ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.48 >> (平6.12.15、裁決事例集No.48 7頁)

(平6.12.15、裁決事例集No.48 7頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、G県P市R町大字○○字××1659番16所在の土地469.50平方メートル及び同所1659番18所在の土地5.41平方メートル(以下「本件譲渡土地」という。)並びにその地上建物を、平成2年12月6日にAほか1名に売却(以下「本件譲渡」という。)したが、平成2年分の所得税の青色以外の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、所得金額及び納付すべき税額をいずれも零円と記載して、法定申告期限内に提出した。
 これに対し、原処分庁は、平成5年7月9日付で、請求人の平成2年分の分離長期譲渡所得の金額を50,376,800円、納付すべき税額を10,506,500円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の額を3,675,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、原処分を不服として、平成5年9月6日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月22日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年1月21日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人の主張

 次の理由により、原処分は違法である。
イ 本件更正処分について
 本件譲渡に係る所得は、以下の理由で、所得税法第9条((非課税所得))第1項第10号、同法施行令第26条((非課税とされる資力喪失による譲渡所得))の規定に該当する非課税所得である。
(イ) 原処分庁は、本件譲渡に係る譲渡代金(以下「本件譲渡代金」という。)の全額が請求人の借入金の返済に充てられたわけでないから非課税所得とならない旨主張するが、本件譲渡代金は全額請求人の借入金の返済に充てられている。
(ロ) 原処分庁は、請求人が本件譲渡時において別表記載の財産を有していたと主張しているが、そのうち、2番の土地は以前にB、C及びDに譲渡したものであり、6番の土地も請求人の先代が他人に譲渡してしまったもので、いずれも請求人の財産ではなく、また、3番の土地も抵当権が設定されており資産としての価値は零である。
 仮にそうでないとしても、2番及び3番の土地は他人の家屋が建ち、車の出入りもできないような土地で、7番の建物も含めて原処分庁の主張のような評価額には到底ならない。
 さらに、8番の立替払金については、実質上請求人自身の債務の弁済であり財産とはならない。
(ハ) 請求人は、本件譲渡代金による返済分以外に約30,000,000円の債務を有しており、高齢で他に収入の当てもない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分が違法であるから、本件賦課決定処分も違法である。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
 以下の理由で、本件譲渡に係る所得は、所得税法第9条第1項第10号、同法施行令第26条の規定に該当せず、非課税所得ではない。
(イ) 本件譲渡代金のうち13,700,000円は、請求人の長男であるEの借入金の返済に充てられており、また、使途の不明な代金が約4,300,000円あり、本件譲渡代金の全額が請求人自身の借入金の返済に充てられたとはいえない。
(ロ) 請求人は別表記載の財産を有しており、2番及び3番の土地の上に他人の家屋が建ち、車も入らない場所であるとしても、請求人が財産的に価値のある土地を所有している事実に変わりはない。
 なお、その価額は別表の「原処分庁主張額」欄記載のとおりである。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人は、本件譲渡に係る譲渡価額(以下「本件譲渡価額」という。)が56,300,000円であり、必要経費が4,923,200円であって、本件譲渡に起因して譲渡所得が発生したことを認識していたにもかかわらず、本件譲渡価額を54,432,000円、必要経費を54,432,000円と記載した「譲渡内容のお尋ね兼計算書」と題する書面(以下「本件計算書」という。)を添付して、所得税額を零円とする平成2年分の確定申告書を提出しており、この行為は、国税通則法第68条((重加算税))第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するから、同条項に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1) 本件更正処分について

