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(平5.11.26、裁決事例集No.46 247頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年5月30日の別表1の建物(以下「本件建物」という。)の所有権移転登記申請(以下「本件登記申請」という。)に当たり、登録免許税の課税標準の金額を26,159,000円、税額を1,150,900円と記載して、当該税額に相当する金額の印紙をはり付けた登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)をP法務局R支局へ提出し、所有権移転登記手続を了した。
 その後、請求人は、平成4年10月28日に原処分庁に対して、登録免許税の還付通知請求書に課税標準の金額を7,955,009円、税額を397,750円と記載して、先に納付した税額との差額である過誤納額753,150円を還付するようR税務署長に通知すべき旨の請求をしたところ、原処分庁は、平成4年11月18日付で請求人に対し、当該還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、これを不服として平成5年1月11日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により、違法であるからその全部の取消しを求める。
 本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額は、平成4年9月にR市が地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に掲げる固定資産課税台帳(以下「課税台帳」という。)に登録した本件建物の価格7,955,009円により認定すべきであるから、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額は7,955,009円、税額は当該課税標準の金額に1,000分の50の税率を乗じた397,750円とすべきである。
 したがって、先に納付した税額1,150,900円と上記税額397,750円との差額753,150円は、過大に納付したことになるから還付されるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準としての不動産の価額は、登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項により、当該登記の時における不動産の価額による旨規定され、当該不動産の価額は、同法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》により、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は、当該申請の日の属する年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該不動産の価格を基礎として同法施行令附則第3項及び第4項で定める価額によることができる旨規定されている。
 したがって、登録免許税法附則第7条は、不動産の価額を算定する方法として、課税台帳に登録された価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨を規定したものであって、必ずしも課税台帳に登録された価格によらなければならないとするものではなく、登記すべき不動産に特別の事情があり、課税台帳に登録された価格が適切でないときは、当該事情を考慮して課税標準としての不動産の価額の認定を行い、また、課税台帳に登録された価格がないときは、当該不動産に類似する不動産の課税台帳に登録された価格を参考に課税標準としての不動産の価額の認定を行うことになる。
ロ 前記イの規定等に基づきP法務局管内の登記所においては、不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準としての不動産の価額の認定について、課税台帳に登録された価格が適切でないとき又は課税台帳に登録された価格がないときは、P法務局長が制定した「建物の課税標準価額認定要領」(以下「認定要領」という。)に基づいて認定を行っている。
ハ 本件登記申請書には、「課税価格26,159,000円、登録免許税1,150,900円」とする記載があったが、本件建物は課税台帳に登録された価格がない旨の申し出があったので、原処分庁は、認定要領に基づき調査した結果、別表2及び別表4の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額及び税額を相当であると認定したものであり、過誤納の事実は認められない。
 請求人は、平成4年9月に課税台帳に登録された本件建物の価格7,955,009円をもって本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額とすべきである旨主張するが、本件登記申請は、平成3年5月30日に行われており平成4年9月に課税台帳に登録された本件建物の価格を適用することは、登録免許税法附則第7条の趣旨から認められないのは明らかである。
