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(平6.3.30、裁決事例集No.47 31頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、釣具販売業を営んでいた者であるが、平成3年1月1日から平成3年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)分の消費税確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに原処分庁に申告した。
更に、請求人は、次表の「修正申告」欄のとおり記載した本件課税期間分の消費税修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を、平成4年8月25日に原処分庁に提出した。

(単位:円)
項目 確定申告 修正申告
課税標準額 1 43,034,000 215,380,000
消費税額 2 1,291,020 6,461,400
控除対象仕入税額 3 718,149 718,149
差引税額 4 572,800 5,743,251
中間納付税額 5 577,500 577,500
納付すべき税額 ( 4 − 5 ) 6 △ 4,700 5,165,700

(注)△印は還付を示す。


 これに対し、原処分庁は、平成5年1月12日付で過少申告加算税の額を746,500円とする賦課決定処分をした。
請求人は、この処分を不服として平成5年3月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月27日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。
請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成5年6月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、自主的に本件修正申告書を提出したものであり、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条((過少申告加算税))第5項に規定する調査による更正があることを予知して提出したものではない。
ロ 請求人は、消費税が導入されて間もないこと及び税務署が適切な指導を怠っていたことにより、消費税の知識不足のため誤った確定申告書を提出したものである。
このことは通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当する。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件修正申告書は、次のとおり原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)が質問検査を行った結果提出されたものであるから、通則法第65条第5項に規定する調査があったことにより更正があるべきことを予知して提出されたものに該当する。
(イ) 請求人の経営する釣具店は、平成3年2月1日付で有限会社A(以下「A社」という。)にいわゆる法人成りしていることから、調査担当職員がA社に対する個人経営時の棚卸資産等の譲渡が消費税の申告に反映されているか否かを確認するため、請求人の平成3年1月1日から平成3年1月31日までの所得税の青色申告決算書(以下「青色申告決算書」という。)及び本件課税期間分の消費税確定申告書並びにA社の平成3年2月1日から平成4年1月31日までの事業年度分の決算報告書(以下「決算報告書」という。)を検討したところ、次のとおりであった。
A 青色申告決算書に1億6,000万円超の期末商品棚卸高が計上されていること。
B 事業所得に係る総収入金額と消費税の課税標準額との開差がないこと。
C 決算報告書には、青色申告決算書の期末商品棚卸高相当額の短期借入金が計上されており、また、受贈益の計上はないこと。
以上の事実から当該棚卸資産は譲渡されているにもかかわらず、消費税の課説標準額に含まれていないのではないかと推認された。
(ロ) そこで、調査担当職員が平成4年8月6日に請求人の長男であるB(以下「代理人」という。)及び関与税理士の事務員に対し、法人成りに伴い棚卸資産等を引き継ぐ場合、有償による引継ぎの場合には資産の譲渡として消費税の課税の対象となる旨を電話で説明し、申告の内容について検討を依頼したところ、同月7日に同税理士から、有償による資産の譲渡であり課税の対象となる旨の電話による回答があった。
更に、平成4年8月18日、関与税理士及び代理人が来署した際、法人成りに伴う消費税の課税関係について説明し修正申告のしょうようを行った結果、同月25日に本件修正申告書が提出されたものである。
(ハ) 以上の事実は、調査担当職員が当該消費税確定申告書に疑惑を抱き、調査の必要性を認めて、現実に請求人に対する質問により当該申告が適正でないことを把握するに至ったものであり、このことは請求人が本件修正申告書を提出する時点で更正のあるべきことを予知していたものと認められ、原処分は相当である。
ロ 通則法第65条第4項にいう正当な理由がある場合とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解が、その後改変されたことに伴い修正申告をし又は更正を受けた場合、あるいは災害又は盗難等に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険等の支払を受け、あるいは、盗難品の返還を受けたため修正申告をし又は更正を受けた場合など、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意又は過失に基づかずして当該申告額が過少となった場合のごとく、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当若しくは酷になる場合を指称するものであって、納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合は、これに当たらないと解されている。
本件の場合、請求人が法人成りに伴い、A社へ有償で引継ぎをした棚卸資産の金額を、税法の不知により消費税の課税標準額に算入しなかったことは正当な理由がある場合には該当せず、原処分は相当である。

