ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.47 >> (平6.2.25、裁決事例集No.47 148頁)

(平6.2.25、裁決事例集No.47 148頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 本件審査請求に至る経緯は次のとおりである。

(1) 確定申告に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)の夫Eは、平成元年6月19日、F株式会社(以下「F社」という。)との間でP市R町406番1の田964平方メートル(以下「A土地」という。)、同409番の田1,966平方メートル(以下「B土地」という。)、同410番の田717平方メートル(以下「C土地」という。)及び同411番の田489平方メートル(以下「D土地」といい、A土地、B土地及びC土地と併せて「本件土地」という。)を976,344,600円で売却する旨の売買契約(以下「本件旧契約」という。)を締結し、同日、F社から手付金として100,000,000円を受領した。
ロ その後、平成元年7月18日にEが死亡したので、請求人は、平成2年5月14日、Eが昭和57年12月23日付で作成した自筆遺言証書に基づき、同人から請求人へ、相続を原因として本件土地の所有権移転登記手続を行った。
ハ 請求人及びF社は、平成2年11月28日、本件旧契約を解除するとともに、同日付の不動産売買契約書(以下「本件契約書」という。)により本件土地を1,500,000,000円で売買する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結し、請求人は、同日、F社から1,000,000,000円(以下「前渡金等」という。)を受領し、本件土地は、同日の売買を原因として、請求人からF社へ所有権移転登記がなされた。
ニ 請求人は、平成3年3月29日、F社から本件契約に係る残代金500,000,000円(以下「残代金」という。)を受領した。
ホ 請求人は、平成3年3月15日、平成2年分の所得税の確定申告に当たり、別表1の「確定申告」欄のとおり、給与所得のみを記載した確定申告書を提出した。

(2) 原処分及び不服申立ての経緯

イ S税務署長は、T国税局の職員の調査に基づき平成3年12月24日付で、本件土地の譲渡に係る所得(以下「本件譲渡所得」という。)は平成2年分であるとして、別表1の「更正・賦課決定」欄に記載のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、上記の原処分に不服があるとして平成4年1月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成4年12月7日付で棄却の異議決定をした。
 よって、平成5年1月11日に本件審査請求に及んだものである。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 本件譲渡所得の帰属年分は、次の理由により平成3年分である。
(イ) 請求人が平成2年11月28日に受領した前渡金等は、手付金300,000,000円及び前受金700,000,000円の合計であって、取引の完了を表す性格のものではなく、譲渡の日を判断する要素にはなり得ない。
(ロ) 本件契約書の第8条及び第9条において、収益の帰属及び費用の負担並びに危険負担についての約定があり、これは、請求人が売買代金の全額を受領するまでは請求人が本件土地を占有、支配するということ、すなわち、請求人が残代金を受領するまで本件土地の引渡しをしないことを意味するものである。
 また、事実上、請求人は、残代金を受領するまで本件土地の引渡しをしなかった。
(ハ) 本件契約書の第5条には、所有権移転の時期及び引渡義務が約定されているが、これは、本件土地が相続財産であり、その相続について相続人間で紛争が起き、訴訟が提起されていることから、訴訟遂行のテクニックの一つとして表示したものである。
 したがって、結果として、所有権移転登記手続が先行したにすぎない。
(ニ) 以上のことから、本件土地の譲渡の日は、残代金を受領した平成3年3月29日である。
 したがって、請求人は、平成4年3月16日、本件譲渡所得を平成3年分として、所得税の確定申告書をS税務署長に提出した。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ) 本件譲渡所得の帰属年分について
 本件土地の引渡しは、次の理由により平成2年11月28日であるから、本件譲渡所得の帰属年分は平成2年分である。
A 本件契約書の第5条において、請求人は前渡金等と引換えにF社に本件土地の所有権移転登記に必要な全書類を引き渡し、所有権をF社に移転することを異議なく承諾する旨の約定がされており、実際に、本件土地の所有権移転登記に必要な書類のすべての引渡しは平成2年11月28日に行われ、また、同日、所有権移転登記も完了している。
B 本件契約書の第5条は、元々2項に分かれていたが、その第1項の「登記簿上の」の部分が削除され、第2項の全文が削除されている。
 したがって、残代金の決済は残るものの、本件土地の引渡しは、前渡金等の授受と同時に完了した。
C F社は、前渡金等の授受の日以降、本件土地を占有していた。
D 本件契約書は、本件土地の売買を目的として特別に全文が作成されたものであるから、その第5条と第8条及び第9条とのそれぞれの解釈によって譲渡の日が相違することはあり得ない。
 また、本件契約書の特約条項において、取引は現状有姿とする旨記載されており、本件土地は本件契約を締結する前に既に更地となっていたことから、本件契約書の第8条及び第9条が本件土地の譲渡の日を判断する上での重要な事項であるとは言えない。
E 本件土地の所有権移転登記手続が、平成2年11月28日になされたことについて、訴訟遂行のためのテクニックにすぎないとする相当な理由は認められない。
(ロ) 本件譲渡所得の金額について
 上記(イ)のとおりであるから、請求人の平成2年分の本件譲渡所得の金額は、別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり1,009,084,000円となり、この範囲内でした更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由がある場合には該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡所得の帰属年分にあるので、以下検討する。

