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(平6.5.31、裁決事例集No.47 8頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、金融業を営む者であるが、昭和55年分の所得税の青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
 その後、請求人は、昭和55年分の所得税の青色の修正申告書に、次表の「修正申告」欄のとおり記載して、昭和58年6月29日に原処分庁へ提出した。
 更に、請求人は、平成4年1月8日に次表の「更正の請求」欄のとおり記載した昭和55年分所得税の更正の請求書を原処分庁へ提出したところ、原処分庁は、同年4月15日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 修正申告 更正の請求
総所得金額 12,789,960 32,364,443 32,364,443
内訳 事業所得の金額 - 30,452,377 30,452,377
不動産所得の金額 109,960 109,960 109,960
給与所得の金額 280,000 - -
雑所得の金額 12,400,000 1,802,106 1,802,106
分離短期譲渡所得の金額 8,845,000 8,845,000 0
納付すべき税額 7,806,000 18,984,100 13,476,400

(注)分離短期譲渡所得とは、租税特別措置法第32条((短期譲渡所得の課税の特例))に規定する譲渡所得をいう。以下同じ。


 請求人は、原処分に不服があり、原処分の通知書に「この処分に不服があるときは、・・・国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる。」旨の教示があったため、国税通則法第75条((国税に関する処分についての不服申立て))第4項第3号の規定により、平成4年4月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人及び請求人の妻A(以下「A」といい、請求人と併せて「請求人ら」という。)は、昭和54年6月12日にP市R町字○○2525番3の原野649平方メートル並びに同年8月23日に同所2533番6の原野15平方メートル、同所2525番1の原野11平方メートル、同所2531番3の原野19平方メートル及び同所2532番2の原野150平方メートルの合計195平方メートル(以下、これら5筆の原野を併せて「本件土地」という。)を、それぞれ16,660,000円及び4,005,000円の合計20,665,000円(以下「本件購入価額」という。なお、請求人持分相当額は10,332,500円である。)でP市R町973番地の14に居住するB(以下「B」という。)から購入(以下「本件購入」という。)し、昭和55年2月8日に、本件土地をS県T市U町△△下2100番地の1に居住するC(以下「C」という。)に38,355,000円(請求人持分相当額は19,177,500円である。)で譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
ロ Bは、本件土地の譲渡に際し同人と請求人との間で、昭和54年7月6日に次のような内容の合意(以下「本件合意」という。)を書面により約定していたにもかかわらず、請求人らが本件譲渡をしたことは、本件合意に違反するとして、請求人を被告とし、S地方裁判所V支部へ損害賠償を請求する旨の訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した。
(イ) 請求人は、昭和56年7月5日までの間、本件土地を原状のままにしておくこと。
(ロ) Bは、昭和56年7月5日までの間、本件土地を無償で使用することができること。
(ハ) 請求人は、昭和56年7月5日までの間、本件土地を第三者に売却しないこと。
(ニ) 上記(イ)ないし(ハ)の約定に請求人が違反した場合には、請求人はBに対し、本件土地をその本件購入価額で返還すること。
ハ 請求人は、本件訴訟について、本件合意は破棄された旨主張して争ったが、S地方裁判所V支部は、昭和63年10月24日に、1本件合意は破棄されておらず有効なもので、それは、Bが本件土地を本件購入価額で買い受ける再売買の(一方的)予約と解するのが相当であり、2請求人が本件合意に違背してCへ本件土地を譲渡した結果、Bの予約完結権の行使が不能となったのであるから、請求人には、Bに与えた予約完結権の消滅による損害を賠償する責任があり、3請求人に本件譲渡に係る譲渡代金38,355,000円から本件購入価額を差し引いた17,690,000円(以下「本件損害賠償金」という。)をBへ支払わなければならない旨の判決を下した。
 請求人は、この判決を不服としてW高等裁判所へ控訴したが、平成3年5月28日控訴棄却の判決を受け、更に、最高裁判所へ上告したが、同年12月17日上告棄却の判決(以下「本件判決」という。)を受けた。
 請求人らは、平成4年1月21日に、本件損害賠償金に遅延損害金4,209,250円及び訴訟費用97,200円を加えた21,996,450円(以下「本件損害賠償金等」という。)を、Bの代理人に支払った。
ニ したがって、請求人らは、本件判決に基づきBへ本件損害賠償金を支払ったことにより実質的に本件譲渡による利益を失っており、本件土地の譲渡益はなかったものと同視すべきであるから、国税通則法第23条((更正の請求))第2項第1号の規定に基づいて更正の請求をしたものである。
ホ これに対し、原処分庁は本件判決を形式的に解釈し、損害賠償金という字句の解釈のみにとらわれて、1本件損害賠償金は、本件土地の取得費又は譲渡に要した費用のいずれにも当たらない、また、2本件判決が課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する判決ではないから、更正をすべき理由がないとして原処分をした。
 しかしながら、本件判決は、請求人らが本件譲渡をしたことが本件合意に反するものであることを認定した上で、本件土地がCに譲渡され、しかも所有権移転登記までされたことによりBへ戻すことが社会的に不能であるため、やむを得ずこれに代えてBが被った損害を本件損害賠償金により賠償せよというものであり、これらの事実に着目すれば、本件判決による本件損害賠償金の支払は本件譲渡に係る譲渡代金の減額若しくは本件購入価額の増加とみるべきである。
 また、本件損害賠償金は、本件判決の上ではBの予約完結権の消滅による損害賠償金となっているが、本件損害賠償金は、請求人らが本件譲渡をして得た利益の額17,690,000円と同額であり、請求人らがBへ本件損害賠償金を支払ったことにより本件譲渡による利益の全部をBへ返還したのと同じ結果となり、本件譲渡に係る譲渡所得の金額は本件判決により生じないこととなったのであるから、国税通則法第23条第2項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当する。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 国税通則法第23条第2項第1号は、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨を規定している。
ロ これを本件についてみると、請求人らの本件損害賠償金の支払は、請求人らが本件合意に反して本件譲渡をしたために、Bが本件合意に基づき本件土地を本件購入価額で再び買取る予約完結権の行使が不能になったことにより生じたBの損害を請求人らが賠償したものである。
 そうすると、本件訴訟は、Bが請求人に対して損害賠償金の支払を求めたもので、本件譲渡の無効確認あるいは、その譲渡代金の一部返還等を求めたものではないから、国税通則法第23条第2項第1号に規定する更正の請求をすることができる場合に当たらない。
 なお、本件損害賠償金の額が、本件譲渡による利益の額と一致したのは、本件損害賠償金を算定した時点における本件土地の時価が少なくとも本件譲渡に係る価額を下回らないとの判断の下に算定されたためで、本件損害賠償金の額が請求人らの譲渡益の額に一致するとしても、それは本件譲渡による利益について返還を求められたものではなく、損害賠償金の算定の方法として、金額の決定がなされたものにすぎないから、本件土地の譲渡益はなかったものと同視すべきであるとする請求人の主張には理由がない。
ハ また、譲渡所得の金額は、譲渡所得に係る総収入金額から、その資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除することにより計算することとされているところ、本件損害賠償金は本件土地の取得費又は譲渡に要した費用のいずれにも当たらないから、本件判決による本件損害賠償金の支払は、国税通則法第23条第2項第1号に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実と異なるときに該当しないので、いずれにしても請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件判決が国税通則法第23条第2項第1号に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決」に該当するか否かに争点があるので、審理したところ次のとおりである。

