B 原処分庁は、Cが、いつ、どのような方法により、いくらの金員を受領したかなどの具体的な受領事実や、受領したことが確認できる証拠や、返金額受領後に個人的な資産の取得に充てたり費消した事実や、請求人の資産の取得や経費、負債の支払に充てたり、預金や現金として受け入れたことなどの事実を把握していないこと。
(ホ)上記の事実から判断すると、本件仕入れに係る商品の一部は実在しており、また、Bの答述はその答述を裏付ける資料があいまいなもので信ぴょう性があるとは言いがたく、しかも当該答述以外に本件仕入れが架空なものであることを裏付ける明らかな証拠資料もないことが認められる。
 そうすると、原処分庁が本件仕入れを架空な取引であると認定した判断は、証拠に欠けるものといわなければならないから、本件更正処分の全部を取り消すのが相当と認めざるを得ない。

(2) 重加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分の全部の取消しに伴い、重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すのが相当である。

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