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(平6.2.28、裁決事例集No.47 22頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年分の所得税の確定申告書(分離課税用、以下「本件確定申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに提出していたが、平成4年10月2日に次表の「修正申告」欄のとおり修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
 原処分庁はこれに対し、平成4年11月20日付で、次表の「賦課決定」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 修正申告 賦課決定
総所得金額 3,493,543 3,534,937 -
分離課税の長期譲渡所得金額 22,281,000 43,980,372 -
納付すべき税額 4,700,700 9,237,400 -
過少申告加算税の額 - - 453,000

 請求人は、この処分を不服として平成4年12月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年3月4日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年4月1日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 次の理由により、原処分の全部の取消しを求める。
イ 請求人は、昭和59年3月19日に取得したP市R町246番1の農地948平方メートル(以下「本件農地」という。)を平成3年12月26日に譲渡した。
 そこで、請求人は、平成3年分の所得税の確定申告に当たり、本件確定申告書を自ら作成し、平成4年2月19日に当該譲渡に係る関係書類とともに持参してP税務署内の納税相談会場に赴き、下記ハの(ロ)のAのとおり、P税務署の納税相談を担当した職員(以下「担当職員」という。)にこれらの関係書類を提示して、本件確定申告書の記載内容について検討してもらった上、その場で本件確定申告書を提出した。
ロ ところが、平成4年8月末頃に請求人に対して所得税の調査があり、原処分庁から、本件農地は、租税特別措置法(昭和59年法律第6号による改正前のもの。)第37条((特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例))第1項に規定する特例の適用を受けた資産(以下「買換資産」という。)であるから、本件農地の譲渡所得の金額の算定に当たって控除すべき取得費の額は、同法(昭和62年法律第96号による改正前のもの。)第37条の3((買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等))に規定する価額(以下「引継取得価額」という。)を基に算定しなければならないところ、請求人が実際の取得価額を取得費の額として控除していることから譲渡所得の金額が過少となっている旨の指摘を受け、そのため本件修正申告をした。
ハ しかしながら、本件修正申告に基づき新たに納付することとなった税額の計算の基礎となった事実には、本件修正申告の前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて次のとおり国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する「正当な理由」がある。
(イ) 請求人は、平成3年分の所得税の確定申告に当たって、原処分庁から「譲渡所得のあらまし」、「申告書(分離課税用)の書きかた」及び「譲渡所得計算明細書の記載例」等(以下「本件説明書等」という。)をもらって注意深く読み、それらを参考にして本件確定申告書を作成したが、本件説明書等には引継取得価額に関する記載がなく、甚だ不適切である。
(ロ) 請求人が過少申告をすることになったのは、下記のとおり担当職員の不適切な指導にその原因がある。
A 請求人は、平成4年2月19日にP税務署内の納税相談会場に赴いた際、本件農地に係る譲渡時の売買契約書、取得時の売買契約書、登記済権利証及び譲渡に要した費用についての領収書等一切の資料(以下「譲渡関係資料」という。)を担当職員に提示して、本件確定申告書の記載内容について検討してもらった結果、担当職員からその記載内容に誤りがない旨告げられたので本件確定申告書を提出したものであるから、その内容の誤りについての責任は原処分庁にある。
B 請求人が納税相談の際に担当職員に提示した譲渡関係資料のうちの登記済権利証には、「譲受人は農地の買替えをして・・・」と明記されていて、原処分庁の主張によれば担当職員は、本件農地が買換資産であることを納税相談の際に知っていたことがうかがえ、税の専門家である担当職員は、たとえ請求人から相談のなかったことについても、当然すべての資料を詳細に検討して指導する義務があるのにこれを怠っている。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 国税通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、申告納税方式の国税に関し、期限内申告書の提出がされた場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対して、その修正申告書又は更正に基づき納付すべき税額を基礎として課されるもので、同条第4項に規定する「正当な理由」がある場合を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるべき性質のものである。
ロ ところで、原処分は、請求人の平成3年分の所得税(納付すべき税額)について、請求人が期限内において確定申告をした後に本件修正申告を行ったことによりなされたものであるが、請求人が期限内申告において過少申告したことについては、次のとおり正当な理由があるとは認められない。
(イ) 請求人は、引継取得価額についての記載がなかった本件説明書等は不適切である旨主張するが、1申告納税制度の趣旨、2大量の納税申告の画一的処理の要請等に照らし合わせた場合、本件説明書等に各種の特例措置に係る計算方法が逐一記載されていないからといって、本件説明書等が不適切なものということはできない。
(ロ) また、担当職員は、請求人に対し下記のとおり適切な指導を行っている。
A 本件確定申告書に記載された本件農地に係る譲渡所得の金額は、本件説明書等及び譲渡関係資料等を基に請求人自らが算定したものであるが、担当職員は、納税相談の際に当該譲渡所得の金額の計算の内容につき、その確認、検算等に必要な範囲の確認(検討)を十分行った後、その納税相談の場(段階)において確認(判断)しうる限りでは請求人の計算に誤りがないと、その旨請求人に対して説明したものである。
B 申告納税制度は、納税者の自主申告、自主納税を建前とするものであり、納税相談は、この申告納税制度に係る適正申告を担保するためのものであることから、大量の納税相談の最中において、請求人の計算内容に係る確認、検算等の納税相談を行うために、請求人から提示された譲渡関係書類の一字一句すべてを判読し詳細に内容を検討する義務は強いてなく、また、仮に、担当職員が何らの説明を行うことなく確定申告書を受け付けたとしても、これをもって誤指導があったこととなるものではない。
C ところで、請求人は、本件農地の登記済権利証に「譲受人は農地の買替えをして・・・」と明記しているにもかかわらず、それについて指摘しなかった担当職員の指導は不適切である旨主張するが、1請求人から買換資産を譲渡した旨の申出が全くなかったこと、2譲渡所得の金額の計算に係る取得費の額につき、租税特別措置法第37条の3の特例は、特定の適用要件に該当した者のみがその適用を任意選択している特例であり、土地の取引の際に一般に常用されている「買替え」の文言の記載をもって、同条の規定が適用されているとはいえないことから、担当職員が本件農地の取得時に係る租税特別措置法第37条の規定の適用の有無を指摘しなかったものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人の平成3年分の所得税の期限内申告が過少申告であったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1) 次のことについては、当事者双方に争いはなく、当審判所の調査したところによってもその事実が認められる。

