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(平6.12.22、裁決事例集No.48 119頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、内科・耳鼻咽喉科医院を営む者であるが、次表の「確定申告」欄のとおり記載した平成元年分及び平成2年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色の確定申告書を、それぞれ法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 また、請求人は、平成3年6月15日に平成2年分所得税の更正の請求書に、次表の「更正の請求」欄のとおり記載して原処分庁へ提出したところ、原処分庁は、更正の請求の全部を認めて同年10月8日付で減額の更正処分をした。
 その後、原処分庁は、平成4年1月27日付で各年分について、それぞれ次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位:円)
年分
区分
平成元年分 平成2年分
確定申告 総所得金額 11,394,748 34,623,798
内訳 事業所得の金額 8,911,892 30,768,228
給与所得の金額 2,269,800 2,615,400
雑所得の金額 213,056 238,301
一時所得の金額 - 1,001,869
納付すべき税額 △2,095,376 7,469,200
更正の請求 総所得金額   31,623,798
内訳 事業所得の金額 27,768,228
給与所得の金額 2,615,400
雑所得の金額 238,301
一時所得の金額 1,001,869
納付すべき税額 5,969,200
更正処分等 総所得金額 15,261,430 36,418,975
内訳 事業所得の金額 12,778,574 32,563,405
給与所得の金額 2,269,800 2,615,400
雑所得の金額 213,056 238,301
一時所得の金額 - 1,001,869
納付すべき税額 △418,944 8,366,700
過少申告加算税の額 167,000 239,000

(注) 1 一時所得の金額は、所得税法第22条((課税標準))第2項第2号の規定による2分の1相当額をいう。以下同じ。
2 「納付すべき税額」欄の△印を付した金額は、源泉徴収に係る所得税の還付金の額に相当する税額を示す。


