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(平6.5.24、裁決事例集No.47 38頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成4年1月1日から平成4年12月31日までの課税期間の消費税について、課税標準額を110,547,000円、納付すべき税額を1,326,500円(以下「本件納付税額」という。)と記載した消費税確定申告書(以下「本件消費税申告書」という。)を法定申告期限後である平成5年3月24日に提出した。
 原処分庁は、平成5年6月15日付で無申告加算税の額を66,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、この処分を不服として平成5年6月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年9月17日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年10月15日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 請求人は、会計監査人の監査を要する法人であり、事実上、法人税法第74条((確定申告))第1項に規定する申告書の提出期限までに請求人の決算は確定しないことから、請求人は、法人税の確定申告書を当該提出期限までに提出することができないため、同法第75条の2((確定申告書の提出期限の延長の特例))の規定により法人税の確定申告書については提出期限の延長を受けている。
 消費税の確定申告書についても法人税と同様に、消費税法第45条((課税資産の譲渡等についての確定申告))第1項に規定する提出期限までに請求人の決算は確定しないことから、請求人は、決算の確定後の平成5年3月24日に本件消費税申告書を提出したものである。
 また、決算が確定していない状況で消費税の確定申告書を提出すると、仮の計算により申告することとなり、決算の確定によって消費税額の計算の基礎となる金額等が変動したときにおいては、修正申告等が必要となり、確定申告の効力を弱めることになるばかりか、無用な事務の負担ともなる。
 更に、請求人は、本件納付税額を課税期間の末日の翌日から2月以内の平成5年2月19日に納付しており、法人税法第75条の2の規定の適用を受けていない事業者との間に税負担の不公平は生じておらず、かつ、消費税を納付するという申告の目的も果たしている。
 以上により、請求人が、本件消費税申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについては、国税通則法第66条((無申告加算税))第1項のただし書に規定する無申告加算税を賦課しない場合の「正当な理由があると認められる場合」に該当するので、無申告加算税の賦課決定処分は違法である。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 消費税の確定申告書の提出については、消費税法第45条第1項で、課税事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2月以内に、課税標準額等を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない旨規定しているが、法人税法第74条第1項の規定のように、「確定した決算に基づき」という規定は設けられていない。
 そうすると、法人税法第75条の2の規定の適用を受けている法人であっても、消費税の確定申告書は課税期間の末日の翌日から2月以内に提出しなければならない。
ロ 国税通則法第66条第1項のただし書は、期限後申告書の提出があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、期限後申告により納付すべきこととなった税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
 そうすると、本件消費税申告書は、法定申告期限を経過した平成5年3月24日に提出されていることから、期限後申告書となり、たとえ本件納付税額が法定申告期限内に納付されたとしても、国税通則法第66条第1項のただし書に規定する、期限内申告書の提出がなかったことについて、無申告加算税を賦課しないこととする正当な理由があると認められる場合には該当しない。
ハ 本件消費税申告書は、その申告に係る消費税について調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知して提出されたものとは認められないから、国税通則法第66条第3項を適用することとなる。

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3 判断

 本件消費税申告書が法定申告期限内に提出されなかった事情が、国税通則法第66条第1項のただし書に規定する無申告加算税を賦課しない場合の「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否かについて争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。

