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(平6.2.21、裁決事例集No.47 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は日本料理店を営む者であるが、昭和59年分の所得税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。

(単位:円)
区分 確定申告 更正の請求
事業所得の金額 32,694,751 △19,538,237
給与所得の金額 0 0
雑所得の金額 23,400 23,400
総合長期譲渡所得の金額 700,000 0
一時所得の金額 1,050,000 0
合計(総所得金額) 34,468,151 △19,581,637
申告納税額 6,297,100 △26,679

(注)「事業所得の金額」及び「合計(総所得金額)」欄の△印は、損失の金額を示し、「申告納税額」欄の△印は、還付金の額に相当する税額を示す。


 請求人は、その後、同年分の所得税について確定申告に係る課税標準等又は税額等について、上表の「更正の請求」欄のとおり記載した更正の請求書を平成4年10月15日付で原処分庁に提出(以下「本件更正の請求」という。)した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年10月26日付で更正すべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、これを不服として平成4年10月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成5年1月5日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年1月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、昭和59年10月12日P簡易裁判所において株式会社Aとの間に成立した和解(以下「本件和解」という。)により、S市T町1丁目10番地17所在の店舗兼居宅(木造セメント瓦葺き2階建て、1階85.28平方メートル、2階 71.60平方メートル)及び同所所在の店舗兼居宅(木造スレート葺き2階建て、1階不詳2階 69.42平方メートル)(以下両建物を併せて「本件建物」という。)の賃貸借契約の合意解約に伴う和解金56,000,000円(以下「本件和解金」という。)の支払を同社から受けた。
 そして、請求人は同人の関与税理士であるB(以下「B税理士」という。)の指導助言を受け、和解条項に従い確定申告をした。
ロ その後請求人は、本件和解金に対する課税関係の指導を受けたB税理士に不信を抱き、税理士を監督する関係官庁等にB税理士の懲戒処分の申立て等を行った。
 このためB税理士が請求人を被告として慰謝料等請求訴訟(平成元年(ワ)第○○○号)をR地方裁判所に提起したところ、平成3年7月23日請求の一部が認容され、慰謝料等の支払を命じる判決の言渡しがあった。
 請求人は、この判決を不服としてU高等裁判所に控訴の申立て(平成3年(ネ)第□□□号)をしたところ、平成4年4月28日控訴の一部を認容する判決(以下「本件控訴審判決」という。)の言渡しがあった。
ハ 本件控訴審判決によれば、本件和解金は長期譲渡所得に係る収入金額に該当するので、租税特別措置法(昭和60年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)第37条((特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例))の規定が適用されるべきである。
 また、本件更正の請求は、国税通則法第23条((更正の請求))第2項第1号の規定に基づくものであるから、同条第1項に規定する請求期限を徒過した請求には当たらないので、原処分は違法である。
ニ 仮に、本件更正の請求が法定の期限を経過しているとしても、本件和解金は租税特別措置法第37条の規定に該当するから、原処分庁は、本来の職責に基づき国税通則法第24条((更正))の規定により減額更正をすべきである。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり正当であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件控訴審判決は、譲渡所得の基礎となった事実についての争いに関するものではないので、国税通則法第23条第2項第1号に規定する、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決には該当しない。
 また、本件更正の請求は、適法な更正の請求期間である昭和61年3月15日を徒過してされたものであるから、本件更正の請求に対し更正の理由がないとした原処分は正当である。
ロ 納税者が、納税申告書に記載した課税標準等又は税額等の減額を請求できるのは国税通則法第23条に規定された場合に限られるため、同法第24条に基づき減額更正をすべきであるとの請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 原処分の適否について争いがあるので、以下審理する。