 請求人は、原処分を不服として、平成4年3月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、有限会社E(以下「E社」という。)から医療機器等(以下「本件リース物件」という。)を賃借し、本件リース物件の賃料の額(以下「本件リース料の額」といい、平成元年分9,642,440円及び平成2年分11,902,590円である。)を各年分の事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入した。
 これに対し原処分庁は、請求人とE社は同族関係にあることから、請求人は本件リース料の額を恣意的に定められる立場にあり、また、本件リース料の額の算定は著しく合理性に欠けており、請求人の各年分の所得税の負担を不当に減少させる結果となっているとして、E社と業種、業態が類似するリース会社3件(以下「本件リース会社」という。)のリース物件の取得価額に対するリース料総額(月額リース料にリース期間の月数を乗じた額)の割合の平均(以下「リース料倍率」という。)を基に適正なリース料の額(以下「適正リース料の額」という。)を認定し、本件リース料の額のうち、これを超える部分の支払金額を必要経費の額に算入しないとする本件更正処分を行った。
 しかしながら、本件更正処分は、次のとおり違法な処分である。
(イ) 更正の理由附記
A 青色申告書に係る更正の理由附記の程度は、平成5年3月26日の東京地裁判決、昭和60年4月23日の最高裁判決、昭和48年1月31日の岡山地裁判決等に明示されているように、単に当該納税者がその処分の理由を主観的に推認できると否とに関係なく、客観的に十分認識し得る程度のものであることを要し、同族会社の行為又は計算の否認のように帳簿記載を否認することなく、単に法的評価を納税者と異にして更正する場合には、そのような法的評価(判断)に至った過程について、課税庁の恣意の抑制及び納税者の不服申立ての便宜にかなう程度に具体的に示されていなければならない。
B ところで、原処分庁は、本件更正処分の理由として、「E社は各年分のリース料として、平成元年分9,642,440円及び平成2年分11,902,590円を収受しておりますが、E社がリース料算定の基礎としている上記リース物件の取得価額を倍額し、償却期間をすべて5年とする方法では、適正な償却費の額は平成元年分4,384,401円及び平成2年分4,549,056円にすぎず、さらに、諸経費の積算がまったく行われていないことなどを総合的に判断しますと、著しく合理性に欠けたリース料の算定となっており、同族会社としての恣意性が認められます。
 そのため、あなたの事業所得金額の計算において、通常行われる取引のリース料の場合と本件のリース料の場合では、あなたの所得税の負担を不当に減少させる結果となっています・・・」旨記載している。
C しかしながら、原処分庁のいう「適正な償却費」とは、具体的に何を意味しているのか不明であり、これが減価償却費のことであるとしても、その計算根拠が不明であり、しかも、その「適正な償却費」の額が「所得税の負担を不当に減少させる」こと、「リース料の妥当性」及び「適正なリース料の算定」とどう関係するのか、その判断過程が具体的に示されていない。
D したがって、原処分に係る更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)に附記された更正の理由は不備であり、所得税法第155条((青色申告書に係る更正))第2項の規定の趣旨に反している。
(ロ) 総所得金額
A 事業所得の金額
(A) 本件リース料の額は、次のとおり合理的であり、また、その決定に当たって同族会社としての恣意性はない。
a E社は、本件リース料の額の算定に当たって、一般的に用いられる手法の年金現価方式(毎回支払われる賦払金をすべて現在価値に引き直して金利計算を行う方法)によっており、また、これに適用している金利(以下「適用金利」という。)を年31パーセントとしているが、適用金利の決定に当たっては、E社の予想事業規模、資金調達コスト、類似の金融業者の金利状況等からコスト積上げを行って決定したものである。
 なお、原処分の結果(適正リース料の額)をE社の決算に反映させると、同社の所得金額は大幅な赤字となり、法人税法第132条((同族会社等の行為又は計算の否認))に規定する法人税の同族会社の行為計算の否認を受けるおそれがある。
b E社のリース契約先は、請求人などの同族関係者のみでなく、同族関係者以外のものもあり、その条件はすべて同一である。
 なお、原処分庁は、同族関係者以外のリース先の1件(法人)が単純な事務作業を行っていること、請求人の調剤委託先であることなどをもって、特殊な関係にある居住者に準ずる旨主張するが、調剤薬局の開設に当たっては、監督官庁より同法人の出資及び役員について、請求人との人的・資本的関係がないゆえに認められたものであり、同法人は所得税法及び法人税法に定める「同族関係者の範囲」にも「同族会社に準ずるもの」にも該当しない。