(1) 次の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。

イ 本件消費税申告書は、法定申告期限を経過した平成5年3月24日に提出されている。
ロ 本件納付税額は、法定申告期限内の平成5年2月19日に納付されている。
ハ 本件消費税申告書は、その申告に係る消費税について調査があったことにより決定があるべきことを予知して提出されたものではない。
(2) 国税通則法第15条((納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定))第2項によれば、消費税は、課税資産の譲渡等をした時に、法人税は、事業年度の終了の時に、それぞれの納税義務が成立する旨規定され、同法第16条((国税についての納付すべき税額の確定の方式))第1項第1号によれば、申告納税方式にあっては、納付すべき税額は納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合、その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長の処分により確定する旨規定されている。
(3) 国税通則法第66条第1項によれば、期限後申告書の提出があった場合、当該申告等により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定され、同項のただし書には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合はこの限りではない旨規定されている。
 また、国税通則法第66条第3項によれば、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該申告等により納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定されている。
(4) 法人税法第74条第1項によれば、内国法人は、各事業年度の終了の日の翌日から2月以内に税務署長に対し、確定した決算に基づき申告書を提出しなければならない旨規定されているが、同法第75条の2によれば、会計監査人の監査を要することにより決算が確定しないため、確定申告書の提出期限までに法人税の申告書を提出することができない常況にあると認められる内国法人は、確定申告書の提出期限の延長を受けることができる旨規定されている。
(5) 消費税法第45条によれば、課税事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2月以内に、課税標準額等を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない旨規定されている。

(6) 以上により検討すると、次のとおりである。

 申告納税方式を採用している消費税において、納付すべき消費税額の確定は、課税期間の終了の後、事業者の行う申告により確定することを原則としているが、消費税の納税義務は、課税資産の譲渡等の時に成立しており、通常、継続して事業を行っている事業者は、その課税期間を通じて各日ごとに取引があり、その取引ごとに消費税相当額を受領し、消費税を転嫁しているのであるから、確定した決算に基づくことは、消費税の確定申告書を提出する上での要件となるものではなく、消費税法には、法人税法第75条の2の規定と同一の趣旨に基づいた確定申告書の提出期限の延長を認める旨の規定は設けられていない。
 更に、法人税法と消費税法とは別個の規定であるから、法人税法の規定に基づく法人税の確定申告書の提出期限の延長の適用の有無が、消費税の確定申告書の提出期限に影響を及ぼすものでもない。
 ところで、国税通則法第66条第1項ただし書の期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合とは、無申告加算税を課することが不当又は酷と認められる特別の事情、例えば、災害、交通、通信の途絶等、納税者の責めに帰すことのできない外的事情によるなど、法定申告期限内の提出を不可能にするもので真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当すると解される。
 そうすると、請求人の決算が確定していないことは、請求人が本件消費税申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて真にやむを得ない理由に該当するものではない。
 また、請求人は、決算が未確定の状況で本件消費税申告書を提出することは未確定の金額が確定した決算において変動したときには、修正申告等が避けられないため、確定申告の効力を弱めること及び余分な事務負担を強いられることになるので、正当な理由があると認められる場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、提出されていた申告書の内容が、適正でなかった場合に納税者からこれを訂正する手段としての修正申告書の提出又は更正の請求を行うことが必要になること及びその事務の負担が増加することをもって請求人が、本件消費税申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて真にやむを得ない理由がある場合に該当するとは認められない。
 更に、請求人は、法定申告期限内に本件納付税額を納付している旨主張するが、申告納税方式を採用する国税においては、納税申告が納税義務を確定させる重要な意義を有することから、申告の適正を担保し申告納税制度を確保するために、納税義務者に課せられた税法上の義務の不履行に対する行政上の制裁として、国税通則法第66条第1項の規定により、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合以外は、無申告加算税が賦課されることとされており、同条の適用は、納付すべき税額が法定申告期限内に納付されたことによりその適用が左右されるものではない。
 そうすると、請求人が法定申告期限内に本件納付税額を納付していたとしても、このことをもって、請求人が本件消費税申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて真にやむを得ない理由がある場合に該当するとは認められない。
 以上のことから、本件消費税申告書が法定申告期限内に提出されなかった事情は、国税通則法第66条第1項のただし書で規定する無申告加算税を賦課しない場合の「正当な理由があると認められる場合」に該当せず、他に、本件消費税申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて、正当な理由があると認められる場合に該当する事実は認められない。
 なお、本件消費税申告書は、調査があったことにより決定があるべきことを予知して提出されたものではないから、無申告加算税の賦課決定に当たり、原処分庁が国税通則法第66条第3項の規定を適用したことは相当である。
 したがって、無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(7) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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