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(平6.3.9、裁決事例集No.47 105頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1) 納税申告書提出に至る経緯

イ 確定申告
 審査請求人(以下「請求人」という。)は、A株式会社(以下「A社」という。)の取締役会長であるが、平成元年9月1日、同人所有の同社の株式380,000株(以下「a株式」という。)を、請求人及び請求人の妻Bが代表取締役のC有限会社(以下「C社」という。)に現物出資し、同社の出資(1口の金額1,000円)24,700口を取得した。
 更に、請求人は、平成2年4月5日、A社の株式380,000株(以下「b株式」といい、a株式と併せて「本件株式」という。)をC社に現物出資し、同社の出資49,400口を取得した(以下、本件株式の現物出資を「本件現物出資」といい、本件現物出資により取得したC社の出資持分を「本件取得持分」という。)。
 また、請求人は、平成2年4月10日、A社の株式9,000株を4,824,000円で妻に、同株式5,000株を2,680,000円で請求人の長男D(以下「D」といい、請求人及びBと併せて「請求人ら」という。)にそれぞれ売却し、更に、同年8月24日、同株式2,000株を1,012,000円でDに売却した。
 そして、請求人は、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した平成元年分及び平成2年分の所得税の確定申告書(平成2年分は分離課税用)を、それぞれ法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 修正申告
 請求人は、上記確定申告において、平成元年分については、a株式の現物出資に係る譲渡所得の金額を申告しておらず、また、平成2年分については、b株式の現物出資に係る譲渡所得の金額が過少であったため、平成3年6月17日、別表1の「修正申告1」欄のとおり記載した平成元年分及び平成2年分の所得税の修正申告書を原処分庁に提出した。
 更に、請求人は、上記の各修正申告書に記載した譲渡所得の金額が過少であったため、平成3年6月25日、別表1の「修正申告2」欄のとおり記載した平成元年分及び平成2年分の所得税の修正申告書を原処分庁に提出した。

(2) 原処分及び不服申立ての経緯

 原処分庁は、平成3年7月4日付で、本件現物出資に係る譲渡所得の収入金額が過少であるとして、別表1の「更正等」欄に記載のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成3年8月23日、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月6日付で棄却する旨の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、不服があるとして平成4年1月6日、本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ) 本件現物出資による本件取得持分の取得は、所得税法第33条((譲渡所得))第1項の規定に該当し、その譲渡所得の収入金額は、同法第36条((収入金額))第2項によると「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする」旨規定されている。しかし、現物出資により取得した株式又は出資(以下「株式等」という。)の価額の評価方法については、所得税法上具体的な規定は存しない。
 そこで、本件取得持分は、昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達「所得税基本通達」(以下「所得税通達」という。)23〜35共−9((新株等を取得する権利の価額))(以下「本件通達」という。)の(4)のロに定める「売買実例のないものでその株式等を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式等の価額があるもの」に該当するから、本件取得持分の価額は、当該類似する他の法人の株式等の価額に比準して推定した価額(以下「比準価額」という。)に基づいて算定すべきである。
 そして、その具体的な計算に当たっては、昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17国税庁長官通達「相続税財産評価に関する基本通達」(平成3年12月18日付課評2−4、課資1−6「相続税財産評価に関する基本通達の一部改正について」により、その題名は「財産評価基本通達」に改められている。以下「評価通達」という。)178((取引相場のない株式の評価上の区分))から184((類似業種比準価額の修正))までに定める類似業種比準方式に準じて評価すべきである。この計算方法は、比準価額を計算するための一つの方法として評価通達を援用したものであり、相続税評価額と所得税法上の時価とが常に同じであると考えている訳ではない。
 なお、原処分庁が採用する純資産価額によって評価する方法は、本件通達の(4)のイ及びロに該当しない場合の取扱いであるばかりでなく、原処分庁は、現物出資が企業継続を前提とした行為であるとしているが、そうであれば、当該企業の評価上、資産価値よりも収益力の方が重視されるべきであるから、純資産価額よりもより企業の収益力を反映する比準価額の方が合理的である。
 よって、本件取得持分の1口の価額は、別表3−1及び3−2の各26欄に記載のとおりとなるから、a株式及びb株式の譲渡収入金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円、口)
項目
区分
本件取得持分
1口の価額(1
取得口数
2
譲渡収入金額
1×2
a株式 778 24,700 19,216,600
b株式 1,060 49,400 52,364,000