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3 判断

 請求人は、通則法第65条第5項に規定する調査があったことにより更正があるべきことを予知して本件修正申告書を提出したものではなく、また、消費税の確定申告においてA社に引き継いだ棚卸資産を課税標準額に含めなかったことには同条第4項に規定する正当な理由があると主張して、原処分の全部の取消しを求めているので、当審判所において調査・審理したところ次のとおりである。

(1) 代理人及び調査担当職員の答述並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人が経営する釣具店は、平成3年2月1日付でA社にいわゆる法人成りをし、個人経営時の棚卸資産を当該法人へ引き継いでいること。
ロ 調査担当職員は、請求人の青色申告決算書等及びA社の決算報告書により、1青色申告決算書に161,155,719円の期末商品棚卸高が計上されていること、2事業所得に係る総収入金額は43,034,647円及び消費税の課税標準額は43,034,000円であること、3決算報告書には期首棚卸高として161,155,719円の計上があり、一方請求人からの短期借入金として172,935,008円が計上されているが、受贈益の計上はないことを確認していること。
ハ 調査担当職員は、平成4年8月6日に代理人及び関与税理士の事務員に、法人成りに伴う個人経営時の棚卸資産の引継ぎは有償か無償かを電話により質問した上で、有償であれば消費税の申告を是正する必要がある旨を説明し、修正申告をしょうようしていること。
ニ 関与税理士は、上記ハの質問を受けて平成4年8月7日に調査担当職員に「法人成りに伴う棚卸資産の引継ぎは課税売上げになるので、手続をする。」との電話による回答をしていること。
ホ 調査担当職員は、平成4年8月18日に代理人及び関与税理士が出署した際に、同税理士が持参したA社の伝票等を基に具体的に仕訳、相手勘定を示して、資産の譲渡の対価の説明や法人成りに伴う棚卸資産の引継ぎは課税売上げになる旨の指導及び説明をしていること。
ヘ 代理人は、上記ホの説明を受けた後も納得できず、その後関与税理士から数回にわたって説明を受けて平成4年8月25日に本件修正申告書を提出していること。

(2) 請求人は、調査があったことにより更正があるべきことを予知して本件修正申告書を提出したものではない旨主張するので、以下審理する。

イ ところで、通則法第65条第5項に規定する調査とは、課税庁が行う課税標準等又は税額を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁が更正に至るまでの思考、判断を含むきわめて包括的な概念であり、実地又は呼出し等の具体的な調査はもちろん、納税者に対する電話、文書等による質問も含むものと解されているところ、これらの調査に基づいて申告の誤りを示唆又は指摘され、その後に修正申告をしたような場合においては、当該修正申告書は調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものと解するのが相当である。
ロ 本件の場合、1前記(1)のロ及びハのとおり、調査担当職員が請求人の青色申告決算書等を検討した上、請求人等に対し電話により具体的に質問し、消費税の修正申告をしょうようしていること、2前記(1)のホ及びヘのとおり、本件修正申告書を提出した時期は、代理人及び関与税理士が出署し、調査担当職員からA社の伝票等を基に具体的に法人成りに伴う棚卸資産の引継ぎは課税売上げになる旨の説明を受けた後であったことからすれば、本件修正申告書の提出は通則法第65条第5項に規定する調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたというべきである。

(3) 次に、請求人は、本件修正申告書の提出は消費税の知識不足に起因するものであるから、このことは通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当する旨主張するので、以下審理する。

 ところで、正当な理由がある場合とは申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意又は過失に基づかずして当該申告額が過少となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものである場合をいい、納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合は、これに当たらないと解するのが相当である。
本件の場合も、請求人の税法の不知及びその誤解に基づくものであるから、その不知等は請求人の責めに帰すべきものであり、これを真にやむを得ないものということはできず、正当な理由には該当しない。

(4) 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく原処分は適法である。

(5) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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