(B) 原処分庁は、「適正な償却費」の額と、本件リース料の額とを比較して、その差が著しいことをもって合理性に欠ける取引であると認定しているが、E社には、減価償却費の他に調達金利、固定資産税、保険料、保守管理料等の取得・保管に伴う諸経費(以下「リース会社のコスト等」という。)が発生しているから、これらの額と「適正な償却費」の額との合計額とを、本件リース料の額と比較しなければ合理的とはいえないところ、原処分庁の認定には当該コストの概念が欠落している。
 また、一般に、リース取引においては法定耐用年数(減価償却資産の耐用年数に関する省令による耐用年数をいう。以下同じ。)より短いリース期間を設定し(E社も同様である。)、その期間で資金回収を図っているところ、原処分庁のいう「適正な償却費」の額には、資金回収におけるリース期間と法定耐用年数の差が考慮されていない。
(C) 本件リース会社は、次の理由により、E社と類似しているとは認められず、その選定は恣意的である。
a 比準同業者を抽出する合理的な基準として、平成元年4月17日の東京地裁判決では「業種の同一性、事業規模の近似性、事業所の近接性等」が判示されており、また、平成4年2月20日の福岡地裁判決では、被告税務署長は原処分庁とは異なる合理的な基準を採用しているから、本件においても比準同業者の選定に当たっては、リース資産の総額、リース売上高等の類似する同規模、同業種から選定して比準するか、又はE社のコスト積上げを行った上で比準すべきであるにもかかわらず、本件リース会社は、いずれも大手のリース会社であり、E社とは事業規模が著しく相違していること。
b 原処分庁は、比準同業者の取引内容の類似性こそが絶対的な選定条件になる旨主張するが、経済実体として事業規模が相違すれば、同族、非同族会社を問わず、資金調達コスト、管理コスト等が相違するのはリース会社の社会的背景に則して厳然たる事実であり、かかる経済実体を考慮して比準同業者を選定すべきであること。
 なお、請求人は、上記aの判例で示された「事業規模の近似性」を主張しているのであって、寸分違わない酷似性のある同業者を比準同業者として選定するよう主張しているのではない。
c 原処分庁は、非同族の比準同業者を選定するのは不可能である旨主張するが、○○○経営指標の平成2年指標版によれば、一民間機関が多数の同業者を選定して経営指標を作成している事実、また、個人事業者も選定対象に加えるならば、選定の対象も広がるのであるから、原処分庁はE社と事業規模が類似するリース会社を故意に比準同業者として選定していないと認められること。
(D) したがって、請求人は、本件リース料の額を必要経費の額に算入することにより、請求人の所得税の負担を不当に減少させてはいないから、各年分の事業所得の金額は、平成元年分は確定申告書に記載したとおり8,911,892円であり、平成2年分は更正の請求に基づく減額の更正処分後の金額27,768,228円である。
B 総所得金額
 以上により、各年分の総所得金額は、上記Aの(D)の事業所得の金額と請求人の争わない給与所得の金額、雑所得の金額及び平成2年分の一時所得の金額を合計すると、平成元年分11,394,748円及び平成2年分31,623,798円である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は各年分とも違法で取り消すべきであるから、これに基づく過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 更正の理由附記
 本件更正通知書には、請求人が原処分に係る調査の際に明らかにしたリース料の算定方法では適正な額が算定できない旨の判断過程を示し、本件リース会社のリース料倍率によって適正リース料の額を算定したことを記載しているから、請求人が引用する裁判例に照らしても何ら理由附記の程度に欠けるところはない。
 なお、請求人は、原処分庁が計算した「適正な償却費」の額について種々主張するが、原処分庁は請求人が本件リース料の額の算定方法の基礎としたとする契約(覚書)によった場合の償却費を摘示したものであって、償却費の正否を指摘したものではない。
(ロ) 総所得金額
A 事業所得の金額
(A) 所得税法第157条((同族会社等の行為又は計算の否認))の規定によれば、税務署長は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合には、その株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができるとされている。
(B) 請求人とE社との取引に係る所得税法第157条の規定の適用の可否について調査したところ、次のとおりである。
a E社は、請求人の妻Fら3名の社員が100パーセント出資している会社で、法人税法第2条((同族会社の定義))第10号に規定する同族会社であり、請求人は、その株主等と特殊の関係のある居住者に該当する。
b 次の事実から、本件リース料の額は、著しく合理性に欠けており、同族会社としての恣意性が認められる。
(a) 請求人がリース料の算定方法の基礎としたとする契約(覚書)によれば、1E社の本件リース物件の取得価額を基本額として、2その基本額を2倍した額を回収額としており、3回収期間(償却期間)をすべて5年として、4月割額を月額リース料と定めている。