(1) 更正処分について

イ 譲渡所得の帰属年分について
(イ) 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件契約書の第5条、第8条及び第9条の記載内容は、次のとおりであること。
(所有権移転の時期及び引き渡し義務)
第5条 売主は、第3条1項に定める金壱拾億円也と引き替えに買主に対し、本物件の所有権移転登記に必要な書類全てを引き渡し、所有権が買主に移転することを異議なく承諾する。
(収益の帰属及び租税等の負担)
第8条 1. 本物件に関する収益の帰属及び公租公課その他の賦課金、負担金等は、第3条2項に定める金銭の授受が行われる日の前日までは、売主の収益および負担とし、その日以降は買主へ帰属し、かつ買主の負担とする。
2. 前項における固定資産税および都市計画税については、負担起算日を4月1日とし、精算する。この精算は、第3条2項に定める金銭の授受が行われるのと同時に、年365日の日割り計算により行う。
(危険負担)
第9条 1. 本契約締結後、第3条2項に定める金銭の授受が行われる日までの間に、売主、買主双方の責めに帰すことのできない事由によって、本物件の全部または一部が流失、陥没その他により滅失または棄損したとき、および公法上の制限、負担が課せられたときは、その損失は売主の負担とする。
2. 前項における滅失、棄損又は公法上の制限、負担のため買主が本契約の目的を達成することができない時は、買主は本契約を解除することができる。
3. 前項に従って買主が本契約を解除した時は、売主は第3条1項に定める既収の手付金、前渡金の合計額金壱拾億円也を即時に買主へ返還しなければならない。
B 本件契約書の第5条第2項「本物件の完全なる所有権の移転と引き渡しは、第3条2項に定める金五億円也の授受と同時に売主より買主に移転し、引き渡されるものとする。」の部分が全文削除されていること。
C F社住宅部副部長G(以下「G」という。)は、T国税局の職員の本件土地の引渡しに関する質問に対し、本件土地の引渡しを平成2年11月28日に行うため、合意により本件契約書の第5条第2項の全文を削除し、同日実質的に本件土地の引渡しを完了した旨答述したこと。
(ロ) ところで、譲渡所得の収入すべき時期については、特段の事情がない限り資産の引渡しがあればその時に所有権が移転したとみるのが通常であり、また、引渡しをすれば売買代金を相手方に請求できることが確定的になることから、引渡しの日をもって譲渡所得の総収入金額を収入すべき時期であるとすることが合理的であると認められるところ、所得税基本通達36ー12((山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期))も一定の例外を除き「山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする」と定めている。
(ハ) これを本件についてみると、本件契約書の第5条において、請求人は前渡金等の受領と引換えに本件土地の所有権移転登記に必要な書類のすべてをF社に引き渡し、所有権がF社に移転する旨約定しており、また、本件契約書の第5条第2項の部分を削除した経緯についてのGの答述内容からも、本件契約の当事者である請求人及びF社は、本件土地の引渡しを平成2年11月28日とすることを合意し、それを認識していたものと認めるのが相当である。
 なお、請求人は、本件契約書の第5条は訴訟遂行上のテクニックであると主張するが、仮に、請求人にそのような事情があったとしても、本件土地の引渡しの日は、本件契約の当事者間において定められたものであり、請求人の主張には理由がない。
(ニ) 請求人は、本件契約書の第8条及び第9条の約定があるから、残代金を受領するまで本件土地の引渡しをしなかったと主張するが、当該約定は、所有権移転とは別に、残代金の支払という債権関係が残るため、それまでの間、それぞれの項目につき請求人とF社のいずれが負担するかを特約したものであり、これをもって本件土地の引渡しの日を左右するものではないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ホ) 以上のことから、本件土地の引渡しは平成2年11月28日であり、原処分庁が本件譲渡所得の帰属年分を平成2年分として更正処分をしたことは適法である。
ロ 本件譲渡所得の金額について
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) Eは、本件土地を昭和27年12月31日以前から所有し、このうちB土地、C土地及びD土地をHに貸し付けていたこと。
(ロ) 請求人は、平成2年6月21日、Hに対し、B土地、C土地及びD土地の離作補償金として、380,122,050円を支払ったこと。
(ハ) 請求人は、本件契約の仲介人であるI株式会社に対し、仲介手数料として、平成2年4月1日に15,805,000円、同年11月28日に30,900,000円(合計46,705,000円)を支払ったこと。
(ニ) 本件土地の相続税評価額の合計は167,727,974円であること。
(ホ) 被相続人Eに係る相続税の課税価格(債務控除前)のうち、請求人が取得した額は1,633,966,927円であり、請求人の相続税額は24,548,800円であること。
 以上の各事実に基づき計算すると、請求人の本件譲渡所得の金額は別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおり1,013,659,099円となる。
 そうすると、請求人の本件譲渡所得の金額は、更正処分の額を上回ることとなる。
 したがって、更正処分は適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合には該当しないので、過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

(3) 原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された資料を総合してもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る