 本件譲渡に係る所得が、所得税法第9条第1項第10号の規定に該当する非課税所得となるか否かが争点であるが、同条に規定する所得について、所得税法施行令第26条に1資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、2強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で、3その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたものであることという旨規定しているので、以下検討する。
イ 次に記載する各事実については当事者双方に争いがなく、これを不相当とする理由は認められない。
(イ) 請求人は、F信用金庫本店(以下「F信金」という。)に多額の借入金を有していたが、平成2年ころにはその返済が滞りがちになり、F信金から競売にかけてでも債務を回収したい旨の意向が示されたため、財産を任意売却して返済資金をねん出せざるを得なくなったこと。
(ロ) 当時、請求人は、EのG県信用保証協会(以下「保証協会」という。)からの13,700,000円の借入金に対して、Bとともに連帯保証していたこと。
(ハ) 請求人は、本件譲渡時に、少なくとも別表の1番、3番、4番、5番及び7番の不動産を所有していたこと。
(ニ) 請求人は、本件譲渡に係る仲介手数料として、1,600,000円、測量及び登記費用として508,200円を支払ったものであるが、本件譲渡に係る費用はこれら以外になかったこと。
(ホ) 請求人は、本件譲渡によりF信金に対する自己名義の借入金債務合計36,200.000円及び前記(ロ)に係る保証協会に対する13,700,000円の連帯保証債務の弁済をしたこと。
(ヘ) 請求人は、過去に建設業を営んでいたが、本件譲渡時には既にEが事業を引き継いでおり、無職で収入がなく、かつ、別表記載の不動産等以外に資産もなかったこと。
(ト) 本件譲渡時点で、F信金に対するE名義の借入金が約30,000,000円あったが、この借入金は、Eが所有する土地に設定された極度額35,000,000円の根抵当権によって担保されていたこと。
ロ 次に、争いのある事実については、以下のとおり認定するのが相当である。
(イ) 請求人は、別表の2番の土地につき、同土地上に家屋を所有するBほか2名に既に譲渡してしまったもので請求人の財産ではない旨主張し、またBほか2名も同旨の書面を提出している。
 しかし、原処分庁の提出した資料によれば、本件譲渡時において同土地の所有権登記は請求人名義となっており、特別の事情のない限り登記名義のある者に所有権が存すると推定されるところ、請求人の答述や上記書面を総合しても、譲渡の時期や経緯が全く明らかでないほか、上記主張が審査請求段階で初めてなされていることなど上記推定を覆すに足りる特別の事情は認められず、請求人の所有財産と認めるのが相当である。
 なお、別表の6番の土地についても同様に、本件譲渡時において所有権登記は請求人名義となっており、他に譲渡されたとする請求人の答述が具体的でない以上、やはり請求人の所有財産と認めるのが相当である。
(ロ) 請求人は、別表の3番の土地は、本件譲渡の前後を通じてF信金に対する借入金の担保に供されていたため実質上の資産価値は零である旨主張する。
 しかし、同土地の登記簿謄本によれば、同土地に設定されていたF信金及び保証協会の根抵当権登記は本件譲渡時の平成2年12月6日にすべて抹消されていることが認められ、その後改めて平成3年5月17日になって、Eを債務者とするF信金の極度額が35,000,000円である根抵当権設定登記がなされていることから、本件譲渡前後を通じて担保の負担があったとする請求人の主張は採用できない。
(ハ) 請求人は、別表の2番及び3番の土地並びに7番の建物の価額について、原処分庁の認定した評価額が過大である旨主張する。
 しかし、上記土地についての原処分庁の評価額の算定方法は、原処分庁提出資料によれば、上記土地に隣接する本件譲渡土地についての本件譲渡価額を売買実例として1平方メートル当たりの価額を算定し、それを基礎として請求人が主張する他人の家が建っているという点について借地権割合を控除する等その計算手法に特に不合理は認められない。さらに、請求人が主張する車が入らないという点については、前記イの(ハ)のとおり請求人は現況が公衆用道路である別表の1番及び4番の土地をも所有しており、請求人及び原処分庁が提出した図面によればそれらが別表の2番及び3番の土地の進入通路となっていると認められるから、上記算定の合理性を否定する根拠とはいえない。
 また、上記建物についても固定資産税評価額によることは一応合理的と認められ、これを下回るという事情は見当たらない。
 したがって、請求人が原処分庁の評価とは別の具体的な評価額ないし評価方法を主張、立証するものではないことをも考え併せれば、上記土地及び建物の評価額は原処分庁主張のとおり認定するのが相当である。
(ニ) 請求人は、別表の8番の債権につき、自己の債務の弁済であるから財産とはならない旨の主張をする。
 この点、前記イの(ロ)のとおり請求人は連帯保証人であるから、保証協会に対する弁済は自己の債務の弁済といえ、その限りで請求人の主張は正当である。
 しかしながら、連帯保証債務を弁済した請求人は、それと同時に主債務者であるEに対する同額の求償権を取得したこととなり、前記イの(ヘ)のとおりEは現に事業を営んでおり資力が全くないとはいえないから、請求人は資産として同額の債権を有しているというべきであり、結果的に原処分庁の認定は相当といえる。
(ホ) 本件譲渡価額につき、請求人は特に主張はしていないが、平成2年12月6日の本件譲渡時点で56,300,000円で定まり決済も完了したものの、後になって譲渡土地に水路部分を含むかどうか争いになり、54,432,000円に減額されたとして、本件確定申告書にその金額を記載し、申告をしている。
 しかし、譲渡価額の減額があったとすれば存在したはずの返金等の事実すら特定できず、売買契約の変更のあったことが確認できない。
 したがって、本件譲渡価額は本件譲渡に係る不動産売買契約書に記載されているとおり56,300,000円と認めるのが相当である。
(ヘ) 請求人は本件譲渡代金は全額債務の弁済に充てた旨主張する。
 しかし、提出された全資料によっても前記イの(ホ)に記載した以外の債務の弁済をうかがわせる証拠はなく、もとより請求人は弁済の相手方や額について何ら主張もしていないことから、前記イの(ホ)以外の弁済の事実はなかったと認めるのが相当である。
(ト) 請求人は、前記イの(ト)に記載したE名義のF信金に対する約30,000,000円の借入金債務も実質的には請求人の債務である旨答述し、また同旨の書面を提出する。
 確かに、原処分庁担当者が調査によって請求人のEに対する3,540,000円の立替金債務を発見した旨答述していることからすれば、請求人とEとの間ではほかにも立替関係が存在する可能性は否定できず、また請求人の事業をEが引き継いだという経緯もあって請求人が道義的な意味で返済に責任を感ずるということはあり得ないではない。
 しかしながら、法律上、金融機関が債務の名義人でない者に弁済を求めることはないというべきであり、F信金作成の平成6年6月7日付書面においても、本件譲渡による返済分以外の融資はEないしその妻Hに対するものである旨記載されているのであるから、請求人が同債務を負っていると認めることはできない。
ハ 以上の事実をもとに、本件譲渡に係る所得が所得税法施行令第26条に規定の要件を具備しているか検討すると以下のとおりである。
 前記イの(イ)によれば、冒頭記載の2の要件は一応具備するというべきである。
 しかしながら、同3の要件については、前記ロの(ホ)で認定した本件譲渡代金から前記イの(ニ)及び(ホ)に記載した支払を差し引いた残金約4,300,000円につき、前記ロの(ヘ)で認定したとおり債務の返済に充てられたものとは認められないのであり、このように本件譲渡代金のうち少なからぬ部分が債務の弁済に充てられていない以上、同要件は具備していないといわざるを得ない。
 さらに、同1の要件についても、請求人は、前記ロの(ト)で認定したとおり他に債務はなく、一方、前記イの(ハ)に加え前記ロの(イ)、(ロ)及び(ニ)で認定した不動産及び債権を有しており、その価額も前記ロの(ハ)で認定したとおりと認められるから、前記イの(ヘ)のとおり請求人に今後収入の当てがないにしても、同要件を具備するとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がなく、本件譲渡に係る所得は所得税法第9条第1項第10号及び同法施行令第26条の規定を適用することはできず、非課税所得とは認められない。