(b) 上記(a)に基づいて、適正な償却費の額を算出すると平成元年分4,384,401円及び平成2年分4,549,056円に過ぎず、また、上記(a)では諸経費の積算がまったく行われていないこと。
 なお、請求人は、本件リース料の額は合理的に決定した適用金利による年金現価方式により算定した旨主張するが、当該主張は、上記(a)の内容と異なっており、不知である。
(c) 通常の商行為は、同業者との価格競争を前提として、採算状況を踏まえて商取引を成立させるものであるが、請求人の場合、E社の収入先がすべて請求人の特殊関係にある者等であることから、恣意的にリース料の額が設定できたものであり、請求人がリースした医療機器等を同業者からリースしておれば、もっと廉価でリースできていたものと認められること。
 なお、E社のリース先は、専ら請求人を含めE社と特殊な関係にある居住者であり、同族関係者以外のリース先は1件(法人)であるが、同リース先法人の筆頭株主がE社の収入に係る仕切書、納品書等の起票事務等を行っている事実からも、同法人も特殊な関係にある居住者に準じており、同法人が請求人等の調剤委託先である等の状況から客観的にみても、E社の行為又は計算に全く恣意が働かなかったとはいえない。
 したがって、請求人とE社との間の本件リース物件の賃貸借について、所得税法第157条の規定を適用して行った本件更正処分は適法である。
(C) そこで、請求人が本件リース物件をE社以外のリース会社からリースした場合に支払うこととなる各年分のリース料の額を、E社の本件リース資産の取得価額を基礎に、本件リース会社のリース料倍率(昭和63年貸付開始分1.21倍、平成元年貸付開始分1.20倍及び平成2年貸付開始分1.25倍)を適用して計算した金額を各年分の適正リース料の額と認定すると、別表1及び2のとおり平成元年分5,775,848円及び平成2年分7,107,413円となる。
 したがって、本件リース料の額のうち、各年分の適正リース料の額を超える部分の金額である平成元年分3,866,592円及び平成2年分4,795,177円は、各年分の事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入することはできない。
(D) ところで、請求人は、本件リース会社は恣意的に選定されたもので、E社とは事業規模が著しく相違しており、E社と類似しているとは認められない旨主張するが、本件リース会社の選定過程において恣意が介在した事実はなく、また、本件リース会社を比準同業者として採用したことは、次の理由から合理的である。
a 比準同業者の選定に当たり、当該納税者と寸分違わない酷似性のある同業者を広く求め得れば当然これを選定することになるが、これが不可能であれば、次善の策として事業内容の基礎的条件が類似する一定の条件を設定し、その範囲において選定することとなるのであり、請求人が引用する東京地裁の判例においても、数項目の幅広い条件を設定し、その一つとして規模の類似性を要求したものにほかならないこと。
 すなわち、同業者の選定はいかなる場合にも不変ではなく、具体的事案の社会的背景に則して、その選定の可能性に対応した相対的なものであると解される。
b また、存在すること自体が疑問視され、又は存在するとしても極めて希有にしか存在しない非同族関係者間の取引事例を求めた上で比準同業者として選定することは、そもそも所得税法第157条の趣旨に反すること。
c 本件においては、所得税の負担が不当に減少しているか否かの判断は通常の経済取引としての妥当性を判断するものであり、非同族関係者間の通常の経済取引額を求めることが目的であるから、リース会社の類似性を求める範囲においては、事業規模の類似性ではなく、取引内容の類似性こそが選定条件になると解するのが相当であること。
(E) また、所得税法第157条は、同条を適用する場合の法律要件として、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と規定しており、E社の所得金額又は法人税額に与える影響に関しては、一切考慮する必要はない。
 すなわち、請求人又はE社がいかなる根拠に基づきリース料を算定しようとも、同族関係者としての当事者間の事情にすぎないから、それが客観的妥当性を有する証しとはなり得ず、通常の経済人として選択したであろうリース料に比べて妥当なものであることが明らかにならなければ、請求人の主張は何らの意味を持たない。
 仮に、E社が適正リース料の額によっては正常な経費をまかない、かつ、適正な利益を確保することが困難であるとの事実が存在するとしても、それは、特定の者との専属的関係の下で営むE社の事業が、元来、採算性のない事業であることを示すものにすぎず、このことをもって本件リース料の額を正当化する理由とはなり得ない。
(F) そうすると、各年分の事業所得の金額は、次表のとおり平成元年分12,778,574円及び平成2年分32,563,405円となる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分
原処分前の事業所得の金額 1 8,911,892 27,768,228
必要経費不算入額 2 3,866,592 4,795,177
計算誤びゅう額 3 90 -
事業所得の金額(123 4 12,778,574 32,563,405

