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(平6.10.17、裁決事例集No.48 112頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年分の所得税の青色の確定申告書(損失申告用)(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限内である平成4年3月9日に提出したが、同年分の所得税の純損失の繰戻しによる還付の請求(以下「本件還付請求」という。)については、平成5年3月12日に還付請求書(以下「本件還付請求書」という。)を提出して行った。
 原処分庁は、本件還付請求に対して平成5年6月29日付で本件還付請求には理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、この処分を不服として国税通則法第75条((国税に関する処分についての不服申立て))第4項の規定により、平成5年8月16日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 請求人は、本件申告書を法定申告期限内である平成4年3月9日に提出したが、本件還付請求書の提出は、期限経過後の平成5年3月12日であったことについては認める。
 しかしながら、所得税基本通達140・141ー3((繰戻しによる還付請求書が青色申告書と同時に提出されなかった場合))(以下「基本通達」という。)によれば、還付請求書が青色申告書と同時に提出されなかった場合でも、同時に提出されなかったことについて税務署長においてやむを得ない事情があると認めるときは、これを同時に提出されたものとして所得税法第140条((純損失の繰戻しによる還付の請求))第1項の規定を適用して差し支えない旨定めている。
 請求人には、以下に述べる事情があり、これは基本通達にいう「やむを得ない事情」に該当するから、原処分は、基本通達の解釈を誤っており、本件還付請求は認められるべきである。
イ 請求人は、所得税法において純損失の繰戻しによる還付請求の制度があり、また、その還付請求を行う場合には、所得税の確定申告書と還付請求書とを同時に提出しなければならないということについては承知していたが、還付請求が可能な期間は、5年間であると考えていた。
ロ 請求人は、昭和54年にA国の永住権を取得し、我が国とA国の双方で生活しているが、平成3年12月26日から平成4年4月上旬までの間はA国に滞在しており、平成3年分の所得税の確定申告期間中は日本国内にいなかった。
 以上の理由から、本件還付請求書の提出を本件申告書の提出と同時に行うことができなかったものである。

(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
 所得税法第140条第1項及び第4項の規定によれば、青色申告書を提出する居住者は、その年において生じた純損失の金額がある場合には、純損失の金額の全部又は一部について繰戻しによる還付請求を行うことができることとされている。
 そして、この規定は、当該居住者がその年の前年分の所得税につき青色申告書を提出している場合であって、その年分の青色申告書をその提出期限までに提出し、これと同時に純損失の繰戻しによる所得税の還付請求書を提出した場合に限り適用するものとされている。
 ところで、請求人は、本件申告書をその提出期限内である平成4年3月9日に提出しているが、本件還付請求書は、平成5年3月12日に提出している事実が認められるので、所得税法第140条第1項の規定による純損失の繰戻しによる所得税の還付請求はできないこととなる。
 なお、請求人が、本件還付請求書を本件申告書と同時に、本件申告書の提出期限までに提出しなかったことにつき、やむを得ない事情があったことは認められない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が本件還付請求書を本件申告書と同時に、かつ、本件申告書の法定申告期限までに提出しなかったことにつき、やむを得ない事情があったか否かにあるので、以下審理する。

(1) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。

イ 平成4年3月9日に、本件申告書が原処分庁に提出されたこと。
ロ 本件申告書の二面には、「合計額が赤字の場合は、その赤字は、平成4年分以後に繰り越して差し引かれます。また、平成2年分も青色申告書を提出しているときは、その赤字の全部又は一部を平成2年分に繰り戻して税金の還付を受けることもできます。繰り戻しについては、税務署におたずねください。」と印刷されていること。
ハ 平成5年3月12日に、本件還付請求書が原処分庁に提出されたこと。

