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(平6.12.21、裁決事例集No.48 147頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成5年分の所得税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成6年5月6日付で次表の「更正」欄のとおり更正処分及び「賦課決定」欄のとおり賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分 項目 金額
確定申告 総所得金額 5,385,000
住宅取得等特別控除額 242,700
還付金の額に相当する税額 396,500
更正 総所得金額 5,385,000
住宅取得等特別控除額 0
還付金の額に相当する税額 153,800
賦課決定 過少申告加算税の額 24,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年6月30日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人及び請求人の父であるA(以下「A」という。)は、平成5年10月13日にP市R町一丁目851番地3所在の木造陸屋根3階建、登記床面積合計244.41平方メートルの事務所兼居宅(以下「本件家屋」という。)を新築した。
 請求人は、本件家屋の居住専用部分の床面積が213.39平方メートルであるとして、自らの持分である6分の5について租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条((住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除))の規定に基づく住宅取得等特別控除を適用して平成5年分の所得税の確定申告をした。
 これに対し、原処分庁は、本件家屋の床面積が244.41平方メートルであり、租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第26条((住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除))第1項に規定する家屋に当たらないため、住宅取得等特別控除の適用は受けられないとして更正処分をした。
 しかしながら、原処分庁は、次のとおり措置法第41条第1項及び措置法施行令第26条第1項の法令解釈に誤りがあるので請求人の住宅取得等特別控除を認めるべきである。
(イ) 措置法第41条第1項の「住宅の用に供する家屋」とは、措置法施行令第26条第1項で、1個人がその居住の用に供する家屋(その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるもの)で、2一棟の家屋で床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であるものと規定されている。
 措置法施行令第26条第1項に規定された「個人がその居住の用に供する家屋」とは、居住専用の家屋を指すものと理解するのが常識的であり、また、「その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるもの」の規定は、当該常識的な解釈を前提とする結果、事務所等兼用住宅についても措置法第41条第1項に規定された「住宅の用に供する家屋」として認める旨の確認規定であると理解するのが相当である。
 そうすると、「一棟の家屋で床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であるもの」とあるのは、居住専用の家屋一棟の床面積を指すものと理解するのが合理的であり、本件家屋については、その居住の用に供する部分の床面積をもって「一棟の家屋で床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上」の面積を判定することと解釈すべきである。
(ロ) なお、本件家屋のような事務所等兼用住宅を取得等した者は住宅取得等特別控除が適用されず、一方、事務所等と居住専用住宅をそれぞれ別に取得した者は住宅取得等特別控除が適用されるとすると、両者の間においては、住宅取得等特別控除の適用の機会の公平性を欠くこととなる。
 また、措置法第36条の6((特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例))における買換資産の対象となる個人の居住用家屋について、措置法施行令第24条の5((特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例))第2項では、居住用家屋の床面積の判定について、一棟の家屋の床面積のうち当該個人の居住用部分の床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上をもって判定すべき基準が規定されており、措置法の整合性をも保つべきである。
ロ 賦課決定処分について
 前記イのとおり更正処分は違法であるから、その全部の取消しに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
 仮に、更正処分が適法であるとしても、法令の解釈上の争いによるものであることから、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があり、過少申告加算税の賦課決定処分については、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 更正処分について
(イ) 本件家屋を調査したところ、請求人及びAは、平成5年10月13日に登記床面積244.41平方メートルとする本件家屋を新築し、請求人の持分を6分の5、Aの持分を6分の1とする所有権保存の登記手続を同年10月22日付で行った事実が認められる。
(ロ) 住宅取得等特別控除の対象となる家屋の要件として、措置法第41条第1項において「居住者が国内において、住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの」と規定されており、さらに、措置法施行令第26条第1項は、「個人が居住の用に供する次に掲げる家屋(その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限る。)」と規定されている。
 また、家屋の床面積の要件として、措置法施行令第26条第1項第1号において「一棟の家屋で床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であるもの」と規定されている。
 そして、床面積がこの要件に該当するかどうかは、昭和61年12月22日付、直所3−18(例規)『「租税特別措置法に係る所得税の取扱について」通達の一部改正について』租税特別措置法通達41−7((店舗併用住宅等の場合の床面積基準の判定))において、「自己の居住の用以外の用に供される部分がある家屋又は共有物である家屋が措置法施行令第26条第1項各号の床面積基準に該当するかどうかの判定に当たっては、1その家屋(措置法施行令第26条第1項第2号に規定する家屋にあっては、その者の区分所有する部分。以下この項において同じ。)の一部がその者の居住の用以外の用に供される場合には、当該居住の用以外の用に供される部分の床面積を含めたその家屋全体の床面積により判定する。2その家屋が共有物である場合には、その家屋の床面積にその者の持分割合を乗じて計算した面積ではなく、その家屋全体の床面積により判定する。」と定められている。
 そうすると、請求人が主張する本件家屋の床面積の判定に当たっては、居住の用に供する部分の床面積のみではなく、居住用以外の事務所等の面積を含めた家屋全体の床面積により判定することになる。
(ハ) なお、請求人が主張する機会の公平性及び措置法の整合性については、前記(ロ)の解釈が相当であることから、請求人の主張には理由がない。
 したがって、請求人が取得した本件家屋の床面積は、244.41平方メートルであり、一棟の床面積基準の上限である240平方メートルを超えているので、措置法第41条第1項の規定により住宅取得等特別控除は適用されない。
ロ 賦課決定処分について
 前記イのとおり、更正処分は適法であり、当該更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは次のとおり認められず、同条第1項の規定に従い正しく計算されていることから、過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。
 請求人は、法令の解釈上の争いによるものであり、正当な理由がある旨主張するが、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた解釈がその後改変されたことに伴い修正申告し又は更正処分を受けた場合等申告当時適法と見られたものが、その後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかないで当該申告額が過少となった場合のように真にやむを得ない理由による場合をいい、請求人の法の不知や法令解釈の誤解は、正当な理由には該当しない。