(ロ) 仮に、原処分庁が主張するように、本件取得持分の価額を純資産価額によって評価するとしても、次に述べるとおり、課税時期において時価に評価換えした価額と帳簿価額の差額(以下「評価差額」という。)から、評価通達186−2((評価差額に対する法人税額等に相当する金額))に定める法人税額等に相当する金額(以下「法人税等相当額」という。)を控除した価額によるべきである。
A 純資産価額の算定の基礎となる純資産は、法人所有の資産及び負債の帳簿価額を時価に評価換えをした当該法人の純資産を意味するものである。時価と帳簿価額との評価差益は、評価時点において未実現の利益でありながら、将来実現することを前提として計上するものであるから、評価差額に対する法人税等相当額を控除するのは当然のことである。
B 非上場株式で気配相場のないものを純資産価額によって評価する場合、昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達「法人税基本通達」(以下「法人税通達」という。)9−1−15((気配相場のない株式の価額の特例))は、評価通達の178から189まで((取引相場のない株式の評価))の例によって算定した価額によっているときは、課税上の弊害がない限りそれを条件付きで認める旨定めている。
 そうすると、所得税法と法人税法はその性格が同じであるので、所得税の取扱いにおいても法人税等相当額の控除が認められるべきである。
 よって、本件取得持分の1口の価額は、別表4−1及び4−2の各「請求人予備的主張額(A)」の11欄に記載のとおりとなるから、a株式及びb株式の譲渡収入金額は、次表のとおりとなる。

(単位:円、口)
項目
区分
本件取得持分
1口の価額(1
取得口数
2
譲渡収入金額
1×2
a株式 7,024 24,700 173,492,800
b株式 3,667 49,400 181,149,800

(ハ) 更に、仮に、本件取得持分の価額を純資産価額(法人税等相当額を控除しないで評価する方式)によって評価するとしても、次に述べるとおり、譲渡所得の収入金額は、本件現物出資時における本件株式の時価を限度とすべきである。
A 原処分庁が評価した本件取得持分の価額及び本件株式の時価は、それぞれ次表の1及び2欄に記載のとおりである。

(単位:円)
項目
区分
本件取得持分の価額
1
本件株式の時価
2
時価を超える部分
12
a株式 341,354,000 323,380,000 17,974,000
b株式 317,938,400 203,680,000 114,258,400