(1) 当審判所が請求人の提出資料及び原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。

イ 本件和解の内容は、次のとおりであること。
(イ) 申立人(請求人)と相手方(株式会社A)は、両者間の本件建物についての賃貸借契約を昭和59年9月22日合意解約した。
 相手方は、申立人に対し、本件建物の明渡しを同年11月末日まで猶予するものとし、申立人は同日限り本件建物を明け渡す。
 申立人は、相手方に対し本件建物明渡し済みに至るまで、賃料相当額毎月125,000円の使用損害金を支払う。
(ロ) 相手方は、申立人に対し、和解金として56,000,000円を次のとおり持参又は送金して支払う。
 昭和59年9月27日及び同年10月17日に各20,000,000円、本件建物明渡しと引換えに16,000,000円。
(ハ) 申立人と相手方は、前記の和解金の内訳が次のとおりであることを確認する。
 営業補償費  41,500,000円
 これは、昭和59年度以降5年間の営業を補償するものである。
 立退料      3,000,000円
 借家権補償   2,000,000円
 慰謝料      9,500,000円
(ニ) 申立人は、相手方に対し、本件建物を現状有姿のまま明け渡すものとする。
 ただし、申立人が本件建物を明け渡すに際し、不必要として本件建物内に残す動産は、相手方がこれを廃棄処分を為すものとする。
(ホ) 申立人が前記(イ)の明渡期限までに本件建物を明け渡さなかった場合には、申立人は相手方に対し、昭和59年12月1日から明渡し済みに至るまで、使用損害金に加え、同年11月末日までに受領済みの和解金に対する年1割の割合による遅延損害金を支払う。
(ヘ) 申立人と相手方間には本和解条項に定めるほか何らの債権債務無きことをここに確認し、互いにその余の請求をしない。
(ト) 和解費用は、各自の負担とする。
ロ 請求人の昭和59年分所得税の確定申告は、本件和解に定められた本件和解金の内訳に従い、その内容に応じた所得に分類の上されたものであること。
 また、税額の算定に当たっては、所得税法第90条((変動所得及び臨時所得の平均課税))第1項に定める臨時所得の平均課税の適用を受けていること。
ハ 上記ロの確定申告をした後、請求人は、本件和解金に対する課税関係の指導を受けたB税理士に不信を抱くようになり、税理士を監督する関係官庁等に懲戒処分の申立て等を行ったこと。
 このためB税理士が請求人を被告として、慰謝料等請求訴訟(平成元年(ワ)第○○○号)をR地方裁判所に提起したところ、平成3年7月23日請求の一部を認容する判決の言渡しがあったこと。
 この第一審判決の内容は、被告(請求人)は、被告の本件確定申告に関し原告(B税理士)が誤指導したこと等を理由として、関係機関に対して原告との間の紛議調停、原告に対する懲戒の請求その他の申立て等をしてはならず、また、被告は原告に対し、慰謝料等として2,562,000円を支払えというものであること。
ニ 請求人は、この判決を不服としてU高等裁判所に控訴の申立て(平成3年(ネ)第□□□号)をしたところ、平成4年4月28日本件控訴審判決の言渡しがあったこと。
 本件控訴審判決は、B税理士の請求中、請求人による懲戒等の申立行為の差止めを求める請求については、その理由がないとして排斥したものの、損害賠償を求める請求には一部理由があり、賠償すべき金額を1,162,000円に減額してその支払を命じたものであって、本件和解の効力ないし本件和解金の性格を変更するものではないこと。

(2) 請求人は、本件控訴審判決によって、国税通則法第23条第2項第1号に該当するから、本件更正の請求は適法な請求であると主張するが、上記(1)の各事実によれば、本件控訴審判決は、請求人の昭和59年分所得税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となった本件和解の効力ないし本件和解金の性格について判断しているものでないことは明らかであるから、本件控訴審判決は、同号に定める申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった訴えについての判決(判決と同一の効果を有する和解、その他の行為を含む。)には当たらず、また、本件更正の請求は、同号に定める更正の請求期限を徒過してなされている。

 したがって、本件更正の請求に対し更正すべき理由がないとした原処分になんら違法はない。

(3) 請求人は、原処分庁はその職責に基づき国税通則法第24条により減額の更正をすべき旨主張するが、納税者は同法第23条の更正の請求によることなくして減額の更正を請求することはできず、しかも、前記(1)の各事実から明らかなように、本件控訴審判決において、本件和解金が租税特別措置法第37条に規定する資産の譲渡の対価であると判示しているものではなく、当審判所の調査によっても、本件和解金が同条に規定する資産の譲渡の対価であるとは認められないから、請求人の主張には理由がない。

(4) その他

 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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