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(平6.12.19、裁決事例集No.48 88頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成元年分所得税の確定申告書(分離課税用)に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成2年4月27日付で、別表の「更正」欄に記載のとおり所得税の更正処分を、また、平成5年2月17日付で、別表の「再更正等」欄に記載のとおり所得税の再更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、平成5年4月16日、原処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月28日付で、別表の「異議決定」欄に記載のとおり再更正処分及び重加算税の賦課決定処分については棄却し、過少申告加算税の賦課決定処分については、その一部を取り消す異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年10月28日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分(異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分の手続等について
 原処分庁は、原処分の調査(以下「本件調査」という。)に際し請求人に対して本件調査の内容及び再更正処分の理由を説明せず、反論の機会を与えなかった。
 また、異議審理に際し、異議審理庁は、請求人が再更正処分の理由を説明するよう求めたのに応じなかった。
 このことは、請求人から原処分庁に対する反論の機会を奪うものである。
 このように、請求人に原処分に対する反論の機会を与えないのは、手続上違法、不当である。
ロ 再更正処分について
(イ)譲渡価額等について
 請求人は、次表に掲げるP市R町1864番1他4筆の土地(以下「本件土地」という。)を平成元年8月31日に、P市S町2丁目24番地の2のH(以下「H」という。)に総額155,073,600円で譲渡した。
 これに対し、原処分庁は、請求人が本件土地を平成元年9月15日に、P市T町22番地のK株式会社(以下「K社」という。)に総額242,658,000円で譲渡したものであると事実を誤認している。
 したがって、本件土地の譲渡価額は155,073,600円である。

(単位:平方メートル
所在地 地目 地積
P市R町1864番1 雑種地 231.00
P市R町1864番2 雑種地 238.00
P市R町1864番3 雑種地 482.00
P市R町1864番4 雑種地 231.00
P市U町1494番5 宅地 21.85

(実測地積)
  1,203.85
(1,542.65)

(ロ) 取得費について
 本件土地の取得費は、総額131,742,033円であり、その内訳は本件土地の取得価額121,700,000円、支払利息2,617,533円、登記費用1,994,500円及び仲介手数料5,430,000円である。
(ハ) 譲渡費用について
 本件土地の譲渡費用は、17,870,000円であり、その内訳は仲介手数料3,870,000円及び契約解除に伴う違約金14,000,000円である。
(ニ) 分離課税の短期譲渡所得の金額について
 以上により、請求人の分離課税の短期譲渡所得の金額は、前記(イ)の本件土地の譲渡価額155,073,600円から前記(ロ)の取得費131,742,033円及び上記(ハ)の譲渡費用17,870,000円の合計額149,612,033円を控除すると5,461,567円となる。
ハ 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について
 上記イ及びロのとおり、再更正処分は違法であるから過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 原処分の手続等について
 本件調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)は、請求人に対して、平成5年2月9日及び同月12日に本件調査の内容及び再更正処分の理由を説明したが、請求人は何ら反論しなかった。
 また、異議審理庁の担当者が平成5年7月8日に請求人等と面接し、再更正処分の理由を説明した際、反論、反証を行うよう促したが、請求人等は何ら反論等しなかった。
 以上のとおり、請求人が主張するような事実はなく原処分の手続等に違法、不当な点はない。
ロ 再更正処分について
(イ) 譲渡価額等について
 次の事実から請求人は、本件土地をK社に242,658,000円で譲渡したものである。
A 本件土地は、平成元年11月16日付で請求人からK社に所有権移転登記されていること。
B 請求人が平成2年3月15日に原処分庁に提出した平成元年8月31日付の不動産売買契約書(以下「甲契約書」という。)とは別に、平成元年9月15日付の売主が請求人ほか1名、買主K社、売買価額が1坪当たり520,000円と記載された不動産売買契約書(以下「乙契約書」という。)が存在すること。
C 乙契約書に記載された買主であるK社の取引担当者は、本件土地の取引に際し、請求人と交渉したがHとは面識がない旨原処分庁に対して申述していること。
D Hは、住所地であるP市S町2丁目24番の2に居住せず、その所在が不明であること。
E 請求人は、本件土地の譲渡代金として、K社から請求人が主張する155,073,600円をはるかに上回る金額を銀行の保証小切手等で受領していること。
(ロ) 取得費について
 本件土地の取得費は、請求人が主張する131,742,033円のうち、支払利息については、借入金の返済期間の短縮により、請求人が後日その一部を戻し利息として受領しており、また、登記費用については、領収書等の提示がなくその支払の事実を確認できないものがあるため、これらを差し引くと129,317,963円となり、その内訳は本件土地の取得価額121,700,000円、支払利息1,489,863円、登記費用698,100円及び仲介手数料5,430,000円である。
(ハ) 譲渡費用について
 本件土地の譲渡費用は、請求人が主張する17,870,000円と同額である。
(ニ) 分離課税の短期譲渡所得の金額について
 以上により、請求人の分離課税の短期譲渡所得の金額は、前記(イ)の譲渡価額242,658,000円から前記(ロ)の取得費129,317,963円及び上記(ハ)の譲渡費用17,870,000円の合計額147,187,963円を控除すると95,470,037円となり、再更正処分の額と同額となる。
ハ 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について
 上記イ及びロのとおり、再更正処分は適法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。
 また、請求人は、本件土地をK社に242,658,000円で譲渡したにもかかわらず、これをあたかもHに155,073,600円で譲渡したとして確定申告書を提出しており、このことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条((重加算税))第1項に規定する重加算税の賦課決定の要件に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求は、原処分の手続等の違法、不当の有無及び分離課税の短期譲渡所得の金額の計算に争いがあるので、以下審理する。