 上記の本件取得持分の価額のうち、本件株式の時価を超える部分は、本件現物出資によりC社の旧出資持分から新出資持分へ流れ出た含み益相当額であるので、譲渡所得の収入金額から除外すべきものである。
 すなわち、本件現物出資による増資は、出資者全員が各人の出資持分に応じて新出資持分を平等に取得したものであるから、本件現物出資の前後において各出資者の出資比率は変わっていない。
 そうすると、本件取得持分の取得は、所得税法施行令第84条((新株等を取得する権利の価額))第1項に規定する「株主等として与えられた場合」に該当するので、上記含み益相当額は課税されないものである。
 付言すると、株主割当てによる額面金額払込増資についても、新株式の額面価額と時価の差額である含み益相当額は、各株主が増資前の出資比率に応じて出資している限り、課税の対象とはならないのと同様である。
B 所得税法第59条((贈与等の場合の譲渡所得等の特例))第1項に規定する、いわゆる「みなし譲渡」の場合の譲渡所得の収入金額は、譲渡した資産の時価とされていることから、現物出資をした場合でも、その現物出資をした資産の時価を限度に譲渡所得の収入金額とすべきである。
(ニ) したがって、上記(イ)、(ロ)及び(ハ)の各主張に基づく請求人の平成元年分及び平成2年分の株式に係る譲渡所得の金額は、それぞれ別表2の「請求人主張額」の「主位的主張額」、「予備的主張額(A)」、「予備的主張額(B)」の各欄に記載のとおりとなる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 現物出資に係る譲渡所得の収入金額の算定方法については、必要な法令及び通達の不備によって異論を生じているところであり、明確な見解が示されていない状況下にあるので、過少申告加算税の賦課決定処分は不当である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ) 本件取得持分の価額は、純資産価額によって評価すべきである。
 すなわち、C社は、1小規模の会社であること、2一般投資家からの出資がないこと、3請求人らが同社の総出資口数の全部を所有して会社を全面的に支配する地位にあることを考慮すると、請求人らは、形式的には同社の出資持分を所有しているとしても、実質的には直接に同社の資産を所有しているのと同様であるので、本件通達の(4)のハの取扱いに準じ、純資産価額によって評価することが合理的である。
 なお、所得税通達に定める比準価額と評価通達に定める類似業種比準価額は同一のものではない。
(ロ) また、純資産価額によって評価する場合、次の理由により、評価差額に対する法人税等相当額の控除は認められない。
A 現物出資は、法人の資本増加手段であり、とりもなおさず企業継続を前提とした行為であるので、現物出資により取得した株式等の価額を処分価額によって評価するのは適当ではなく、会社資産を使用収益していくという前提に立ち、再調達価額によって評価するのが合理的である。
 つまり、評価通達をそのまま準用して、評価差額に対する法人税等相当額を控除して純資産価額を算定する株式等の評価方法は、課税時期に会社を解散し、会社財産を処分、清算する仮定に立って、当該解散時における純資産の処分価額を基に1株当たりの純資産価額を求めるものであり、これは、処分価額によって時価を算定する方法ということができるので合理的ではない。
B 法人税通達9−1−15が、評価通達と同様に法人税相当額の控除を認めているとしても、同通達は、法人が非上場株式について評価損の計上を行う場合の期末時価の算定方法を定めた取扱いにすぎない。
 つまり、所得税法と法人税法の双方に動態的な性格を有するという共通点があるとしても、財産の評価目的はそれぞれ異なっているのであるから、所得税法において、上記通達等法人税法上の評価方法を準用するのは合理的ではない。
(ハ) 更に、本件現物出資に係る譲渡所得の収入金額の算定においては、次のとおり、本件株式の時価を限度とすべき理由はない。
A 所得税法第36条第2項は「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする」旨規定していることから、現物出資をした株式の時価を限度として譲渡所得の収入金額を算定する理由はない。
 すなわち、本件現物出資に係る譲渡所得の収入金額は、C社の出資持分を取得した時のその出資持分の価額、換言すれば、当該出資持分の客観的交換価値であるところの時価によるべきである。
B 所得税法第59条第1項に規定する、いわゆる「みなし譲渡」は、資産を無償又は著しく低い価額の対価として譲渡した場合の収入金額の特例であり、本件現物出資は、同項に該当しないから考慮する必要はない。
(ニ) したがって、本件取得持分の1口の価額は、別表4−1及び4−2の各「原処分庁主張額」の11欄に記載のとおりとなるから、請求人の平成元年分及び平成2年分の株式に係る譲渡所得の金額は、別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりとなる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、各更正処分は適法であり、かつ、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づく過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件現物出資に係る譲渡所得の収入金額の算定方法にあるので、以下検討する。