(1) 本件判決の写し、原処分関係資料その他当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人らは、昭和54年に本件土地を本件購入価額でBから購入したこと。
ロ 請求人とBとの間には、本件合意があったこと。
ハ 請求人らは、昭和55年2月8日に本件土地を38,355,000円でCへ譲渡したこと。
ニ 本件判決が認定した事実及び判断は、次のとおりであること。
(イ) 本件購入及び本件譲渡における当事者は請求人のみであり、これらの契約の締結に当たってAが表面に出たことはない。
(ロ) 本件合意の法的性格は、Bに、昭和56年7月5日までの間に本件土地を本件購入価額で購入することを認めた一方的な予約完結権を与えたものである。
(ハ) Bが上記(ロ)の予約完結権の行使が可能であれば、これを行使できたものと認められるが、本件土地を最終的に取得したCは、本件土地を整地して、それに建物を建築し喫茶店を営業しているため、Bがこの予約完結権を行使することは社会的に不能であり、これによりBが被った損害の額は、同人が予約完結権を行使した場合に得ることができた利益相当額とみるべきである。
(ニ) 上記(ハ)の利益相当額は、Bの予約完結権の行使が不能となった時点における本件土地の時価38,355,000円から、同人が予約完結権を行使した場合において負担すべき本件購入価額20,665,000円を控除した17,690,000円とみるべきであり、また、請求人はこれをBへ支払う義務がある。
ホ 請求人らは、本件判決に基づき平成4年1月21日に本件損害賠償金等をBの代理人に支払ったこと。

(2) ところで、国税通則法第23条第2項第1号の規定は、同条第1項に定める一般の更正の請求の例外である後発的事由による更正の請求ができる場合の一つとして、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係について私人間に紛争が生じ、判決又は和解によってこれと異なる事実が明らかにされたため申告等に係る課税標準等又は税額等が過大になった場合に、更正の請求を認めようとするものである。

(3) これを本件についてみると、本件判決の主旨は、Bが請求人から、本件購入価額と同額で本件土地を買い戻すことができるという権利を有しているとの前提に立ちながらも、本件譲渡における買主であるCが既に本件土地の上に建物を建築し、かつ、その建物を利用して喫茶店を営業していることから、社会的にBの予約完結権の行使は不能であると判断した上で、その現実的な解決方法として、請求人が、本件合意に違背したことによりBが被った損害を本件損害賠償金としてBに支払うよう命じたものであると認められる。

 すなわち、本件訴訟は、Bが請求人に対して損害賠償金の支払を求めたものであって、本件譲渡の無効確認あるいは譲渡代金の一部の返還を求めたものではない。
 そうすると、本件判決は、本件購入又は本件譲渡に係る契約の効力に何ら影響を及ぼすものではなく、これらの契約はいずれも適法かつ有効に成立し完結しているから、国税通則法第23条第2項第1号に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決」には該当しない。
 また、請求人は、本件損害賠償金の額は、請求人らが本件譲渡によって得た利益の額17,690,000円と同額であり、その利益の全部をBへ返還したのと同じ結果となるから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額は生じないこととなった旨主張する。
 しかしながら、本件損害賠償金の法的性格は、請求人が本件合意に違背したことによりBが被った損害を賠償するというものにすぎず、請求人らの得た利益の返還でもなければ、本件購入に係る代金の追加払いでもない。
 したがって、本件損害賠償金の支払は、修正申告に係る請求人の課税標準等の計算の基礎となる本件譲渡に係る収入金額、譲渡資産の取得費及び譲渡に要した費用のいずれにも何ら影響を及ぼすものではない。
 以上のとおり、原処分は正当に行われているから、請求人の主張には理由がない。

(4) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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