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(平6.12.16、裁決事例集No.48 76頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、学校法人の役員であるが、平成3年分の所得税の青色の確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年12月8日付で、次表の「更正等」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分 確定申告 更正等
総所得金額 4,730,911 4,730,911
内訳 不動産所得の金額 197,900 197,900
給与所得の金額 3,489,000 3,489,000
雑所得の金額 1,044,011 1,044,011
分離課税の長期譲渡所得の金額 36,990,000 66,990,000
納付すべき税額 7,540,200 14,889,700
過少申告加算税の額 - 734,000

 請求人は、これらの処分を不服として、原処分庁の教示に基づき、平成4年12月18日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ) 請求人と産婦人科医G(以下「G」といい、請求人と併せて以下「両者」という。)は、請求人所有のP市R町6丁目806番9の土地991平方メートル(以下「本件土地」という。)を昭和53年11月1日からGに賃貸する内容の賃貸借契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)を昭和53年9月9日に取り交わし、また、同日付で、本件土地の賃貸借に当たり、Gが請求人に敷金の名目で3,000万円を支払うこと及び請求人が本件土地をGに売り渡す際には、本件土地の売買代金から当該3,000万円差し引くこととする旨の覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わした。
 その後、請求人は、Gから本件土地の売買を求める訴訟をP地方裁判所(以下「P地裁」という。)に提起されたが、平成2年12月18日付で、P地裁において、本件土地の売買代金を8,000万円とすること及び本件覚書に基づき請求人が昭和53年にGから敷金の名目で受領した3,000万円(以下「本件金員」という。)を当該売買代金に充当することを両者間で合意する旨の和解(以下「本件和解」という。)が成立し、請求人は、本件和解に基づき、本件土地の所有権移転登記を行うとともに上記売買代金8,000万円と本件金員との差額5,000万円をGから受領した。
 そこで、請求人は、平成3年分の所得税の確定申告書に、本件土地の譲渡に係る総収入金額(以下「本件譲渡収入金額」という。)を5,000万円、分離課税の長期譲渡所得(以下「分離長期譲渡所得」という。)の金額を3,699万円と記載して提出したところ、原処分庁は、本件金員も本件譲渡収入金額に含まれるとして、本件譲渡収入金額を8,000万円、分離長期譲渡所得の金額を6,699万円とするとする更正処分をした。
 しかしながら、本件金員は、名目上敷金となっているが、次の理由により、実質的には本件土地の賃貸借に際して設定した借地権の対価としての権利金で、昭和53年分の譲渡所得に係るものであるから、本件譲渡収入金額は、確定申告額のとおり、本件和解により確定した本件土地の売買代金8,000万円から本件金員を控除した5,000万円である。
A 本件覚書には、本件金員が敷金と記載されているが、次の理由により、本件金員をGに返還するとの趣旨ではないこと。
(A) 本件覚書は、実質的な本件土地の賃貸借契約書であること。
(B) 本件金員が権利金として課税されたことの場合を想定して、本件覚書に、「本件金員について請求人が課税された場合はGがその税金を負担する」旨の記載をしたこと。
(C) 本件金員を敷金の名目とした場合には所得税の申告の必要がないと第三者から聞いたので、そのように記載したものであること。
B 通常の場合、敷金は未納賃貸料の担保及び賃貸料の納付遅延の保証金であるから、土地の賃貸借の慣習において、本件金員のように約14年分の賃貸借料に相当する高額な敷金はあり得ないこと。