 更に、課税台帳に登録された価格がない不動産の登録免許税の課税標準について、登記申請書に記載された課税標準の金額が相当であると認定され、登記を完了した後に課税台帳に登録された当該不動産に係る価格が課税標準の金額を下回ったとしても、このことをもって登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定の適用はない。
 したがって、本件登記申請に係る登録免許税の過誤納の事実は認められないから、原処分は適法である。

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3 判断

 本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額及び税額について争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人は、平成3年5月30日に本件登記申請書を原処分庁に提出し、本件登記申請に係る登録免許税1,150,900円を納付していること。
ロ 本件登記申請書には、本件建物の種類、構造及び当該種類ごとの床面積並びに建築年を示す資料が添付されていること。
ハ 本件登記申請書が提出された平成3年5月30日現在において、R市が備え付けている課税台帳(以下「本件課税台帳」という。)には、本件建物の価格は登録されていないこと。
ニ 本件建物について平成3年1月16日付で請求人ほか1人を権利者とする所有権移転請求権仮登記がされていること。
(2) 請求人の提示した資料及び原処分関係資料を基に当審判所で調査したところ、次の事実が認められる。
イ 本件課税台帳によれば、本件建物の価格は、平成4年9月に7,955,009円と決定され、登録されていること。
ロ 本件建物について平成3年5月30日に売主をA協同組合、買主を請求人ほか1人、売買価額28,980,000円とする不動産売買契約が締結されていること。
(3) 不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準としての不動産の価額は、登録免許税法第10条第1項により、当該登記の時における不動産の価額による旨規定され、当該不動産の価額は、同法附則第7条により、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在において課税台帳に登録された価格を基礎として同法施行令附則第3項及び第4項で定める価額によることができる旨規定されている。
 なお、課税台帳に登録された価格のない不動産については、登録免許税法施行令附則第3項で、当該不動産の登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該不動産に類似する不動産の価格に100分の100を乗じて計算した金額を基礎として、登記官が認定した価額とする旨規定されている。
(4) 登録免許税法第31条第2項によれば、登記を受けた者は、登録免許税の過誤納があるときは、還付通知請求書により、その旨を登記官に申し出て、過大に納付した登録免許税の額を登記を受けた者の納税地を所轄する税務署長に通知すべき旨の請求をすることができる旨規定されている。
(5) 原処分庁は、課税台帳に登録された価格のない建物については、P法務局長が制定した認定要領の定めるところにより、登録免許税の課税標準としての建物の価額の認定を行っており、認定要領の主な内容は次のとおりである。
イ 認定要領は、課税台帳に登録された価格のない建物の課税標準としての価額を認定するため、昭和42年7月22日付民事甲第2121号法務省民事局長通達を受けた昭和43年7月11日付不登第484号P法務局長通達によって制定され、その後、地方税法に規定する固定資産の評価換えの都度、P法務局管内の市町村が作成する固定資産の評価等の概要調書に基づいて改訂さており、原処分庁が本件建物の課税標準としての価額の認定に適用した認定要領は、平成3年4月1日から適用されたものである。
ロ 認定要領第9条第1項によれば、登記官は、新築後3年以上を経過した建物について、課税標準としての建物の価額を認定するときは、課税台帳に登録されている類似の建物の価格に準じて、その課税標準としての建物の価額を認定するものとする旨を定め、同条第2項により、同条第1項により難い事情があるときは、認定要領第2条及び第3条の新築建物課税価格基準表(以下「基準表」という。)に掲げる価額に認定要領の附録等の建物経年減額補正率基準表に掲げる経過年数に応じた係数(以下「補正率」という。)を乗じて算出した価額を課税標準としての建物の価額と認定できる旨定めている。
ハ 認定要領第10条によれば、登記申請書に記載された課税標準としての建物の価額が基準表により算出された価額と異なるときは、登記官は、実地調査又はその他の適宜の方法により課税標準としての建物の価額を認定するものとする旨定めている。
(6) 前記(1)ないし(5)の事実等を基に本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額について判断すると、次のとおりである。