(注) 平成元年分「計算誤びゅう額」欄の90円は、確定申告額の計算誤りによる金額につき事業所得の金額に加算した。


B 総所得金額
 以上により、各年分の総所得金額は、上記Aの(F)の事業所得の金額と請求人の争わない給与所得の金額、雑所得の金額及び平成2年分の一時所得の金額を合計すると、平成元年分15,261,430円及び平成2年分36,418,975円となり、いずれも更正処分に係る総所得金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は各年分とも適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定した処分は適法である。

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3 判断

 双方の主張に基づいて調査、審理したところ、次のとおり判断される。

(1)本件更正処分について

イ 更正の理由附記
 請求人は、原処分庁が本件更正通知書に附記した更正の理由は、所得税法第155条第2項の規定の趣旨を満たす程度に記載されていない旨主張するので、以下審理する。
(イ) 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、平成元年分の更正通知書には、更正の理由が次のとおり記載されていることが認められる。

 平成元年分総所得金額等について、あなたの帳簿書類を調査した結果、下記のとおり事業所得金額は過少と認められますので、これを3,866,682円増額して更正します。

1 あなたは、平成元年分所得税の確定申告にあたり、その事業所得の計算上、医療機器等賃借料9,642,440円を必要経費に算入しています。
 ところで、同族会社(法人税法第2条第10号規定法人)の行為または計算で、これを認容した場合には、その株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときはその行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより所得金額を計算することができる旨規定されています。(所得税第157条(同族会社等の行為又は計算の否認))
 あなたは、有限会社E(以下「E社」といいます。)から、医療機器等を賃借され、賃借料を支払っておられますが、E社はあなたの妻・F等3名の株主が100パーセント出資している同族会社で、あなたは、その特殊の関係のある居住者に該当します。
 E社があなたに賃借している医療機器等(以下「リース物件」といいます。)の賃借料(以下「リース料」といいます。)の算定方法は、契約(覚書)によりますと、1リース物件の取得価額を基本額として2その2倍した額を回収額とされており3回収期間(償却期間)はすべて5年とし4リース料の月割額を月額リース料と定めておられます。
 リース料の算定方法は、一般的にはリース物件の価額、購入資産にかかる金融費用、諸税、保険料、手数料等の諸経費等を積算して算定されております。
 E社は、平成元年分のリース料として9,642,440円を収受しておりますが、E社がリース料の算定の基礎とされている上記リース物件の取得価額を倍額し、償却期間をすべて5年とする方法では、適正な償却費の額は4,384,401円にすぎず、さらに諸経費の積算が全く行われていないことなどを総合的に判断しますと、著しく合理性に欠けたリース料の算定となっており、同族会社としての恣意性が認められます。
 そのため、あなたの事業所得金額の計算において、通常行われる取引のリース料の場合と本件のリース料の場合では、あなたの所得税の負担を不当に減少させる結果となっています。そこで、あなたが、当該リース物件を他のリース会社からリースした場合に支払うこととなるリース料を、E社と業種業態が類似する別表1に掲げる同業者のリース物件に対するリース料総額(月額リース料にリース期間の月数を乗じた額)の平均倍率(以下「リース料倍率」といいます。)を下記のとおり適用して計算した金額を適正リース料と認定し、それを超える金額を事業所得の計算上必要経費に算入しません。
イ 平成元年分所得税青色申告決算書に記載された医療機器等の
 賃借料の金額・・・・・・・・・・・・・・・・・9,642,440円
ロ 相当な賃借料の金額・・・・・・・・・・5,775,848円
 別表2−1、別表2−2のとおり計算しました。
ハ 必要経費算入額
 イ (9,642,440円)−ロ(5,775,848円)=3,866,592円
2 平成元年分所得税の確定申告書における事業所得の金額が、計算誤びゅうにより90円過少になっていますので、事業所得に加算します。
3 前記、1及び2に基づいて計算した所得金額によると、電子機器利用設備を取得した場合等の所得税額の特別控除(リース税額控除)は、195,048円となります。