C 本件和解は、本件土地の売買代金を8,000万円とし、本件金員を当該売買代金に充当することについて両者間で合意したものであり、本件金員が敷金か借地権の設定の対価である権利金かを確定させたものではないが、当該売買代金の実際の内訳は、借地権の対価の3,000万円と底地価額の5,000万円であること。
D 本件土地の賃貸借に際し、請求人は賃貸料の1か月分の18万円を、また、Gは本件金員の3パーセントの90万円を、それぞれ仲介業者に仲介手数料として支払っているが、これは本件土地の賃貸借に関して支払ったものであり、本件土地の売買予約に関して支払ったものではないこと。
(ロ) なお、両者は、昭和53年3月30日付で、本件土地をGに6,000万円で売り渡す旨の売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を取り交わしたが、本件売買契約書は、Gの医療金融公庫からの借入れのために作成したものであり、真正な売買契約書ではないから、本件覚書及び本件土地の売買予約等とは関係がない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴う過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ) 請求人は、本件金員が本件土地の賃貸借に際して設定した借地権の対価としての権利金である旨主張するが、本件金員は、次のとおり、昭和53年から請求人に預けられていた返還義務のある敷金であり、本件和解において本件土地の売買代金の一部に充当することが両者間で確認されたものであるから、本件譲渡収入金額は、本件和解により確定した本件土地の売買価額8,000万円である。
A 請求人は、本件覚書が実質的な本件土地の賃貸借契約書であること等から、本件覚書において本件金員が敷金の名目となっていても、本件金員をGに返還する趣旨のものではない旨を主張する。
 しかし、一般的には、建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約があれば、その土地については借地権の存在が認められるところであるが、借地権の対価の支払は必ずしも行われるものではなく、賃貸借契約に際して金銭の授受があった場合、その金銭が権利金であるか否かの判断は、賃貸借契約終了時におけるその金銭についての返還義務の有無によるべきものであり、本件金員については、本件覚書で1利息の定め(無利息)があること及び2後日の本件土地の売買代金の一部に充当する旨の定めがあること並びに請求人がGに発行した本件金員の領収書に敷金と表示されていることから、返還義務のある敷金であると認められる。
B 請求人は、土地の賃貸借の慣習において、本件金員のような高額な敷金はあり得ない旨を主張するが、本件金員が敷金であるか権利金であるかは、上記Aで述べたとおり返還義務の有無により判断すべきものであり、請求人が主張するような金額の多寡によって判断すべきものではない。
C 請求人は、本件和解による本件土地の売買代金の実際の内訳は、借地権の対価3,000万円と底地価額5,000万円である旨を主張する。
 しかし、本件和解は、本件土地の売買代金を8,000万円とすること及び本件覚書の売買予約に基づき本件金員を当該売買代金の一部に充当することについて両者間で合意がなされたもので、当該合意の内容は本件土地の売買代金を借地権と底地部分に分けることに関してのものではなく、本件土地そのものの売買に関するものであるから、本件土地の売買代金の内訳についての請求人の主張には理由がない。
D 請求人は、本件土地の賃貸借に際して支払った仲介手数料は当該賃貸借に関するものであり、本件土地の売買予約に関するものではない旨を主張するが、本件土地の売買予約については、上記Cのとおり両者間で合意が認められるところであり、仮に仲介手数料が賃貸借に関するものであったとしても、本件金員を権利金と認定する理由とはならない。
(ロ) なお、本件売買契約書は、請求人の主張するようにGの医療金融公庫からの借入れのために作成されたものであるとしても、本件覚書における本件土地の売買予約についての合意と一連のものとして関係がある。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、かつ、請求人には国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 本件更正処分について

 本件譲渡収入金額について争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもこれらの事実が認められる。