(1) 原処分の手続等について

 請求人は、原処分庁が本件調査の内容及び再更正処分の理由について説明せず、反論の機会を与えずに行われた原処分は手続上違法、不当である旨主張する。
 しかしながら、当審判所が原処分関係資料を調査した結果によれば、調査担当者は、平成5年2月9日及び同月12日に、請求人が勤務する株式会社Lの会議室において、請求人に本件調査の内容を説明したのに対し、請求人は証拠を摘示するなど具体的な反論をしなかった事実が認められる。
 また、請求人は、異議審理の際に再更正処分の理由を説明するよう求めたにもかかわらず異議審理庁はその理由を説明せず、反論の機会を与えなかった旨主張する。
 しかしながら、当審判所が原処分関係資料を調査した結果によれば異議審理庁の担当者は、請求人に対して平成5年7月8日に、P税務署において再更正処分の理由を説明し、反論、反証があれば行うよう促したのに対し、請求人は、具体的な反論等をしていなかった事実が認められる。
 そうすると、請求人は原処分庁及び異議審理庁から再更正処分の理由の説明を受け、反論の機会を与えられたのであるから、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(2) 再更正処分について

 請求人は、原処分庁が本件土地の譲渡に係る事実を誤認しているから再更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである旨主張する。
 しかしながら、当審判所が請求人に対し、主張の確認や質問のため平成6年2月16日以降3回にわたり、請求人へ「面談のお知らせ」と題する書面を送付したがこれに応じず、また、面談日の設定のため計9回の電話連絡をしたが、このうち請求人からは電話による回答が2回あったものの、面談日の設定に至らず、具体的な請求人の主張を確認することができなかった。
 また、請求人は、請求人の主張を裏付ける何らの証拠資料の提出もしなかった。
 そこで、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果に基づき、以下検討する。
イ 譲渡価額等について
 請求人は、本件土地はHに155,073,600円で譲渡した旨主張するので以下検討する。
(イ) 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 次のとおり、本件土地の譲渡に関して、内容の異なる3通の不動産売買契約書が存在すること。
(A) 売主がM(請求人)、買主がH、売買価格が1坪当たり330,000円と記載された平成元年8月31日付の不動産売買契約書(甲契約書)。
(B) 売主がM(請求人)ほか1名、買主がK社、売買価格が1坪当たり520,000円と記載された平成元年9月15日付の不動産売買契約書(乙契約書)。
(C) 売主がH、買主がK社、売買価格が1坪当たり520,000円と記載された平成元年9月15日付の不動産売買契約書(以下「丙契約書」という。)。
B 甲契約書の売主M及び乙契約書の売主Mほか1名の各名下に押なつされている印鑑は、印影より判断すると同一のものであると認められること。
C 甲契約書の買主及び丙契約書の売主であるHなる人物は、丙契約書に記載された住所地(P市S町2丁目24番地の2)に住民登録はあるものの、その所在が不明であること。
D 本件土地の譲渡に関してK社の取引担当者は、Hとは面識がないこと及び譲渡代金の決済時には、請求人及び仲介人が立ち会っていた旨原処分庁に対して申述しており、特にこの申述を不自然とする理由はないこと。
E 本件土地は、平成元年11月16日の売買を原因として、同日付で請求人からHではなく、K社に所有権移転登記されていること。
F K社は、本件土地の取得代金として総額242,658,000円を支払っているが、その決済状況等は次のとおりであること。
(A) 手付金30,000,000円は、平成元年9月14日振出し、振出人K社、支払場所N銀行O支店の小切手で支払われ、同小切手は、同月18日に同支店で請求人の裏書により現金出金されている。
(B) 残代金212,658,000円のうちの140,000,000円は、K社がA銀行B支店で取り組んだ平成元年11月16日振出しの保証小切手で支払われ、同保証小切手は、A銀行本店営業部から請求人が融資を受けた140,000,000円の返済金として、同月17日に全額充当されている。
(C) 残りの72,658,000円は、平成元年11月16日振出し、振出人K社、支払場所A銀行B支店の小切手で支払われ、同小切手は、同日同支店の店頭で現金出金されている。
(D) A銀行B支店の行員は、平成元年11月16日に請求人から、上記(C)の72,658,000円のうちの20,000,000円をC名義の自由金利型定期預金を設定するための資金として受け取った旨原処分庁に対して申述しており、この申述は信用性がある。
(ロ) 上記(イ)の事実に基づき判断すると次のとおりである。