(注)別表1、別表2−1及び別表2−2の記載は省略した。

(ロ) ところで、青色申告書に係る更正を行う場合において、所得税法が、更正通知書にその更正の理由を附記すべき旨を定めたのは、課税庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意性を抑制するとともに、処分の理由を相手方納税者に知らせて不服申立てに便宜を与えるという趣旨によるものと解される。
 そして、本件のように課税庁が納税者の帳簿書類の記載自体を否認して更正するのではなく、その帳簿において経費として記載されている金額の支出を認めた上で更正をする場合には、何ゆえにその支出の必要経費算入を否認したのか、その法律上及び事実上の根拠を摘示するとともに、そのような評価に至った過程について具体的に説明する必要があると解されている。
(ハ) これを本件についてみれば、次のとおりである。
 なお、上記更正理由の1、2及び3を以下それぞれ附記理由1、2及び3という。
A 附記理由1について
(A) 附記理由1においては、まず、1適用することとした所得税法第157条の規定内容が示され、次いで、E社が同族会社と認められること、請求人がその特殊な関係にある居住者に該当する旨が記載されており、その後に、2所得税法第157条の規定を適用することとした判断過程及びその結果が記載されている。
(B) ところで、附記理由1に記載された文章の表現をみると、請求人の主張するように、用語の意味及び文章の前後の関連性にやや明確性に欠ける点も認められる。
 しかしながら、更正の理由附記の趣旨は、上記(ロ)で示したとおり、課税庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意性を抑制するとともに、処分の理由を相手方である納税者に知らせて不服申立てに便宜を与えるものであるから、理由附記が適切であるか否かは、記載された理由全体をみて、それが上記の趣旨にそうものであるか否かによって判断すべきであって、個々の用語又は文章の表現のみによって判断すべきものではない。
(C) そこで、附記理由1について具体的にみると、次のとおりである。
a 上記(A)の1に相当する部分の記載は、条文の内容及び事実の指摘であって、特段の問題は認められない。
b その後の部分をみると、
1 請求人が平成元年中に支払ったリース料の額は9,642,440円であるところ、請求人とE社との契約(覚書)に基づいて年間のリース料(適正な償却費と記載している。)を算定すると4,384,401円となる等から、9,642,440円という支払額に合理的根拠はなく、同族会社としての恣意性が認められる旨が記載されており、また、
2 E社と業種業態が類似する同業者のリース料倍率(各同業者の数値等は別表1として添付されている。)により適正リース料を認定すると5,775,848円となる旨が記載され、この5,775,848円を超える部分が、所得税を不当に減少させる金額であるとして、必要経費不算入額とされており、
3 上記12の間に、
 通常行われる取引のリース料と請求人の支払ったリース料とを比較すると、請求人の所得税を不当に減少させる結果となっている旨の判断が記載されていることが認められる。
c 上記bの3の部分で記載された「通常行われる取引のリース料」の意味については、文章の全体の流れからみて、当該部分に続いて記載されている同業者のリース料倍率により算定した適正なリース料の額をいうものであることは、容易に理解することができると認められる。すなわち、上記bの3の部分の記載では、「以下に記載する」という趣旨の言葉が省略されているにすぎないというべきであって、このことをもって、意味不明とすることはできない。
(D) 以上のとおり、請求人は、附記理由1において、本件の更正理由は、1請求人の支払っているリース料の額に合理的算定根拠がないこと、2その額は、同業者のリース料倍率に基づき算定したリース料と比較して不当に高額であること、3その結果として、請求人の支払ったリース料を全額必要経費として認めると請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となること、4したがって、所得税法第157条の規定を適用して、更正処分をしたことであることが理解できると認められる。また、附記理由1においては、請求人とE社との契約(覚書)の内容が摘示され、原処分庁の採用した各同業者のリース料倍率も別表として添付されているのであるから、原処分庁が、どのような資料に基づき、どのような理由で課税処分をしたのか、その根拠、判断過程とも明らかにされているというべきである。
(E) そうすると、附記理由1は、上記(ロ)で記載した所得税法第155条第2項の規定の趣旨を満たすものであって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 附記理由2及び3について
 附記理由2及び3については、請求人は特に争っておらず、附記理由3は、電子機器利用設備に係るリース料税額の一部否認について記載されたものであり、否認の理由は、上記附記理由1に記載された本件リース料の額の一部否認に伴う計算上の否認額である。
 したがって、附記理由3は、その内容において附記理由1と一体のものであるところ、上記のとおり、その基礎となる附記理由1について理由附記の不備は認められないのであるから、附記理由3についても理由附記に不備があるとはいえない。
 また、附記理由2は、事業所得の金額の計算誤り90円を加算するものであって、特段の問題は認められず、附記理由2についても理由附記に不備があるとはいえない。
C 平成2年分について
 平成2年分の更正の処分理由は、平成元年分の附記理由1と同一であり、かつ、それのみである。そして、更正通知書に記載された内容も、金額及び別表を除いて平成元年分と同文であることが認められる。
 そうすると、平成2年分についても、上記Aに記載したのと同じ理由により、その理由附記に不備があるとはいえない。
ロ 総所得金額
(イ) 事業所得の金額
 請求人は、本件リース料の額を必要経費の額に算入することにより、請求人の所得税の負担を不当に減少させていない旨主張するので、以下審理する。
A 当審判所が原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A) E社は、昭和63年9月3日に資本金9,000,000円で設立され、平成3年4月30日に解散した法人税法第2条第10号に規定する同族会社であり、請求人は、その株主等と特殊の関係にある居住者に該当する者であること。
 なお、E社の社員及び役員は、次表のとおりである。

(単位:円)
氏名 請求人との関係 役職名 出資額
F 代表取締役 3,000,000
G 長女 取締役 3,000,000
H 他人 取締役 3,000,000