(イ) 本件売買契約書には、請求人がGに本件土地を代金6,000万円で売り渡す旨が記載されていること。
(ロ) 本件賃貸借契約書には、次の内容が記載されていること。
A 請求人が、Gに本件土地を月額18万円で賃貸する。
B 賃貸借期間は、昭和53年11月1日より満20年とする。
C 敷金は2,000万円(無利息の約定)とする。
(ハ) 本件覚書には、本件土地の賃貸借に関し両者間で次の事項を協約する旨が記載されており、両者の署名、押印があること。
A Gは、請求人に敷金3,000万円(無利息の約定)を支払う。
 但し、当該敷金について請求人が課税された場合には、Gが負担する。
B 請求人は、Gが本件土地に産婦人科医院を建築することを了解する。
C 請求人は、後日本件土地をGに総額6,000万円で売り渡すことを同意する。
 なお、前記Aの敷金3,000万円は、後日の本件土地の売買代金に充当する。
D 本件土地の賃貸借期間内において、両者はいつでも本件土地の売買を請求することでき、また、当該請求があったときには、これを拒否できない。
(ニ) 前記(ロ)のA及びBのとおり、両者間で本件土地の賃貸借が行われ、また、Gは、上記(ハ)のBのとおり、本件土地に産婦人科医院を建築(昭和54年5月2日新築)したこと。
(ホ) 本件金員は、本件覚書に基づき、Gから請求人に支払われていること。
(ヘ) 本件訴訟は、原告Gが、請求人を被告として平成元年12月8日付でP地裁に本件土地の所有権移転登記手続を求める訴えを提起したものであり、当該訴訟に係る平成2年12月18日付の口頭弁論調書(和解)には、両者間に次の内容の和解が成立した旨が記載されていること。
A 両者は、請求人が本件土地をGに代金8,000万円で売り渡し、Gがこれを買い受けたことを相互に確認する。
B 両者は、上記Aの売買代金の内金3,000万円については、昭和53年9月9日の売買予約に基づいてGから請求人に支払われた3,000万円を当該売買代金に充当することを合意する。
C Gは、下記Dの所有権移転登記手続を受けるのと引換えに、請求人に残代金5,000万円を支払う。
D 請求人は、上記Cの支払を受けるのと引換えに、Gに対し、本件土地について前記Aの売買を原因とする所有権移転登記手続をする。
(ト) 両者間において、上記(ヘ)の和解内容のとおり、本件土地の売買代金の支払及び所有権移転登記手続が平成3年中に行われたこと。
(チ) 本件土地の取得費及び本件土地の譲渡に要した費用の合計額は、1,201万円であること。
ロ 原処分関係資料、請求人から提出された資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件売買契約書に基づく売買代金の支払事実はなく、また、当該売買契約書に基づく本件土地の所有権移転登記も行われていないこと。
(ロ) 請求人がGに交付した本件金員の領収書には、本件金員が敷金である旨が記載されていること。
(ハ) 請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件売買契約書は、Gが医療金融公庫から開発資金を借り入れるために必要とのことで、同人から依頼されて作成したものであるが、当該売買契約書に基づいて本件土地を売却する意思はなかった。
B 本件金員が本件土地の賃貸借に係る権利金であることを示す直接の証拠はない。
C 本件覚書に次の事項を記載したのは、Gが医療金融公庫から開業資金を借り入れるための便法である。
(A) 敷金を3,000万円とする。
(B) 敷金3,000万円を、後日の本件土地の売買代金の一部に充当する。
(C) 本件土地の賃貸借契約期間内において、両者はいつでも本件土地の売買を請求することができ、また、当該請求があったときには、これを拒否できない。
D Gは、本件覚書及び本件土地の賃借によって、本件土地の上土権を取得しているのであるから、本件金員をGに返還する意思はなかった。
E 請求人は、本件訴訟において、本件金員が権利金であると主張したが、本件覚書及び本件金員の領収書等に敷金と表示されていること及び裁判官が税務について無知であったことにより、本件和解で、本件金員が本件土地の売買代金に充当されることとなったと思う。
F 本件金員を受領したことについては、所得税の確定申告をしていない。