イ 原処分庁が、本件建物の課税標準としての価額を認定するに当たり採用した認定要領は、前記(3)の法令の規定を受けて、課税台帳に登録された価格のない建物の価額の認定について、登録免許税の課税の公平と登記事務の迅速な処理を図ることを目的として、前記(5)のイのとおり、P法務局において制定されたものであり、前記(3)の法令に照らしても、当該認定要領は合理的なものと解される。
ロ 前記(4)により、還付通知請求書の提出があった場合、登記官は、還付通知請求書に記載された課税標準としての建物の価額が、基準表に基づいて算出された価額と異なっていたときは、前記(5)のハの登記申請書に記載された課税標準としての建物の価額が、基準表に基づいて算出された価額と異なっていたときと同様に、課税標準としての建物の価額が過大であるか否かについて調査をすべきものと解されるが、課税標準としての本件建物の価額について、原処分庁が前記(1)のロの本件登記申請書に添付されていた資料により、本件建物の種類、構造及び種類ごとの床面積並びに建築年が明らかであると判断して、本件建物の実地調査を行わずに、前記(5)のロの認定要領に基づいて認定をしたとしても、調査の程度・方法については、登記官の合理的な裁量にゆだねられているというべきであり、本件建物の実地調査を行わなかったことをもって、直ちに原処分が違法となるものではない。
ハ 請求人は、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額は、平成4年9月に本件課税台帳に登録された本件建物の価格によって認定すべきである旨主張するが、本件建物は、前記(1)のハのとおり、本件登記申請書を提出した平成3年5月30日現在において課税台帳に登録された価格がなく、課税標準としての本件建物の価額は、前記(3)により、平成3年1月1日現在において本件建物に類似する建物の課税台帳に登録された価格を基礎として認定されることとなり、請求人の主張は採用できない。
ニ 原処分庁は、認定要領に基づき調査した結果、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額及び税額は相当であり、過誤納の事実は認められない旨主張する。
 しかしながら、当審判所が請求人の提出資料、本件建物及び本件課税台帳の調査並びにR市役所の固定資産税担当職員に聴取したところによれば、本件建物は、一棟が工場、事務所及び倉庫と3種類に分かれ、鉄骨及び軽量鉄骨造りと構造の異なる部分のある建物であり、更に、建築年が昭和44年と昭和55年に分かれており、経年変化による損耗が激しい部分が認められることから、本件建物は、登記事務の迅速な処理を図ることを目的の一つとして、一般的な建物についての適用を予定していると解される認定要領を採用することが不相当な例外的な建物であると認められ、原処分庁が認定した課税標準としての本件建物の価額もまた採用することができない。
ホ 前記ハ及びニのとおり、請求人及び原処分庁の主張する課税標準としての本件建物の価額はいずれも採用することができないので、当審判所は、課税標準としての本件建物の価額を次のとおり認定する。
(イ) 本件建物は、本件登記申請の日である平成3年5月30日に課税台帳に登録された価格のない建物であるから、課税標準としての本件建物の価額は、前記(3)のとおり、平成3年1月1日現在において課税台帳に登録された本件建物と類似した建物の価格を基礎として認定するのが相当である。
(ロ) そこで、当審判所がR市役所において平成3年1月1日現在の本件課税台帳を閲覧し、同市役所の固定資産税担当職員から建物の評価に係る意見等を聴取したところに基づき、本件課税台帳に価格が登録されている建物のうちから、本件建物の価額を算定するに当たっての種類、構造、床面積等が類似すると認められる建物の昭和44年に建築された工場5件並びに昭和55年に建築された工場、事務所及び倉庫から各5件を採用し、これらの建物の価格を基礎として課税標準としての本件建物の価額を認定すると別表3のとおり、12,370,000円となる。
 したがって、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の金額は、12,370,000円(千円未満の端数切捨て)となる。
(7) 本件登記申請に係る登録免許税額の算出に当たっては、本件建物は、前記(1)のニのとおり、所有権移転請求権仮登記を了していることから、登録免許税法第17条《仮登記等のある不動産等の移転登記の場合の税率の特例》第1項の規定によって、前記(6)で認定した課税標準の金額に税率1000分の44を乗じて算出することとなり、本件登記申請に係る登録免許税額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり、544,200円(百円未満の端数切捨て)となる。
 したがって、上記の税額544,200円と請求人が納付した税額1,150,900円との差額606,700円は過大に納付されていることになる。
 以上により、原処分庁は、請求人の納税地を所轄するR税務署長に対して前記(7)の過誤納額606,700円を請求人へ還付すべき旨の通知をしなければならないこととなる。

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