(B) 請求人がリース料の算定方法の基礎としたとする契約(覚書)によれば、1E社所有の本件リース物件の取得価額を基本額として、2この基本額を2倍にした額を回収額としており、3その回収期間(リース期間)をすべて5年として、4リース料の月割額を月額リース料と定めて本件リース料の額が算定されており、請求人は、E社に対して本件リース料の額として平成元年分9,642,440円及び平成2年分11,902,590円をE社に支払い、E社は同額を収受していること。
B 当審判所が、原処分関係資料を基に原処分庁が算定した各年分の適正リース料の額を検討したところ、次のとおりである。
(A) 各年分の適正リース料の額は、E社の本件リース物件の取得価額に、下記(B)の本件リース会社のリース料倍率を適用して算定したことが認められる。
(B) 本件リース会社のリース料倍率は、本件リース会社が、1医院等を営む者に対し、2E社の本件リース物件の取得価額とほぼ同額の医療機器等を、3リース期間が5年でリースしている物件を選定して算出したものであり、昭和63年貸付開始分1.21倍、平成元年貸付開始分1.20倍及び平成2年貸付開始分1.25倍である。
(C) リース料倍率の算定の基礎とした本件リース会社は適正に選定されており、リース料倍率及び適正リース料の額の計算過程のいずれにも誤りはない。
(D) そうすると、各年分の適正リース料の額は、平成元年分5,775,848円及び平成2年分7,107,413円となり、原処分庁が算定した適正リース料の額には、これを不相当とする理由は認められない。
C ところで、所得税法第157条は、税務署長は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においては、その株主若しくは社員である居住者又はこれらの者と特殊関係のある居住者(以下「株主等」という。)の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税の更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の課税標準等又は税額等を計算することができる旨規定している。
 この趣旨は、同族会社は少数の親族等の特殊な関係者によって資本金額の大半が所有されていることから、その少数の株主等が多数の議決権を有しているため、少数の株主等の意思によって法人の行為又は計算を自由にすることが可能であることから、会社自体の租税負担のみならず、その少数の株主等の租税負担をも合法的に回避できるので、これを防止して租税負担の公平を図ろうとするものである。
 すなわち、同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、租税負担公平の原則の見地から、これを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納付すべき所得税の額を算定しようとするものである。
 そして、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された税額とのかい離によって判断すべきものであり、また、経済的合理性を欠いた行為又は計算の結果として所得税の負担が減少されていれば十分であって、租税回避の意図若しくは所得税の負担を減少させる意図が存在することは必要ではないと解される。
D 以上のことを本件についてみると、上記A及びBのとおり、請求人は、E社に対し各年分の適正リース料の額を上回る高額な本件リース料の額を支払ったことになるが、それは、請求人の場合のように医院を営む事業経営者の行為としては不合理、不自然な行為であり、本件の場合のように同族会社であるがゆえに可能な行為又は計算であると認められる。しかも、本件リース契約に基づく行為又は計算によって算出された請求人の各年分の所得税の負担は、適正リース料の額によって算定された所得税の負担に比べ、次表のとおり各年分ともかい離していることが認められる。

(単位:円)
年分
項目
平成元年分 平成2年分
申告等の税額 1 1,943,720 11,456,500
更正税額 2 3,620,152 13,854,000
増加税額(21 3 1,676,432 2,397,500