(ニ) Gは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件土地の購入を目的に、仲介者を通じて請求人と交渉していたが、請求人から、税金の問題があってすぐには売れないので、当面は賃貸借の形式にしてほしいと要望され、やむを得ず本件賃貸借契約書を取り交わし、また、後日、本件土地を間違いなく売り渡してもらうために、本件土地の売買を約束する本件覚書を取り交わした。
B 本件賃貸借契約書及び本件覚書を取り交わした後に、本件土地の売買代金の手付金の趣旨で、請求人に3,000万円を支払った。
C 本件賃貸借契約書で敷金を2,000万円としたのは、3,000万円では敷金として高額で不自然であるとの請求人からの依頼があったためである。
D 本件金員は、前記Bのとおり、本件土地の売買代金の手付金であると認識しており、権利金との認識はなく、また請求人からも本件金員が権利金であると言われたことはない。
E 本件覚書に次の事項を記載したのは、後日、請求人から本件土地を6,000万円で売り渡してもらうことを確約し、売買代金の手付金として本件金員を支払い、残額は本件土地の売買契約が成立して所有権移転登記が完了した時点で支払うことを意図したものである。
(A) 請求人は、後日、本件土地をGに6,000万で売り渡すことを同意する。
(B) 敷金3,000万円を、後日の本件土地の売買代金の一部に充当する。
(C) 本件土地の賃貸借期間内において、両者はいつでも本件土地の売買を請求することができ、また、当該請求があったときには、これを拒否できない。
ハ 以上の事実に基づいて判断すると、次のとおりである。
(イ) 前記イの(ヘ)の事実によれば、両者は、本件和解において本件土地を8,000万円で売買したことを確認したことが認められる。
(ロ) 前記イの(ト)の事実によれば、上記(イ)の売買に係る本件土地の譲渡は、平成3年中に行われたことが認められる。
(ハ) 前記ロの(ハ)のCないしEの、本件金員が権利金である旨の主張に沿った請求人の答述については、これを相当と認めるに足る証拠はなく、一方、前記ロの(ニ)のGの答述は、前記イの(ハ)の本件覚書の記載内容及び前記イの(ホ)の事実と一致することから、同人は、本件金員を本件土地の売買代金の手付金の趣旨で請求人に支払ったもので、権利金との認識はなかったことが認められる。
(ニ) 本件金員については、1前記イの(ハ)のA及びCのとおり、本件覚書にはGが請求人に敷金3,000万円を支払い、後日の本件土地の売買代金に当該3,000万円を充当する旨が記載されており、また、前記イの(ホ)のとおり、本件金員がGから請求人に支払われていること、2前記イの(ヘ)及び(ト)のとおり、本件金員が両者間で確認された本件土地の売買代金8,000万円の内金に充当されていること、3前記ロの(ロ)のとおり、請求人がGに交付した本件金員の領収書には、本件金員が敷金であることが記載されていること、4前記ロの(ハ)のBのとおり、請求人は、本件金員が権利金であることを示す証拠資料がない旨を答述していること及び5上記(ハ)で認定したことからすれば、本件金員は、請求人が主張するような、両者間における本件土地の賃貸借に係る借地権の対価としての権利金とは認められず、また、昭和53年分の譲渡所得に係るものであるとも認められない。
(ホ) なお、本件売買契約書の作成の経緯から、当該売買契約書は真正なものではなく、本件覚書及び本件土地の売買予約等とは関係がない旨の請求人の主張については、前記ロの(イ)の事実が認められるところではあるが、本件売買契約書の有効性並びに当該売買契約書と本件覚書及び本件土地の売買予約等との関係は、いずれも本件譲渡収入金額の認定要素ではないから、当該請求人の主張は、本件譲渡収入金額の判断に影響を与えるものではない。
(ヘ) 以上を総合すると、前記(イ)及び(ロ)の認定事実より本件譲渡収入金額は8,000万円であると認めるのが相当であり、請求人の平成3年分の分離長期譲渡所得の金額は、次表のとおり原処分に係る分離長期譲渡所得の金額と同額となるから、更正処分は適法である。

(単位:円)
項目 金額
収入金額 1 80,000,000
取得費及び譲渡費用の合計額 2 12,010,000
特別控除の額 3 1,000,000
分離長期譲渡所得の金額 (123 66,990,000

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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