イ 請求人は、平成3年分の所得税の確定申告において、本件農地に係る譲渡所得の金額の算定に当たり控除すべき取得費の額を、本件農地の実際の取得価額で計算していたこと。
ロ 原処分庁は、平成4年8月末頃、請求人に対し、本件農地は買換資産に該当するものであるから、控除すべき取得費の額は引継取得価額を基に算定すべきであるとして修正申告のしょうようをしたこと。
ハ 請求人は、平成4年10月2日に、上記の修正申告のしょうように基づき本件修正申告をしたこと。

(2) 原処分関係資料及び請求人の答述並びに当審判所が調査した結果によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人は、平成3年分の所得税の確定申告に当たり、本件説明書等を参考にして本件確定申告書を自ら作成して、平成4年2月19日にP税務署内の納税相談会場に赴いたこと。
ロ 請求人は、当該納税相談の際に、本件確定申告書に記載した本件農地に係る譲渡所得の金額の算定に誤りがないかについて、担当職員に相談をしたこと。
ハ 請求人は、当該納税相談の際に、本件農地に係る下記の書類を担当職員に提示したこと。
(イ) 譲渡時及び取得時の売買契約書
(ロ) 譲渡に要した費用についての領収書等
(ハ) 登記済権利証
ニ 上記ハの(ハ)の登記済権利証には、「売渡証書」及び昭和59年4月16日付で請求人等からP市農業委員会会長宛てに提出された「農地法第3条規定による許可の申請書」が一体として綴られており、当該申請書の「3.権利を設定し、または移転しようとする事由の詳細」欄に、「譲受人は農地の買替をして、今後農業に精進しようとするものである」旨記載されていること。
ホ 請求人は、担当職員に対して、本件農地が買換資産である旨の申出をしなかったこと。