(注) 申告等の税額及び更正税額は、源泉徴収額を控除する前の所得税額である。


E 請求人は、E社の予想事業規模、資金調達コスト、類似の金融業者の金利状況等からコスト積上げを行って決定した金利を適用して、一般的に用いられる年金現価方式により、本件リース料の額は合理的に算定されており、原処分の結果(適正リース料の額)を同社の決算に反映させると、同社の所得金額は大幅な赤字となることから、法人税法第132条に規定する法人税の同族会社の行為計算の否認を受けるおそれがあり、また、E社のリース契約先には所得税法及び法人税法に定める「同族関係者の範囲」にも「同族会社に準ずるもの」にも該当しない同族関係者以外のリース先もあり、そのリース条件はすべて同一であるから、本件リース料の額は合理的でありその決定に当たり同族会社としての恣意性はない旨主張する。
 ところで、リース料は、請求人も主張するように、リース会社が出捐したリース物件の取得価額、金利、保険料等種々の費用の全額をリース期間中に回収するように算定されるものであることはいうまでもないが、およそ営利を目的としてリース業を営む者が、企業間競争の下においてそのリース料を決定するに際しては、単に出捐した費用の回収のみならず、価格競争を前提として、同業他社と競争しうるリース料が決定されているものと解されるところ、請求人自らが主張するように、E社が単に出捐した費用を基礎に本件リース料の額を決定しなければ同社の経費をまかない、かつ、適正な利益を確保することができず、また、適正リース料の額を収受したのでは大幅な赤字になったとしても、このことは、株主等及び株主等の調剤委託先との特殊な関係の下で営む同社の事業が元来、採算性のない事業であった(E社は、昭和63年9月3日に設立されたが、本件リース物件のリース期間中である平成3年4月30日には解散し、その間の法人税の確定申告はいずれも欠損申告であり、また、本件リース物件は同社の解散後、平成2年12月18日に設立された請求人が代表理事を努める医療法人社団M内科耳鼻咽喉科に売却されている。)ことを示すもので、たとえ、E社のリース先のうちに「同族関係者の範囲」にも「同族会社に準ずるもの」にも該当しない者があったとしても、E社が株主等及び株主等の調剤委託先との特殊な関係の下で経費をまかない、かつ、適正な利益を確保することができる額を前提として決定された本件リースの額は経済的合理性を欠いたもので、同族会社であるからこそなし得た行為又は計算であるといわざるを得ない。
 また、所得税法第157条の規定の趣旨は、上記Cのとおりであり、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の経済的合理性を欠いた行為又は計算の結果として所得税の負担が減少されていれば十分であるから、上記のとおり、本件リース料の額は経済的合理性を欠いたもので、その結果として上記Dのとおり本件リース契約に基づく行為又は計算によって算出された請求人の各年分の所得税の負担は、適正リース料の額によって算定された所得税の負担に比べ、各年分ともかい離していることが認められるから、請求人の主張は採用できない。
F 請求人は、原処分庁の「適正な償却費」にはリース会社のコスト等及び資金回収におけるリース期間と法定耐用年数の差が考慮されていない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が計算した「適正な償却費」の額は、単に、請求人が本件リース料の額の算定方法の基礎としたとする契約(覚書)によった場合の本件リース物件の減価償却費を摘示したものであって、原処分庁が主張する各年分の適正リース料の額は、E社の本件リース物件の取得価額を基礎に、本件リース会社のリース料倍率を適用して算定したもので、当然に、本件リース会社の減価償却費はもとより、リース会社のコスト等及び資金回収におけるリース期間と法定耐用年数の差も加味されて算定されたものであり、E社の減価償却費及びリース会社のコスト等などに基づいて算定されたものではないから、請求人の主張には理由がない。
G 請求人は、本件リース会社の規模がE社と著しく相違しているから類似性があるとは認められない旨主張するが、本件においては、リース会社がリース物件をリースするに当たって、医院等を営む者に対し、通常行われているリース取引に係るリース料の額、つまり取引内容の類似性を判断すれば足りるのであって、リース会社の規模の類似性についてまで判定要素とする必要は認められないから、請求人の主張は採用できない。
H したがって、本件リース料の額の支払に関する請求人の行為又は計算が、所得税法第157条に規定する請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認定した本件更正処分は相当であり、各年分の適正リース料の額は、平成元年分5,775,848円及び平成2年分7,107,413円となるから、本件リース料の額のうち、各年分の適正リース料の額を超える部分の金額である平成元年分3,866,592円及び平成2年分4,795,177円は、各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入することはできない。
I そうすると、各年分の事業所得の金額は、上記Hの必要経費の額に算入されない額を本件リース料の額から減算して(平成元年分については、計算誤びゅう額90円を加算した。)算定すると、平成元年分12,778,574円及び平成2年分32,563,405円となる。
(ロ) 総所得金額
 以上の結果、各年分の総所得金額は、上記(イ)のIの事業所得の金額と請求人及び原処分庁の双方に争いのない給与所得の金額、雑所得の金額及び平成2年分の一時所得の金額を合計すると、平成元年分15,261,430円及び平成2年分36,418,975円となり、いずれも更正処分に係る総所得金額と同額となるから、本件更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は各年分とも適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税を賦課決定した処分は相当である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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