 請求人は、本件土地は甲契約書に基づきHに155,073,600円で譲渡した旨主張するが、K社の決済状況のほかK社の取引担当者がHと面識がない旨述べていることやHの所在が不明であることによれば、本件土地の取引にHが関与したとは認められず、本件土地の譲渡は、乙契約書に基づき実行されたと認定するのが相当であり(なお、乙契約書における売主は請求人ほか1名と記載されているが、登記簿上本件土地は請求人の単独所有名義であったことに加え、乙契約書上もほか1名の署名なつ印すらないなど、請求人のほかに売主の存在したことをうかがわせる事情はないから、請求人以外の売主はいなかったと認める。)、甲契約書及び丙契約書は、Hを中間譲受人と仮装して作成された虚偽の不動産売買契約書であるといわざるを得ない(登記面においてもHを経由しないいわゆる中間省略登記であるとも認められない。)。
 したがって、本件土地の譲渡価額は、乙契約書に基づく1坪当たり520,000円でK社の支払総額と符号する総額242,658,000円となる。
ロ 取得費について
 請求人は、本件土地の取得費は131,742,033円である旨主張するので以下検討する。
 なお、本件土地の取得費のうち本件土地の取得価額121,700,000円及び取得に係る仲介手数料5,430,000円については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
(イ) 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 支払利息については、請求人が本件土地の取得資金としてA銀行本店営業部から融資を受けた140,000,000円の利息等2,617,533円を融資時に一括して前払いしているが、返済期限の到来前の平成元年11月17日に元金を全額返済したことにより生じた戻り利息 1,127,670円が、同本店営業部の請求人名義の普通預金口座に入金されていること。
B 登記費用については、平成元年10月19日付の司法書士D発行の金額143,100円の領収書及び日付不祥の土地家屋調査士E事務所発行の金額555,000円の領収書の写しがあるものの、それ以外の支払の事実を明らかにする証拠はないこと。
 以上のとおり、支払利息は2,617,533円から戻り利息1,127,670円を減算した金額1,489,863円となり、登記費用は、領収書でその支払の事実が確認できる143,100円と555,000円との合計額698,100円となる。
 したがって、取得費の合計額は当事者双方に争いのない本件土地の取得価額121,700,000円及び仲介手数料5,430,000円に、上記支払利息1,489,863円及び登記費用698,100円を加算した129,317,963円となる。
ハ 譲渡費用について
 本件土地の譲渡費用とした仲介手数料3,870,000円及び契約解除に伴う違約金14,000,000円については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
 そうすると、本件土地の譲渡費用の合計額は、17,870,000円となる。
ニ 分離課税の短期譲渡所得の金額について
 以上により、請求人の分離課税の短期譲渡所得の金額は、譲渡価額242,658,000円から取得費129,317,963円及び譲渡費用17,870,000円の合計額147,187,963円を控除した95,470,037円となり、再更正処分の額と同額となるから再更正処分は適法である。

(3) 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について

イ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、再更正処分は適法であり、再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、確定申告による納付すべき税額の計算の基礎とされていなかったことについて通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、これに基づいて過少申告加算税額を計算すると84,000円となり、異議決定で一部取り消された後の賦課決定処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 前記(2)のイの(ロ)のとおり、請求人は本件土地の譲渡に関して中間譲受人を介在させた虚偽の不動産売買契約書(甲契約書及び丙契約書)を作成しており、また、前記(2)のイの(イ)のFの(D)で認定したとおり、売却代金の一部を請求人名義でなくC名義で自由金利型定期預金としていた事実が認められる。
 このような請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当するから、請求人が譲渡価額を過少に申告した額87,584,400円(乙契約書に基づく譲渡価額242,658,000円から甲契約書に基づく譲渡価額155,073,600円を差し引いた金額)を基礎として行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず当審判所の調査の結果によっても、これを違法、不当とする理由は認められない。

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