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3 判断

(1) 更正処分について

 本件家屋が住宅取得等特別控除の対象となる家屋の要件に該当するか否かについて、措置法第41条第1項及び措置法施行令第26条第1項の解釈に争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 次のことについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 請求人及びAは、平成5年10月13日に登記床面積244.41平方メートルとする本件家屋を新築したこと。
(ロ) 本件家屋は、請求人及びAの共有物であり、請求人の持分を6分の5、Aの持分を6分の1とする所有権保存の登記手続が平成5年10月22日付で行われていること。
ロ 住宅取得等特別控除の対象となる家屋の要件について措置法第41条第1項及び措置法施行令第26条第1項の解釈は、次のとおりである。
 措置法第41条第1項で規定する「住宅の用に供する家屋」については、措置法施行令第26条第1項において「個人が居住の用に供する次に掲げる家屋」とし、1一棟の家屋の床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であるもの2一棟の家屋で、その構造上区分された数個の部分を独立して居住その他の用途に供することができるものにつきその各部分を区分所有する場合には、その者の区分所有する部分の床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であるものと、その家屋の床面積基準が規定されている。
 また、措置法施行令第26条第1項本文かっこ書は、「その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限る」とし、その家屋の専用割合が規定されている。
 そうすると、事務所等兼用住宅について、住宅取得等特別控除の対象となる家屋に該当するかどうかは、その家屋の床面積の2分の1以上の部分が専ら居住の用に供されている必要があることのほか、事務所等の部分を含めたところの一棟の家屋全体の床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であることが必要であると解するのが相当である。
ハ 前記イ及びロの事実等を基に検討すると、次のとおりである。
 請求人は、本件家屋について、その居住の用に供する部分の床面積をもって「一棟の家屋で床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上」の判定をすることと措置法施行令第26条第1項第1号を解釈すべきである旨主張する。
 しかしながら、前記ロのとおり、本件家屋については、措置法施行令第26条第1項第1号に基づき、その居住の用に供する部分及び事務所等の部分を含めたところの一棟の家屋全体の床面積が240平方メートル以下で、かつ、50平方メートル以上であるか否かを判定すると解するのが相当であり、だとすれば、本件家屋の一棟の床面積は、前記イの(イ)のとおり244.41平方メートルであり、240平方メートルを超えていることから、措置法第41条第1項の規定により、住宅取得等特別控除の適用を受けられないとした更正処分は適法である。
 なお、請求人の主張する機会の公平性及び措置法の整合性については、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、請求人のこれらの主張を判断することは、当審判所の権限外のことであり、いずれも審理の限りでない。

(2) 賦課決定処分について

 請求人は、更正処分が違法であるから、その全部の取消しに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきであり、仮に、更正処分が適法であるとしても、法令の解釈上の争いによるもので正当な理由があることから、国税通則法第65条第4項の規定により、過少申告加算税の賦課決定処分の全部を取り消すべきである旨主張する。
 ところで、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」とは、例えば、1税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、2災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、3その他真にやむを得ない事由が認められる場合等が該当するものとされ、納税者の法令の不知や法令解釈の誤解はこれに当たらないものと解するのが相当であり、請求人の主張には理由がない。
 したがって、前記(1)のとおり、更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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