(1) 更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件株式は、P証券取引所ほかの証券取引所に上場されていること。
(ロ) C社は、昭和62年12月21日に資本の総額14,000,000円、社員3名(請求人、B、D)で設立され、当該資本の総額は、その後2回の増資を経て、a株式の現物出資直前の決算日である平成元年3月31日(設立第2期末)においては26,000,000円、b株式の現物出資直前の決算日である平成2年3月31日(同第3期末)においては52,000,000円となっていること。
 また、C社の設立第1期から同第3期までの各事業年度における営業収益は、A社株式の配当金のみであり、当該各事業年度とも、社員に対する利益配当はなされていないこと。
(ハ) 請求人及びBは、C社の設立以降、同社の代表取締役であり、Dは、取締役であること。
 また、C社は、上記3名がその資本の全部を保有している、いわゆる同族会社であり、当該出資割合は、請求人が95パーセント、B及びDが共に2.5パーセントで同社設立以降変動はなく、同出資の過去における売買実例は皆無であること。
(ニ) 本件現物出資直後におけるC社の各資産及び各負債の評価額(時価)及び帳簿価額は、別表4−1及び4−2の「資産負債の金額」欄に記載のとおりであること。
ロ ところで、資産の現物出資による譲渡は、所得税法第33条第1項の規定に該当するところ、その譲渡所得の収入金額は、同法第36条第1項及び第2項によれば、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とし、それらは、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定されている。
 したがって、本件現物出資に係る譲渡所得の収入金額は、請求人が本件取得持分を取得した時における、その価額によってこれを算定すべきものと解される。
 この場合における株式等の取得時の価額の評価方法については、所得税法上何ら規定されていないが、本件通達は、上場会社の株式及び気配相場のある株式の価額は、証券取引所における最終価格又は当該気配相場によるが、取引相場のない株式等の価額は、1適正価額の売買実例がある場合はそれにより(本件通達の(4)のイ)、2売買実例がなく、評価すべき株式等を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の会社の株式等の価額がある場合には当該価額に比準して推定した価額により(同(4)のロ)、31及び2に該当しない場合には、評価すべき株式等を発行する法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額による(同(4)のハ)旨定めているところ、この評価方法は、実務において定着しており、妥当なものということができる。
ハ 請求人は、本件取得持分が本件通達の(4)のロに該当すること、現物出資が企業継続を前提とした行為であるとすると、当該企業の評価上、資産価値よりも収益力の方がより重視されるべきであることから、本件取得持分は、比準価額によって評価すべきである旨主張する。
 なるほど、請求人が主張するように、現物出資によって取得する株式等の価額は、当該株式等を発行する企業の収益力を基準に算定する方が合理的である場合もあり得る。
 しかしながら、現物出資がその出資を受ける企業の継続を前提とした行為であるとしても、当該企業の状況によっては、収益力を重視した株式等の評価方法が常に合理的であるとはいえず、かえって、前記イの(ロ)のとおり、1C社は、設立されて間もないこと、2同社の本件現物出資の直前期までの各事業年度の収益内容は、株式配当収入のみであり、本来の事業活動から生じた収入は全くないこと、3同社設立以降、社員に対して利益配当がなされたことがないことからすると、本件取得持分の評価に当たっては、会社資産の持分としての性格に重きが置かれることとなり、請求人が主張するような比準価額によって評価する方法は合理的ではなく、また、請求人は、C社と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があることについての証拠書類の提出もしていない。
 そうすると、前記イの(ハ)のとおり、C社の出資は、市場性がなく、過去において売買実例がないこと、そのすべてを請求人らが保有していることからすると、請求人らは、同社を支配する地位にあり、当該出資は会社資産の持分としての性格が強いと認められるから、本件取得持分の価額は、純資産価額によって評価するのが相当である。
ニ また、請求人は、純資産価額によって評価するとしても、評価差額に対する法人税等相当額を控除すべきである旨主張する。
 ところで、評価通達が評価差額に対する法人税等相当額を控除している根拠は、個人が、事業用資産を直接所有するのと株式等の所有を通じて間接的に会社の資産を所有するのとでは、法律的、形式的にその所有形態が異なるので、両者の事業用財産の所有形態を経済的に同一の条件のもとに置き換えた上で評価の均衡を図る必要があることによるものであって、会社資産の評価換えによって生ずる清算所得に対する法人税等相当額を純資産価額の算出上控除することとしているものと解される。