(3) 所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用しているが、この制度は本来、納税者の自主的判断と責任において、課税標準、税額等を自ら計算して確定申告書を作成、提出し、当該確定申告書に係る税額を納付する制度であるため、納税者自身が税法の解釈、適用等についてある程度の理解を有することを前提として成り立つ制度であることはいうまでもない。

 しかしながら、現行の税法の規定は複雑であるため、確定申告に際しては、多くの納税者が税法に関する専門的知識を有する者の申告指導に頼らざるを得ない実情にあり、かかる背景の下にあって円滑適正に申告制度を運用するため、税務署においても納税相談を実施し、申告手続について指導し援助を行うこととしている。
 そして、納税相談は納税者の十分なる準備、協力及び理解並びに相互信頼をまってはじめてその実効を期待し得るものといえる。

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(4) 前記(1)及び(2)認定事実を上記(3)に照らして判断すると、次のとおりである。

イ 請求人は、本件確定申告書を作成するに当たって参考にした本件説明書等に引継取得価額に関する記載がなく不適切である旨主張するが、本件説明書等は、納税者の便宜を図るために譲渡所得の金額の計算又は申告に関する概括的な説明あるいは類型的な事例を例示したものであり、申告納税制度の趣旨及び大量の納税申告の画一的処理の要請等に照らすと、本件説明書等にあらゆる事例及び特例等が逐一記載されていないからといって、それが直ちに不適切なものであるということはできないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ロ ところで、申告納税制度の下における所得税の確定申告は、本来、納税者自身の判断と責任においてなされるべきものであるところ、請求人は、本件確定申告書は、担当職員に譲渡関係資料を提示し、譲渡関係資料を基に記載内容を検討してもらった上で提出したものであるから、記載内容の誤りについての責任は原処分庁にある旨主張する。
 しかしながら、請求人は、担当職員に対して本件農地が買換資産である旨を申し出ないまま、本件確定申告書に記載された本件農地に係る譲渡所得の金額の計算について誤りがないか相談したことが認められ、担当職員は、本件農地に係る譲渡所得の金額の算定に必要な、1総収入金額、2取得費の額、3譲渡に要した費用の額について、前記(2)のハの(イ)及び(ロ)の書類に基づいて確認、検算等を行っていて、その範囲において記載内容に誤りがない旨説明したことが認められるから、請求人のこの点に関する主張は採用することができない。
ハ 更に、請求人は、前記(2)のハの(ハ)の本件農地に係る登記済権利証に綴られた農地法第3条の規定による許可の申請書に「買替え」の文言があったことから、担当職員は全ての資料を詳細に検討して指導する義務を怠っており不適切である旨主張するが、1請求人が担当職員に対して本件農地に係る引継取得価額について相談しなかったことは明らかであったこと、2上記ロのとおり、請求人が提出した前記(2)のハの(イ)及び(ロ)の資料によって本件農地に係る譲渡所得の金額が算定できたこと、3当該登記済権利証は本件農地の権利関係を示すものであり譲渡所得の金額の計算に直接必要なものではないことから、担当職員がその添付書類である農地法に関する申請書類の内容についてまで十分検討しなかったことがうかがえるが、仮に、担当職員が更なる注意力をもって本件農地が買換資産であることを指導することにより適正な期限内申告を行うことができたとしても、そのことをもって原処分が取消しを免れないほどの違法、不当があったとはいえず、その他全資料を総合しても、担当職員が、請求人に対してことさら誤った説明又は教示をしたことをうかがうことはできないから、請求人のこの点に関する主張は採用することができない。
ニ 以上の結果、本件修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(5) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によってもこれを不相当とする理由はない。

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