トップに戻る

(2) 本件賦課決定処分について

イ 原処分庁が提出した資料によれば、1本件確定申告書には、譲渡物件の種目、場所のほか、収入金額欄及び必要経費欄にそれぞれ54,432,000円並びに差引金額、特別控除額及び所得金額にそれぞれ零円の記載がされていること、2本件計算書には、譲渡物件の特定事項のほか、売却代金部分の総額欄に54,432,000円、所得金額の計算部分の収入金額欄及び必要経費欄にそれぞれ54,432,000円並びに差引金額欄、特別控除額欄及び譲渡所得金額欄にそれぞれ零円の記載がされていること、3本件確定申告書の提出にあたり他に添付資料はなかったことが認められる。
ロ 以上によれば、前記(1)のロの(ホ)のとおり本件譲渡価額は56,300,000円であり、必要経費の額は前記(1)のイの(ニ)のとおり本件譲渡に要した費用2,108,200円に、租税特別措置法(平成3年法律第16号により改正前のもの。)第31条の5((長期譲渡所得の概算取得費控除))第1項の規定の収入金額から控除する取得費2,815,000円を加えた金額4,923,200円であるから譲渡所得が発生し、本件確定申告書及び本件計算書の記載が誤っていたこととなるが、当該譲渡所得が所得税法第9条第1項第10号に規定する非課税所得に該当しないことを、請求人が認識していたと認めるまでの証拠はない。
 ところで、国税通則法第68条第1項は、重加算税の賦課要件として「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」と規定しており、少なくとも納税者において隠ぺい仮装行為の故意のあることが要件であると解される。
 これを本件についてみると、上記のとおり、請求人において本件確定申告書の記載が事実に反するという認識があったとは認められず、他にこれを認めるに足る証拠がないので、隠ぺい仮装の故意がなかったというべきである。
 したがって、本件においては国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を欠くこととなり、本件賦課決定処分は違法といわざるを得ない。
 よって、本件賦課決定処分は取消しを免れないが、前記(1)のとおり本件更正処分自体は適法であり、国税通則法第65条((過少申告加算税))に規定する賦課要件は具備しているところ、本件賦課決定処分は過少申告加算税の賦課決定を当然に含んでいると解されるから、本件更正処分に伴う過少申告加算税の額を超える部分について取り消すこととする。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料を総合しても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る