 したがって、本件の場合のように、会社の事業活動の継続を前提にしていると認められる現物出資に係る譲渡所得の収入金額を算定するための株式等の評価においては、評価通達が定めるような会社の解散を前提として算定される処分価額によることは合理性がなく、あくまでも通常の経済取引として取引されるであろう株式等の価額、つまり、評価差額に対する法人税等相当額を控除しない純資産価額によって評価するのが相当である。
 また、請求人の主張する法人税通達9−1−15は、法人税法第33条((資産の評価損の損金不算入等))第2項の規定を適用する場合の取扱いであり、同通達は、非上場の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下した場合における当該有価証券の評価方法を定めたものである。
 すなわち、上記通達が評価通達の例によって算定した価額を法人税法上の資産の評価損を算定する際の期末時価としているのは、会社資産の処分価額を算定するためであるものと解される。
 そうすると、現物出資により取得した株式等を処分価額によって評価すべきでないことは前述のとおりであるから、この点に関する請求人の主張は理由がない。
ホ 更に、請求人は、本件現物出資による増資は、出資者全員が各人の出資比率に応じて平等に新出資持分を取得したものであるから、本件取得持分の取得は、所得税法施行令第84条第1項かっこ書の「株主等として与えられた場合」に該当し、したがって、原処分庁が算定した本件取得持分の価額のうち本件株式の時価を超える部分に相当する、旧出資持分から新出資持分に移行した旧出資持分の含み益相当額については、譲渡所得の収入金額に算入されるべきでない旨主張する。
 ところで、所得税法施行令第84条第1項によれば、株式等の発行法人から、いわゆる新株引受権を与えられた場合、それが株主等として与えられた場合を除き、当該新株引受権の価額は、所得税法第36条第1項に規定する各種所得の金額の収入金額に算入すべき旨規定されているところ、この「株主等として与えられた場合」とは、株主等として付与された新株引受権に基づいて株式等を引き受けた場合と解される。
 これを本件についてみると、前記イの(ハ)のとおり、請求人が主張するように本件現物出資によって各人の出資比率に変動はみられないものの、全資料を総合すれば、本件現物出資は、C社が請求人の有する特定の資産すなわち本件株式に着目し、これを同社に移転させる代償として請求人に本件取得持分を与えたもの、換言すれば、請求人は、本件現物出資資産の所有者たる地位に基づいて本件取得持分を与えられたものであって、出資者として付与された新株(出資)引受権に基づいて本件取得持分を与えられたものではないと認めるのが相当である。
 したがって、本件取得持分の価額は、その全部が本件現物出資に係る譲渡所得の収入金額に算入されるべきであるから、この点に関する請求人の主張は理由がない。
 また、請求人は、所得税法第59条第1項の規定に該当する場合には、譲渡した資産の時価を当該譲渡所得の収入金額とするのであるから、現物出資によって資産を譲渡した場合も同様に、現物出資資産の時価を収入金額とすべき旨主張する。
 しかしながら、所得税法第59条第1項は、贈与、相続若しくは遺贈又は著しく低い価額の対価として資産の譲渡があった場合の譲渡所得の収入金額に関する規定であるところ、本件現物出資は、贈与、相続又は遺贈には当たらず、また、前記ハ及びニで判断したところに基づいて計算すると、本件取得持分の1口の価額及び本件現物出資に係る譲渡の対価の額(収入金額)は、別表4−1及び4−2の各「審判所認定額」の11欄並びに別表2の同1及び8欄に記載のとおりであり、著しく低い対価の額に該当しないばかりか、むしろ、請求人が主張する本件株式の時価を上回るものであるから、この点に関する請求人の主張も理由がない。
ヘ 以上のとおりであるから、請求人の平成元年分及び平成2年分の株式に係る譲渡所得の金額は、別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおりとなり、その結果、当該譲渡所得の金額は、平成元年分については更正処分の額と同額となり、平成2年分については更正処分の額を上回ることになる。
 したがって、各更正処分は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 請求人は、現物出資に係る譲渡所得の収入金額の算定方法に関し、明確な見解が示されていない以上、仮に更正処分が適法であったとしても過少申告加算税の賦課決定処分は不当である旨主張するが、上記(1)のとおり、各更正処分は適法であり、過少申告となったのは、請求人の独自の見解に基づくものであって、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由に当たらないから、過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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