(2) 請求人は、当審判所に対し次の内容を答述している。

イ 昭和63年にP市R町にマンションを購入し、不動産貸付業を始めると同時に青色申告の承認の申請をしたこと。
ロ 昭和54年にA国の永住権を取得し、1年のうち半分くらいの期間A国に滞在していること。
ハ 平成3年12月26日から平成4年4月上旬までA国に滞在していたこと。
ニ 本件申告書は、平成4年1月ころ請求人の次男B(以下「B」という。)から送付を受けた申告書に本人自身が記入し、これを平成4年3月上旬にBに郵送し、同人を経由して原処分庁に提出したものであること。
ホ 請求人が本件申告書をBに郵送したところ、請求人の長男C(以下「C」という。)から電話があり、請求人は、還付請求ができること及びその請求を行う場合には確定申告書の提出と同時に還付請求書を提出しなければならない旨を知ったこと。
ヘ しかしながら、請求人は、還付請求の期限について、以前読んだ新聞により還付請求ができる期間は5年間と思い込んでいたこと及び上記ホのCからの電話の際にも、今から送付しても間に合わないということで、「来年やるからいいわよ」と返答し、電話を切り、その後、何の確認や問い合わせもしなかったこと。
ト 前記(1)のロの事実について、請求人は、本件申告書を提出する時点では、余りにも字が小さくて見落としてしまい、気が付かなかったこと。
(3) ところで、所得税法第140条第1項は、青色申告書を提出する居住者は、その年において生じた純損失の金額がある場合には、当該申告書の提出と同時に、納税地の所轄税務署長に対し所得税の還付を請求することができる旨規定し、さらに、所得税法第140条第4項では、第1項の規定は、同項の居住者がその年の前年分の所得税につき青色申告書を提出している場合であって、その年分の青色申告書を提出期限までに提出した場合(税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合には、当該申告書をその提出期限後に提出した場合を含む。)に限り、適用する旨規定している。
 また、所得税法第142条((純損失の繰戻しによる還付の手続等))第1項では、還付の請求をしようとする者は、その還付を受けようとする所得税の額、その計算の基礎その他大蔵省令で定める事項を記載した還付請求書を税務署長に提出しなければならない旨規定している。
 このように、所得税法の規定によれば、純損失の金額が生じた年分の青色の確定申告書の提出と同年分の純損失の繰戻しによる還付を受けるための還付請求書の提出は、同時に行わなければならないこととされている。
(4) 純損失の繰戻しによる還付請求に関して基本通達では、還付請求書が青色申告書と同時に提出されなかった場合でも、同時に提出されなかったことについて税務署長においてやむを得ない事情があると認めるときは、これを同時に提出されたものとして所得税法第140条第1項の規定を適用して差し支えない旨定め、運用の弾力化が図られている。
 この基本通達にいう「やむを得ない事情」とは、納税者の責めに帰することのできないような特別の事情により、青色申告書の提出と同時に還付請求をなし得なかったと合理的に認められるような例外的な場合をいうのであって、いわゆる法の不知を含まないものと解するのが相当である。
(5) 請求人は、純損失の繰戻しによる還付請求が可能な期間を5年間であると考えていたこと及び平成3年12月26日から平成4年4月上旬までの間はA国に滞在しており、平成3年分の所得税の確定申告期間中は日本国内にいなかったことから、本件還付請求書を本件申告書と同時に提出することができなかったものであり、このことは、基本通達にいう「やむを得ない事情」に該当するから、本件還付請求を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、還付請求が可能な期間を5年間であると考えていたという請求人の法の不知は、上記(4)で述べたとおり「やむを得ない事情」に当たらず、また、上記の期間A国に滞在していたため、平成3年分の所得税の確定申告期間中は日本国内にいなかったという事情についても、前記(2)の請求人の答述のとおり、1本件申告書はA国において請求人自身が作成し、Bを経由して提出していたこと、及び2本件申告書が原処分庁に提出された日より前の平成4年3月上旬ころ、請求人は、Cから所得税の純損失の繰戻しによる還付の制度があることを知らされ、また、同人から、その制度の適用を受けるためには確定申告書と還付請求書とを同時提出しなければならない旨の連絡を受けていながら、何の確認や問い合わせもしなかったことが認められるから、請求人の責めに帰することのできないような特別の事情とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(6) 以上のとおり、請求人には、本件還付請求書を本件申告書と同時に、かつ、本件申告書の提出期限までに提出しなかったことにつき、請求人の責めに帰することのできないような特別の事情があったとは認められないから、基本通達にいう「やむを得ない事情」がないとして行った原処分は相当である。

(7) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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